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7.不安と違和感の中で*③

Auteur: 鷹槻れん
last update Date de publication: 2026-07-25 16:00:24

 口の中にもゾクゾクしてしまうぐらい気・持・ち・い・い・場所があるというのを、結葉ゆいはは生まれて初めて知った。

 偉央いおの舌先が、結葉ゆいはの弱いところを見つけたことを喜ぶみたいにそこばかり責めてくるから。

 結葉ゆいはは立っているのもままならないぐらい足がガクガクと震えてきてしまう。

「――気持ち良かった?」

 存分に結葉ゆいはの情欲に火を付けるセクシャルな口付けを施してから唇を解ほどくと、偉央いおが結葉ゆいはの瞳を覗き込んでくる。

 結葉ゆいはは目端を潤ませて、酸欠のためか、快楽のためか自分でもよく分からないトロンとした頭のまま、そんな偉央いおの視線を受け止めた。

「結葉ゆいは、すごく色っぽい……」

 言われて、再度ギュッと強く偉央いおの腕に抱き寄せられた結葉ゆいはは、背後に立つ偉央いおの下腹部が固く張り詰めているのを感じてにわかに恥ずかしくなる。

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     やはり偉央から届いていた手紙にその答えがあるような気がした想だ。 あの封書、結葉宛だからと開封せずに彼女に渡してしまったけれど、こんなことならば中身を検めてから手渡すべきだった。 そんなことを思って、(いや、それは人としてダメだろ)と、慌ててその考えを否定する。 そこで信号が青になって。 想は一旦思考を引き上げると車を発進させた。***「やっぱり結葉の手料理は優しい味がして美味しいね」 ベッド横。 ドレッサーの椅子を持ってきて、気持ち夫から距離をあけるようにして腰掛けた結葉に、偉央が静かな声音でそっと話し掛けてくる。(相変わらず偉央さんは上品な食べ方をなさるな) そんなことを思いながらぼんやり偉央を見詰めていた結葉は、偉央に淡く微笑みかけられてドキッとしてしまった。 結葉は、偉央の箸を持つ手指のスッと長くて、その所作が美しいところが大好きだった。 結婚前、結葉は見合いの席で偉央が食事をする光景を見るとはなしに眺めて、〝この人となら、毎日三食一緒にご飯を食べてもきっと不快な気持ちにはならないだろうな〟と思ったのを鮮明に覚えている。 結婚してからここ数年は、食事の時すら偉央の顔色を窺っていた結葉だ。 張り詰めた空気の中、偉央がこんな風に綺麗な食べ方をする人だったことすら、いつの間にか見えなくなってしまっていたんだなぁと思って。(私たち、一体どのぐらい長い間、ボタンを掛け間違え続けてきたんだろう) そんなことを考えて、結葉は両手で包み込んだ湯呑みをギュッと握りしめる。 最初は熱くてこんな風に持つことが敵わなかった湯呑みも、今は大分中身が冷めて、強く握ってもほんのりと温かい程度にしか感じられない。「お口に合って良かったです」

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     ああは言ったけれど、結葉が自分のところで生活している以上、何もありはしないだろうと、あちらの番号は敢えて登録していなかった想だ。 もし必要に駆られたとしても、調べれば出てくるのは分かっていたし、最悪出向けば済むこと。 こちらからどうこうすることはないと思っていた。 なのに――。『あの、今朝結葉さんが十時前に一人でこちらにいらっしゃいまして……。お部屋に戻られたっきり出ていらっしゃらないので……その、心配になってご連絡を差し上げました』 言われた言葉の意味が分からなくて、想は思わず「え?」とつぶやいていた。「結葉が一人でそちらに?」 再度確認するみたいに斉藤が告げた言葉を繰り返したら『はい』と返ってきて。『山波さんは今日のことについて結葉さんから何かうかがっていらっしゃいませんか?』 問われて、想は「いや、何も……」と答えるしかなかった。『実は……いつもでしたら今の時間帯……というかこのところほぼずっと……結葉さんのお宅はお留守だったのですが……』 そこで言いにくそうに一旦言葉を止めた斉藤に、想は嫌な汗が背中を伝う。『私たちがいる時間帯のことではないのでハッキリとは申し上げられないのですが、今日は早朝にご主人がご帰宅なさったという報告を夜の担当者から受けています』 普段なら一住人の在宅や不在を申し送りするような事はないらしい。 だが、今日は偉央がエントランスで跪いてしまうぐらい調子が悪そうだったから、少し気にかけておいて欲しい、と言伝があったそうで。『私たちが把握している限りではご主人も外出なさっておられませんし……その&helli

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    (今日は午前中出かけるって言ってたっけ) 仕事で商店街の近くを通って、ふと出掛けに告げられた結葉の言葉を思い出した想だ。(百均って多分……この奥の、だよな) この辺りに、規模のそこそこ大きな百円ショップはそこぐらいしかない。 結葉は、何か頼んでいたものが入ったから取りに行くと言っていたけれど、用を済ませたら寄り道せずに帰るつもりだろうか。 それとも折角出て来たんだし、とどこかに寄るのだろうか。 結婚してから数年、結葉は半ば軟禁生活のような暮らしを強いられていたらしい。 一人では自由に外を出歩くことを許されていなかったみたいだから、もしかしたら羽を伸ばしたい気分になっているかも?(あの近くには美味い紅茶を飲ませてくれる喫茶店もあるしな) ショーケースに並ぶ食品サンプルに誘われて、結葉がふらりと店に入っていても不思議ではない気がした想だ。 仕事がひと段落したら、とりあえず結葉に電話してみて、まだ外にいるようなら迎えに行ってやるのもありかな?と思って。 普段なら自分の仕事中自由にしている結葉のことをそんなに気にしないでいられる想なのだが、何故か今日は今朝方の結葉の様子が引っ掛かって仕方がない。 結葉が想に嘘をつく必要なんてないはずなのに、どうしてこんなに心がざわつくのかは分からない。 けれど、まるで透明な水にポツンと落とされた一滴の墨汁みたいに、結葉の言動に違和感が拭えない想だ。 強いて言えば〝勘〟だろうか。(そう言や、御庄さんからの手紙って、何が書いてあったんだろ) 結葉はあの夜、とうとう想の前でそれを開封することが出来ず終いで。 まだ心の準備が出来ていないから、と淡い笑みを浮かべた結葉の表情が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている想だ。 結局想は、結葉が旦那からの手紙を読んでどういう反応をしたのか。……いや、そもそもそれを読んだのかどうかすら知ることが出来ずにいる。 結葉は、偉央から送られてきた離婚届をまだ提出していない。 だから戸籍上、二人は夫婦なわけだし、想が介入

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     卵焼きと肉じゃがを温めるついでに、フードストッカーからレンジで温めたら食べられるレトルトのご飯を取り出すと、ほかほかに温めた後でふと手を止める。(お粥にしよう) 弱っていそうな偉央にはその方がいい気がした。 小さな片手鍋を取り出すと、温めたばかりのご飯をそれに入れてウォーターサーバーから水を入れた。***「偉央さん、起きていらっしゃいますか?」 トレイに湯気のくゆるお粥と卵焼き、それから肉じゃがを載せて寝室に戻ると、偉央は結葉の予想に反して薄暗がりの中、身体を起こしていた。「寝ていてくださいって言ったのに」 ベッド横のサイドテーブルにトレイを載せて食事がしやすいようにカーテンを開けると、部屋の中が明るくなった。「ごめん……」 素直に謝る偉央を見て、結葉はそれ以上言い募ることが出来なかった。*** さっきトレイを載せたサイドテーブルは、下がコロになっていて、そのまま高さを調整して向きを変えたら、ベッドに座ったまま食事が出来るようになる仕様だ。 結葉は偉央から酷く責め立てられて起き上がれなくなった時なんかに、このテーブルでよく食事を摂っていた。 結葉がダウンした時、偉央は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。 でも元を正せばその原因を作ったのは偉央だったので、罪滅ぼしの気持ちが強かったのかも知れない。 動くのが辛かった時にはとても便利だったけれど、風邪など以外でこれを使った回数の方が圧倒的に多かったことを思うと、結葉はどうしても複雑な気持ちになってしまう。 なるべくそのことは考えないようにして、偉央の前にテーブルを設置すると、偉央の背後にある枕をムギュッと押し潰して厚みを調整して彼がすがれるようにした。 これも、偉央が結葉のためによくやってい

  • 結婚相手を間違えました〜従順妻はヤンデレ執着夫の重すぎる溺愛から逃げ出したい〜   33.久々の我が家⑥

     身長差が二〇センチ以上あるから、実際小柄な結葉が偉央の支えになれたかどうかは分からない。 でも、偉央は結葉に捕まってベッドサイドに腰をかけることが出来た。 偉央は目眩でもしているのだろうか。 苦しそうに眉間にしわを寄せると、眼鏡を外してベッドの宮棚に置く。 偉央の裸眼の顔を見るのは本当に久々だなと思った結葉だ。 偉央は眼鏡をしていると、付け入る隙のないインテリっぽく見えるけれど、眼鏡を外すと少し印象が柔らかくなる。 まだ偉央との関係が今ほどこじれていなかったころ、彼に優しく抱かれた後で二人布団のなかで睦言を交わしながら、眼鏡のない彼の顔を間近にして照れ臭かったのを、結葉は鮮明に覚えている。 折檻をされるように酷く抱かれるようになってからの偉央は、情事の際にも眼鏡を外すことは無くなったし、ことが終わった後に、結葉と一緒に眠る事もなくなっていた。 というより結葉は偉央から気を失うまで酷く責め立てられて、明け方、目が覚めるといつもベッドに一人だった。 寝室はカーテンが閉められていて薄暗いからだろうか。 結葉は何だかソワソワと落ち着かない。 自分も少し前まではこの部屋で寝起きしていたんだと思うと、監禁生活の片鱗をふと思い出してしまって、結葉は自然と心拍数が上がってくるのを感じてしまう。「偉央さん、大丈夫ですか?」 それを誤魔化すみたいに偉央を気遣ったら、心底申し訳なさそうな顔をして偉央が吐息を落とした。「せっかく久しぶりにキミに会えたのに……情けない所を見せてしまってすまない」「それは気にしないで? だけど……本当にどうしちゃったの?」 自分が偉央を置き去りにしたから?と心の片隅で思わなくもない結葉

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    「い、お、さん……」 ゆっくり振り返ってみると、やはりそこに居たのは偉央だった。 結葉はオロオロと視線を彷徨わせる。「もしかして……帰ってきて……くれた、の?」 ポツリポツリと、まるで答えを聞くのを怖がっているみたいに問いかけられた。 それが分かっていてもどうしようもないから懸命にフルフルと首を横に振ったら、偉央がとても悲しそうな顔で結葉を見詰め返してきた。 覇気が全く感じられない偉央の様子に、一瞬ほだされそうになった結葉だ。 でも、ここで選択肢を間違えたらまた元の木阿弥になってしまう。 偉央には見えない所でグッと拳を握って自分を鼓舞すると、結葉は小さく吐息をついて、寝室前に立つ夫をじっと見つめた。「偉央さん、お手紙くれたでしょ? 『もう一度私の手料理が食べたい』って……。だから……」 流しの縁を掴んだ手に、知らず知らず力がこもってしまう。 結葉は指先が白くなるぐらいギュッとそこを握ってしまっていたことに気が付いて慌てて手を離すと、恐る恐る偉央の反応を窺った。 今は距離もさることながら、システムキッチンが間にあるから、おいそれと偉央に触れられる心配はないはずだ。 だけど少しでも偉央がこちらに近付いてきたら、しっかり距離を取ろうと思った。 警戒心が視線に滲み出ていたのかもしれない。 偉央は小さく溜め息を落とすと、 「……そっか。わざわざ……僕のためにそんなことを。本当に有難う……」  それでも淡く微笑んだ。 その悲しそうな笑顔に、結葉はギューッと胸が締め付けられる。 (偉央さん、痩せた?) いや、痩せたというよりやつれた、と言った方が正しい気がした結葉だ。 「偉央さん、ご飯、ちゃんと食べていらっしゃいますか?」 思わずそんなことを問い掛けてしまったのは、偉央が余りにも弱々しく見えたから。「……どうだろう。食べてないことはないんだけど……余り食は進まない、かな。……何か久しぶりに会えたのに情けなくてごめん……」 プライドの高い偉央が、弱々しいところを他者に見せること自体珍しいことだ。 力なくこぼさ

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