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終わらない夢に、君を探して
終わらない夢に、君を探して
Penulis: 岬 鯉(みさき こい)

第1話

Penulis: 岬 鯉(みさき こい)
「神谷さん、検査の結果ですが……ステージ4のすい臓がんです。治療を中止すれば、余命はおそらく一ヶ月もありません。本当に、治療を受けないおつもりですか? ご主人の了承は……?」

「はい、大丈夫です。彼も……きっと、納得してくれます」

電話を切ったあと、私はしんと静まり返った部屋をぐるりと見渡した。胸の奥が、ひりつくように痛んだ。

ただの胃痛だと思っていた。昔からの持病の悪化だと――まさか、がんだったなんて。

小さくため息をついて、リビングのテーブルに置かれた写真立てに目をやる。

写真の中で、十八歳の神谷蓮(かみやれん)がこちらをまっすぐに見つめていた。

あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。雪の降る帰り道、髪に舞い降りた白い結晶を見つけた彼が、冗談めかして言ったのだ。

「これって、いわゆる『共に白髪の生えるまで』ってやつかな?」

胸が締めつけられるような、かつての幸福の記憶。私と蓮は幼なじみで、十八のときに恋人同士になった。大学を卒業してからは、狭いボロアパートで彼と二人、夢を追いながら苦労の日々を過ごした。

やがて彼の会社は軌道に乗り、私は新しいマンションと車を手に入れた。私はオシャレが好きで、ブランドの新作は毎シーズン届けられた。旅行が好きな私のために、彼は忙しい合間を縫って、よく遠出にも付き合ってくれた。誕生日も記念日も、彼からのサプライズは欠かさなかった。

私が不妊症だとわかったときも、彼は一言も責めることなく、「全部俺のせいだ」と言った。誰もが口をそろえて言っていた。――神谷蓮は、私のことを溺愛しているって。

でも、その彼が、結婚七年目にして――秘書の女と、外にもう一つの家を作った。

彼はその女、望月寧々(もちづきねね)に豪華な一軒家を買い与え、「愛の巣」だなんて言っていたらしい。

毎晩まっすぐ帰ってきた人が、ある日を境に夜帰らなくなり。望月への態度はどんどん甘くなり、私への態度は冷え切っていった。私を見るたび、彼はまるで嫌悪するかのように眉をひそめた。

考えたくもなくて、床に落ちたガラスの破片を拾い始めた。数日前、蓮との口論の末に割ってしまった花瓶の残骸だった。

あの日は結婚記念日だった。私は彼の好物を用意して、家で待っていた。「今日は早く帰る」と言っていたのに、帰ってきたのは午前二時。

――また、彼女と一緒にいたのだろう。

私たちは激しく言い争い、そのとき蓮は、私の心を完全に壊す一言を吐いた。

「芽衣(めい)、俺には子どもが必要なんだ」

それ以上聞きたくなくて、私は家を飛び出した。彼は追ってこなかった。

それから一週間、私は昔の実家に身を寄せていた。そして、ひどい胃痛で病院に行き、現実を突きつけられた。

久しぶりに戻ったこの家は、埃っぽいままだ。蓮もこの一週間、一度も帰ってきていないのだろう。

かがんで破片を拾っていたとき、検査結果の紙がポケットから落ちた。私は手を止めて、それを見つめた。

……彼に伝えるべきだろうか。私が死ぬってことを、彼が知ったら、悲しむだろうか。

自然と目元が熱くなり、それに自分で苦笑する。

――今の彼なら、「ざまあみろ」とでも言うかもしれない。

気を取り直して片付けを続けていたそのとき、不意に部屋の明かりがついた。

眩しさに目を細めながら玄関を見ると、そこには蓮が立っていた。白いワイシャツの襟元には、赤い口紅の跡。

私の顔を見て、彼は軽く眉を上げた。

「もう拗ねるのは終わったか?」

私は答えず、検査結果の紙をそっとポケットに押し戻す。思いがけず彼が帰ってきたせいで動揺していた私は、手を切ってしまった。

慌ててキッチンに走り、水道の蛇口をひねる。

「新手の演技?自傷?ほんと、甘やかされて育ったんだな、お前は!」

もう何も期待していないはずなのに、その言葉が胸に突き刺さる。

――昔の彼なら、こんな口調で私に話すことはなかった。

私が不安になれば、どんなに喧嘩をしても優しく抱きしめてくれた。家出をしても、すぐに探し出して「怒る暇もない」と笑っていた。

「俺はお前を甘やかしたいんだ。だから一生、俺から離れられないようにしてやる」

そう言っていた彼は、もうどこにもいない。

水を止め、薬箱を出して自分で手当てをしていると、蓮が少しだけ声のトーンを和らげた。

「芽衣、もういいだろ。あいつとはただの遊びだ」

「業界の連中も皆そうだよ、家はちゃんと守ってる」

「妊娠して子どもが生まれたら、向こうは海外にでも送るつもりだ」

彼の言葉が終わる前に、スマホが鳴った。

「神谷さん、どこ? 一人で怖いの……早く帰ってきてよ……」

望月寧々の甘えた声が、受話口から漏れ出た。蓮はまるで宝物でも扱うように、優しく彼女をあやしている。

私は何も言わず、包帯を巻き終えた手で、数日放置されていた食事を片付け始めた。

通話を終えた蓮は、私を一瞥もせず玄関へと向かう。

「蓮」

私は背中に声をかけた。

「……今度はなんだよ?」彼は舌打ちをして続けて言った「寧々が熱出してんだ。俺、行かなきゃなんねぇんだよ。くだらないことで――」

「離婚しましょう」

「……は?」

彼は苛立ちを隠さず、こちらを振り返る。

「さっきは自傷、今度は離婚? 何、次は『死にたい』ってか?」

「……もし、ほんとうにもうすぐ死ぬとしたら?」

私がそう呟いたとき、彼は何も言わず、ドアを閉めた。

その音が鳴り終わると同時に、この広すぎる家は、またしても沈黙に包まれた。

腹の奥がきりきりと痛み出す。慌てて薬を取り出して飲み込む。

――痛い。こんなにも痛いのに。

私は彼に伝えたかった。本当に、もうすぐ死ぬんだって。

震える手で、再び彼の番号を押す。けれど、返ってくるのは無機質なアナウンス。

――着信拒否されていた。

私はかすかに笑って、壁のカレンダーを見上げた。

「……今日が、蓮と『さよなら』する、最初の日なんだね」

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