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約束の夕日に、彼は親友とキスをした
約束の夕日に、彼は親友とキスをした
Autor: 望月晴

第1話

Autor: 望月晴
ホテルに戻る頃には、湖から吹く風が服を通して体にしみ込み、すっかり冷えきっていた。

私の顔色を見たフロントの女性が、慌てて非接触式の体温計を持ってきてくれた。

39.4度。

彼女はぎょっとした。

「お連れの方は?こんな状態なのに、お一人で戻られたんですか?」

私はカウンターに手をつき、かすれた声で答えた。

「みんな、景色を見るのに忙しいので」

解熱剤を飲んで間もなく、ドアの向こうから大地の笑い声が聞こえた。

「あの写真、最高だったな。夕焼けが差して、めちゃくちゃいい雰囲気になってた」

ドアが開いた。

ベッドの端に座る私を見て、裕真が足を止める。

「湖に行ったのか?」

私は答えなかった。

泥と砂のついた靴に目を落とすと、裕真の声が低くなった。

「ホテルで休んでろって言っただろ。熱があるのに歩き回って、本当に入院する羽目になったらどうするんだよ」

その後ろから、裕真の上着を羽織った咲穂が入ってきた。

手には、すっかり冷めたうどんの入った袋を提げている。

何も悪いことなどしていないような顔だった。

「奈月、ご飯買ってきたよ。もっと早く戻るつもりだったんだけど、夕焼けがすごくきれいで、大地もずっと撮ってたから……」

大地がカメラをテーブルに置き、鼻で笑った。

「4年も楽しみにしてた夕日を見損ねたんだから、機嫌が悪くなるのはわかるけどさ。俺たちに当たるのは違うだろ。急に熱出したのは、そっちなんだし」

私は顔を上げ、大地を見た。

裕真と咲穂のキスを撮っていた人間が、今度は私に説教をするらしい。

裕真が近づき、私の額に手を伸ばした。

私は顔を背けた。

伸ばした手が宙で止まり、彼の目に驚きが浮かんだ。

この4年間、彼の手を避けたことは一度もなかった。

喧嘩をしても、目を赤くして、抱きしめてくれるのを待っていた。

けれど今は、ただ嫌悪感しか湧かなかった。

「今度は何だよ」

裕真は早くも苛立ちを隠さなくなった。

「一度夕日を見逃しただけだろ。明日、また一緒に行けばいいじゃないか」

私は彼を見つめた。

「明日は、私と二人だけで?」

咲穂の表情がわずかに変わった。

大地は軽く咳払いをして、カメラをいじり始めた。

裕真は少し黙った。どうして急にそんなことにこだわるのか、わからないとでもいうように。

「みんなで来てるんだから、いちいち分けることないだろ」

当然のようにそう言った。

そのとき、ふとわかった。あのキスを見ていなくても、彼は簡単に私を手放すつもりなどなかったのだ。

咲穂に頼られるのが好きで、私が彼を中心に将来を考えていることにも満足していた。

二人の女が自分を巡って嫉妬する。それは彼にとって重荷ではなく、自分の魅力を確かめるための勲章だった。

突然、咲穂が胸を押さえ、小さく息を吸った。

「裕真、なんだか息が苦しい……」

裕真はすぐに振り返り、彼女を支えた。

「湖で風に当たりすぎたんじゃないか?」

咲穂は彼の肩にもたれた。その弱々しい様子は、いかにも彼の庇護欲をそそりそうだった。

裕真が私を振り返る。

「ベッド脇の薬、取ってくれ」

私は動かなかった。

彼の口調が強くなる。

「奈月、意地張ってる場合じゃないだろ。咲穂が苦しがってるんだぞ」

「私だって、熱がある」

一瞬言葉に詰まった彼は、すぐに眉をひそめた。

「お前は昔から丈夫だろ。解熱剤を飲んだんだから、もう大丈夫だよ。咲穂は喘息持ちなんだぞ。張り合ってどうするんだ」

大切にされている人は、咳一つでも心配してもらえる。

私が39度の熱を出していても、ただ拗ねているだけだと決めつけられる。

薬の箱をテーブルに放った。

「病院に連れていけば。もたもたしてるうちに治っちゃったら、心配してあげる暇もなくなるよ」

裕真の顔が険しくなった。

「奈月、いつからそんな嫌な言い方をするようになったんだ?」

咲穂が目を潤ませ、彼の腕を引いた。

「奈月を責めないで。夕日が見られなくて、つらいだけだから」

裕真は咲穂の肩を抱いて部屋を出ていった。

ドアのところで、冷たく言い残した。

「少しは自分で考えろ。悪かったと思ったら、俺のところに来い」

ドアが閉まると、私はパソコンを開いた。

受信箱には、一度断ったプロジェクトへの参加案内が残っていた。

西域歴史建築デジタル映像プロジェクト。期間は1年間。3日後にアルナ市で集合する。

あのとき、裕真は私を抱きしめて言った。

「起業でいちばんお前の力が必要なときに、1年も遠くに行くのか?俺たちの将来はどうなるんだよ」

彼の言う「俺たちの将来」のために、私は2年間準備してきたチャンスを手放した。

今になって、ようやく気づいた。

彼の将来に必要なのは、私の能力と人脈、そして何でも彼に譲ることだった。

私の気持ちは、必要とされていなかった。

指導教員に電話をかけた。

「先生、プロジェクトの枠は、まだ空いていますか?」

少し間があった。

「急に一人辞退したんだ。ただ、出発はあさってだよ。水野さん、本当にそれでいいんだね?」

ドアの外では、裕真が低い声で咲穂をなだめていた。

「泣くなよ。あいつは俺が甘やかしすぎたんだ」

私は目を伏せ、静かに答えた。

「はい。参加させてください」

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