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第86話 満開の桜

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-20 22:13:08

僕たちは、白く煙る霧の中、陽菜さんのあとをゆったりとついていく。

前と違うのは、帰路であるということ。

そしてもうひとつ――今は、声だけでなく、その姿をもはっきりと見せて、目の前を歩いてくれているということだった。

その姿は、まるで霧の精のようだ。

霧の中をゆったりと歩きながら、陽菜さんが気さくな声で問いかけてきた。

「そういえば、あれからどうしてたんだい?」

僕と美琴は顔を見合わせて、廃工場で起きたことの全てを語り始める。

黒崎という殺人鬼の霊のこと。命懸けでの戦い。

僕が重傷を負い、美琴が意識を失ったこと――。

その一部始終を話終えるなり、陽菜さんはみるみるうちに顔を真っ赤にして、怒りを露わにした。

「なんだいそのクソ野郎は!? アタイがその場にいたらぶっ飛ばしてやったのに!!」

勢いよく袖をまくって、今にも怒鳴り込みそうな勢いだ。

その姿は、普段の陽気な陽菜さんからは想像できないほど、激しい怒りに満ちていた。

「はは……ほんと、大変だったんですよ。僕は傷だらけで……美琴は倒れちゃって……」

僕の言葉に、陽菜さんは歩きながらも、後ろを振り返ってうんうんと大きく頷いてくれた。

「でもまぁ、無事でよかったよ!

アンタたちに何かあったら、アタイがその黒崎ってヤツを、ほんとに消し飛ばしてたかもね!」

その言葉に、僕はふっと笑ってしまう。

陽菜さんのまっすぐな優しさが、僕の心を温かくする。

隣にいた美琴が、僕に向かってそっとささやく。

「陽菜さんなら、本当に可能だと思いますよ。」

「……え、陽菜さんってそんなに強いの?」

美琴の言葉に、僕は思わず聞き返した。

「はい。彼女の霊力はかなりのものです。」

普段の陽気な雰囲気からは想像もできないけれど、

そんなすごい霊が、今こうして僕たちの先を、まるで守護者のように歩いてくれている。

その頼もしい背中を見ていると、心の奥がじんわりとあたたかくなった。

そして――霧が、ゆっくりと晴れていく。

目の前には、バス停が、まるで僕たちを待ち構えていたかのように、静かに姿を現した。

「じゃあ、気をつけて帰りなよ」

陽菜さんが、手をひらひらと振りながら、あっけらかんと笑った。

その笑顔は、別れの寂しさを感じさせない
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  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   第86話 満開の桜

    僕たちは、白く煙る霧の中、陽菜さんのあとをゆったりとついていく。 前と違うのは、帰路であるということ。 そしてもうひとつ――今は、声だけでなく、その姿をもはっきりと見せて、目の前を歩いてくれているということだった。 その姿は、まるで霧の精のようだ。 霧の中をゆったりと歩きながら、陽菜さんが気さくな声で問いかけてきた。 「そういえば、あれからどうしてたんだい?」 僕と美琴は顔を見合わせて、廃工場で起きたことの全てを語り始める。 黒崎という殺人鬼の霊のこと。命懸けでの戦い。 僕が重傷を負い、美琴が意識を失ったこと――。 その一部始終を話終えるなり、陽菜さんはみるみるうちに顔を真っ赤にして、怒りを露わにした。 「なんだいそのクソ野郎は!? アタイがその場にいたらぶっ飛ばしてやったのに!!」 勢いよく袖をまくって、今にも怒鳴り込みそうな勢いだ。 その姿は、普段の陽気な陽菜さんからは想像できないほど、激しい怒りに満ちていた。 「はは……ほんと、大変だったんですよ。僕は傷だらけで……美琴は倒れちゃって……」 僕の言葉に、陽菜さんは歩きながらも、後ろを振り返ってうんうんと大きく頷いてくれた。 「でもまぁ、無事でよかったよ! アンタたちに何かあったら、アタイがその黒崎ってヤツを、ほんとに消し飛ばしてたかもね!」 その言葉に、僕はふっと笑ってしまう。 陽菜さんのまっすぐな優しさが、僕の心を温かくする。 隣にいた美琴が、僕に向かってそっとささやく。 「陽菜さんなら、本当に可能だと思いますよ。」 「……え、陽菜さんってそんなに強いの?」 美琴の言葉に、僕は思わず聞き返した。 「はい。彼女の霊力はかなりのものです。」 普段の陽気な雰囲気からは想像もできないけれど、 そんなすごい霊が、今こうして僕たちの先を、まるで守護者のように歩いてくれている。 その頼もしい背中を見ていると、心の奥がじんわりとあたたかくなった。 そして――霧が、ゆっくりと晴れていく。 目の前には、バス停が、まるで僕たちを待ち構えていたかのように、静かに姿を現した。 「じゃあ、気をつけて帰りなよ」 陽菜さんが、手をひらひらと振りながら、あっけらかんと笑った。 その笑顔は、別れの寂しさを感じさせない

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