Masuk「もう1日ここにいるだって?英雄さんよ!あんたも昨日の夜の騒ぎ知ってんだろ?とっとと離れた方がいいと思うぜ?」
「運転手さん。どうしても確かめたいことがあるの!お願いします。」 カタリナは深々と頭を下げた。 「参ったなぁ…。英雄さんにそう言われちゃ断れねぇよ…。」 運転手は馬の首を撫でながら頭を掻いていた。 「お母さん。どうゆうこと?」 「ルーナ。少し私についてきて。」 カタリナは歩き出す。ルーナも後ろを追う。 村の防御柵はことごとく焼け焦げていた。 その横を2人は歩いていく。 「ルーナ。実は昨日ね。私も戦ったの。」 ルーナは想像以上に冷静に話を聞いていた。 「それで?」 「ここを攻めている山賊は、生身の人間だけじゃない。」 カタリナの言葉に、ルーナは首を傾げた。 「生身の人間だけじゃないってどうゆうこと?」 「私たちが昔、平和のために戦っていた相手は機械だったの。」 「機械って。紙芝居とかにでてくるロボットみたいなってこと?」 カタリナは被りを振った。 「人の身体に機械を埋め込んで作った人型の機械。その体は刃を通さず。銃弾を弾く。さらに人の何倍も強い力を持っている。」 「人と機械の融合…?」 カタリナは首を縦に振る。 「お母さんたちは、それらと戦って平和を勝ち取ったのね。それで?今回の山賊にそれが関係してるの?」 カタリナは重い口調で話す。 「15年前の戦いで、私たちは革命を成し遂げて平和を手に入れた。昼も夜もない国に、太陽と月を取り戻した。」 「なんとなく理解してるよ。続けて。」 カタリナは頷く。 「本来、太陽の光を浴びていないと活動できないはずの人型兵器の中に、その弱点を克服して逃げ出したものがいると聞いたことがある。」 「なるほど。」 ルーナは相当頭が良い。 「その人型兵器は、機械と融合される前は、優秀な科学者だったと聞いたわ。おそらくその科学力を使って、太陽問題を克服したのだと思う。しかもその力を使って今度は、自分の国を作ろうとしている。」 「そうゆうことね。」 ルーナは若い頃のカタリナにそっくりだ。 もしもロシェが生きていたら、あまりにも似過ぎていて腰を抜かしていただろう。 「グリンベール。それがその人型兵器が作ろうとしてる新たな国の名前。」 「グリンベールねぇ…。ここら一帯の山賊を従えてるとしたら相当な数になりそうね。」 ルーナの言葉にカタリナは頷く。 「それでどうやってそのグリンベールと決着をつけるの?相手の居場所もわからないし。」 ルーナが聞くと、カタリナは頷く。 「策は打ったわ。昨夜の戦いで、私が葬った山賊の中に1人。人型兵器が混ざっていた。厳密に言うと2人いたけれど、1人だけ葬り、1人は見逃したの。炎の巫女からの宣戦布告だと伝えてね。」 「なるほど!作戦が分かった!15年前に自分たち人型兵器をことごとく打ち倒した炎の巫女の襲来をネタにすることで、相手側から打って出ざるおえなくする!だってお母さんが15年前の決着をつけたいと思ってるってことは、相手もきっと同じだもんね。」 「そうゆうことよ。」 カタリナは頷きながらそう答えた。 「となると。今晩にでも大きな戦いに発展しそうだね。」 「幸いここはシュプルーン王国の領土だから、共に戦ってくれる騎士団がいる。」 「さすがだね。そこまで計算の上かぁ。」 ルーナが感心すると、カタリナは拳を固く握りしめた。 「15年前の決着を必ずつける。」 「お母さん!」 ルーナの声にカタリナは少し驚いた。 「どうしたの?」 「15年前の決着。とても大事なことなのは分かるよ。炎の巫女として、英雄として、何よりお父さんの代わりとして、戦うお母さんはカッコいいよ。でもね。それ以前に私のお母さんってことを忘れないで。」 ルーナはそう言うと、カタリナの拳に優しく触れた。 「ルーナ…。」 「さぁ。夜に備えて準備しよ。」 ルーナはカタリナの手を引いて走り出した。 その姿は子供の頃のようだった。 (ロシェ。この子は私が必ず守るからね。) カタリナが心の中でそう呟くと、太陽の光が少しばかり強くなった気がする。 「お母さん!暑いからあそこのお店で何か飲もう!」 「うん。そうね。ルーナ!ありがとう。」 「なにがー?」 ルーナが聞くとカタリナは少し照れくさそうに答えた。 「私たちの子供として生まれてきてくれて…。」 「なにそれ!!まぁ。どういたしまして。さぁ。行くよ。」 2人は茶屋へと吸い込まれていった。「さて。これからどうしようかな。」バルドレは天馬を空に向かって進ませている。しかし先程のルーナの一撃で、一時的に脅威は去ったとは言え油断は禁物。すぐにでも空の王と接触して、この記憶の墓地から脱出したいところだが…。「ルーナ。傷は大丈夫かい?」「だいぶ落ち着いた。」ルーナの回復力には驚かされる。ラオムの拳をまともに受けた時は、全身が悲鳴をあげている状態だったにも関わらず、そこ30分程度で、ある程度動けるほどになっているのだから。「キミはホントに不思議だね。」「バルドレもね。」ルーナの言うとおり、たまたま本屋で出会い、たまたまヤンガミに眠る宝具が使えただけなのに、ルーナと共に命を賭けているのだから不思議なものだ。「とにかく空に向かおう!空の王って呼ばれるくらいだし!きっと空にいる!」バルドレがそう言うと、ルーナは頷いた。浅い考えだとは思うが、なんとなく理にかなっている。可能性は高さそうだ。しかしルーナにはそれ以上に、ラオムが気がかりで仕方なかった。雷炎の龍をぶつけた時に、あの化け物は笑っていたように見えたからだ。それも当然で、太古の昔から空の王と激しくぶつかり合っていたこともそう。15年前に、その存在だけで国を壊滅させたこともそう。全て今のルーナの全力ごときでどうにか出来るわけがない証明となっている。「バルドレ。とにかく急いで空に向かおう!」「もちろん!」「でも気をつけて。いつまたあの黒いサークルが現れるかわからない。」「だよねぇ。あれだけ幻想的な一撃を見せてもらったから言いにくかったけど。あの化け物は、仕留めれていないよねぇ。」「当然だ。時間稼ぎにしかならない…。」ルーナの悔しげな表情が切なかった。「気に病むことはないよ。そのおかげでこうして生き延びれたわけだし。ほら?言ったでしょ?生き残ることが勝ちなんだって!」バルドレは、あえて陽気に振舞った。かなり空の奥地まで登ってきたようで、雲が下に見えている。「どこまで行けばい
ルーナには何が起きたのか理解できていなかった。ただ気づいた時には、瓦礫の上に倒れていた。全身が痺れるように痛む。内臓にもダメージが及んでいるのか、呼吸すらも苦しい。たった一撃。されどその一撃が、致命的なモノとなる。古の機械ラオムの恐ろしさは理解していたはずだった。でも…。それは想像を遥かに凌駕していた。「おまえ。炎と雷を使ったな?」塔の上の男の声だ。「おおかたあの忌々しい炎の巫女と空の王の娘。と言ったところか。」ルーナは気持ちで立ち上がる。「俺も。そこの古の機械も。おまえの両親には恨みがある。こんなところで憂さ晴らしができるとはな。」塔の上の男は高らかに笑った。バルドレが駆けつけてルーナの横に立った。「ルーナ。大丈夫なのかい?」「…なわけないでしょ
「まったく。次から次へと不思議なことばかりで頭が混乱しちゃうよ…。」バルドレは腰を抑えながら呟いた。「巻き込んでしまう形になって申し訳ない。」ルーナがそう言うと、バルドレは笑って答えた。「謝らなくて大丈夫!やっぱりキミといるとワクワクするよ。」「あなた。子供なの?」「キミよりは大人だと思うよ!でも芸術家なんて好奇心の塊だからさっ!」ルーナは聞き流すかのように足を進める。「待ってよ。」バルドレも後を追う。「ルーナさん。どこに向かうの?」「ルーナでいい。墓石に飲み込まれた時、チラッと目に入ったのだけれど。この空間には、記憶の具現化がされていると掘っていた。」「記憶の具現化?」ルーナは頷いて、話を続
老人は語り出した。「ロシェ•カエルム様は、太古の昔。空の国を統べていた国王で御座いました。歴代の空の王でもごく一部の者にしか扱えないとされる空を操る力を持っており、空の国歴史上最強の王と謳われております。そんな王の元、空の国は平穏な日々を暮らしておられた。」ルーナとバルドレは黙って聞いている。「しかし。空の国の中には、さらなる発展を求める者もおり…。彼らは叡智を絞り、王の目の届かぬ場所で、とんでもないモノを作り上げてしもうたのです。」「とんでもないモノ?」バルドレが聞くと、老人は頷いた。「古の機械ラオム。それを取り巻く古代兵器たち。しかし古の機械ラオムは、国の発展を望んだ科学者の気持ちとは裏腹に、国を乗っ取らんと空の国へと攻め入ったのです。異空間を自在に操る古の機械ラオム率いる古代兵器軍と、空の王ロシェ様、空の王の守り人である炎の巫女との戦闘は長きに渡ったと言われております。」「異空間を操るって……
バルドレの右腕に、ルーナは布を巻いた。「すまない。悪気はなかったんだ。」「わかってる。」ルーナはそう答えると、3人の老人に目を向けた。「話を続けましょう。」老人たちはまだ驚きを隠せていない。(この子…。リングなしで炎の力を使ったのみならず。雷までも生み出した。底なしの才能を秘めておる…。)真ん中の老人が、左右に座る老人に目で合図を送る。それに合わせて、左右に座る老人は立ち上がり、怪我をした従者たちの手当を始めた。そして真ん中の老人はゆっくりと立ち上がり、ルーナに声をかける。「ルーナ様。ついてきてくだされ。」「分かりました。」続いて老人は、バルドレの方に顔を向ける。「バルドレか…。ヤンガミが誇る天才絵師。まさか宝具を扱えるとは…。おまえもついてきたまえ。」「え?ボクも?」「誰にでも天命はある。」その老人の言葉に、バルドレは少し笑って答えた。「年寄りの言葉は重たいねぇ。」3人は広間から奥に繋がる廊下を進んだ。その先は行き止まりだ。巨大樹の中央付近なのだろう。吹き抜けになった呼吸口から通る風はかなり強い。老人が口を開く。「まさかワシの代でこの上に行くことが叶うとは……。」「どうゆうことですか?」ルーナが聞くと、老人は答える。「かつて空の国と信仰を築いていた時。ヤンガミの根幹はこの上にあったのです。この上には空の国とヤンガミの過去が眠っておる。そしてルーナ様。あなたのお父様ロシェ•カエルム様も太古の昔。この上の地で、空を学ばれたのです。」「お父様が太古の昔って。よくわからないね。」バルドレが口を挟むと、老人は鋭い眼光で突く。「わかってるよ。黙ってればいいんでしょ。」「バルドレ。風描きの筆を右の台座に置くのだ。」老人に言われた通り、バルドレは台座に置いた。「何も…起きないね。」バルドレは不思議そうに
街の中央に聳える巨大樹。使者のうちの1人が、その巨大樹に右手を当てた。そしてブツブツと何やら呟いている。(この3人·····。どこまで信用していいのかしら。)ルーナの中にある懐疑心は拭えない。しかし他にアテもないのでついてきたに過ぎない。使者が巨大樹から手を離した途端。まるで口を開くかのように、幹に裂け目ができた。「どうぞ。」使者に案内されるままに、ルーナはついて行く。「ここはヤンガミでも一部の人間しか知らない裏街です。」「裏街?」ルーナが聞き返すと、使者の1人が答える。「そうです。裏街は、太古の昔。空の国との交流を実際に行っていたヤンガミ人の純血の子孫しかおりません。」「ここが本当のヤンガミの歴史ってことね。」「その通りです。ヤンガミは今でこそ、アートの街なんかと持て囃されておりますが、本来は空の国の歴史を知る古き伝統の街でございます。その気持ちを失わぬように、表街と裏街に分けているのです。」そんな話をしながら、巨大樹の中の螺旋階段を登っていく。しばらく歩いていると、広間が見えてきた。「ルーナ様。お待たせしました。こちらへどうぞ。」使者の1人が、ルーナを広間の真ん中の席に座らせた。「何が始まるのですか?」ルーナが聞くと、使者は答えた。「空について。知っていただきます。」ルーナは辺りを見渡した。人数は15人ほど。自分の真正面には、明らかに威厳がある年寄りが3人。きっと彼らがここを統括しているのだろう。そして、その3人の後ろには、大きな壁画がある。空に向かって絵を描いている男性と、空に浮かぶ島?のような壁画。ルーナは先程の本を思い出す。(あれが宝具!)壁画の下に、ガラスケースで保管されている、羽のようなデザインの筆が目に入った。よく目を凝らすと、ケースの下に名が掘られている。(風書きの筆·····