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第 3 話

作者: 藍葉
その場にいた全員が凍りついた。

健司の瞳がわずかに揺れる。

相性が悪い?一日五回でも足りなかったのに?そんなことを言うなら、世の中に合格できる男なんて存在しないだろう。

「子供はいるのか?」健司は続けて聞いた。

「いません」

「それは良かった」健司は満足そうにうなずいた。

綾香は思わず彼を睨む。

何が良かったよ。あなたが残した厄介事で、私は死にかけたんだから。

「よし。これから会議だ」健司は美咲へ視線を向ける。「美咲さん、同行してくれ」

「承知しました」美咲は嬉しそうにメモ帳を持ってついていった。

ところが会議は三時間も続いた。美咲は火花が散りそうな勢いでキーボードを打ち続ける。

この新しい社長は間違いなく仕事の鬼だった。会議の場で幹部三人を即刻解任。新体制の見せ場そのものだ。副社長の康平まで切られてしまった。

戻ってきた美咲は二キロくらい痩せたような顔をしていた。気力も体力もすっかり吸い取られている。

「やっぱり、できる男って仕事に容赦がないんだね。怖すぎる」美咲はぼやいた。「でも黒崎社長って禁欲系っぽくない?ああいう人って、あっち方面は……案外すごそう」

綾香は少し固まった。

確かに……

けれど、もう自分には関係ない。

「ねえ綾香、元旦那とは相性悪かったんでしょ?黒崎社長を狙えば?絶対すごいって」美咲が声を潜める。

「やめてよ。私なんかじゃ釣り合わないから」綾香は即答した。

階段の踊り場に立っていた健司は、深い眼差しで二人を見ていた。

釣り合わない?

ふん、もう全部済ませた仲だろ。

昔はこんな遠慮なんてしなかったくせに。全校生徒の前で、堂々と自分に告白した女だ。

――健司は私だけのものだから!

その後、本当に彼は彼女の恋人になり、夫になった。

だが二年後。彼女は離婚を切り出し、もう愛していないと告げ、彼の貧しさを理由にした。

離婚届を突きつけられた時、健司は初めてこの女の冷酷さを知った。

「ねえねえ、もしかして今夜のお見合い相手、すごくイケメンなの?」美咲が肘で軽く突く。

「うん、まあ悪くないかな」綾香は適当に答えた。

お見合い?俺には未練ひとつないってことか。俺のいない間、他にも男がいたんだろうな。

「綾香さん、コーヒーを持ってきてくれ」健司の冷たい声が階段の方から響いた。

二人はびくっと肩を震わせた。

最上階はメゾネット構造になっていて、社長室は上階、秘書室は下階にある。なのに、どうして社長が下りてきたのだろう。

「はい」綾香は慌てて給湯室へ向かった。

ノックをして社長室に入り、丁寧にコーヒーを机へ置く。「社長、コーヒーです」

健司は一口飲んだ。「コーヒーを淹れる腕は上がったな。でも、頭のほうは悪くなったみたいだな」

「バサッ」と一冊の資料が机の上へ放り投げられた。

「この報告書にミスがある。もう一度確認しろ。終わったら持ってこい」

綾香は驚いた。何度も確認した資料なのに。「社長、どの部分に問題があるのでしょうか?」

健司の表情はさらに冷たくなる。「自分のミスを、俺に探させるつもりか?」

綾香は、ためらいながら口を開いた。「明日まででは……だめでしょうか?」急ぎの案件ではないと分かっていた。

「仕事が終わるまで会社から出られると思うなよ」

健司は心の中で冷笑した。そんなにお見合いに行きたいのか。行かせるものか。

「黒崎健司、意地悪しないで。わざと困らせてるでしょ」綾香は思わず強い口調で言い返した。

「意地悪?」健司はさらりと言う。「……俺がどんな男か、君が一番よく知ってるだろ?」

綾香「……」

この男、絶対わざとだ!

「明日は白鷺オークションへ行って、あるネックレスを受け取ってこい」健司は続けた。「絶対になくすな。失くしたら、一生働いても弁償できない金額だぞ」

綾香は固まる。「そんな高価なものなら、ご自身で取りに行かれたほうが……」

余計なものには、できれば触りたくないのだ。

「全部自分がやるなら、秘書を雇う意味があるのか。俺をイラつかせるためか?」健司は冷たく言い放った。

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