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城間ようこ
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Romans de 城間ようこ

祈りは斬鬼の果てに実を結ぶ

祈りは斬鬼の果てに実を結ぶ

「血に飢えた狼の元で生きるしかない」 ふと気づくと、そこはプレイしていた乙女ゲームの世界だった。 しかもエンディングのシーンに居合わせてしまう。 その時、自分は断罪された後の悪役令嬢に成り代わってしまっているとも知り……。 ゲームのエンディングの後の世界で、当然先の事など何も見えないなか、恐ろしい辺境伯の妻として、十七歳の乙女として生きてゆく事になる。 ゲームの最後に笑っていたヒロインは、その後どうなるのか? 断罪され嫁がされた悪役令嬢の自分に待ち構えているものは何なのか? 人生のどん底から構築してゆく夫婦の絆。
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Chapter: 第24話 廃されるものと救われるもの
──懐妊が分かって数日。流産を狙われそうだと、粗末な食事さえも口にする事を控えながら耐えていたけれど。ある日の朝食で、大きな変化に私は驚きを隠せなかった。香ばしい匂いがする柔らかい焼きたてのパン、湯気をたてる具のたくさん入ったスープ、ソーセージと玉子料理、温野菜のサラダにカットした果物までついている。「これは……一体どういう事なのかしら?」運んできたメイドも、見慣れた無機質な人ではない。彼女は微笑んでから、声をひそめて答えた。「国王陛下と王妃殿下の計らいでございます。毒味も済んでおりますので、ご安心下さいませ」「国王夫妻の……?」「はい。これまでは、王太子夫妻の手筈で供されていたのですが……厨房には、罪人に施す食事だと仰せになられていたのです。それをお知りになられました国王陛下が……」つまり、これまでは王太子夫妻の独断専行で私を虐げていたのね。国王陛下も同意の上だとばかり思っていたけれど。「お部屋も陽当たりの良い客室に移って頂きますわ、何しろ辺境伯夫人はお子を宿した大事な時でございますから」「……それは助かるのだけれど、王太子夫妻は許すのかしら?」「──辺境伯夫人、これは王命でございますので、王太子殿下でも覆す事は出来かねますのよ」「王命……わざわざ手を差し伸べて下さったのね」「はい、さようでございます。この扱いをお知りになられた陛下のお怒りは、相当なものでございましたので。厳しい叱責を受けた王太子殿下と妃殿下には、近いうちに何らかの処罰がなされるかと」「そう……分かったわ、ありがとう」食事に使われている食器も銀食器に変わっていて、色は磨かれて輝き、変色は見受けられない。あまりにも扱いが急変した事で戸惑いはあるものの、今は冷めないうちに頂くべきだと思う事にした。「では、頂くわね」「はい、どうぞお召し上がりくださいませ」そっとスープを口にする。滋味に満ちていて美味しい。温かさに、ほっと息を
Dernière mise à jour: 2025-10-25
Chapter: 第23話 格子窓の向こうのものに
……人はなぜ、希望と絶望をもって生きるのか?それらの根源はどこにあるのか?きっと、それらは同じところから生まれているのよ。──人が人として生きていることから生まれるものなの。人は生きていれば望みを持ち、時に期待は裏切られ、失意に陥る。それでも生きている限り、人は希望を捨てきれない。生きる望みだから。光と影よ。希望を持てば、影には絶望が潜んでいる。失望と諦念を繰り返し、人は何かを得たり失ったりしても、生きることが性根にあるから再び立ち上がり歩み出す。生きていれば、失ったものを繰り返し思い出して胸を痛めはする。けれど、得たものを繰り返し反芻して味わい心を癒すもの。そうやって生きてゆき、最期に、「悪くはない人生だった」と思えるように足掻くのよ。その最期は、生きることを頑張った人間への最後のご褒美なの。誰だって、悔やみながら命を終えたくはないから、だから自分の人生を生きるのよ──。私は、孤独な王宮での生活で、そう自分に言い聞かせて励ましていた。グルーからの愛情を信じているから。──そして、私が王宮に滞在……軟禁されている間にも、グルーは国王陛下に「我が妻の返還を」と嘆願し続けていた。国王陛下も度重なれば黙ってはいられない。王太子殿下を呼び出して注意する。「ハイラアット辺境伯から、再三の書簡が来ている。妻を返すようにと。──ハイラアット辺境伯夫人は、既に純潔を失い、今現在辺境伯の子を身ごもっている可能性があると。そのような女性に執着する事は王太子としての資質を問われると知りなさい」国王陛下が苦言を呈すれば、皇后陛下も口を揃える。「元はと言えば、王太子妃の悋気と我がままであろう?お前は夫として、妻の事も治められはしないのか?既婚女性を側妃になどと、王室の品格が損なわれるものだというのに、なにゆえ妻の勝手を許している?」「……申し訳ございません……」両親であり、国の頂点に立つ国王陛下と皇后陛下には、王太子殿下も頭を下げるしかない。それを、王太子殿下は快く思わない。執務室に戻ると、不快をあらわにしてグルーを目の仇にし、暴虐な思考に走った。「グルー……あやつは捕縛して亡き者にせよ。亡骸は燃え盛る炎に投じて、残された遺骨は粉々に砕け。そうして、アリューシャの目の前で撒き散らせ。さすれば彼女も己の身の上の儚さを思い知るだろう」王太子殿下は、目を禍
Dernière mise à jour: 2025-10-22
Chapter: 第22話 王宮と鬼女の支配
──それから十日以上を費やして、必要最低限が保証されただけの、快適さとは無縁な馬車の旅も終わりとなり、私は望まぬ王宮に入って居室を与えられた。そこは日当たりも悪く、調度品も生活に必要な物だけが置かれた貧相な部屋だった。入浴するにもお湯はぬるくて少なく、髪も肌もよく洗ってはもらえない。運ばれてくる食事も質素というより、王宮の料理人が作ったとは思えないくらいお粗末なもので、到底側妃候補として遇されているとは言えなかった。しかも、自由に部屋を出る事は許されない。まるで独房に閉じ込められて、処罰を待つ罪人かとも思えた。けれど、例外としてエスター様のお呼びがあれば、部屋を出て出向く事になる。妃殿下の命令みたいなものだから、私が部屋にこもっていたくとも拒否権はない。「──よく来たわね、ガネーシャ」「王太子妃殿下にご挨拶申し上げます……」エスター様は、よく通る声で鷹揚に居丈高に話しかけてきて──うるさくて耳が痛くなる。それを堪えながら、久しぶりに見るエスター様の姿に驚いた。──これ……エスター様は生地をことさらたっぷり使って、体型が分かりにくくなるようなデザインのドレスを着ているけれど……体を隠してごまかしても、肉付きで丸くなった顔や、たるんだ顎までは、髪を結い上げずに垂らしても隠しきれていない。グルーの助言は無駄に終わったようね。明らかに暴飲暴食を日常的に繰り返して太っている。あまりにも変貌が激しくて、本当にゲームではヒロインだったのか、それすら信じがたくなった。愛くるしい顔だったはずのエスター様は目つきも荒んで、まるで蛇のように鋭くぎらついている。元より立場として許しなく話せはしないのだけれど、それでも私はエスター様の姿に言葉を失った。それをどう思ったのか、萎縮している敗北令嬢とでも見ているのか、小気味が良さそうに言葉を繰り出す。「──明日は令嬢達を集めてお茶会を開くの。あなたも出なさい。皆に紹介してあげるわ」「……ありがたく存じます……ですが、私は……」「辺境伯はお茶会に着るドレスも買ってはくれなかったの?可哀想にね。皆も理解してくれるわ、見苦しくない程度には装えるでしょう?いいわね?」「……かしこまりました。お誘いに感謝申し上げます」紹介も何も、私とて王都にいた貴族令嬢なのだから、社交の場にも顔を出していた。むしろ、私を知らない令
Dernière mise à jour: 2025-10-20
Chapter: 第21話 招かれざる客、そして愛
それから、何事もなく過ごせるようになると信じていた。──けれど、それは来訪者によって打ち砕かれた。辺境伯領を訪れたのは、王宮からの使者どころではなく……王宮にいるべき王太子殿下だったのだ。それも、私を王宮に差し出せと、それだけを命じる為に。本来ならば、たった一人の女の為に、王太子殿下が遠く離れた辺境伯領まで来るだなんてありえない。殿下は、そこまでエスター様の事を重んじておられるのか?それとも──いえ、これは考えたくもない。どちらにせよ、王太子殿下を城内に入れない訳にはいかない。貴賓の為の応接間にお通しして、グルーが応対する事になった。殿下は簡潔に、そして傲慢に迫った。「アリューシャを側妃として王宮に入れる事に、同意するよう命じに来た」お断りの書簡には、グルーがはっきりと私は既に純潔を失っているゆえ、入宮させる事は叶わないと書いていたのに、まるで無視している。当然ながら、グルーが頷く事などなかった。「アリューシャは、我が妻は私の子を宿しているかもしれないのです。にもかかわらず王宮に入れるなど出来かねます」「かもしれない、という事は確定している訳でもないだろう。子を宿していないかもしれない事になる。──一か月だ。アリューシャには一か月王宮に滞在させる。その間に月のものが来たならば、子は宿していないのだから、側妃として入宮してもよかろう」この言い草。私はグルーの正式な妻である事を考慮出来ていないし、もはやエスター様への心か、それとも妄執かで動いているようにしか見えない。私が居合わせていたら、怖気に倒れていてもおかしくない程に狂気的だった。「なぜ王室の権威だけで物事を進めようとなされるのですか?アリューシャ本人の意思と、私達夫婦の婚姻の事実を無視なされておいでです」「──屁理屈を聞きに来たのではない。ここには二日滞在して、アリューシャを連れて行く。これは決定事項だと思え」それは横暴だと言ってしまえば、グルーは不敬に問われかねない。事実すら諌める事を許さないのが、王太子殿下とエスター様なのだから。重苦しい雰囲気が立ち込める城内に、こうして王太子殿下は居座った。私はというと、その日の夜グルーが部屋を訪ねて来て、王太子殿下からの話を聞かされた。「──私はグルーから離れる事など御免こうむります。まして魑魅魍魎の住まう今の王宮に向かうなど、考
Dernière mise à jour: 2025-10-18
Chapter: 第20話 異常な妄執
エスター様が御子を産んでから少しの時が経って、なぜか辺境伯家宛てに王家が書簡を送ってきた。その書簡を読んだグルーは、すぐに私を執務室に呼び出した。行ってみると、椅子に腰掛けて気難しげな険しい顔をしている。何か無理難題でも持ちかけられたのだろうか?「……王家からの書簡には、何と書かれていたのですか?」「どうやら、王太子妃殿下が大変な難産で女児をお産みになったそうだ」レモネードを口にしていたと王都では聞いたから、酸味を欲するなら男児で辛味を欲するなら女児という俗説の通りなら、男児かと思っていたけれど……悪阻があった間だけ酸味を好んでいたのかしら。「それは、母子共に無事でお産まれになったのでしたら、おめでたいと思いますが……」「問題はそこなんだ。どうも妃殿下は難産で体を弱くしてしまったらしい。二度と子供は望めない身になって……王太子殿下は殿下で、せめて夜を共にしようとしても、妃殿下に残った妊娠線を恐れて直視出来ずにいる、と」「妊娠線は、女性が身ごもった子を育んだ証ではないのですか?」「そうなんだがな……王太子殿下は世の中の綺麗なところばかりを見て育ったようだ」「わがままですわ、そんなの。ただの世間知らずではありませんか」「その通りだ。──しかし、現実問題として、妃殿下に世継ぎは出来なくなったし、王太子殿下と共寝も出来ずにいる」「それはお可哀想ですが……なぜ辺境伯家に書簡を?」「そこなんだ。どうやら俺はお前の夫というより保護者と見なしているとある」「……は?」「つまり、保護者として、お前を王太子殿下の側妃に差し出せと書いてあるんだ」「──身勝手にも程がございます」「俺もそう思う。第一、俺はお前の親代わりじゃない。手順を踏んで夫になった身だ」グルーははっきり断言してくれているけれど、もし強制的に王宮へ入れられたらと思うと、ぞっとする。王宮ではエスター様を妃殿下として崇拝する者も少なくないはず。そんな所に後釜として行けば、何をされるか分かったものではない。「私はグルーの妻です。王宮の問題は婚約者候補として敗北した過去がございますもの、既に無関係ですわ」「ああ。──念の為訊いておくが、王太子殿下に未練はないな?」「全くございません」言い切りながら、私をゲームのハッピーエンドを思い出していた。結婚式で祝福と幸せに包まれたエスター様
Dernière mise à jour: 2025-10-15
Chapter: 第19話 髪切りの鬼女
ある秋の日、グルーから執務室に呼ばれて相談を受けた。「調査を進めていたトリーティ山で、大規模な金鉱脈が発見されたんだが、お前はどうしたいか確かめたい」「私が、ですか?」「ああ、元はお前の持参した山だからな。山にも領民がいる事だし、民は神の黄金と崇めているしな」「そうですね……」私は考える素振りを見せたけれど、既に心は決まっている。「採掘に乗り出して下さい。山の民には安定した生活を保障して、守ってあげたいです」「分かった、そのようにしよう。領民の暮らしを守るのも貴族の務めだ」「辺境伯領には、金細工の工房も置きたいですね。腕のある職人を集められれば、特産にもなりますわ」「それはいいな、領民にも技術を磨かせれば、手に職を持てる。その分生活もしやすくなる」繊細な装飾品を作る技術を学ばせるには、長期的な計画が必要になるものの、手先の器用な人達だって領民の中にはいる。彼らの才能を活かせるようになる。「グルーは、今までお一人で領地の運営と国境の防衛を担われておいでだったのですよね?」「……そうだな、辺境伯家に仕えてくれている者達は頼もしいが、その彼らを守る事もまた、俺には大切な事だ」「全ての安寧と平和を願われてきたんですね」「アリューシャ……」「グルー、人は自分の人生という物語を各々が描きながら生きているものです。そこで人が何かを願い、それを叶える為に努力する時、そこには孤独が寄り添っております。──ですが、私達夫婦には孤独さえ分かち合う互いがおります事、忘れないで下さいね」「俺の妻は、日に日に逞しくなってゆくな。これ以上の力になる味方がいるか」グルーの眼差しが、あまりにも優しくて嬉しそうで、私はまだ大した事も出来ていないのに、そんなに幸せそうに言われたら彼を直視出来なくなる。「……私はグルーの、妻ですから。これから慌ただしさを増しますからね?お体は大事にしないといけませんよ?」グルーも私も、領地の運営は忙しくなるけれど、活気に溢れる事は喜ばしい。他にも、私の日々には楽しめる事が加わった。援軍を送ってくれた、マークシュタイン伯爵家のマリアナ夫人と、ホルストン子爵家のブランシュ夫人が、時おり辺境伯家を訪れて交流してくれるようになったのだ。彼女達は温和で話しやすく、また社交界の話にも通じていて、お茶会や会食の時は明るい話題を提供してくれて
Dernière mise à jour: 2025-10-15
翼君は僕だけのセラピスト!

翼君は僕だけのセラピスト!

葉弥将志はアラサーの売れっ子純愛小説家だが、職業病というべきか、首から腰までとにかく凝っている事で悩んでいた。 かといってマッサージサロンに行くのも躊躇われる。かつてマッサージサロンに行ったものの、凝りすぎていたためスタッフが苦労し、その姿に心苦しくなったのだ。 しかし凝りは辛い。そこで、息抜きのマンガアプリから女性用風俗のセラピストを見かけて、マッサージの施術から始まるサービスかと興味を持ってしまった。 そして男性なら力も強いし体力もあるのだからと、女性用風俗を検索して「翼」というセラピストを指名してしまう。 出逢った翼はサイトの一覧で見るより爽やかな印象で、何よりかっこよくて柔和な雰囲気だった。 将志は翼からマッサージを受けて、身も心も解れるのを感じる。 しかし、何度かリピートしてメッセージのやり取りもしている中で、翼が将志に驚くような「お願い」を持ちかけてきた。 「俺を買って下さい」──将志は翼と契約し、翼を助ける為に同居まで始める。 さすがは元人気セラピストなフェロモン盛り盛りの翼と、物慣れないで何かと胸が高鳴り慌てふためく将志の、二人が織り成す大人の凸凹純愛BL!
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Chapter: 初体験への挑戦、覚悟
純愛小説家の葉弥将志はとにかく困っていた。一日中パソコンに向かっているからか、首も肩も背中も腰も凝っていてバキバキするし痛い。「今回は……これかな……」フリマアプリで検索した安眠枕を購入する。これで何個目だろう。すっかり安眠枕ジプシーだ。良さそうなものはたくさんあるけれど、あまりお高いものは失敗した時に後悔しそうで購入出来ない。必然的にお手頃価格の枕ばかりを購入するが、すぐにへたれてしまう。「もう、思いきって高いの買った方が特なのかな」けれど勇気が出ない。合わなかったら無駄になる。「……とりあえず銭湯行こうかな……」行きつけの銭湯にはマッサージチェアが置いてある。昔のマッサージチェアがどんな物だったか知らないが、何やらタイムマシンのようにゴツい代物だ。将志はそのマッサージチェアのリピーターだった。しかし、問題もある。──近所の銭湯で置いてるマッサージチェア、あれ気持ちいいけど力加減が設定出来ないからかな、終わった後は体のあちこちが痛むんだよなあ。一回三百円で十五分、値段を思えば十五分の間の極楽分は仕事をしてくれている。──そもそも、僕の体にマッサージチェアが合ってないのかも。ぶっちゃけ、標準より筋肉も脂肪もない。ああいう物は人並みな人間を基準にしているかもしれない。かといって、マッサージサロンには行きづらい。将志とて、行った事はある。しかし、その時はスタッフが終始「固い」「ツボに指が入らない」と言われ続けて──それでも気持ちよかったのでまた行ったら、後輩らしきスタッフに回された。その時は、さすっているのか揉んでいるのか分からないような、少しの気持ちよさもない施術で懲りた。「何か良い方法はないかなあ……」呟きながら、スマホのマンガアプリを開く。息抜きになるので、毎日必ず何かしら読んでいる。小説家ならば読むべきは小説だろうが、メンタルが弱いのか、影響を受けやすいから、気になるジャンルの作家が書いた小説もなかなか読めないのだ。──それにしても、最近はマンガアプリに闇がちらつく……。ここのところ、よく見かける女性用風俗ネタは女性がセラピストに入れ込んで泥沼になるものばかりだ。──でも、これ、マッサージから施術を始めるみたいなんだよな。そこは大変魅力的だ。──それなら高いお金を払うんだし、マッサージだけお願いしても許さ
Dernière mise à jour: 2025-09-11
Chapter: プロローグ・どろどろに汚れるほどの愛
──この愛が、いつか色褪せるものなのだとしたら。その時は、僕の心全てが消えてなくなればいい。どうか君が消してくれ。君の手で、僕を変えた君の手で。* * *「……信じられない」ぽつりと、将志が呟いた。それは断罪かと、翼が覚悟する。「信じられない。……あんなにひどい事をした君が、心に住んでて……僕はそれを憎めないんだ」将志が続けた言葉は、翼にとって、にわかには信じられない言葉だった。「僕は──何で君をこんなに好きなんだろう?」「──将志さん、それは……」将志がはっと顔を上げて翼を見つめる。ひどい顔をして、美しく澄んだ瞳で。「こんなのが愛なのか?自分じゃ消せない気持ちが溢れてとまらないのが愛っていうのか?」翼は、将志の震える声ごと抱きしめたい衝動に駆られた。力いっぱい抱きしめて、唇から漏れるもの全てを吸い取りたい。「将志さん、すみません。……愛してます」「……知らなかった。こんな、どろどろに汚れて壊される愛なんて。君のせいだ……」「すみません。それでも将志さんへの心を偽れません」「──君が僕をこうしたのなら、責任をとってくれないか」将志の瞳は熱に浮かされたように潤んでいた。心の底から沸き上がる熱が、将志をそうさせた。「君は僕だけが動かせる。そうだろ?」それは、取り結んだ関係。いつしか変化した二人の間でも、形を変えて定まっている事実。「僕を最後まで愛して、何もかもが終わる時まで離れないでくれ」「……将志さんは、それを望んでますか?本当に?」「の、望んでる。……信じられないくらいに、君がいなくなる未来が怖い」もう駄目だった。翼は腕を伸ばして将志を抱き寄せる。将志のうなじに顔をうずめて、石鹸と肌の匂いが混ざる将志だけの匂いに酔った。「……俺はあなたを愛します。俺の一番は、いつだって将志さんなんです。いつの間にか、何より誰より一番になってました。……好きです、世界で一等好きです」「し、……信じていいんだな?」「信じて下さい。将志さんの心に巣食った俺は、将志さんを裏切りません」こくり、と小さく将志が頷いた。同時に、息を呑む音がした。「……キスしても、いいですか?」翼が顔を上げて真っ向からねだる。将志の頬が真っ赤に染まった。
Dernière mise à jour: 2025-09-11
たとえ母国が滅んでも〜神に寵愛されし乙女は神に背く〜

たとえ母国が滅んでも〜神に寵愛されし乙女は神に背く〜

「ただ愛した、祝福を受けられない世界で、それでも結ばれたいと願った」 アムース子爵家の長女だった母親は、ディマルテ男爵家の跡取りと婚約していたが、結婚を目前に控えていた中で不義の子を宿し、破談となり勘当された。 母親は不義の相手を隠していたが......産まれた子である娘のミモレヴィーテが、 皇家の血を受け継いだ者でしか顕現させられない力を発現させた事により、 侯爵家の後妻として娘と共に迎えられた。 聖女の魅了。妖精王さえも魅了する力を持ったミモレヴィーテは、聖女としての人生を歩み始め、働きを求められ、しかし聖女は子を孕み産むと聖神力を損ねるため結婚は許されない。 だが、ミモレヴィーテには運命に背く願いがあった。 背信、謀略、思惑、欲望、それらの渦巻く世界で翻弄されながらミモレヴィーテは……。
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Chapter: 第20話 変わるもの変わらない願い
双子に対するお父様の溺愛は半端なものではなかった。乳母の他に赤ちゃんに慣れた専属メイドを雇い入れ、本邸のお父様とお母さんの部屋の隣に赤ちゃん専用のお部屋まで整えさせた。名前はお父様が考え、男の子にはガレスと、女の子には二二アンと名づけられた。早産だったにもかかわらず二人の生育は順調で、お父様が喜ばれるのでお屋敷では使用人にさえ笑顔が増えた。ガネーシャ様もブリジット様も、私相手になら皮肉や嫌味も言えようが、まだ何も分からない非力な赤ちゃんには手の出しようもない。表向きには赤ちゃんを新たな弟妹として歓迎し、お父様の意向に従っていた。そこで溜まる鬱憤は私へと向かうのも仕方ないかもしれない。我が子を生んでくれたお母さんを、お父様が殊更大事にするようになった事も相まって、ガネーシャ様もブリジット様も私にちくちくと尖った言葉を放ってくるのがエスカレートしていた。しかし、お父様にとって私は利用価値ある、次の代の聖女候補として揺るがないものを持っている。それは、ある夜の晩餐でも明らかにされた。お父様が、回復してきたお母さんを交えて久しぶりに全員揃った晩餐で私に言ったのだ。「ミモレヴィーテ、当代の聖女様もお年を召してお力の衰えが見えてきた。お前を次の代の聖女として陛下もお認めの意向を示されておられる。そこで、貴族向けの新聞にお前が紹介される事となった。広く知れ渡る事になるのだから、心を新たに一層励みなさい」精霊達との得がたい契約を交わしているとはいえ、私は17歳のデビュタントもまだ先の、14歳にしかならない子供だ。それが、貴族に向けて──ひいては国に次の聖女として認識されるようになる?私は臆したが、聖女様からの教えも受けている身だ。いずれ避けられない道でもあったのだろう。「……はい、お父様。聖女様からも努めて学ぶように致します」従順に答える私に、お父様は満足げに頷いた。ガネーシャ様とブリジット様はにこやかに祝う素振りで私の出自を元に嫌味を言うのを忘れない。「ミモレヴィーテは、既に貴族により統治される事で生きられた平民ではないからな。より貴族らしく、気高く民に分け与える事も覚えるべきだろう」「そうですわね、ミモレヴィーテお姉様もガラント侯爵家の令嬢として恥ずかしくない振る舞いを更に身につけるべきですわ。いまだに己の専属メイドへ丁寧語でお話しだとか。上に立つ者とし
Dernière mise à jour: 2025-10-15
Chapter: 第19話 授かれない子と生まれる子
──月日が経つのは早いもので、聖女様がお住まいになられる皇城内部の神聖宮で、お茶会にお呼ばれしてお話しするようになって、もう数か月が経った。初めのうちこそ縮こまって聖女様のお話しする事を聞き、忘れる事のないようにとばかり考えて余裕もなかったけれど、聖女様がとても柔和に接して下さるので、緊張は堅苦しさを解いてゆくようになった。お茶会の場は神聖宮のお庭か応接室で、今日はお天気が良いからとお庭で開かれている。応接室はどことなく閉塞感があるので、開放的なお庭でのお茶会はありがたかった。芝生は青々として艶があり、植栽も様々な草木や花が調和を成すように計算されていて上品でありながら落ち着く空気を醸し出している。「ミモレヴィーテ様、聖女という者は求められれば、どこにでも赴きます。──たとえ戦地であっても」「戦地にも……危険な場所ですよね?」私はそこを想像してみた。飛び交う怒号、流れる血、生命の奪い合い──戦争を知らない私にとって、それは漠然としていて、ただ戦争というものは恐ろしくて多くの犠牲を伴うとしか分からなかった。「私は精霊様達によって護られますので護衛は必要ございませんのよ。野戦病院にて運ばれてくる方々の癒しに集中するのみでしたわ……あれは、まだミモレヴィーテ様がお生まれになる前の戦でしたわね。今でこそ平定されて、国は平和を享受しておりますが」「そうなのですね……」「例えば上級精霊様達ならば、空間を丸ごと固定して、その場にいる全ての人を癒せますわ。それ程のお力をお持ちなのですよ」「……凄いです……」聖女様とお話ししていると、常に自分が精霊達によって恵まれていると思わせられる。そこに押しつけがましさはなく、むしろ聖女様からの憧憬を感じていた。「──さて、本日はここまでに致しましょうか。日が暮れるまでにご帰宅なされないとミモレヴィーテ様の父君様がご心配されますもの。父君様には、血の繋がりこそございませんけれど……大切にして頂けておりますか?」「……はい、それは……不思議な程大切にされております。私が精霊さん達と自由に集えるようにお庭まで整えて下さって……その上お部屋も別棟で一番広いお部屋を使えるように調度を揃えて下さったのです」「それは良かったですわ。そう言えば、母君様もそろそろ産み月でしたわね。お身体は健やかに保てておられますか?」「はい、初めは悪
Dernière mise à jour: 2025-10-15
Chapter: 第18話 謁見と聖女のありよう
しばらく馬車に乗っていると、見える景色が街並みから一転して、そびえ立つ城壁の続く道になった。これ程高さのある頑丈そうな壁を、どうやって建てたのだろうと思っているうちに、城門へと向かい検閲を受けて許可がおり、内部へと進められる。皇城はあまりにも広大で、侯爵家のお屋敷を初めて見た時でさえ大きさに驚いたものだったが、その比ではない。しかも舗装された道の石畳、両脇に植えられた色とりどりの植物、全てが入念に手入れされていると素人目にも分かる。そこを進むと、宮殿の入り口付近に馬車は止まった。ここからは降りて歩いてゆく事になるらしい。宮殿もまた見事に磨き上げられていて、例えば侯爵家のお屋敷が豪奢と言うならば、お城はまさに荘厳と言うにふさわしい。何気なく飾られている装飾品ひとつをとっても重々しく歴史を感じさせる。華美に走らずして、ここまで美しく仕上げられる皇城の差配に私は半ばぽかんとしながら案内の者に従って歩を進めた。もっとも、かしこまりはしても圧倒されて恐れるような事はなかった。精霊達が傍にいてくれているのが気配から伝わってくるので、私はそれを心強く思いながら毅然と歩けていた。ほんの数か月前までは荒ら屋ばかりの下町に馴染んでいたのに、まさか皇城の中を歩く日が来るとは、本当に人の運命は分からない。長い廊下を歩み、重厚な扉の前に立つ。案内の者が「こちらで国王陛下と皇后陛下がお待ちです」と告げた。騎士なのか衛兵なのか、四人がかりで扉が開かれる。広間の先に階段があり、その頂に玉座が見えた。「──そなたが話に聞いた者か。近う来るがよい」「……はい」国王陛下が厳かにお言葉を下さる。促されて私は頷き、静々と足音をたてないように歩いて広間に入って、玉座に向かって練習を重ねたカーテシーをし、口上を述べる。相手は王様とお后様だ、緊張するなという方が無理だが、それでも今まで練習でしてきたどんなお辞儀よりも無理なく出来たカーテシーに勢いを貰えた。「この国の輝ける太陽である国王陛下と、寄り添う満月である皇后陛下に、初めてお目にかかりご挨拶申し上げます。ガラント侯爵家が長女、ガラント・ミモレヴィーテと申します」「よろしい、面を上げよ」「はい」「……ふむ」そっと顔を上げると、国王陛下と皇后陛下が私の何かを意味深な眼差しで見つめてきた。気がつけば、皇后陛下の斜め後ろには下町でお声をか
Dernière mise à jour: 2025-10-12
Chapter: 第17話 呼ばうものよ、来たれ
……そして、深く沈む夜の眠りの果てに、私の世界は急にひらけた。温度のないクリームのような世界に立ち尽くし、辺りを見渡す。私は眠りに就いた時のまま、シュミーズドレスを着ていて、胸許にはショーターから貰ったペンダントが輝いていた。そのペンダントが熱い。波及するかの如く、全身を巡る血が熱くなる。私は自身を放熱させ、遠くから誰かが呼ばうのを感じてとり、熱に浮かされながら叫んだ。「──私を呼ばう者よ、来たれ。私はここにいる!」普段からは考えられない自分の言葉遣いだった。なのに、するりと口をついて飛び出した。声は波を起こし、不可思議な世界の向こうに何かを見た──次の瞬間には、目の前に「彼ら」が立っていた。彼らは六人の異形だった。アポロデス様の至高の美しさにこそ及ばないものの、六人の誰もがはっと息を呑む程に神々しい美しさで、羽の色や形から天使ではなく精霊達だと分かる。圧倒される存在感があり、だけど私は心の奥で昂陽していた。一人が「精霊王様のお導きにより、アーティファクトとミモレヴィーテ様のお力が馴染んだ今宵に馳せ参じました」と告げた。「アーティファクト……?」「そちらのペンダントでございます。贈り主はそれと気づいてはおりませんでしたが……これは、精霊との親和力が抜きん出て優れた方にしか有効には使えない品でございます。──申し遅れました、私は光の上級精霊、白銀の光と申します」名前の通り銀色に輝く光の粒子をまとう、白銀の光と名乗った精霊の言葉を皮切りに、他の精霊達も続けて名乗り始めた。「私は闇の上級精霊、漆黒の夜と申します」漆黒の夜は、新月の夜のような闇色の髪に瞳、まとう粒子も鈍色に光っている。状況が把握出来ないままに、精霊達が次々と口を開いてゆく。「私は風の上級精霊、空を護る者でございます」澄んだ青空を思わせる清々しいような美貌の精霊が、淡い雲みたいな粒子を、己の身に寄り添う風に任せながら、そう名乗った。「私は地の上級精霊、大地を統べる者でございます」空想上の精霊樹を連想させる雰囲気の、新緑色に光る粒子を放つ精霊が低めの重く落ち着いた声で名乗る。その声は重くとも心地よい。「私は水の上級精霊、生命を繋ぐ者でございます」透き通るような肌に、静かな湖を思わせる色が乗った精霊は名乗ると同時に、熱を帯びている私の頬をついと撫でてきた。ふっと、それまで暴れそうだ
Dernière mise à jour: 2025-10-11
Chapter: 第16話 特訓と美容水の中身は
「ミモレヴィーテ様、お身体が傾いていますわ、もう一度やり直してください」「は、はい……」カーテシーは、目上の相手に対して行なうお辞儀で、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、何より背筋は伸ばしたまま挨拶をするのが身体のバランスを取りにくい。 両手でスカートの裾を軽くつまんで持ち上げながらともなると、履き慣れないヒールのある靴では重心が傾いてしまう。それでも言われた通りに何とかこなそうとすると、今度はミステラ夫人が「先ほどよりはよろしくなりましたし、ういういしいと思えば愛らしいですけれど、表情が必死すぎて固いですわ。もっと堂々と柔らかく」と注意してきた。「はい……」明日は国王陛下に謁見する。残された時間は僅かだ。これを会得しなければ、国王陛下に対して失礼にあたるし、何より子連れの後妻という微妙な立場のお母さんが陰口を言われてしまう。私はここ数日、ミステラ夫人のレッスンとガネーシャ様からのレッスンの後にも自室で練習するようにしていた。「そうですわよ、優雅に、たおやかに。──そろそろガネーシャお嬢様からの指南のお時間ですわね。少しだけ休憩なされて、ガネーシャお嬢様からも学ばれますよう」「はい、ありがとうございました」正直、疲れてはいる。それでも弱音は吐けない。 「ミモレヴィーテ様も、長い間下町で暮らしておいででしたのに習得がお早いですわ。よく頑張りましたわね」私の気持ちを察したらしいミステラ夫人が優しく言葉をかけて下さる。少し癒される思いだ。「ミモレヴィーテ様、お茶をお運び致しました。こちらを頂いて休まれてからガネーシャお嬢様の元へ行かれますよう。お紅茶にはお砂糖を多めに入れて下さいませ、ミモレヴィーテ様お好きでございますわよね?」マルタがお茶の道具等を運んで来てくれる。軽いお菓子まで一緒に用意してくれていた。「──さ、私は退室致しますので、おくつろぎ下さい。長い時間立ったままでお疲れでしょう」「いえ、ミステラ夫人様には本当にありがとうございました」ミステラ夫人が部屋から出てゆき、私はようやくソファーに腰をおろして足をさする。その間にも、マルタが手際よくカップに鮮やかな色味の紅茶をそそいでくれて、「こちらは精霊様達とお召し上がりくださいませ」と言いながらお菓子もテーブルに並べてくれた。軽くつまめるように、どれも一口サイズの
Dernière mise à jour: 2025-10-11
Chapter: 第15話 ウィルダム公爵家の当主、父
* * *ガラント侯爵が、自分の娘は全ての属性の精霊と契約を結ぶ事を成しえたと陛下に奏上した──それは、陛下に仕える貴族達の間に波紋を呼んだ。しかも、その娘は契約を結ぶ前に精霊による治癒を二度も行なったという。陛下も今の聖女が四十路半ばという高齢からか、いたくご興味を示され、その娘は陛下との謁見を許された。血筋から言えば、ありえない。ウィルダム公爵はガラント侯爵が知らぬ聖女の血筋についても分かっていた。だからこそ、家臣にガラント侯爵が突如迎えた後妻とガラント侯爵の娘達について調べるよう命じたのだ。都の街では祭りが開催されており、ウィルダム公爵の息子もお忍びで街に出てしまった。息子本人は秘密のつもりだろうが、家長に知らされない訳はない。これが街に出る最後だと話していたそうだから、仕方ないものだと思いながらも許す事にする。息子が最後と決めたのは、ウィルダム公爵を正式に継ぐ為の証を渡したからだと理解してやれない程には狭量ではない。──さて、息子の帰宅が先か、それとも報告書が上がってくるのが先か。執務室でコーヒーを一口含み、息をつく。今日片付けるべき書類は既に目を通し終えている。と、ドアをノックする音が来たるべき知らせを告げた。この音の出し方は執事長のホールズだろう。ウィルダム公爵は「入りなさい」と許しを与えた。静かにドアが開き、すっと洗練された挙措でホールズが入室して来た。手には纏められた紙の束が抱えられていた。厚みはなく、おそらくは数枚の束だろう。「公爵様、お命じになられました調査につきまして、ご報告致します。──こちらをご覧下さいますよう」「ああ、ご苦労だった」丁重に差し出されたそれを受け取り、目を文字に走らせる。ああ、とウィルダム公爵は思った。──サリエル……。君は。報告書には、かつてアムース子爵家の令嬢だったサリエルがディマルテ男爵家との縁談を破棄されて子爵家から勘当され、その後に下町で私生児を生んで、その子供と二人で暮らしていたと記されていた。子供は女児で、幼い頃から時に不思議な様子を見せていたらしい。サリエルはガラント侯爵に見初められるまで下町の公衆食堂で酌婦として働いていたそうだったが、女児が13歳になった時にガラント侯爵の使う馬車がサリエルを轢いてしまい、結果サリエルは瀕死の重傷を負い、女児─
Dernière mise à jour: 2025-10-11
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