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第3話

Author: チビッコ
翌朝目覚めると、スマホの上部に未読メッセージが2件、静かに並んでいた。和智から、明け方に届いたものだった。

【愛してる】

【長い年月がかかったけど、俺たちついに結ばれたな】

その2行を、未知瑠はじっと見つめた。明け方の熱っぽい愛の言葉なんて、大方、穂月と睦み合ったあとの高揚感のまま、気休め程度に未知瑠へ送ってきただけなのだろう。

ふたりが同じベッドで肌を重ね、睦み合う光景を思い浮かべると、胃の中がひっくり返るような吐き気が喉元まで込み上げてきた。

彼女は無表情のままトーク画面を閉じ、寝室を出た。

寝室のドアを開けた瞬間、リビングのソファに座る和智の姿が目に入った。

彼はすぐに彼女の手のひらの傷に気づき、立ち上がって早足で歩み寄ってきた。

「その手、どうしたんだ?」

彼は未知瑠の傷ついた手首をそっと握り、申し訳なさそうな声で言う。

「昨日は飲みすぎて、色々よく覚えてないんだ。悪かった。結婚したら、もう二度とこんなことしないから」

未知瑠はわずかに口元を歪めたまま、彼が薬を取り出し、身をかがめて手のひらの傷を手当てするのを、されるがままにしていた。

穂月はソファに静かに腰かけたまま、ふたりの触れ合う手にじっと視線を注いでいた。その瞳の奥には、拭いきれない寂しさが揺れていた。

母はそんな穂月の様子を見ていられなかったのか、慌てて話題を変えた。

「はいはい、ただの小さな怪我でしょう。未知瑠は昔からおっちょこちょいなんだから。和智くん、今日の試着と前撮りの流れ、もう分かってるわよね?」

和智の手が、薬を塗る途中でふと止まった。顔を横に向けて、曖昧に返事をする。

未知瑠は手を引き抜き、うつむいて、自分の手のひらに残る、半分だけ薬を塗られた傷を見つめた。

乾いた笑みをこぼしただけで、それ以上何も言わず、立ち上がって洗面所へ向かった。

身支度を整えると、そのまま玄関を出た。

和智の車が門の前に停まっていた。彼女はためらいなく後部座席のドアを開け、身をかがめて乗り込んだ。

バックミラー越しに未知瑠を見た和智が、意外そうに片眉を上げた。

「昔はいつも穂月と助手席取り合ってたのに、今日は随分と素直なんだな」

未知瑠は何も答えなかった。

昔は毎回、彼女が嬉々として助手席のドアを開けようとすると、和智は決まって理由をつけて姉をそちらに座らせた。

「穂月は今日ヒールだから、後ろだと座りにくいだろ」

「穂月は少し車酔いしてるから、譲ってあげて」

「後ろの方が広いから、お前は後ろでゆっくり休んでろ」

本来、恋人である自分が座るはずだったその席に、長年座り続けてきたのは、いつだって姉の方だった。

昔の未知瑠は、自分を愛しているからこそ、自分の家族まで大切にしてくれているのだと思い込んでいた。

けれど今はもう、すべてを理解してしまった。これ以上、自ら惨めな思いをしに行く理由なんて、どこにあるだろう。

未知瑠は目を伏せ、何気なく車内のバックミラーに視線を走らせた。

鏡の中に映っていたのは、和智の首筋に浮かぶ、いくつかの薄赤い痕だった。

彼女は反射的に目を逸らした。心の底まで、冷え切っていくのが分かった。

店に足を踏み入れた瞬間、店員たちは一斉に穂月の周りに集まった。

華やかなウェディングドレスを次々と手に取っては、穂月の前で当てながら、口々に質問を投げかけている。

和智は少し後ろに取り残された未知瑠に気づくと、人だかりを離れて彼女の前まで歩み寄ってきた。

「気に入ったデザイン、あった?」

未知瑠は彼を見つめ、一瞬、ぼんやりとした。

まるで、これまでの記憶が一気に蘇ったかのようだった。誰もが目を姉に向ける中、和智だけは、いつも取り残された自分の方を見てくれていた、そんな錯覚に。

和智の眉間に皺が寄り、視線が彼女の頬に留まった。

「どうしたんだ、その頬。じんましんみたいに真っ赤になってるぞ」

ちょうどそのとき、両親が浮かれた様子で足早にやってきて、和智の腕を引きながら、スーツの試着を急かした。

「早くあのスーツに着替えてきなさい。穂月のドレスとぴったり合うのよ」

そう言い終えたところで、母はようやく未知瑠の赤くなった顔に気づいたのか、眉をきつく寄せた。

「またアレルギー?まったく、体弱いんだから」

母は少し考えてから続けた。

「まあ、あなたと穂月、体型が似てるし、いっそ穂月に試着も前撮りも代わってもらえばいいわね。あとで顔だけあなたに差し替えて加工すればいいし。あとで病院にでも行きなさい」

未知瑠は唇を微かに動かしたが、何も言わなかった。

それを見た和智が、手を伸ばして彼女の手首をつかんだ。

「どうしたんだ、今日ずっと様子おかしいぞ。昨日の夜、俺なんかしたか?」

積もり積もった悔しさと無念さが、喉元まで一気に込み上げてきた。あと少しで、すべての疑問を叩きつけてしまいそうだった。

けれど、まさにその瞬間。純白のウェディングドレスに着替え終えた穂月が、ゆっくりと歩み寄ってきた。

長い裾を床に引きながら、優雅な足取りで。

和智の意識は瞬時にそちらへ吸い寄せられ、無意識のうちに未知瑠の手首を握る手が緩んだ。視線はもう、穂月に釘付けだった。

未知瑠はうつむいて、離された自分の手首を見つめた。顔を上げたときにはもう、和智は穂月のそばまで歩み寄り、わずかに首を傾げて彼女の話に耳を傾けていた。

未知瑠は目を細めた。ふと、この光景を、もう千回も経験してきたような気がした。

いつだって、彼が彼女の手を離して、別の誰かの方へ歩いていく。

ただ違うのは、以前の未知瑠は彼の気持ちがいつか自分に戻ってくると信じていたということ。

けれど今の彼女は、もう二度と、自分から惨めな思いをしにいくつもりはなかった。

未知瑠は踵を返し、まっすぐに出入り口へと向かい、店を後にした。

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