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16:心の波紋

last update Dernière mise à jour: 2025-08-28 17:50:26

 雪のテラスに立って、シグルドは言葉を続ける。

 炎の明かりが彼の半身を照らして、もう半身を闇に沈ませていた。

「先程も言ったが、能力には系統がある。本来であれば、同じ系統の能力者が後輩を指導するんだが、エリンの場合は特殊だ。

 まずは基礎的な修練を積んだ上で、安定して能力を使えるようにする。その後は本部に行って、ヴァルキリー様に指導を仰ごう」

「ヴァルキリー様、ですか? オーディン様に仕えているという、聖なる戦乙女」

「ああ、そうだ。ヴァルキリー様は我らエインヘリヤルのまとめ役で、アースガルドとミッドガルドを行き来して、オーディン様の意志を伝えて下さる。

 来るべき時に、熟練のエインヘリヤルをアースガルドに迎え入れるのも、ヴァルキリー様の役目だ」

「迎え入れる……」

「エインヘリヤルは能力が熟練の域に達すると、オーディン様の御下(みもと)に召し上げられるんだ。その後はアースガルドの宮殿で、神々の末席として力を磨き続ける栄誉に浴する。全エインヘリヤルの目指すところだよ」

 シグルドは笑って、先を促した。

「さあ、その辺りの話はまた今度。今は能力に集中しようか」

「はい」

 シグルドが目配せすると、ラーシュが立ち上がって横にやって来た。

「我らエインヘリヤルの能力は、精神、つまり心が原動力となっている。だから――」

「僕が能力を引き出す手伝いをします。精神感応テレパシーは人の心と心を繋ぐ力。エリンさんと僕の心を繋いで、能力の源がどこにあるのか、どうすれば表に出せるのか、探ってみましょう」

「……それは」

 エリンは怯んだ。心を探られれば、彼女の今までがばれてしまう。自分を押し殺して暮らし、打算をもって周囲に接してきたエリンの醜さが知られてしまう。

 そして、いくつもの力を使うことが判明すれば、彼らは一体どう思うか。

 エリンの様子を見て、ラーシュは困ったような笑みを浮かべた。

「ええ、他人に心を覗かれるなんて、嫌ですよね。僕もできるだけ、能力に関連する部分だけ

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  • 終わりの大地のエリン   85:エピローグ

     ユグドラシルとアースガルドの崩壊から数年後。 少しだけ、世界は落ち着きを取り戻しつつある。 そんなある冬の日、エリンはセティと一緒に雪の積もる山を歩いていた。「白獣が出るなんて、久しぶりだよね。星の癒やしの一件以来、人も獣も能力者はあまり出なくなったのに」「うん」 エリンが言うと、セティはうなずいた。 アース神族たちのバナジスライトが大地に溶けたあの日の出来事を、彼らは『星の癒やし』と呼んでいた。 その効果は絶大で、大地に析出していた結晶は全て消えた。さらに動物の白獣化、人間が能力に目覚める確率も劇的に下がったのである。「でも、今でも病に苦しむ獣がいるなら、助けてやらないとな」 彼らはもう少年と少女ではなく、立派な若者だ。 白獣、もしくは末期未満の人間のユミル・ウィルス感染者対策として、エリンの血から抗体を精製して作った。 この抗体があれば白獣はエリンの友となり、人間はそれ以上の病の進行が止まる。 この事実も公表して混乱を呼んだが、今はそれなりに落ち着いてきている。「さて。セティ様の透視《クレアボヤンス》の出番だぜ」 セティの瞳が僅かに赤く光る。これは、第三段階の能力者の特徴だ。第三段階は結局、シグルドとセティ以外に発現しなかったが。「いたぞ。あれは鹿だな。足が速そうだ」「じゃあ瞬間移動《テレポーテーション》で先回りして、ぱぱっと薬を飲ませちゃいましょう」「オッケー。早く済みそうで助かるよ。さっさと街に帰って、それで~」「え? 街でやること、何かあったっけ?」「なななななんでもない!」 セティはものすごく焦って首を振った。 実は彼はこの仕事が終わったら、とうとうエリンに告白をするつもりなのである。 雰囲気のいいお店を予約してプレゼントも買って、万全の体勢で挑む予定だった。 エリンと二人きりでいる時間を長くしたくて、白獣探査の精神感応者《テレパシスト》の同行を断ったのだ。透視でなんとかなるから、と。「俺が引

  • 終わりの大地のエリン   84:去りゆくもの

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  • 終わりの大地のエリン   83:同じでありながら

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  • 終わりの大地のエリン   81:グングニル2

    「次から次へと……」 オーディンの声にわずかな苛立ちが混じっている。「そんなにも死にたいのならば、もう加減はなしだ。僅かながらも慈悲をかけてやろうとしたのが間違いだった。下らぬ茶番に付き合うほど、時間は無駄にはできぬ!」 真グングニルが鳴動する。共鳴したユグドラシルが、力を増幅させている。偽物を叩き折って二度と作れないよう、憎悪を燃やしている。(共鳴) けれどセティは気づいた。グングニルの材質は七割以上がユグドラシルと同じもの。  なぜ、ただの武器にそんな材料を使う必要がある?  なにか理由があるはずだ。 セティはエリンの手を取った。エリンの精神感応《テレパシー》で考えを読んでもらう。こうすれば言葉よりもずっと早く正確に伝わるからだ。 ――エリン。グングニルとユグドラシルが共鳴してる。武器と塔、どうして共鳴させる必要があるんだろう。 ――もしかしたらグングニルは本来、武器ではないのかもしれない。ユグドラシルを制御するための道具なのかも。 ――あり得るよ! オーディンの体を二八・八パーセントも混ぜたのも、あいつがユグドラシルの管理者だからだ! ――それなら、対抗するべきは武器の威力ではなくて、ユグドラシルの乗っ取り? ――それだ! 俺、今から全力でユグドラシルの中枢を探す。見つけたら、エリンが介入して! ――分かった! これだけのやり取りを一秒に満たない間にやり遂げ、セティは透視《クレアボヤンス》を全開にした。  かつての彼の能力では、ユグドラシルの内部は全く視えなかった。  けれども今は違う。第三段階の偽物《レプリカ》の能力は、対象の構造解析を完璧に行った上で発現するもの。出力も精度も以前とは比べ物にならないほど上がっていた。 一瞬だけ遅れて、オーディンも二人の意図に気づいた。何も知らないはずの彼らが瞬時に本質を見抜いたと知って、オーディンの背筋に冷たいものが走る。  だが、アドバンテージがオーディンにあるのは揺らがない。彼女は長年ユグドラシルとアースガルドの王だった。構造は熟知している。

  • 終わりの大地のエリン   80:グングニル

     長槍がふわりと宙に浮いた。 オーディンはいっそ無造作に、右手をエリンに向ける。 グングニルは何の前触れもなく加速して、彼女の心臓に肉薄した。そう、あたかも『最初から心臓に命中するのが決まっていたように』。「……っ!」 本来であれば、エリンといえど回避の時間はなかっただろう。 割って入ったのはセティだった。 その手には、不確かな輪郭ながらも偽物《レプリカ》の神槍が握られている。その穂先で真物の一撃を受け止めている。 偽物《レプリカ》は真なる一撃を受けた後に砕けた。「ほう?」 オーディンの声音に、初めて薄いながらも色が乗った。「お前も、第三段階か。惜しいな、もう少し早く目覚めていれば、使い道は多くあったのに。今となってはただの廃棄物にすぎん」「使い道も廃棄もごめんだね! 俺はあんたの奴隷じゃないんだ!」 セティが気丈に言い返すが、顔色は真っ青だ。一度の偽物《レプリカ》の発動が、相当な負担をかけている。「では、もう一度。どこまで持つか試してみよう」 再度の投擲がなされた。セティは偽物《レプリカ》を起動させるが、どうやら最初の攻撃はかなり加減されていたものだったらしい。 真グングニルは偽物《レプリカ》を一瞬で砕いて、そのままの勢いでエリンの心臓を狙う。『走査《スキャン》! 対象、神造兵器グングニル。材質はユグドラシルと同質が七一・二パーセント。残り二八・八パーセントは不明。 穂先に全ての周波数《チャンネル》での妨害能力波《ジャミング》搭載を確認。防御、不可能』 防御術式は無駄だ。エリンはとっさにそう判断する。回避も無駄だと思われた。投擲は直線状に見えたが、魔術的な補正がかかっている。 さきほどセティが止められたのは、同質の力を持つ偽物《レプリカ》だからこそ。「エリン!」 立て続けに偽物《レプリカ》を作り出して消耗したセティが、必死で手を伸ばしている。 エリンはその手を握って――&nbs

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