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第471話
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秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第471話
「では、長谷川社長が今日私をお招きになったのは、一体どのようなご用件でしょうか？」沈黙の後、涼介は彼女をまっすぐ見つめた。「もし何か力になれることがあれば、いつでも連絡してほしい」結衣の表情が冷ややかになった。「長谷川社長、もしそれだけのことで私を呼び出されたのであれば、これ以上お話しすることはありません」そう言うと、結衣は立ち上がって席を離れようとした。出口まで歩いた時、背後から涼介の切迫した声が聞こえた。「待ってくれ、汐見さん……まだ、君に話しておきたいことがあるんだ」結衣は振り返り、冷静な表情で尋ねた。「何でしょうか？」「今回の事故に関してだ。まずは席に戻ってほしい」一瞬迷ったが、結衣は席に戻ることにした。「どうぞ、お聞かせください」「今回の件、長谷川グループが関与している疑いがあるんだ」結衣の目に驚きの色が浮かんだ。何しろ、長谷川グループの現社長は涼介の実父であり、将来は涼介自身もその一翼を担うことになるはずだから。彼女の思考を読み取ったかのように、涼介は苦い笑みを浮かべた。「俺は長谷川家の財産など何も望んでいないし、家に戻るつもりもない。俺を彼らと同列に扱わないでくれ」「それは本題ではありません。私が知りたいのは、なぜ今回の問題が長谷川グループと関連していると考えるのか、その根拠です」「この事件の裏で最大の利益を得るのは、長谷川グループだからだ。君は知らないだろうが、当初、月波湾プロジェクトは長谷川グループと汐見グループが争っていたんだ。本来なら長谷川グループが獲得するはずだったプロジェクトが、何らかの理由で最終的に汐見グループの手に渡った。もし汐見グループがこのプロジェクトを遂行できなくなれば、最終的な受注先は長谷川グループになるだろう」このプロジェクトの完成後の利益は数十億円に達する。長谷川グループにとって、動機は十分にあった。「それに、俺はこう見ている。長谷川グループは最初から計画的にこのプロジェクトを一度見送った。そして後から裏工作を行い、意図的に建材を基準未満のものに差し替えさせた。プロジェクトを奪還すると同時に、汐見グループの信用を完全に失墜させることが狙いだったのではないか、と」涼介の分析を聞きながら、結衣の眉間の皺はさらに深まっていった。「この件で最大の利益を得
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第470話
結衣に理不尽だと一蹴され、株主たちの顔が不快そうに引きつった。「汐見結衣、お前ごときが我々を理不尽だと言う立場にあるとでも？！お前の父親でさえ、我々に対しては丁寧に『〇〇取締役』と呼ぶのだぞ。汐見グループの運営に、いつからお前が口を挟むようになった！」結衣は片眉を上げた。「まだご理解いただけないようですね。汐見グループの株式の過半数は、私が保有しています。もし私が何者でもないというのなら、わずか10%にも満たない株しか持たない皆さんは、なおさら何者でもないということになりますが」「貴様！」結衣は軽く手を振った。「代永さん、株主の方々をご案内してください」健人は、怒りに顔を歪めた株主たちを見た。「取締役の皆様、どうぞこちらへ」立ち去る際、株主たちの一人、広野裕彦（ひろの ゆうひこ）は冷ややかに笑った。「汐見結衣、必ず後悔させてやるからな！」この先に待つ道のりは容易ではない。結衣がどれほど多くの株式を持っていようと問題ではない。今日、我々株主を敵に回したのだ。いずれ痛い目を見せてやる！結衣はまつ毛一つ動かさず、書類を手に取り目を通し始めた。数名が退室してまもなく、健人がドアをノックして入ってきた。「汐見さん、長谷川社長から本日の夕食のお誘いがあります」結衣は書類から視線を上げた。「どちらの長谷川社長ですか？」健人は少し緊張した様子で口を開いた。「フロンティア・テックの長谷川社長です。例のプロジェクトにはフロンティア・テックも参画しておりますので、おそらくその件でご相談があるのではないかと」少し考えた後、結衣は頷いた。「わかりました。後ほど時間と場所を教えてください」結衣の表情が自然で、以前のように涼介との接触に対する抵抗感が見られないことに、健人は内心ほっとした。何しろ、現在の汐見グループは不祥事の渦中にある。この時期に誰かと不必要に対立することは、会社にとって何の得にもならない。午後6時、結衣は約束通りにレストランに到着した。涼介は先に席についていた。結衣の姿を見ると、すぐに立ち上がった。「結衣、来てくれたんだね」「長谷川社長、私のことは汐見さんとお呼びください。私たちはそれほど親しい関係ではありませんので」そう言うと、彼女は椅子に腰掛け、涼介の正面に座った。涼介の表情から笑みが消えた。「
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第469話
結衣は彼の後に続いて明輝の執務室に入り、椅子に腰掛けてから彼に向かって言った。「購買部の発注書を持ってきてください」すぐに、健人が発注書と支払い記録を結衣に差し出した。「結衣さん、今回のプロジェクトは社長が細部まで管理されていました。粗悪な建材を使用するなど、考えられません。すべての資材には正規の購入記録があります」結衣は頷き、発注書に目を通しながら言った。「でも、警察の調査では、現場で使われている建材が実際に基準を満たしていないという結果が出ているわ」「きっと、誰かが途中で建材をすり替えたに違いありません。その犯人さえ特定できれば、社長の無実は明らかです」「この問題は、そう単純には片付かないでしょうね」健人は一瞬困惑した表情を見せた。「どういう意味でしょうか……今回の事件は、誰かが意図的に社長を陥れようとしていると？」「その可能性は高いわね」一つには、遺族が補償交渉に一切応じず、ただ明輝の刑事責任追及だけを求めていること。もう一つは、警察署と汐見グループの社屋前で作業員たちが組織的に抗議活動を行っていること。背後で誰かが動いていなければ、これほど統制のとれた抗議行動は起こせないはずだ。健人の表情が、見る間に険しさを増した。「しかし、この発注書と支払い記録があれば、社長の潔白は証明できるはずです」「今必要なのは、明輝さんの無実を証明するだけでなく、黒幕を突き止めることよ。さもなければ世間は納得せず、背後の存在はずっと闇に隠れたまま、今後も汐見グループを狙い続けるわ」「既に各工程を確認しましたが、どの段階にも問題は見当たりませんでした。なぜあの建材が基準未達だったのか、理解に苦しみます」結衣の表情は氷のように冷徹だった。「であれば、もう一度調査し直して。一つひとつの工程を徹底的に。必ず何かが見つかるはずよ」「かしこまりました。すぐに取りかかります」健人がドアに向かった瞬間、執務室のドアが乱暴に開け放たれ、数名の株主が激高した様子で入ってきた。「汐見結衣、君の父親が違法建材を使用したせいで、今期最重要のプロジェクトが停止しているんだ！毎日数千万円の損失が発生している。我々に何らかの説明があってしかるべきじゃないのか？！」「そうだ！社長一人の過失のせいで、我々全員が責任を負わされるなんて、堪ったものではな
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第468話
「おばあちゃんは？」「大奥様はお部屋でお休みになっております」「わかった。様子を見てくるわ」結衣は時子の部屋のドアの前まで行くと、軽くノックし、中から時子の返事が聞こえてから、ドアを開けて入った。結衣の姿を見て、時子は無理に体を起こそうとした。「結衣、帰ってきたのか」結衣は慌てて駆け寄り、彼女の背を支えた。「おばあちゃん、体調が優れないなら横になっていて。無理に起き上がらなくていいから」時子は小さく頷いた。「そうするよ」「それで、あの人が逮捕されたって聞いたけど、一体どういうことなの？」「弁護士から聞いた話ではね、彼が最近進めていたプロジェクトの建設現場で事故があって、作業員が三人亡くなった。それで、使用していた建材が安全基準を満たしていなかったために事故が発生したと、他の作業員が通報したそうなの。今、お父さんは警察署で取り調べを受けているわ」その言葉に、結衣は思わず眉を寄せた。「わかったわ。後で弁護士と代永さんに詳しく状況を確認してみるわ。おばあちゃんは、しばらくゆっくり休んで。他のことは心配しないで」時子の部屋を出ると、結衣はすぐに弁護士に連絡し、すぐに来るよう依頼した。一時間も経たないうちに、弁護士が到着した。「汐見先生、こちらが案件に関する資料です。どうぞ」結衣はファイルを受け取ったが、すぐに開こうとはせず、弁護士をまっすぐ見た。「今、父を保釈することは可能ですか？」明輝が警察署に連行されたことはもはや隠せない。彼が署内に留まる時間が長ければ長いほど、汐見グループへの打撃は大きくなる。弁護士は眼鏡を直し、深刻な表情で首を横に振った。「おそらく、難しいとは思います。現在、多数の作業員が抗議のため警察署前に集結しており、今、汐見社長を保釈すれば、彼らと衝突する恐れがあります」結衣は眉を顰めた。「私が聞きたいのは、法的手続き上、保釈が認められるかどうかです」「早くても明日の午前中になるでしょう。それも、新たな不利な証拠が出てこない場合に限られます。もし警察が、現場で使用された建材が実際に基準を満たしていなかったと確認すれば、保釈は難しくなります」結衣は静かに頷いた。「わかりました。では、まず保釈の手続きを進めてください。他の対応はそれからにしましょう」「承知いたしました」「ご遺族へ
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第467話
康弘の顔色が一瞬で蒼白に変わった。「ふざけるな……何を馬鹿げたことを言っているんだ？俺が母さんに毒を盛らせるなんてあり得ないだろう……」「使用人は、あんたがおばあ様を毒殺するよう指示したメッセージを保持している。まだ言い逃れできると思っているのか？」拓海は立ち上がり、康弘を見下ろした。その表情には冷ややかな軽蔑が浮かんでいる。「あんたがおじさんを事故に見せかけて殺そうとしたことも、おばあ様は既に知っている。残りの人生は、しっかり獄中で自分の犯した罪を償うといい！」警察署を出ると、拓海は結衣に電話をかけ、事故の真相を簡潔に伝えた。聞き終えても、結衣は特別驚いた様子を見せなかった。何しろ、過去にも康弘は人を雇って彼女を誘拐しようとしたことがあるのだから。通話を終え、彼女はベッドに横たわるほむらを静かに見つめ、その手を優しく握りながら囁いた。「ほむら、聞こえる？私たちが事故に遭ったのは、実はあなたの兄さんのせいだったの。彼はもう警察に捕まったわ。法律が、彼に相応の罰を与えてくれる」ベッドの上の彼はわずかな反応も示さない。ただ、胸がかすかに上下するその様子だけが、彼がまだ生きていることを物語っていた。結衣は彼に寄り添って多くの言葉を語りかけ続け、面会時間が終了すると、名残惜しそうに立ち上がって病室を後にした。ホテルに戻ったとたん、汐見家の本邸から電話がかかってきた。「お嬢様、いつ戻られますか？」和枝の声に焦りが混じっているのを感じ取り、結衣は胸に不安が広がるのを感じながら問いかけた。「和枝さん、何かあったの？」「はい……実は大奥様はお嬢様に知らせるなとおっしゃったのですが、やはりお伝えすべきかと思いまして。会社で問題が発生し、旦那様が逮捕されたのです。大奥様はそのお知らせを受けて昏倒され、ついさっき意識を取り戻されたばかりで……今、会社もご自宅も、采配を振るう方がいらっしゃらないのです」結衣の心に重い影が落ちた。「わかったわ。すぐに航空券を手配して帰るから、おばあちゃんをゆっくり休ませてあげて」通話を終えると、結衣はすぐに最速便を予約し、それから拓海に電話をかけた。「拓海くん、清澄市でちょっとトラブルがあって、一度戻らなければならないわ。ほむらのことをお願いね。清澄市の件が片付き次第、すぐに戻ってくるから」「わ
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第466話
「執事から結果が届いたら、改めて話しましょう」拓海はそれ以上何も言わず、病室に静かに腰掛け、執事からの連絡を待った。一時間ほど経過した頃、執事から電話がかかってきた。「大奥様、お食事に毒を混入していた者が判明いたしました。前田香でございます」前田香（まえだ かおり）は伊吹家で十数年勤めており、古参の使用人の一人だった。節子は深く息を吸った。「誰の指示で行ったのか、彼女は話したのかしら？」執事は一瞬言葉を詰まらせた。「それが……長男様の指示だと申しております」「何か証拠はあるの？」この状況になっても、節子はまだ信じることを拒んでいた。「長男様からの指示が記されたメッセージが送られてきたそうです。彼女は削除したとのことですが、通信事業者に依頼すれば復元できるかと」「わかったわ。彼女を警察に引き渡して、わたくしの前で話した内容をそのまま警察にも証言するよう伝えなさい」その言葉に執事は躊躇いを見せた。「大奥様、本当にそのようになさるおつもりですか？もしそうなれば、長男様は……」「ええ、わたくしの言った通りにしなさい」電話を切ると、節子は背筋が凍りつくような思いだった。康弘はほむらの命を奪おうとしただけでなく、自分の命さえも狙ったのだ。たかが会社の地位一つのために、彼にとっては肉親の命すら踏みにじる価値があるというのか。「おばあ様、あまりお心を痛めないでください」節子は拓海を見つめた。「少し一人にさせてちょうだい。あなたは仕事に戻りなさい」「おばあ様、本当に俺がここにいなくても大丈夫ですか？」「ええ」「わかりました。では、警備者を二名、廊下に待機させておきます。何かございましたら、彼らをお呼びください」節子の病室を後にして、拓海は直接会社へ向かった。一方、警察が訪れた時、康弘は伊吹の株主たちに次々と電話をかけ、自分が副社長として会社に復帰することを支持してくれるよう説得していた。しかし、何人かの株主に連続して連絡を取ったものの、全員から断られ、康弘はスマートフォンを壁に叩きつけたくなるほどの怒りで震えた。自分が副社長の座にあった頃は、誰もが彼に取り入ろうとしていたというのに。今、節子に見捨てられた途端、皆が手のひらを返したように彼を冷たく扱い始めた。伊吹に返り咲いた暁には、こん
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