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2.みしょう動物病院①

Author: 鷹槻れん
last update publish date: 2026-07-22 05:21:48

 結葉ゆいはの勤め先の縫製工場は、毎月第2、第4土曜日が休み、それ以外は出勤日になっている。

「病院、土曜なら1日中やっているみたいだから福助連れて行ってくるね」

 健康診断も兼ねて、休日の土曜に当たる今日、結葉ゆいはは隣町の動物病院へ行こうと思っている。

「『みしょう動物病院』ってどんな漢字を書くんだろ?」

 母親に勧められた病院をスマートフォンで調べてみたら、ひらがなで〝みしょう〟と書かれていて。恐らくは先生の苗字なんだろうな、と思った結葉ゆいはだ。けれど、それがどんな字を当てるのかは皆目検討が付かなくて。

 行けば、どこかに漢字表記があるかしら、とか思いつつスニーカーに足を通す。

「結葉ゆいは、病院まで父さんが車に乗せて行ってやろうか?」

 運転免許は持っているけれど、車を持たない結葉ゆいははいわゆるペーパードライバーだ。

 ハムスターは小さめの移動用ケージに移しているとはいえ、いつもより手荷物が多めに見える一人娘を心配して、父親の茂雄しげおが靴を履いている結葉ゆいはに声をかけてきた。

「有難う、お父さん。でも……いつも乗せて行ってもらえるとは限らないし。今日はバスで行ってみようと思うの」

 母――美鳥みどり――は車の免許自体を持っていない。

 基本的には仕事で不在なことが多い父を頼るのは、有事に備えて極力避けておこうと思った結葉ゆいはだ。

 自分がふんわりしていて周りに流されやすかったり、抜けているところが多いことを自覚している結葉ゆいはは、なるべくそういうのを表に出さないようにしたいと常日頃から考えている。

 今回の福助の通院にしても、1週間以上前から計画を練っていたから、恐らく抜かりはないはずで。

 だからこそ自力でやり遂げてみたいと思った。

「分かったよ。でも本当、何かあったら遠慮なく電話してくるんだよ? 今日は父さんも仕事休みだからね」

 幼い頃から結葉ゆいはを溺愛してやまない父は、今日も娘にデロデロに甘い。

「うん。分かった。有難う。行ってきます」

 結葉ゆいははそんな父親の心配そうな顔ににっこり笑いかけると、両手が空くようにと選んだ小さめのリュックサックと、マチのひろい手作りトートバッグ――美鳥みどりが作ってくれた――に入った福助とともに自宅を後にした。

***

「おや、結葉ゆいはちゃん。今日はお仕事お休みかい?」

 すぐ隣の山波やまなみ建設の前を通りかかったら、外で廃材整理をしていたらしい想そうの父親公宣きみのぶに声をかけられた。

「はい」

 いつもならスカートスタイルを好む結葉ゆいはだけれど、今日は動きやすいようにインディゴブルーの、デニム地のワイドパンツを履いている。

 トップスも、凝ったデザインではなくシンプルな、白のロゴ入りTシャツを選んだ。

 Tシャツには、何故だか分からないけれど、筆記体で「Sugar!」と感嘆符付きで書かれている。

 前に、結葉ゆいはは想そうから「意味の分からん英語の書かれたTシャツは着るなよ?」と釘を刺されたことがある。

 妹の芹せりが持っていたTシャツがエッチな内容のロゴTだったらしく、大学でアメリカ人准教授から、「そ・う・い・う・つもりがないなら着ない方がいいよ。襲われてしまう」と教えられて、真っ赤な顔をして帰って来たことがあるらしい。

 想そうは結葉ゆいはにどんなことが書かれていたのかは教えてくれなかったけれど、口にするのも憚はばかられるような内容であることは確かだったみたいだ。

 結局そのTシャツは現場でウエスとして使ったのち、廃棄処分したらしい。

 ネイティブではないからスラングみたいなものだとパッと見には意味が分からないし、以来結葉ゆいはもTシャツのみならず、色々なものの外国語ロゴには気をつけるようになった。

 そんなわけで、今日は「砂糖!」とある意味分かりやすく胸に描かれたTシャツを着て外出の結葉ゆいはだ。

 想そうがいたら「何で砂糖?」と言われてしまいそうな気はしたけれど、今日はどうやら彼はいないみたいで。

 結葉ゆいはが無意識に想そうを探してキョロキョロと辺りを見回していたのがバレたんだろう。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
ハムハム
好きな人だもん。 どうしたって探してしまうの、わかる。 ところで妹ちゃんのTシャツ、何が書かれてたんだろう? 気になる!
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