Masuk生まれてからアルフレアを一度も離れたことのないルーナにとってはワクワクとドキドキの共存だった。
対してカタリナは、幼い頃からあらゆる街を見てきた。他国の恐ろしさや、移動の危険性を全身で理解している。 アルフレアを出てから、馬車で丸2日が経過している。途中小さな集落で小休憩を挟んだりもしていたので、カタリナの予定よりも2日は遅れる見込みだ。 「おーい英雄さんよ。この先に少し大きい村があんだ!今日はそこで休まねぇか?」 運転手がそう言うと、カタリナはカーテンの隙間から外を見た。 (もうすぐグリンベールか…。) 「そうね。その村にお邪魔しましょう。」 カタリナは運転手にそう告げると、ルーナの方に顔を向ける。 「ルーナ。ここから先はアルフレアの領地ではなくなる。何が起きても私から離れてはダメよ!」 ルーナは静かに頷いた。眠たかったのだ。 (アルバレム村) 大陸最強と謳われる大国シュプルーン王国の領土であり、(霹靂の村)とも呼ばれている。 夜になると山賊が暴れ回っており、王国騎士団と激しい戦闘の音が常に響いていることからそう名付けられたとか…。 「英雄さん。嬢ちゃん。着いたぜ!オラは馬に水浴びせてくっから、また朝落ち合おう。」 運転手はそう言うと、馬車を走らせた。 「さて。ルーナ。宿で休みましょう。」 「そうね。」 2人は宿に向かった。村には小さな宿があった。 宿主は親切に部屋へと案内してくれた。 「旅のお方。夜になると騒がしくなりますが、騎士団様が守ってくださりますので、ご安心してお休み下さい。」 「わかりました。ありがとうございます。」 宿主の話にカタリナは例を告げた。 宿主は深々と頭を下げて、部屋を出ていく。 「ルーナ。今日はもう寝なさい。」 「お母さんもね。」 2人は寝床に着く。 母の横の安心感を久しぶりに感じることが出来て、ルーナはすぐに眠りについた。 カタリナは、その寝顔を見て少し微笑んだ後、小箱からフレアリングを取り出し自らの右手につける。 嫌な予感が拭えない。いつでも戦える準備を整えておいたのだ。 深夜2時を越えた頃。 外が騒がしい。激しくぶつかる金属音。さらに生身が焼けるような異臭。 (始まったか…。) カタリナはルーナを起こさないようにゆっくりと起き上がる。 (シュプルーン騎士団の強さは知っているが、ここの山賊は恐らく…。) 思い当たる節がある。 カタリナはゆっくりと立ち上がり、宿から出る。誰にも見られないように慎重に。 外の光景は、あの頃のスカーデット王国を思い起こさせる。 (争いってのは無くならないものなのね…。) カタリナの目の前では、シュプルーン騎士団の紋章の入った戦士が1人、今にも首を切り落とされそうになっている。相手は4人の山賊。 カタリナはフレアリングを見つめた。 (随分と久しぶりね。またよろしくね。) そう心で呟いた後、4人の山賊を真っ直ぐに見据えた。 「炎の裁きを喰らいなさい。炎剣の舞!!」 リングから放たれた炎は剣の形を形成して、カタリナの踊るような動きに合わせて、炎跡を残す。 そして残ったのは4人の遺灰のみ。 「あなた。大丈夫かしら?」 カタリナは騎士に声をかけた。 「ありがとう…ございます…。」 「傷はそんなに深くないわ。致命傷はきっちりと避けたようね。さすがはシュプルーンの騎士と言っておきましょうか。」 嫌味ではなく、カタリナなりの褒め言葉である。 「あなたは…いったい…?」 「私はカタリナ。(炎の巫女)って言えば伝わるかしら?」 騎士は驚いた。 「ま…まさか…!!あの伝説の…。」 「なんでもいいけど。とにかく、今は山賊を止めましょう。あなたは少し休んでなさい。」 そう伝えると、カタリナは壁を飛び越えて、さらに戦地の深くへと走っていく。 (ここにいる山賊は下っ端ばかり。でもおそらくこの山賊団…。いや決めつけるのは早いわね。自分の目で確かめないと。) カタリナは最も戦闘が過激な西側へとやってきた。 そこにいたのはたった2人の山賊と、10は越えるであろう騎士たち。 (あの2人…。やはり…。) カタリナは近くの大木の幹に飛び乗って、観察する。 騎士たちが2人の山賊に襲い掛かる。 しかしその刃は体を貫けない。むしろ…。剣先が折れている。 (やはり…。サウンズロッドの亡霊…。グリンベールか…。) カタリナは飛び降りて、炎剣を持つ。 「女?燃えた剣なんて持って何しようってんだ?」 山賊の問いかけにカタリナは少し苦笑いを浮かべる。 「あなたたち。グリンベールか?」 カタリナの口からその名前が出た瞬間、2人の山賊の表情が変わった。冷たく…鋭く…。 「おまえ。まさか。炎の巫女?」 山賊の1人がそう聞くと、カタリナは炎の剣を高らかに空に掲げた。するとその周囲に円を描くように炎の渦が巻き起こる。 「いかにも。私が炎の巫女よ。サウンズロッドの亡霊さん。」 それを聞いた山賊の1人は、高らかと笑った後、カタリナに向かって突っ走る。 「国を壊した破壊者に俺が引導を渡してやる。」 「おい…。やめろ!!」 もう1人の山賊が止めるのを無視しての猪突猛進。 「炎剣の舞。」 カタリナの一振りで、山賊は倒れた。 まさしく一瞬の出来事だった。 「そっちはどうする?」 カタリナはもう1人の山賊に問いかける。 「く…くそ…まさか炎の巫女が出てくるとは…。」 「あなたはアジトに帰って、このことを伝えなさい。炎の巫女がグリンベールに宣戦布告をした。とね。」 「く…。」 カタリナは炎剣を一振りした。辺りに火の粉が舞う。 「ほら。早く行きなさい。」 山賊は怯えた表情で走り去った。 (グリンベール…。決着はつけないといけないと思っていたから好都合よ。) カタリナは宿に向かって歩いた。「さて。これからどうしようかな。」バルドレは天馬を空に向かって進ませている。しかし先程のルーナの一撃で、一時的に脅威は去ったとは言え油断は禁物。すぐにでも空の王と接触して、この記憶の墓地から脱出したいところだが…。「ルーナ。傷は大丈夫かい?」「だいぶ落ち着いた。」ルーナの回復力には驚かされる。ラオムの拳をまともに受けた時は、全身が悲鳴をあげている状態だったにも関わらず、そこ30分程度で、ある程度動けるほどになっているのだから。「キミはホントに不思議だね。」「バルドレもね。」ルーナの言うとおり、たまたま本屋で出会い、たまたまヤンガミに眠る宝具が使えただけなのに、ルーナと共に命を賭けているのだから不思議なものだ。「とにかく空に向かおう!空の王って呼ばれるくらいだし!きっと空にいる!」バルドレがそう言うと、ルーナは頷いた。浅い考えだとは思うが、なんとなく理にかなっている。可能性は高さそうだ。しかしルーナにはそれ以上に、ラオムが気がかりで仕方なかった。雷炎の龍をぶつけた時に、あの化け物は笑っていたように見えたからだ。それも当然で、太古の昔から空の王と激しくぶつかり合っていたこともそう。15年前に、その存在だけで国を壊滅させたこともそう。全て今のルーナの全力ごときでどうにか出来るわけがない証明となっている。「バルドレ。とにかく急いで空に向かおう!」「もちろん!」「でも気をつけて。いつまたあの黒いサークルが現れるかわからない。」「だよねぇ。あれだけ幻想的な一撃を見せてもらったから言いにくかったけど。あの化け物は、仕留めれていないよねぇ。」「当然だ。時間稼ぎにしかならない…。」ルーナの悔しげな表情が切なかった。「気に病むことはないよ。そのおかげでこうして生き延びれたわけだし。ほら?言ったでしょ?生き残ることが勝ちなんだって!」バルドレは、あえて陽気に振舞った。かなり空の奥地まで登ってきたようで、雲が下に見えている。「どこまで行けばい
ルーナには何が起きたのか理解できていなかった。ただ気づいた時には、瓦礫の上に倒れていた。全身が痺れるように痛む。内臓にもダメージが及んでいるのか、呼吸すらも苦しい。たった一撃。されどその一撃が、致命的なモノとなる。古の機械ラオムの恐ろしさは理解していたはずだった。でも…。それは想像を遥かに凌駕していた。「おまえ。炎と雷を使ったな?」塔の上の男の声だ。「おおかたあの忌々しい炎の巫女と空の王の娘。と言ったところか。」ルーナは気持ちで立ち上がる。「俺も。そこの古の機械も。おまえの両親には恨みがある。こんなところで憂さ晴らしができるとはな。」塔の上の男は高らかに笑った。バルドレが駆けつけてルーナの横に立った。「ルーナ。大丈夫なのかい?」「…なわけないでしょ
「まったく。次から次へと不思議なことばかりで頭が混乱しちゃうよ…。」バルドレは腰を抑えながら呟いた。「巻き込んでしまう形になって申し訳ない。」ルーナがそう言うと、バルドレは笑って答えた。「謝らなくて大丈夫!やっぱりキミといるとワクワクするよ。」「あなた。子供なの?」「キミよりは大人だと思うよ!でも芸術家なんて好奇心の塊だからさっ!」ルーナは聞き流すかのように足を進める。「待ってよ。」バルドレも後を追う。「ルーナさん。どこに向かうの?」「ルーナでいい。墓石に飲み込まれた時、チラッと目に入ったのだけれど。この空間には、記憶の具現化がされていると掘っていた。」「記憶の具現化?」ルーナは頷いて、話を続
老人は語り出した。「ロシェ•カエルム様は、太古の昔。空の国を統べていた国王で御座いました。歴代の空の王でもごく一部の者にしか扱えないとされる空を操る力を持っており、空の国歴史上最強の王と謳われております。そんな王の元、空の国は平穏な日々を暮らしておられた。」ルーナとバルドレは黙って聞いている。「しかし。空の国の中には、さらなる発展を求める者もおり…。彼らは叡智を絞り、王の目の届かぬ場所で、とんでもないモノを作り上げてしもうたのです。」「とんでもないモノ?」バルドレが聞くと、老人は頷いた。「古の機械ラオム。それを取り巻く古代兵器たち。しかし古の機械ラオムは、国の発展を望んだ科学者の気持ちとは裏腹に、国を乗っ取らんと空の国へと攻め入ったのです。異空間を自在に操る古の機械ラオム率いる古代兵器軍と、空の王ロシェ様、空の王の守り人である炎の巫女との戦闘は長きに渡ったと言われております。」「異空間を操るって……
バルドレの右腕に、ルーナは布を巻いた。「すまない。悪気はなかったんだ。」「わかってる。」ルーナはそう答えると、3人の老人に目を向けた。「話を続けましょう。」老人たちはまだ驚きを隠せていない。(この子…。リングなしで炎の力を使ったのみならず。雷までも生み出した。底なしの才能を秘めておる…。)真ん中の老人が、左右に座る老人に目で合図を送る。それに合わせて、左右に座る老人は立ち上がり、怪我をした従者たちの手当を始めた。そして真ん中の老人はゆっくりと立ち上がり、ルーナに声をかける。「ルーナ様。ついてきてくだされ。」「分かりました。」続いて老人は、バルドレの方に顔を向ける。「バルドレか…。ヤンガミが誇る天才絵師。まさか宝具を扱えるとは…。おまえもついてきたまえ。」「え?ボクも?」「誰にでも天命はある。」その老人の言葉に、バルドレは少し笑って答えた。「年寄りの言葉は重たいねぇ。」3人は広間から奥に繋がる廊下を進んだ。その先は行き止まりだ。巨大樹の中央付近なのだろう。吹き抜けになった呼吸口から通る風はかなり強い。老人が口を開く。「まさかワシの代でこの上に行くことが叶うとは……。」「どうゆうことですか?」ルーナが聞くと、老人は答える。「かつて空の国と信仰を築いていた時。ヤンガミの根幹はこの上にあったのです。この上には空の国とヤンガミの過去が眠っておる。そしてルーナ様。あなたのお父様ロシェ•カエルム様も太古の昔。この上の地で、空を学ばれたのです。」「お父様が太古の昔って。よくわからないね。」バルドレが口を挟むと、老人は鋭い眼光で突く。「わかってるよ。黙ってればいいんでしょ。」「バルドレ。風描きの筆を右の台座に置くのだ。」老人に言われた通り、バルドレは台座に置いた。「何も…起きないね。」バルドレは不思議そうに
街の中央に聳える巨大樹。使者のうちの1人が、その巨大樹に右手を当てた。そしてブツブツと何やら呟いている。(この3人·····。どこまで信用していいのかしら。)ルーナの中にある懐疑心は拭えない。しかし他にアテもないのでついてきたに過ぎない。使者が巨大樹から手を離した途端。まるで口を開くかのように、幹に裂け目ができた。「どうぞ。」使者に案内されるままに、ルーナはついて行く。「ここはヤンガミでも一部の人間しか知らない裏街です。」「裏街?」ルーナが聞き返すと、使者の1人が答える。「そうです。裏街は、太古の昔。空の国との交流を実際に行っていたヤンガミ人の純血の子孫しかおりません。」「ここが本当のヤンガミの歴史ってことね。」「その通りです。ヤンガミは今でこそ、アートの街なんかと持て囃されておりますが、本来は空の国の歴史を知る古き伝統の街でございます。その気持ちを失わぬように、表街と裏街に分けているのです。」そんな話をしながら、巨大樹の中の螺旋階段を登っていく。しばらく歩いていると、広間が見えてきた。「ルーナ様。お待たせしました。こちらへどうぞ。」使者の1人が、ルーナを広間の真ん中の席に座らせた。「何が始まるのですか?」ルーナが聞くと、使者は答えた。「空について。知っていただきます。」ルーナは辺りを見渡した。人数は15人ほど。自分の真正面には、明らかに威厳がある年寄りが3人。きっと彼らがここを統括しているのだろう。そして、その3人の後ろには、大きな壁画がある。空に向かって絵を描いている男性と、空に浮かぶ島?のような壁画。ルーナは先程の本を思い出す。(あれが宝具!)壁画の下に、ガラスケースで保管されている、羽のようなデザインの筆が目に入った。よく目を凝らすと、ケースの下に名が掘られている。(風書きの筆·····







