LOGIN美容師の來 人気モデルの也夜 この二人は晴れの日を迎える前に也夜の事故で叶わなかった。 そこから堕落していく來。 也夜の家族からも別れて欲しいとも言われ最愛の人を忘れるためにも他の人に抱かれ仕事に集中していく日々。 やがて也夜を忘れていく中、來の独立を手助けしたい人がいると……。 そこから來は順風満帆かと思いきや、也夜が目を覚ましてしまった……。
View More來《らい》は、この日こそが自分にとって最大の幸せな日になると、ずっと信じていた。
生まれてから今日まで、生きづらさを抱えてきた。 けれど、彼に出会って光が差した。 「生きてみよう」と思えたのも、その人がいたからだった。 カレンダーには赤い丸をつけ、指折り数えて待った日。 「来月だね」「来週だね」「いよいよ明日だね」 互いにそう言い合い、胸を高鳴らせていた。 なのに。 その日を共に迎えるはずだった相手は、今、ベッドの上で静かに横たわっている。 「どうして……」 呟いても、答えは返らない。 願っても、時は戻らない。 ただ、來の胸にあるのは、どうしようもない現実を前にした痛みだけだった。 二人が結婚式を迎える日の前日。 明日の予報は晴れ。雨男な也夜はずっと心配していたのだが明日の予報を確認してホッとしているようだ。 「てるてる坊主吊るそうと思ったけど大丈夫みたいだね」 「子供みたいなことしないでよ、來。きっと来てくれる人の何人かが晴れ男かもしれない」 「なるほど。晴れ男VS雨男、比率が晴れ男の方が多かった……すごいことだ」 と二人笑い合う。出席者はほとんど男ばかりだ。 同性婚、仲間内の結婚式というものもあってのことだが互いの親戚は報告のみ、両親は顔合わせという食事会のみで終わった。 まだ食事会まで辿り着けただけでも良い方だと來は思っている。 その時以来、両親、兄とは会ってもいないし話もしていない。 來と也夜は挙式会場に行っていた。駅から近い式場でまだ真新しい建物である。 式の前には前撮りも同じ建物の中で済ませたが本当は市内の寺の中庭でする予定が案の定也夜の雨男っぷりが発動してしまったようだ、せっかくいいロケーションなのだが大雨で急遽式場内での撮影になった。 だがそれはそれで様になった、それもこれも也夜は人気モデルというのもあったのだろう。 背も180を超え、顔はもちろん手足も長くバランス良い。來も180以上、手足も長いが少し痩せ気味なところもあり也夜の横に立つと少し劣る、と感じる。 也夜は王子様タイプだと言われているが見た目は確かにそうである。 しかし來はそうでない、一緒にいるからわかることだ。 見た目の王子様な也夜は普段は天然で少しおっちょこちょいでビビり。女性との交際経験がなく、少し苦手。気取ってるのはそれらを隠すため。 也夜は気を許した相手、そう來には見せる姿。それを知ってるからこそ、そのギャップにも惹かれてしまうのだ。 でもやはり見た目のオーラもただものでもない、さらに被写体になっても際立つ。 來はそんな也夜が羨ましく、でも愛おしい。もう誰にも渡したくない、離れたくない……それを確約できるのはついに明日だと。 「では、この通りで……明日が楽しみです」 「はい、僕らも楽しみです」 式の最終確認をしてプランナーの女性からも楽しみにしていますと言われ気持ちが昂る。 プランナーだけでなく式場も同性婚の結婚にも理解があり、上っ面なものでなく真摯に全力でさまざまな提案をしてもらい実現に至った。 2人はセッティングされた式場、装飾を前に胸がいっぱいになる。そこまでお金もかけたくはなかったが也夜の家族が出席できない代わりにと今までお世話になった人、これからお世話になる人に向け、そして自分の息子のためにと装飾や食事やおもてなしのためにとお金を出してくれたようだ。 2人の周りの人たちも温かった。友人も職場の人たちも。 だからこそこの幸せで晴れの日を迎える準備が出来たのだ。 日本では残念ながら同性同士の結婚、入籍は出来ないのだがパートナーシップ協定というものが制定されている地域では同性同士パートナーとして一緒になることはできる。 今まで住んでいる場所ではそれはできなかった。わざわざ制定されている隣の市だが引っ越しをして2人は結婚を決めた。 知らない街で、職場からも少し遠くはなったのだが2人でなら大丈夫。そう思っていた。 引っ越しも終えている。駅近のマンション。也夜の親戚のマンションで少し値下げしてもらえた。お祝いもあるだろうが也夜は今後海外にも仕事を増やして仕事も増えるだろうし、來も今は本人はその気はさらさらないのだが美容師として今後独立もするだろうという試算も考えれば大丈夫だろう、若い二人だが入居できたのも周りからの支援もあってのことだ。 にしてもとんだ博打でもあるが、なんとかなるなる、と也夜はビビリな割には変なところでポジティブになるから年下の來からしたらそこがちょっと心配なのだが大丈夫か、とようやく思えるようになったのはついここ最近であることは内緒である。 明日、式を終えて役所に行ってそのあと本格的に住み始める。二人で暮らす分には充分である。 特に子どもを持つわけでもない、男二人暮らし。也夜も來も仕事はそこそこある。 それに今までも互いの部屋を行ったり来たりしていた。泊まりも何日かしていたこともあり互いの性格や生活様式もわかっている。 そこまで広くないから掃除もそこまで苦労しないだろうし料理も互いにそこそこできるからとキッチンも重視したおかげで広めのキッチン、これから料理が楽しみである。 いや、もちろんすべてのことが。來はもう幸せに満ち溢れていた。「元気ないな、來」「そんなことないよ」 シャワーを浴びて戻ってきた分二が、濡れた髪をわざとらしく來のほうへ向ける。 乾かして、という無言の甘えである。「美園ちゃんがまさか結婚かぁ。それに仕事も辞めちゃうって……いい人材失ってしまったなぁ」「だね……」 來がドライヤーを手にすると、分二は鏡越しにじっと彼を見つめた。「まさかぁ、美園ちゃんが辞めることで元気ないとか」「……それもある」「こないださ、スタッフが言ってた。美園ちゃんと休憩一緒になったら、彼女すごく泣いてたって」 來は苦笑して、分二の頭をわしゃわしゃ掻いた。「宥めるの大変だったってさ。來が何か言ったんじゃないかって話してたぞ」「特に僕は何も言ってないよ」「でもその後、お前も目を真っ赤にして出てきたって聞いた」「……」「美園ちゃん、綺麗な子だもんな。もしかして……結婚することがショックだったか」「……ショックというか、その……」「僕という相手がいるのに、美園ちゃんが結婚したことにショック受けるってのはさ……」 來の手がぴたりと止まった。「違うっ……ただ、その……」「その?」 分二はゆっくりと來の手を握る。 大きくて温かいその手は、逃げ道を塞ぐようでもあり、支えてくれているようでもあった。「お前も男だな……リカちゃんのときもそうだった」「だから違うって」「リカちゃんと美園ちゃん、タイプ全然違うのに……」「だから……!」 來は珍しく声を荒げた。 分二は、くつくつと喉で笑った。「冗談だよ。……まぁ、美園ちゃんがお前に好意抱いてるのは知ってたし」「……」「で、知っちゃったんだろ? それを。……悲しかったねぇ」 その一言で、來は息が詰まった。 分二の声は、責めるでもなく、ひやかすでもなく、ただ優しくて。 図星を刺されただけなのに、胸の奥がじんと熱くなった。 分二に頭を撫でられ、來はわずかに肩をすくめた。「もし知ってたら……どうしてたのかな。美園ちゃんと付き合ってた? 也夜のDNAも持ってるし、子供を望まれたら……來、君なら応えてあげたんじゃない?」「……分二!」「あの子、外はしっかりしてるけど心は弱い。守ってあげたくなるタイプだ」「分二、美園ちゃんに何を……」「変なこと言うなよ。僕は何もしてない。ああいうツンとした子、僕ちょっと苦手だからさ。
美園が辞表を差し出してきたのは、それから半月ほど経った頃だった。 ちょうど分二が「そろそろ一人か二人、美容師を増やしてもいいんじゃないか」と話していた矢先のことだ。 來は一瞬、手元の辞表が冗談か何かに見えたほどだった。「どうして……」「……じつはね」 美園は視線を少しだけ伏せる。 そういえば以前、急に三日ほど休みたいと言ったことがあった。体調を崩した様子もなく、也夜の見舞いも仕事終わりや休みのタイミングを選んで行っていた彼女だからこそ……今回の突然の辞意は、來にとって衝撃だった。 自分が何かしてしまったのだろうか。 それとも、他のスタッフとの間で何かあったのか。 だが美園の仕事ぶりはいつも通りテキパキして、不仲など聞いたことがない。 思い当たることは一つ。 也夜のことだ。それしか……。「もしかして……也夜のことか」「いいえ」 即答だった。その声に迷いはなく、來は胸を撫で下ろす。「何ホッとしてるのよ。で、お兄ちゃんにはいつ会うの?」 突然の話題転換に來は言葉をつまらせた。「……また会いたいけど……もう会えるの?」「そうね、もうそろそろかなって言ってたけど。……でも分二さんとは、別れる気はなさそうね」「……それが店を辞める理由と関係するのかい?」 美園はゆっくりと首を横に振った。 否定の動きは強いのに、その表情には、言えない何かを抱えているようなもどかしさが滲んでいる。「そうよね、別れないよね……」 美園は自分に言い聞かせるように呟いた。 來は返す言葉を探せず、ただ黙る。「別れちゃったら、この店……潰れるよね」「潰れるというか……なんというか」 はっきり否定も肯定もできない。 部屋の空気は、どちらが動いても崩れてしまいそうなほど気まずかった。「だよね……だよね」「也夜にはなんて伝えれば」「いや、それもあるけどさ」 美園が來を見た。 その目は、いつもよりずっと弱くて、悲しげで……來には理由が分からないまま胸がざわつく。「前、お休みもらったじゃない。三日くらい」「……そうだね。也夜のことかなって思ってた」「そうだと思ってたのね。違うのよ」「なんだったんだ?」「……お見合いだったの」 來が言葉を返す前に、美園は続けた。「お兄ちゃんが事故に遭う前にも、一度お会いしてたの。しばらく連絡は取ってなか
分二の告白があっても、來との関係に劇的な変化はなかった。 身体を重ねる頻度も、どこかいつも通り……いや、むしろ増していた。 性欲の強い分二の愛情表現は、來から見るとどこか“異常”と言えるほど執拗だった。 來にとって理想だったのは、也夜のときのように、互いを触れ合うだけでじゅうぶんに満たされる関係だった。 インサートを避け、それでも寄り添うことで得られる温度のほうが心地よかった。 だが分二にとっては、それでは足りない。 也夜が目を覚ましてからというもの、彼の欲求は露骨に強くなった。 まるで……來を自分の色に染め、二度と離れられないように刻みつけようとしているかのように。 分二は來を激しく求め、來もまた、応えるように身を預けていた。 親に愛されなかった來には、たとえ苦しい行為でも、愛されることで埋まる穴があったのかもしれない。 しかし、こんな生活が続くはずがないことは、來も薄々気づいていた。 選択の時は刻一刻と近づいている。 美園が自身の店に勤めている以上、也夜との縁は切れない。 それに也夜の目覚めは、彼を信じて待っていた多くの人々にとって朗報であり、再会と未来の再構築を期待する声すらあった。「來と也夜は、また結婚するのでは」 そんな噂が一部のファンや関係者の間で囁かれ始めていた。 來が分二と交際し、結婚手前まで来ていることは、ほとんど知られていない。 知られないままでよかった……もし知られれば、真っ先に也夜の耳へ届くだろう。 それだけは避けたかった。 だが現実には、來は分二のプロポーズを受け、結婚目前という事実がある。 これが公になればどうなるのか。 あの「リカとの関係」でさえ噂が流れたように、何がどう広がるかわからない世界だ。 重大な選択が迫っているというのに、來はそれを直視しようとしなかった。 むしろ分二の腕の中に逃げ込むように、快楽と熱に溺れた。 このまま世界が破滅すればいい。 ……でも、也夜のことが好きだ。 矛盾が胸の中で軋み続ける。 もし也夜の元へ戻ると決めれば、來の店を後押ししてくれた分二は離れるだろう。 経営はどうなるのか……想像しただけで冷たい汗が滲む。 けれど分二には、忘れてはならない事実がある。 結婚式前に也夜を呼び出し、その帰り道で事故に遭わせ、二年も眠らせてしまった……そんな負い目
真実が判明してからも、來と分二の生活は変わらなかった。來はいつものように店を開き、分二は自分の美容室の経営に加えて他店の管理にも追われている。 どこを切り取っても“いつも通り”。 ただひとつ……也夜が目を覚ましたという事実だけが、二人の静かな日常の上に新しく重ねられた。 美園は変わらず職場で働いているが、主治医の判断でまだ家族以外の立ち会いは禁止のままだ。「私もだけど、父も母もね……正直、戸惑ってるのよ。もう目を覚まさないかもしれないって覚悟してたから」 その言葉は、來には意外だった。「生きていてくれたのは、本当に嬉しいのよ。だけど……」「もちろんだよ。それは、わかる」 美園はそこで來をじっと見つめた。 眼差しは優しいのに、どこか探るようでもある。「……來も戸惑ってるよね」「……」「お兄ちゃん……來のこと、話してるみたい。事故から二年経ったことも、少しずつ受け入れているみたいで……」 それ以上は話すつもりがないのか、美園は口を閉ざした。 來は胸の奥がきゅっと縮むのを感じる。 “会いたい” でも、“会えない”。 意識を取り戻した也夜がすぐそこにいる。 けれど、自分は家族ではない。その一点で、病室の扉は固く閉ざされたままだ。 やっぱり、永遠に越えられない壁なのか。 來は俯き、指先に力が入った。「他には?」「他に……?」「……誰と会う予定だったとか」 美園は短く息を飲み、視線を落とした。 そして、ゆっくりと首を横に振る。「お兄ちゃん、誰に会おうとしてたんだろうね。その人に会おうとしなかったら……なんて考えちゃう」「それは……知ったところでどうにもならないよ。彼が轢いたわけじゃない。あくまで事故だよ」 來は知っている。 也夜が最後に会おうとしていた相手が、元恋人である分二だったことを。 だが、詮索しても仕方がない。だから、最後にそう付け加えた。「轢いた人だって、ちゃんと罪を償ってるし……」「……かといって、その“会おうとした人”は謝罪も何もしてないんですけど」「……そうだよな」 分二のことだ。 彼は何度も「すぐにでも病院へ行きたかった」と來に話していた。 けれど、行けなかった。 もしあの時病院に駆けつけていたら—— 也夜と交際していた事実を唯一知っていた事務所の社長に気づかれてしまうかもしれない