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第684話

Auteur: 藤原 白乃介
智哉は、体にぴったりと合った黒のスーツを身にまとい、冷たい表情で彼を見下ろしていた。

「叔父さんには残念かもしれませんが、あなたがここに仕掛けた爆弾はすべて、うちの人間が解除しました。……まだ何か言い残したことは?」

智哉が「叔父さん」と呼んだその瞬間、浩之はすべてを悟った。

彼は冷笑を浮かべた。

「つまり最初から奈津子がお前の母親だって知ってたわけか。お前と晴臣が芝居してたのも、全部俺を騙すためってことだな?この二年間、ずっと裏でこの計画を準備してたんだろ?」

智哉の唇がわずかに持ち上がった。

「叔父さん、今さら気づいても遅いと思いませんか?あの時、あなたが俺を家族から引き裂いた。その代償は、きっちり払ってもらいますよ」

すべてを理解した浩之は、突然高らかに笑い出した。

「つまり、奈津子と俺の結婚を認めたのも、俺の持ってる印鑑と株のためだったってことか。でもな、お前は一つ見落としてる。俺は今、法律上は奈津子の夫だ。俺を刑務所に送れば、彼女も巻き添えになるぞ」

智哉は鼻で笑った。

「叔父さん、まだ分かってなかったんですか?俺がお前のすべてを掌握してるのに、母さお前なんかに嫁がせるわけないでしょう。

あなたたちの結婚手続きは偽物です。俺が手を回して作らせたものですよ。奈津子とお前の間には、法的にも血縁的にも、何の関係もありません。

あなたは瀬名家に拾われた裏切り者であり、高橋家と他の名家を破産寸前に追い込んだ張本人です」

そう言い終えると、智哉は背後のボディガードに向かって命じた。

「彼を国際警察に引き渡せ」

ボディガードが動こうとしたその時、浩之がまた笑い出した。

彼は智哉を指さし、冷たい笑みを浮かべた。

「智哉、お前には俺をどうすることもできない。俺は高橋家の血を引いてるんだ。高橋家には昔から、同族同士で殺し合ってはならないという掟がある。もし俺を警察に突き出せば、その掟に背くことになる。お前も罰を受けることになるぞ」

それが彼の最後の切り札だった。今まで明かしてこなかった秘密。

彼は瀬名家の養子であると同時に、高橋家の隠し子でもあった。

高橋家の血が流れている限り、家主である智哉は彼に手を出せない。

だが、そんな彼の顔に智哉は無情にも一枚の紙を差し出した。

「言い忘れてましたが、あなたの母親は昔、俺の祖父と恋仲だっ
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