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第十二話:招かれざる客

ผู้เขียน: 渡瀬藍兵
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-07 22:03:26

俺は、目の前にある古びた玄関のドアノブに手をかけた。ひやりとした、錆の浮いた鉄の感触。

どうせ開かないだろう、という予感はあった。力を込めて捻り、引く。が、がちり、と硬い感触が手に伝わるだけで、扉はびくともしない。

「……まあ、そうだよな」

左腕に、穂乃果の指が食い込むのを感じる。ほとんど全体重を預けられているせいで、少し動きにくいな。

「裏手を見てみるか」

「うん…」

家の側面に回り込み、生い茂った雑草をかき分ける。建物の影になった場所は、ひどく空気が湿っていた。

裏庭へ抜けた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。

裏庭の、朽ちかけた縁側の下。そこに、黒く変色した染みが、べったりとこびりついていた。まるで、何か大きな獣でも引きずったかのような、おびただしい量の痕跡。

「なんだ、これは…」

声が、掠れた。隣で、穂乃果が俺の顔を不安そうに見上げる。

「ど、どうしたの…?」

穂乃果が首を傾げる。

「何か見えるの…?」

その言葉に、はっとする。俺の視線を追う穂乃果の瞳には、ただの不審だけが浮かんでいる。

……まさか。この、おびただしい量の血痕が、こいつには見えていない、というのか?

「……いや、なんでもない」

今余計な事を言っても、こいつを不安にさせるだけだ。そう考えた俺はかぶりを振ると、その禍々しい痕跡から目を逸らし、穂乃果の腕を引いて再び玄関へと戻った。裏手の窓も、雨戸が固く閉ざされていて入れそうになかった。

「やっぱり、戸締りくらいはしてるよな…」

「うん……管理してる人がいるんだろうしね…」

穂乃果がそう呟き、諦めの空気が漂った、その時だった。

──カチャリ。

乾いた金属音が、やけにクリアに響いた。二人同時に、音のした玄関の方を振り返る。

「今の音は……?」

俺が呟くと、穂乃果がごくりと喉を鳴らす。

「…げ、玄関……だよね」

「ああ、見てみよう」

俺は、まるで何かに引き寄せられるように玄関へ歩み寄ると、もう一度、冷たいドアノブに手をかけた。

さっきと同じように、捻って、引く。

すると、

キィィィィン……、

今までが嘘のように、重く、軋むような音を立てて、扉がゆっくりと開いた。

中から、黴と埃が混じった、淀んだ空気がどっと溢れ出す。

おかしい。さっきまで、間違いなく鍵は閉まっていた。それは確かだ。

それなのに、あの音が鳴った後、扉は開いた。

まるで、家の主が鍵を開けて、俺たちを招き入れたかのようだった。…歓迎、されているとは思えなかったが。

「嘘でしょ…」

穂乃果の声が震える。

「こ、こんなことってありえるの…?」

穂乃果の表情が、恐怖に歪む。当然だろう。俺だって、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

恐怖に疎い俺でも、この場がおかしいのは十分な程に理解できた。

「穂乃果。本当に、無理しなくていいんだぞ」

「で、でも…」

開かれた扉の奥、全てを呑み込むような暗闇を前に、穂乃果の足は竦んでいる。ここ数日で、あまりに多くの非日常を体験しすぎた。無理もない。

「俺としては…お前に無理される方が、心配だ」

数秒、穂乃果は考えを巡らせるような様子を見せる。やがて、彼女は小さく首を横に振った。

「……ううん。やっぱり、私も輝流と一緒に行く」

穂乃果はそう言うと、覚悟を決めたように、扉の闇を睨み返した。

相手が幽霊や人外の類なら、俺にできることは少ないかもしれない。だが、こいつ一人のことくらいは……守ることが出来るだろう。

俺は、左腕に絡みつく穂乃果の指を強く握り返すと、その家の中へと足を踏み入れた。

***

家の中は、異様な匂いで満ちていた。鉄錆の匂いと、湿った土が腐ったような匂い。今まで嗅いだことのない、鼻の奥を刺すような悪臭が漂っている。

その時だった。

ドンッ!!

背後で、重く、何かが打ち付けられるような音。

「えっ…!?」

穂乃果が悲鳴を上げて振り返る。俺たちの入ってきた玄関の扉が、固く閉ざされていた。

「ど、扉が……!」

穂乃果が焦ってドアノブをガチャガチャと回し、扉を押す。

「輝流!!」

彼女の声が、ヒステリックに高くなる。

「ど、どうしよう!! 開かない!」

俺も扉に手をかけ、鍵の状態を確認する。鍵穴に鍵はない。だが、

「ふっ…!」

全体重をかけても、扉はまるで壁の一部になったかのように、びくともしなかった。

「おらぁっ!!」

ドンッ!!!

肩から、渾身のタックルを叩き込む。しかし、返ってきたのは鈍い衝撃と、軋みひとつ立てない扉の沈黙だけだった。

まるで、入ったからには決して出すものか、と。家そのものに拒絶されているような、そんな気さえした。

「ど、どうしよう輝流…!」

穂乃果の声が、涙声になりかける。

「落ち着け、穂乃果」

パニックになりかける穂乃果の両肩を掴み、無理やり目線を合わせる。

「裏の窓を破れば出られる」

俺は、できるだけ冷静な声を保つように努めた。

「完全に塞がれたわけじゃない」

蹴るなり、家具を使うなりすれば、出れない事はないだろう。

「う、うん…!」

穂乃果が、必死に頷く。

俺は、自分自身に言い聞かせるように、そう告げた。

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