Mag-log in「練?」
颯斗は何度か呼びかけたが、画面の向こうから返事はなかった。
この時になってようやく、颯斗の熱くなりすぎた頭が徐々に冷静さを取り戻していった。画面越しに、ベッドに倒れ込んだままピクリとも動かない練を見て、ついに事の異常さに気づき始めたのだ。
これまで練とビデオ通話でセックスをした時、どんなに激しく、どんなに疲労困憊していても、練は必ず「おやすみ」と言ってから通話を切っていた。
しかし今回は、途中で意識を失ってしまったのだ。
こんな状況は初めてだった。
颯斗は一瞬、どうしていいか分からず途方に暮れた。自分がとんでもない過ちを犯してしまったのではないかと気づいたのだ。
普段から練は診療所の仕事を一人で全て背負い込み、ただでさえ過酷な状況なのに、夜になれば頻繁に自分とビデオ通話でセックスま
「ほら、ここを見て」そう言って、2号がマスコットを裏返すと、颯斗はようやくそのツルツルした白い丸いお尻に、小さな尻尾がちょこんと生えていることに気がついた。豚の尻尾以外の何物でもない。「本当だ」「お兄さん、よくお気づきですね!うちのマスコットをパッと見て子豚だと分かるお客様は、滅多にいらっしゃらないんですよ」「せっかくのご縁だし、二割引にしてくれない?」颯斗が尋ねた。「申し訳ありませんが、そういうサービスはやっていなくて」女性スタッフは苦笑いしながら答えた。「でも、もう一つぬいぐるみをサービスさせていただきますよ。そうすれば男の子と女の子で、ちょうどペアになりますから!」そう言って、女性スタッフはカウンターからもう一つのぬいぐるみを取り出し、2号に差し出した。「これ、性別があるのか?どれも全く同じに見えるけど」「違うよ」2号は尻尾の巻いている方向を指差した。「男の子は左巻きで、女の子は右巻きだ」「そんなのありか……」颯斗はすっかり感心してしまった。「で、お前はどっちが欲しいんだ?」「俺は男の子がいい」2号は条件反射のように答えたが、すぐに考え直したようで、颯斗の手からぬいぐるみをひったくった。「いや、やっぱり両方とも俺がもらう」颯斗は一瞬きょとんとしたが、すぐに納得した。「なんだ?哲にでもプレゼントする気か?」2号は頷き、悪びれる様子もなくあっさりと認めた。「あいつみたいな奴が、こんなドリンクスタンドのおまけみたいな安物を喜ぶわけないだろ」颯斗は面白くなさそうに唇を尖らせて言った。「俺が選んだものを、その辺の安物と一緒にするなよ」
その時、自動ドアがふいに開き、制服姿の管理人らしき中年男性が出てきた。二人がエントランスの前でしばらく押し問答をしているのを見て、不思議に思って声をかけたようだ。「こんにちは。1802号室の方に用があって来た者です」「1802号室?」中年男性は驚いたような顔をした。「あの方は滅多にここには戻られませんよ。部屋もよく留守がちで、十日から半月ほど家を空けていることも珍しくありません。あなたたちは、あの方の何ですか?」そういうことか、と颯斗は心の中で納得した。前回訪れた時、あまりにも殺風景で、まともな家具の一つもなく、生活感が全くない部屋だと感じたのも無理はない。どうやら哲はここを住まいではなく、ただの一時的な拠点として使っているようだ。これ以上哲と関わるのは本当に気が進まなかったが、今はどうしようもなく、颯斗は仕方なく哲に電話をかけた。「彼が僕に会いたがっていると?」電話越しの声がそう言った。「ああ、マンションのエントランス前に座り込んでテコでも動かないんだ。どうすりゃいい?」「今、地方に出張中でな。手が離せないんだ」哲は少し言葉を切り、時計でも見ているようだった。「どんなに早くても夜の八時になる。なるべく早く戻るようにするから、それまで適当に相手をしておいてくれ」「はあ、わかったよ。了解」颯斗が長いため息をついて電話を切り、振り返ると、2号の姿はどこにもなかった。その時、聞き覚えのある軽快なメロディが耳に飛び込んできた。颯斗が音のする方を見ると、チェーン店のドリンクスタンドの前で、愛嬌たっぷりの着ぐるみが、道行く人に向かって手足を忙しなく動かして愛想を振りまいていた。2号はそのドリンクスタンドの前に立ち、着ぐるみから目を離さず、何か物思いに耽っているような表情をしていた。「何をそんなに真
翌日、いつも昼過ぎまで寝ている2号が珍しく早起きをした。どれくらい早いかというと。午前六時、外がまだ薄暗い頃、颯斗は首筋に湿った温かい息がかかるのをぼんやりと感じていた。体がずっしりと重く、まるで金縛りにでも遭ったかのように、身動き一つ取れなかった。目を開けた瞬間、見慣れた顔が颯斗の顔の至近距離に迫っていた。「うわあっ!」と颯斗は大声を上げ、すっかり眠気が吹き飛んだ。「お前、何してんだよ?」「起きた?」2号は猫のように颯斗の上に這い寄ってきた。「早く起きて、哲のところへ連れてってよ」「頭おかしいんじゃないのか!」颯斗は枕元のスマホに目をやった。「まだ六時だぞ!」そう言い捨てると、2号を突き飛ばし、布団を被って背を向け、再び眠りにつこうとした。ところが2号は両手で颯斗の顔を押さえ、無理やり自分の方を向かせた。「寝るな!」「わ、わかった、首を捻るな!首が折れる!」「一日は二十四時間しかないのに、もう四分の一が過ぎたんだぞ」と、2号は大真面目な顔で言った。「それがどうした?まだ朝の六時だぞ、勘弁してくれよ。それに今日は週末だ、お前の哲だって休みたいに決まってるだろ」「哲は早寝早起きだから、六時にはもう起きてる。お前みたいに、日が昇りきってもまだグースカ寝てるような人間とは違うんだ」「この時間に太陽なんてあるかよ……おい!何するんだ!」颯斗が相変わらず布団から出ようとしないのを見て、2号は作戦を変え、飛びかかって布団の奪い合いを始めた。颯斗が死に物狂いで布団を抱え込んでいるのを見て、2号は思い切り布団を掴んで勢いよくめくった――
それだけならまだしも、2号はなかなかに気難しかった。例えばある日の食事時、颯斗が料理を作り終えて2号を呼びに行ったところ、2号は二階で哲と電話で盛り上がっており、颯斗が三度催促しても一切反応がなかった。一時間が経過し、料理がすっかり冷え切ってから、2号はようやく気だるそうに階段を降りてきて、食卓についたのだった。それなのに、2号はあれこれと文句をつけ、ピーマンが多すぎるだの、お味噌汁の味が薄すぎるだのと文句ばかり言った。颯斗はどうしても我慢できず、思わず言い返した。「もしこれを哲が作ったって言われたら、たとえクソみたいな味でも、お前は皿まで舐め回すんじゃないか」2号は途端に顔をしかめ、箸を置いた。「あんたこそクソだよ。哲は料理できるんだから」颯斗は少し信じられない様子だった。「でも、この前あいつは料理しないって言ってたぞ」「他にも作れる人がいたから、面倒くさかっただけでしょ」それを聞いて、颯斗はふと引っかかりを覚えた。「待てよ。その口ぶりだと、もしかして哲に作ってもらったことがあるのか?」2号が頷くのを見て、颯斗はさらに尋ねた。「いつの話だ?」「研究所にいた頃」2号は淡々と答えた。研究所、という言葉を聞いた瞬間、颯斗の脳裏にふと風が吹き抜け、立ち込めていた深い霧の端がほんの少し晴れて、誰も知らない過去がかすかに垣間見えたような気がした。練と哲は、一体どうやって知り合ったのか?二人はど
どうやら練は性格が急変しただけでなく、一部の本能的な部分まで以前とは変わってしまったようだ。かつての練は、重度の猫好きとまではいかずとも、猫に対してこれほど強い拒絶反応を示すことは決してなかった。「怖くない、大丈夫だからな!」颯斗は慌ててフロイトを抱き上げ、毛並みを撫でながらベランダへと連れて行き、落ち着かせるために猫缶を開けてやった。そしてベランダの引き戸を閉め、一人と一匹を隔離した。「よし、猫はあっちに隔離したぞ。あれ?どこ行った?」振り返ると、練の姿はすでになかった。リビングを見回しても見当たらないため、颯斗は仕方なく二階へと視線を向けた。すると、階段の踊り場の陰から、練が恐る恐る顔を覗かせ、警戒心むき出しでこちらを観察していた。なんだか小動物みたいだな。それも外から拾ってきたばかりの、警戒心が異常に強くて、少しでも近づこうものならシャーッと威嚇してくる野良猫そっくりだ。「上にある少し広い方がお前の部屋だ。疲れたなら、そこで……」颯斗が階段を上ろうとしたのを見て、練はすかさず大声で制止した。「来ないで!一人が好きなんだ」(ふざけるな!さっきは哲にべったりくっついてたくせに!)そうツッコミを入れたかったが、今の練は以前の練ではない。怒ったところでどうにもならないため、颯斗はこみ上げる怒りをぐっと飲み込んだ。「一人が好き?じゃあ哲はどうなんだ?」「哲は例外」颯斗は鼻であしらわれた気分だったが、怒りを爆発させるわけにもいかず、不機嫌さを押し殺して答えた。
「あるけど、それがどうした?」颯斗はきょとんとした。「入ったことがあるなら、彼の心界に何があるか知っているだろう」「四つの扉があって、そのうちの一つは教会に繋がっていた。俺もそこに入って、中であんたを見つけたよ」「そうか?それは光栄だね」哲は特に驚いた様子もなく、微かに微笑んだ。「残りの三つの扉については、中に入ったことがないから、何があるかは俺も知らない」颯斗は彼のその飄々とした笑みに苛立ちを覚えたが、突っかかるのも面倒でそのまま話を続けた。「俺の推測が正しければ、レンの意識はおそらく心界の中、つまりあの三つの扉のいずれかに迷い込んでしまっている」哲の言葉を聞き、颯斗はまるで藁にもすがる思いで、パッと表情を明るくした。「じゃあ、練はまだ助かるんだな?心界に入って、元の意識を見つけ出せば……」「そう簡単に考えないことだ。何しろ今の君にはSPがないんだから、一人で行けば十中八九、生きては戻れないだろう。ただし、俺たちが手を組めば話は別だが……」ここまで言うと、哲はふいに声を潜めた。「手を組む?俺とあんたが?」颯斗は虚を突かれた。「そうだ。一緒にレンの心界へ入るんだ」哲は颯斗の目をじっと見据えた。颯斗は哲の顔を見つめたまま、長い沈黙に陥った。口から出まかせばかり言うこの男が果たして敵か味方かという問題はさておき、颯斗はいまだに哲が何を企んでいるのか全く読めずにいた。この男の口から出た言葉は、どうしても信憑性に欠ける気がしてならない。もしかすると、相手はと