──この愛が、いつか色褪せるものなのだとしたら。
その時は、僕の心全てが消えてなくなればいい。 どうか君が消してくれ。君の手で、僕を変えた君の手で。 * * * 「……信じられない」 ぽつりと、将志が呟いた。 それは断罪かと、翼が覚悟する。 「信じられない。……あんなにひどい事をした君が、心に住んでて……僕はそれを憎めないんだ」 将志が続けた言葉は、翼にとって、にわかには信じられない言葉だった。 「僕は──何で君をこんなに好きなんだろう?」 「──将志さん、それは……」 将志がはっと顔を上げて翼を見つめる。ひどい顔をして、美しく澄んだ瞳で。 「こんなのが愛なのか?自分じゃ消せない気持ちが溢れてとまらないのが愛っていうのか?」 翼は、将志の震える声ごと抱きしめたい衝動に駆られた。力いっぱい抱きしめて、唇から漏れるもの全てを吸い取りたい。 「将志さん、すみません。……愛してます」 「……知らなかった。こんな、どろどろに汚れて壊される愛なんて。君のせいだ……」 「すみません。それでも将志さんへの心を偽れません」 「──君が僕をこうしたのなら、責任をとってくれないか」 将志の瞳は熱に浮かされたように潤んでいた。心の底から沸き上がる熱が、将志をそうさせた。 「君は僕だけが動かせる。そうだろ?」 それは、取り結んだ関係。いつしか変化した二人の間でも、形を変えて定まっている事実。 「僕を最後まで愛して、何もかもが終わる時まで離れないでくれ」 「……将志さんは、それを望んでますか?本当に?」 「の、望んでる。……信じられないくらいに、君がいなくなる未来が怖い」 もう駄目だった。翼は腕を伸ばして将志を抱き寄せる。将志のうなじに顔をうずめて、石鹸と肌の匂いが混ざる将志だけの匂いに酔った。 「……俺はあなたを愛します。俺の一番は、いつだって将志さんなんです。いつの間にか、何より誰より一番になってました。……好きです、世界で一等好きです」 「し、……信じていいんだな?」 「信じて下さい。将志さんの心に巣食った俺は、将志さんを裏切りません」 こくり、と小さく将志が頷いた。同時に、息を呑む音がした。 「……キスしても、いいですか?」 翼が顔を上げて真っ向からねだる。将志の頬が真っ赤に染まった。純愛小説家の葉弥将志はとにかく困っていた。一日中パソコンに向かっているからか、首も肩も背中も腰も凝っていてバキバキするし痛い。「今回は……これかな……」フリマアプリで検索した安眠枕を購入する。これで何個目だろう。すっかり安眠枕ジプシーだ。良さそうなものはたくさんあるけれど、あまりお高いものは失敗した時に後悔しそうで購入出来ない。必然的にお手頃価格の枕ばかりを購入するが、すぐにへたれてしまう。「もう、思いきって高いの買った方が特なのかな」けれど勇気が出ない。合わなかったら無駄になる。「……とりあえず銭湯行こうかな……」行きつけの銭湯にはマッサージチェアが置いてある。昔のマッサージチェアがどんな物だったか知らないが、何やらタイムマシンのようにゴツい代物だ。将志はそのマッサージチェアのリピーターだった。しかし、問題もある。──近所の銭湯で置いてるマッサージチェア、あれ気持ちいいけど力加減が設定出来ないからかな、終わった後は体のあちこちが痛むんだよなあ。一回三百円で十五分、値段を思えば十五分の間の極楽分は仕事をしてくれている。──そもそも、僕の体にマッサージチェアが合ってないのかも。ぶっちゃけ、標準より筋肉も脂肪もない。ああいう物は人並みな人間を基準にしているかもしれない。かといって、マッサージサロンには行きづらい。将志とて、行った事はある。しかし、その時はスタッフが終始「固い」「ツボに指が入らない」と言われ続けて──それでも気持ちよかったのでまた行ったら、後輩らしきスタッフに回された。その時は、さすっているのか揉んでいるのか分からないような、少しの気持ちよさもない施術で懲りた。「何か良い方法はないかなあ……」呟きながら、スマホのマンガアプリを開く。息抜きになるので、毎日必ず何かしら読んでいる。小説家ならば読むべきは小説だろうが、メンタルが弱いのか、影響を受けやすいから、気になるジャンルの作家が書いた小説もなかなか読めないのだ。──それにしても、最近はマンガアプリに闇がちらつく……。ここのところ、よく見かける女性用風俗ネタは女性がセラピストに入れ込んで泥沼になるものばかりだ。──でも、これ、マッサージから施術を始めるみたいなんだよな。そこは大変魅力的だ。──それなら高いお金を払うんだし、マッサージだけお願いしても許さ
──この愛が、いつか色褪せるものなのだとしたら。その時は、僕の心全てが消えてなくなればいい。どうか君が消してくれ。君の手で、僕を変えた君の手で。* * *「……信じられない」ぽつりと、将志が呟いた。それは断罪かと、翼が覚悟する。「信じられない。……あんなにひどい事をした君が、心に住んでて……僕はそれを憎めないんだ」将志が続けた言葉は、翼にとって、にわかには信じられない言葉だった。「僕は──何で君をこんなに好きなんだろう?」「──将志さん、それは……」将志がはっと顔を上げて翼を見つめる。ひどい顔をして、美しく澄んだ瞳で。「こんなのが愛なのか?自分じゃ消せない気持ちが溢れてとまらないのが愛っていうのか?」翼は、将志の震える声ごと抱きしめたい衝動に駆られた。力いっぱい抱きしめて、唇から漏れるもの全てを吸い取りたい。「将志さん、すみません。……愛してます」「……知らなかった。こんな、どろどろに汚れて壊される愛なんて。君のせいだ……」「すみません。それでも将志さんへの心を偽れません」「──君が僕をこうしたのなら、責任をとってくれないか」将志の瞳は熱に浮かされたように潤んでいた。心の底から沸き上がる熱が、将志をそうさせた。「君は僕だけが動かせる。そうだろ?」それは、取り結んだ関係。いつしか変化した二人の間でも、形を変えて定まっている事実。「僕を最後まで愛して、何もかもが終わる時まで離れないでくれ」「……将志さんは、それを望んでますか?本当に?」「の、望んでる。……信じられないくらいに、君がいなくなる未来が怖い」もう駄目だった。翼は腕を伸ばして将志を抱き寄せる。将志のうなじに顔をうずめて、石鹸と肌の匂いが混ざる将志だけの匂いに酔った。「……俺はあなたを愛します。俺の一番は、いつだって将志さんなんです。いつの間にか、何より誰より一番になってました。……好きです、世界で一等好きです」「し、……信じていいんだな?」「信じて下さい。将志さんの心に巣食った俺は、将志さんを裏切りません」こくり、と小さく将志が頷いた。同時に、息を呑む音がした。「……キスしても、いいですか?」翼が顔を上げて真っ向からねだる。将志の頬が真っ赤に染まった。