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第 12 話

作者: 藍葉
酔ったの?

シャンパンを一杯飲んだだけなのに、まさか……

綾香は皿を置き、急いで健司を探そうとした。

健司はすぐ近くにいたが、また人だかりに囲まれている。

そのとき、不意に背の高い男が彼女の前に立ちはだかった。「お嬢さん、すごく綺麗ですね。少しお話ししませんか?」

「すみません、今ちょっと急いでいるので」綾香は横を通り抜けようとした。

だが男は笑みを浮かべたまま、ふらつく彼女の体を支えるように抱き留めた。

「少し酔ってるみたいだな。庭で風に当たろうか」

そう言うと、男は有無を言わせず彼女の腰を抱き寄せ、そのまま裏口へと連れて行った。

裏口を出れば、その先は中庭と来客用の休憩室へ続いている。

綾香は全身から力が抜けていくのを感じた。「離して!」

必死に突き飛ばそうとするが、腕に力が入らずまったく効かない。

助けを呼ぼうとした瞬間、男のもう片方の手が口を塞いだ。

「んっ……んんっ……!」

綾香は恐怖で身をよじりながら、そのまま外へ引きずられていった。

その様子を、庭に面したテラスで煙草を吸っていた桐谷和也(きりたに かずや)が偶然目にした。

彼の目が鋭く細まり、すぐに一本の電話をかける。「君の子羊ちゃん、連れて行かれたぞ」

十秒後。

健司は凍てつくような空気をまといながら飛び出してきた。「どこだ!」

和也はある方向を指差した。「あの休憩室に入っていった」

そして駆け出そうとする健司の腕を掴む。「まさか、そんな簡単にあの女を許すつもりじゃないよな?昔、君はあの子の父親のために命まで落としかけた。それなのに離婚だなんだと騒いで、君が貧乏だからって見下してたこと、忘れたわけじゃないだろ?」

健司はその手を振り払った。声は凍りつくほど冷たい。「そんな簡単に許すつもりはない」

そして一言付け加える。「後始末は頼んだ」

そう言い残し、大股で駆け出した。

部屋の前まで来た瞬間、中から綾香の悲鳴が聞こえてくる。「あなた誰!?来ないで!離して!」

健司は勢いよくドアを蹴破った。

目に飛び込んできた光景に、怒りで目の前が真っ赤になる。

白いスーツの男が綾香をソファに押さえつけ、すでにドレスの裾をまくり上げていた。

健司は怒り狂ったライオンのように突進し、男の襟首を掴む。何発もの拳を叩き込み、男をその場で気絶させた。

「綾香」彼は駆け寄り、彼女を起こそうとする。

綾香の頬は異様なほど赤く染まり、瞳は熱に浮かされたように潤んでいる。

彼の姿を見た瞬間、まるで救いを見つけたかのように呟いた。

「健司……」

そのまま勢いよく彼の胸に飛び込み、顎にかじりつくように唇を寄せた。

強くはない。

けれど妙にくすぐったく、甘く煽るような感触だった。

さらに湿った唇は下へと移り、喉元へ触れていく。

その一つひとつの仕草が、危ういほどの誘惑を帯びていた。

健司の胸が大きく揺れる。

四年だ……

綾香が自分の顎にキスしたのは、もう四年ぶりだった。

一気に込み上げた欲望を必死に押さえ込みながら、彼は掠れた声で言った。「綾香、自分が何をしてるかわかってるのか?」

引き離そうとする声には、叱るような響きが混じっている。

綾香の理性が一瞬だけ戻る。だが体の反応のほうが早かった。彼女は再びぴったりと身を寄せ、両腕で彼のたくましい腰を強く抱き締めた。

熱を帯びた胸に頬を擦り寄せながら、甘く震える声を漏らす。泣きそうな響きまで混じっていた。「苦しいの……すごく苦しい……お願い……」

健司の頭の中で警鐘が鳴る。

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