LOGIN気弱な王妃、レイスは国王であり夫でもあるゲイリーと、側室のメリンダから酷い扱いを受けていた。 それでもレイスには、アンナという可愛いひとり娘がいたから、彼女なりに幸せだった。メリンダの息子であるエドワードが、アンナを階段から突き落とす。 いくら事実を訴えても、聞く耳を持たないゲイリーとメリンダ。 「女など役に立たん」と冷たく言い放ち、仮病で痛みを訴えるエドワードと共に医務室に行くふたり。 エドワードに復讐したレイスは処刑され、令和日本の女子高生、火野玲海に転生。だが、玲海も殺されてしまう。玲海の転生先はなんと12歳のレイス!? メスガキ系VTuberれみぃのレスバ力とレイスの淑女力ですべて乗り切れ!
View More知恵と豊穣の国、ルシアーナ。数多の学者を輩出しているこの国は、学業と農業が盛んで、男女問わず学び舎に通い、様々なことを学んでいる。学費がずば抜けて安いことから、他国から移住し、勉学に励む者も大勢いる。
四季折々の野菜や果実も安値で手に入り、活気もあるため、世界1恵まれた国と言われている。
そんな恵まれた国の城内で、王妃と娘が、出かける準備をしていた。
「アンナ、忘れ物はない?」
「はい、お母様」
「それじゃあ、行きましょうか」
薄桃色の淡い長髪を美しく束ね上げた王妃のレイスと、同じく薄桃色の髪を持つ愛らしい姫、アンナ。ふたりは今日から、森の奥にある別荘に移る予定だ。
世界1幸せな国と言われるルシアーナだが、王妃は幸せどころか、不幸な女性だ。というのも、彼女の夫であり国王でもあるゲイリー・バーネットは、側室のメリンダばかりを可愛がり、レイスとアンナを蔑ろにするのだ。
はじめは、それほど扱いの差はなかったが、レイスがアンナを産んでから、ゲイリーは冷たくなった。それでも、まだマシな方だった。挨拶を無視される程度だったのだから。
メリンダがエドワードを産むと、ゲイリーはレイスとアンナを蔑むようになったのだ。
「女は王族にいらない」
それがゲイリーの口癖になり、アンナには誕生日プレゼントすら買い与えない。それどころか、膨大な量の勉強を強要し、できないと「こんな不出来は俺の子なんかじゃない」と酷い言葉を浴びせるのだ。
レイスも毎日のように女を産んだことを責められ、メリンダには嫌がらせをされていた。ゲイリーは気に食わなければレイスを殴り、アンナの食事を抜いた。メリンダは顔を合わせる度に嫌味を言い、年齢もひとつしか違わないのに、レイスを年増呼ばわりする。
エドワードもメリンダに似て性格の悪い子で、アンナの髪を引っ張ったり、転ばせたりと、嫌がらせが絶えない。
いくらやめるように言っても、3人は嫌がらせをやめない。それどころか、エスカレートしていくばかりだ。
服やドレスは何着も切り刻まれ、燃やされた。他国の王族との公務の時間をわざと遅く伝えられ、国際問題に発展しかけたこともある。
使用人達も、ゲイリーや側室のメリンダの肩を持ち、洗剤入りの食事を食べさせようとしたり、、洗っていない服をもう一度着させようとしたりと、やりたい放題。
自分ひとりなら耐えられたが、アンナにまで手を出されるのなら、これ以上城にいるわけにもいかなかった。幸いレイスの実家は公爵家で、金も別荘もある。秘密裏に母と連絡を取り、数回に分けて必要な荷物を別荘に運んだ。
今日はピクニックと偽り、別荘に引っ越すのだ。アンナはまだ6歳と幼いため、うっかり誰かに言ってしまう可能性がある。だからアンナも、このことは知らない。
「あ」
あと数段というところまで階段を降りたところで、アンナが立ち止まる。
「どうしたの?」
「忘れ物!」
「もう、だから忘れ物はないか確認したのに。急いで取ってきて。お母様は、先に馬車に乗ってますからね」
「はーい」
アンナは元気よく返事をすると、軽快な足取りで階段を登っていく。
(一刻も早くこの城から出たいけど、焦りは禁物よ)
心の中で自分にそう言い聞かせながら、階段を降りきると、荷物を下ろす。この中には、最低限のお金と宝石。そしてアンナと食べる予定のサンドイッチが入っている。使用人に任せると何を入れられるか分からないので、王妃であるレイスが作ったものだ。
(アンナ、喜んでくれるかしら?)
荷物に触れながら、アンナとの楽しい時間を想像する。城を出たら公爵家の馬車で移動するのだ。
「きゃ!?」
アンナの悲鳴に驚いて振り返ると、我が子が階段から転がり落ちてくるのが目に飛び込んだ。踊り場には、両手を突き出したエドワード。
「アンナ!」
「うぅ……」
アンナはうめき声を上げ、小刻みに震えていた。
「アンナ! 大変……。待ってて、今医務室に運ぶから」
慎重にアンナの体を抱き上げると、たったったっと可愛らしい足音が近づいてくる。
「おばさん、アンナちゃん大丈夫?」
エドワードはニヤニヤ笑いながら、アンナを覗き込む。
「エド、あなたなんてことするの!? アンナを突き落とすなんて!」
「えー、なんのことー? 僕知らないよ?」
できることなら、今すぐこのニヤケ顔を殴ってやりたいが、今はアンナを医務室に運ぶことが最優先事項だ。
「ちょっと、大声聞こえたけど、なんなの?」
「騒がしいと思ったらお前か、レイス。仮にも王妃なんだ、その自覚を持て」
現れたのはエドワードと同じく金髪のメリンダと、夫のゲイリー。ゲイリーは艷やかな黒髪をひとつにまとめている。
「おばさんが僕のことぶったんだ!」
エドワードは赤くなってすらいない頬を押さえながら、嘘泣きを始める。
お茶も終えると、ゲイリーの手を惹かれ、中庭に出る。だが、中庭は真っ暗で、どこに何があるのかよく見えない。甘く優しい香りがすることから、花が咲いていることが分かる程度で、それ以外はよく分からない。「ゲイリー、暗くて見えないわ。光魔法で照らしましょうか」「いいや、ここで魔法を使うのは俺だ」 ゲイリーは詠唱を唱え、指を鳴らす。すると、花々がふたりのまわりから順に、一斉に光りだす。淡く輝く花々は、愛しい人を幻想的に照らした。「すごいわ! こんなに美しい花園、見たことがない……」 辺り一面、光の花。現世のものとは思えない美しさに、レイスは心を奪われ、うっとり眺める。「レイス」 ゲイリーはレイスの名を呼ぶ。その声は少し震えていた。「なにかしら?」「俺達は、政略結婚だったな」「え? えぇ、そうね」 今更結婚のことを持ち出されて、困惑する。レイスはじっとゲイリーを見つめ、次の言葉を待った。「あの頃の俺は酷かった。横柄で、男尊女卑で、考えが古くて。君のことも、下に見ていた。決まりだから仕方なく結婚してやる、感謝しろ。なんて、最低なことを考えていたよ」「えぇ、あの頃のあなたは、酷かったわ」「君は恐れることなく、俺に歯向かってきていたな」 思い出し笑いをするゲイリーに、少し恥ずかしくなる。「当時は、仕方なくと思った。けど、今は違う。君と結婚して、本当に良かったと思っているよ。君のおかげで俺は王になれた。何より、愛し合う喜びを教えてくれた」「ゲイリー……」 ゲイリーは懐から小さな箱を出すと、開けて見せる。中には指輪が入っていた。「あの時渡した結婚指輪には、意味なんてほとんどない。改めて、結婚指輪を贈らせてくれ。これは君を想って選んだんだ」「どうしよう、嬉しいわ……」「さぁ、手を出して」「はい」 手を出すと、ゲイリーは元々嵌めてあった指輪を外し、新たな結婚指輪をレイスの指に嵌めた。指輪はぴったり嵌り、レイスの華奢な指で光り
シャーリィ達をエンゲリーに届けて半月。頻度は減ってきているとはいえ、レイスは未だに悪夢に苛まれていた。ゲイリーに話して楽にはなったが、夢のせいか、時々ゲイリーとバルトに恐怖を抱く。メリンダに雰囲気の似た女性を見かけると、不安になってしまう。「こんなに幸せなのに……」 レイスは東屋に座り、ゲイリーと遊ぶアンナを見つめる。少し離れたところで、バルトが微笑ましく見守っていた。「前に、進まないといけないのに……」 何度も自分にそう言い聞かせ、思い込んできた。それでも悪夢が、前世が、レイスをじわじわと蝕んでいく。「そろそろ公務の時間だな。バルト、アンナを頼む」「はい、陛下」 ふたりの会話で我に返り、立ち上がる。この後他国の王族が城に来ることになっているのだ。「いこう、レイス」「はい」 レイスはゲイリーと共に、客間へ向かった。 夕方、公務を終わらせたレイスは、紅茶を飲んでため息を付いた。レイスにとって、外交ほど苦痛なものはない。自分のものと偽った功績を褒め称えられるのだから。「レイス、今いいか?」「あなた、どうなさったの?」「出かけないか? 気分転換も必要だ」 ゲイリーは、レイスが外交に苦手意識を持っていることをよく知っていた。だから気遣ってくれたのだろう。「いいわね、行きましょうか」 ゲイリーのエスコートで外に出ると、既に馬車が用意してあった。馬車に揺られながら、隣に座るゲイリーを見上げる。「どこへ行くの?」「さてな」 言葉こそ短いが、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。きっと彼なりに何か考えてくれたのだろう。「アンナが一緒じゃないなんて、変な感じがするわ」 プライベートで出かける時は、いつもアンナを同行させていた。思えば、アンナが産まれてから、ふたりで外出したことはなかったかもしれない。「たまにはふたりというのもいいだろう」「そうね。なんだか懐かしいわ」 目を細めて思い出すのは
シャーリィを孤児院に預けてから半年後。レイスは馬車に揺られ、孤児院を目指した。 シャーリィがゲイリーを襲った罰としてレイスが下した罪は、孤児院で半年間奉仕することと、その後の追放。今日は彼女を国外追放する日だ。 いつもならお菓子や玩具をもって行くが、ことがことなだけに、そんな気は起きなかった。 孤児院に着くと、子供達と楽しそうに追いかけっこをしているシャーリィの姿が目に映る。(これは、私が彼女に下した罰だものね) 心の中で自分にそう言い聞かせ、馬車から降りる。レイスに気づいた子供達が一斉に駆け寄ってきた。「王妃様! 遊ぼ!」「私と遊ぶの!」「みんなで遊ぼーよ」 自分を囲んではしゃぐ子供達に、胸が締め付けられる。「ごめんね、みんな。今日はシャーリィお姉ちゃんを連れて行く日なの」 いくら事前に伝えていたとは言え、子供達が泣き出してしまうのではないかと懸念したが、子供達は顔を見合わせ、大きく頷いた。「お姫様だもんね」「でも、お別れ会はさせて」「お願いお願い!」「えぇ、もちろんいいわ」 レイスが了承すると、子供達は飛び跳ねながらはしゃぎ、シャーリィの腕を引っ張って施設内に向かう。シャーリィの顔は青白かった。 レイスも誘われて一緒に行くと、子供達は歌を歌ったり、劇を披露したりした。最初は暗い顔をしていたシャーリィだったが、頑張る子供達を見て、笑顔になっていく。「おまたせー!」 職員と数名の女の子たちがケーキを持ってきた。チョコレートプレートには、ぐにゃぐにゃした文字で、『シャーリィ大好き』と書かれていた。「こんなに素敵なケーキを用意してくれるなんて……」 シャーリィは泣き崩れ、子供達は慰めるようにシャーリィに抱きつく。(とても心苦しいわ……) 半年という短い期間だったが、シャーリィと子供達の間には強固な絆が感じられる。それを引き離すのは心苦しいものだった。 皆でケーキを食べた後、子供達はそれ
「ズルというのは、自分が得をしようとしてするものだ」「私は、自分を守るためにしたの。できるだけ知名度と支持率を集めて、あなたに酷いことをされても、民衆に守ってもらえるように……。だから、これはズルだと思うの」「いいや、守るためなら、ズルとはいわない。それに、バカ正直に前世の記憶だと言いながら発表してたら、誰も聞き入れなかっただろう。何より、お前の数々の発表で、ルシアーナは大きく発展した。レイス。お前は王妃としても、母親としても、妻としても、立派だ」「ゲイリー……」「それに、魔剣士になったり、乗馬が上達したりしたのは、お前の努力だ。前世では、どれもうまく行かなかったんだろう?」「そう、そうね……」 ゲイリーの言葉に、今まで抱えていた罪悪感が消えていく。自分とアンナを守るためとはいえ、他人の知識を自分が発案したかのように振る舞うのは、心が痛んだ。大きな棘が抜けたような気分だ。「レイス……」 ゲイリーはレイスを抱きしめる。安心したからか、睡魔がやってきて、あくびが出てしまう。「ごめんなさい……」「いや、いい。眠くなったんだろう?」「えぇ、なんだか、安心してしまって……」「それなら、寝よう」「そうね、おやすみなさい」「なぁ、レイス」「何かしら?」 ベッドに入ろうとして呼び止められて振り返ると、ゲイリーが好奇心で輝いた目でレイスを見つけていた。「さっき言ってたニホン? の話、また聞かせてくれないか?」「えぇ、喜んで。次は絵を描きながら説明するわ。絵に自信はないけど」「楽しみにしてる」 ふたりはベッドに入り、抱き合って眠った。 今度はレイスも悪夢を見ずにぐっすり眠れた。 翌日、レイス、ゲイリー、アンナはサンドイッチを持って敷地内の池に来た。最近公務で娘との時間が取れなかったからと、ゲイリーが提案したのだ。「わぁ、おみず、きらきら!」 まだ3歳のアンナは、きらきら輝く水面に興味津々。ゲイリーはそん
2ヶ月後。レイスはシャーリィの様子を見に、孤児院に足を運んだ。中庭では、子供達が追いかけっこやおままごと、ボール遊びをしている。シャーリィは子供達に混ざって、ボール遊びをしていた。「お姉ちゃん!」「いいパスだったわ、ケント!」 少年からボールを受け取ったシャーリィは、別の子供にボールを投げてあげる。「あ、王妃様!」「わぁ!」 子供達がレイスに気づくと、一斉に駆け寄る。シャーリィも晴れ晴れとした笑顔で出迎えてくれた。「お久しぶりです、王妃様」 シャーリィはスカー
アンナが産まれた2年後、城内には王位継承式を見守るために、大勢の貴族が押し寄せた。 王位継承式は出会いの場でもあり、未婚の女性は小さな花束を持っている。結婚したいと考える女性は花束を持ったままだが、まだ結婚を考えていない女性は、新しい王に花束を渡す。 未婚の男性は胸に好きな花を1輪挿し、王位継承式の後に行われる立食形式の食事会で、花束を持つ女性に声をかける。また会いたいと思えば、花を交換する。 この風習はずっと昔からある。当時の王達が、「せっかく幸せの国と呼ばれているのだから、王位継承式では、皆に新しい幸せを手に入れてほしい」と考え、始め
それからレイスは、最低限の公務と、魔法の練習代わりに、発光石に魔力を込めた。発光石自体は比較的安価で、子どものお小遣いでも買えるような値段だ。 レイスが魔力を込めた発光石は、電球を買えない平民達に、黒塗りのカップと共に配られた。発光石の光はそこまで強いものではなく、黒塗りのカップを被せてしまえば、ほとんど気にならない。 暇つぶしを主な目的とした慈善活動は平民達から大変喜ばれ、レイスの支持率はまた上昇していった。 月日が流れ、破水し、陣痛が来た。それはゲイリーとふたりでお茶をしている時に起きた。ゲイリーはバルトに医者を呼ぶように言いつけ、レ
月日は順調に流れ、レイスが18歳になると、彼女はゲイリーと結婚した。 この時既に、レイスは魔剣士として認められ、学会経由で世界に名を轟かせていた。その知名度や支持率は、ゲイリーを遥かに上回っていた。レイス側の出席者も、学者や剣士が多く、ゲイリー側の出席者達は軽くどよめいていた。 ここまで来るとゲイリーのメンツ潰しもいいところではあるが、この男にはこれくらいがちょうどいい。 すっかり紳士になったゲイリーとの生活は、前世の記憶と比べると遥かに快適だった。ゲイリーも使用人達も、レイスに嫌がらせをすることがない。今のレイスにはある意味王族よりも力