Masukシュプルーン王国。
宮殿フランベの第1会議室は朝から騒々しかった。その原因は、カタリナからの書簡。 (シュプルーン国王殿。今宵。グリンベールの大軍がアルバレム村へと進行してくるでしょう。おそらく組織のリーダー直々に出向いてくる。数によっては、私だけでは対応しきれないと思われる。軍の派遣をお願いしたい。炎の巫女カタリナ。) 「かの有名な炎の巫女殿から直々に送られてきた書簡。無視は出来ない。」 国王の言葉に、公爵を筆頭に伯爵等も頭を抱える。 というのも、シュプルーン王国は広大な敷地を持っており、南の大国との睨み合いを長年続けている。 そこの人員に、騎士団長級の大半は派遣している。大戦が今夜の場合、呼び戻しているだけの時間はない。 「陛下。かのスカーデット王国の革命は、空の王と炎の巫女。たった2人で成し得たと聞いております。アルバレム村に、その炎の巫女がいるのであれば、何の心配もないと思われますが…。」 伯爵の1人がそう告げると、周りからは有象無象の小声が飛び交う。 「そちの意見もその通りではあるが…。その炎の巫女からの直々の書簡。無視すれば国として如何なるものか…。」 国王がそう呟いた時、木製机を叩く音がドンッと鳴り響いた。 「私たちの国で起きる戦争に。私たちが出向かない。そんなことがまかり通るとお思いですか?」 シュプルーン王国第2王女。カダイン。声の主だ。 「姫。しかし。現状では戦地に向かわせる隊長級の騎士がいないのも事実でございます。」 「私が行く。」 カダインの言葉に、周囲の雑音は消えた。 「お父様。いや!国王陛下。シュプルーン騎士団の代表として、私カダインが軍を率いて、アルバレムの平定へと向かいます!」 「カダイン…。」 国王は上手く言葉が整理できていない。 「姫。あまりにも危険です!」 伯爵の1人がそう言うと、カダインは鋭い眼光で見据えた。 「そこに住まう民の危険には目を伏せて、王宮に住まう我々の危険は案ずる。そんな国で良いはずがないのでは?」 返す言葉もなかった。 「国王陛下。適任は私しかおりませぬ。どうかご命令を!」 ……。 少し沈黙が続いた。 ……。 国王の声。 「カダイン。シュプルーン騎士団の代表として、1万の軍を率い。アルバレムへと向かって、炎の巫女の援護を命ずる。」 周囲から音が消えた。 ただ1人。精悍な女の声のみ。 「御意!」 アルバレム村。 「シュプルーン王国から1万の軍が派遣される。率いるのはカダインという女騎士らしいわ。」 カタリナがそう言うと、ルーナは首を傾げる。 「1万もの大軍を率いる女騎士なんて相当すごい人なんだね。」 カタリナは少し考えた。 (カダイン…。聞き覚えのある名前…。) 「お母さん?どうしたの?」 「ううん。なんでもない。すごい人が来てくれるようでひとまずは安心ね。」 カタリナは破壊された防護柵を修復する村人たちを見て、かつてのスカーデット王国を思い浮かべる。 「争いは…。疲弊しか生まない!」 「炎の巫女がいるんだから大丈夫でしょ!」 ルーナの言葉で、少し表情が和らいだ。 カタリナはルーナと共に、アルバレム村の村長の家へと向かった。 「村長さん。村人たちを中央広場に集めてくださいませんか?」 「構いませんが…。何か起きるのですか?」 村長含め、村人たちはまだ何も知らない。 「皆が集まった場でお話します。」 「分かりました。」 村長は、付き人に指示を出し、中央広場へと村人を集めた。 時刻15:18 村人218名の前にカタリナは立った。 「毎夜の山賊との戦い。それはそなたらを疲弊させ、悲しみの連鎖に閉じ込めている。今宵!全てに終止符を打つ!」 カタリナの叫びに、村人たちは呆然としていた。 「終止符…ですと…?」 すぐ眼前にいた村長が問うた。 「そうだ。争いは今晩で終わる。すでにシュプルーン騎士団1万がこちらに向かっている。間もなく到着する頃でしょう。そして、私!炎の巫女が、騎士団と共に、山賊グリンベールを全て葬る!」 カタリナがそう叫ぶと、フレアリングから炎が渦を巻いて空へと放たれた。 ……。 「え、英雄…炎の巫女様…。」 「まさか!こんな辺境の地に…。」 ……。 カタリナの正体を知った者は口々に希望を見出した。 「しかし!残念ながらこの村は戦場となってしまう。皆には近隣の村へと避難して貰いたい。」 「……炎の巫女様。ここは我らの村。我々も共に戦います!」 村長の声に、村人たちも唸り声を上げる。 「なりません!戦場と化したこの地は必ず荒れる。それを元に戻せるのは、この地に生まれ育った、そなたたちにしかできない。1人も死んではならぬのです。」 カタリナの言葉に対して、返す言葉はなかった。 「騎士団が間もなく到着する。そうなればいつ開戦の狼煙が上がるか分からない。すぐに避難を始めてください。」 「…分かりました…。無事を祈ります…。」 村長の指示で村人たちは、荷造りを始め、次第に団となって村を出ていく。 「ルーナ。あなたは隠れていなさい。」 「お母さんの傍にいてはダメ?」 「あなたには自衛の術がないでしょ?私も実戦を離れて15年も経っているの。守り切れるか分からないのが本音よ。」 「分かった…。」 そんな話をしていると、馬の足音が連なる轟音が近づいてきた。 「来たわね。」 カタリナは音の方に目を向ける。 そこには精悍な美しい女性がいた。 その女性は騎乗で、軍を静止させる。 (あれがこの軍のリーダー。カダインか…。) カタリナは頭を下げる。 「私はシュプルーン王国騎士団。隊長のカダインだ!貴殿が炎の巫女か?」 「いかにも。私が炎の巫女カタリナです。この度はわざわざの御足労ありがとうございます。」 「頭を上げてください。カタリナ殿が書簡を送ってくださらなければ、我々は全て後手に回っていた。むしろお礼はこちらがする側だ。」 カタリナは心の中で少し笑った。 (思い出した!シュプルーン国王の次女でありながら、戦姫《せんひめ》の異名を持つ王女。カダイン。さすがの貫禄だわね。) 「早速だが、状況等を把握しておきたい。軍法会議を開く!」 カダインは1万の軍に休息を命令した後、カタリナと小屋へと入った。 …カタリナは全てを説明した。 「村人たちの避難までかたじけない。」 「いいえ。今夜全ての決着をつけましょう。」 「炎の巫女殿の協力があれば必ず!」 カダインとカタリナは強い握手を交わした。 後は夜。グリンベールの動きを待つだけだ。「さて。これからどうしようかな。」バルドレは天馬を空に向かって進ませている。しかし先程のルーナの一撃で、一時的に脅威は去ったとは言え油断は禁物。すぐにでも空の王と接触して、この記憶の墓地から脱出したいところだが…。「ルーナ。傷は大丈夫かい?」「だいぶ落ち着いた。」ルーナの回復力には驚かされる。ラオムの拳をまともに受けた時は、全身が悲鳴をあげている状態だったにも関わらず、そこ30分程度で、ある程度動けるほどになっているのだから。「キミはホントに不思議だね。」「バルドレもね。」ルーナの言うとおり、たまたま本屋で出会い、たまたまヤンガミに眠る宝具が使えただけなのに、ルーナと共に命を賭けているのだから不思議なものだ。「とにかく空に向かおう!空の王って呼ばれるくらいだし!きっと空にいる!」バルドレがそう言うと、ルーナは頷いた。浅い考えだとは思うが、なんとなく理にかなっている。可能性は高さそうだ。しかしルーナにはそれ以上に、ラオムが気がかりで仕方なかった。雷炎の龍をぶつけた時に、あの化け物は笑っていたように見えたからだ。それも当然で、太古の昔から空の王と激しくぶつかり合っていたこともそう。15年前に、その存在だけで国を壊滅させたこともそう。全て今のルーナの全力ごときでどうにか出来るわけがない証明となっている。「バルドレ。とにかく急いで空に向かおう!」「もちろん!」「でも気をつけて。いつまたあの黒いサークルが現れるかわからない。」「だよねぇ。あれだけ幻想的な一撃を見せてもらったから言いにくかったけど。あの化け物は、仕留めれていないよねぇ。」「当然だ。時間稼ぎにしかならない…。」ルーナの悔しげな表情が切なかった。「気に病むことはないよ。そのおかげでこうして生き延びれたわけだし。ほら?言ったでしょ?生き残ることが勝ちなんだって!」バルドレは、あえて陽気に振舞った。かなり空の奥地まで登ってきたようで、雲が下に見えている。「どこまで行けばい
ルーナには何が起きたのか理解できていなかった。ただ気づいた時には、瓦礫の上に倒れていた。全身が痺れるように痛む。内臓にもダメージが及んでいるのか、呼吸すらも苦しい。たった一撃。されどその一撃が、致命的なモノとなる。古の機械ラオムの恐ろしさは理解していたはずだった。でも…。それは想像を遥かに凌駕していた。「おまえ。炎と雷を使ったな?」塔の上の男の声だ。「おおかたあの忌々しい炎の巫女と空の王の娘。と言ったところか。」ルーナは気持ちで立ち上がる。「俺も。そこの古の機械も。おまえの両親には恨みがある。こんなところで憂さ晴らしができるとはな。」塔の上の男は高らかに笑った。バルドレが駆けつけてルーナの横に立った。「ルーナ。大丈夫なのかい?」「…なわけないでしょ
「まったく。次から次へと不思議なことばかりで頭が混乱しちゃうよ…。」バルドレは腰を抑えながら呟いた。「巻き込んでしまう形になって申し訳ない。」ルーナがそう言うと、バルドレは笑って答えた。「謝らなくて大丈夫!やっぱりキミといるとワクワクするよ。」「あなた。子供なの?」「キミよりは大人だと思うよ!でも芸術家なんて好奇心の塊だからさっ!」ルーナは聞き流すかのように足を進める。「待ってよ。」バルドレも後を追う。「ルーナさん。どこに向かうの?」「ルーナでいい。墓石に飲み込まれた時、チラッと目に入ったのだけれど。この空間には、記憶の具現化がされていると掘っていた。」「記憶の具現化?」ルーナは頷いて、話を続
老人は語り出した。「ロシェ•カエルム様は、太古の昔。空の国を統べていた国王で御座いました。歴代の空の王でもごく一部の者にしか扱えないとされる空を操る力を持っており、空の国歴史上最強の王と謳われております。そんな王の元、空の国は平穏な日々を暮らしておられた。」ルーナとバルドレは黙って聞いている。「しかし。空の国の中には、さらなる発展を求める者もおり…。彼らは叡智を絞り、王の目の届かぬ場所で、とんでもないモノを作り上げてしもうたのです。」「とんでもないモノ?」バルドレが聞くと、老人は頷いた。「古の機械ラオム。それを取り巻く古代兵器たち。しかし古の機械ラオムは、国の発展を望んだ科学者の気持ちとは裏腹に、国を乗っ取らんと空の国へと攻め入ったのです。異空間を自在に操る古の機械ラオム率いる古代兵器軍と、空の王ロシェ様、空の王の守り人である炎の巫女との戦闘は長きに渡ったと言われております。」「異空間を操るって……
バルドレの右腕に、ルーナは布を巻いた。「すまない。悪気はなかったんだ。」「わかってる。」ルーナはそう答えると、3人の老人に目を向けた。「話を続けましょう。」老人たちはまだ驚きを隠せていない。(この子…。リングなしで炎の力を使ったのみならず。雷までも生み出した。底なしの才能を秘めておる…。)真ん中の老人が、左右に座る老人に目で合図を送る。それに合わせて、左右に座る老人は立ち上がり、怪我をした従者たちの手当を始めた。そして真ん中の老人はゆっくりと立ち上がり、ルーナに声をかける。「ルーナ様。ついてきてくだされ。」「分かりました。」続いて老人は、バルドレの方に顔を向ける。「バルドレか…。ヤンガミが誇る天才絵師。まさか宝具を扱えるとは…。おまえもついてきたまえ。」「え?ボクも?」「誰にでも天命はある。」その老人の言葉に、バルドレは少し笑って答えた。「年寄りの言葉は重たいねぇ。」3人は広間から奥に繋がる廊下を進んだ。その先は行き止まりだ。巨大樹の中央付近なのだろう。吹き抜けになった呼吸口から通る風はかなり強い。老人が口を開く。「まさかワシの代でこの上に行くことが叶うとは……。」「どうゆうことですか?」ルーナが聞くと、老人は答える。「かつて空の国と信仰を築いていた時。ヤンガミの根幹はこの上にあったのです。この上には空の国とヤンガミの過去が眠っておる。そしてルーナ様。あなたのお父様ロシェ•カエルム様も太古の昔。この上の地で、空を学ばれたのです。」「お父様が太古の昔って。よくわからないね。」バルドレが口を挟むと、老人は鋭い眼光で突く。「わかってるよ。黙ってればいいんでしょ。」「バルドレ。風描きの筆を右の台座に置くのだ。」老人に言われた通り、バルドレは台座に置いた。「何も…起きないね。」バルドレは不思議そうに
街の中央に聳える巨大樹。使者のうちの1人が、その巨大樹に右手を当てた。そしてブツブツと何やら呟いている。(この3人·····。どこまで信用していいのかしら。)ルーナの中にある懐疑心は拭えない。しかし他にアテもないのでついてきたに過ぎない。使者が巨大樹から手を離した途端。まるで口を開くかのように、幹に裂け目ができた。「どうぞ。」使者に案内されるままに、ルーナはついて行く。「ここはヤンガミでも一部の人間しか知らない裏街です。」「裏街?」ルーナが聞き返すと、使者の1人が答える。「そうです。裏街は、太古の昔。空の国との交流を実際に行っていたヤンガミ人の純血の子孫しかおりません。」「ここが本当のヤンガミの歴史ってことね。」「その通りです。ヤンガミは今でこそ、アートの街なんかと持て囃されておりますが、本来は空の国の歴史を知る古き伝統の街でございます。その気持ちを失わぬように、表街と裏街に分けているのです。」そんな話をしながら、巨大樹の中の螺旋階段を登っていく。しばらく歩いていると、広間が見えてきた。「ルーナ様。お待たせしました。こちらへどうぞ。」使者の1人が、ルーナを広間の真ん中の席に座らせた。「何が始まるのですか?」ルーナが聞くと、使者は答えた。「空について。知っていただきます。」ルーナは辺りを見渡した。人数は15人ほど。自分の真正面には、明らかに威厳がある年寄りが3人。きっと彼らがここを統括しているのだろう。そして、その3人の後ろには、大きな壁画がある。空に向かって絵を描いている男性と、空に浮かぶ島?のような壁画。ルーナは先程の本を思い出す。(あれが宝具!)壁画の下に、ガラスケースで保管されている、羽のようなデザインの筆が目に入った。よく目を凝らすと、ケースの下に名が掘られている。(風書きの筆·····







