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第11話 再会の夜

作者: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-06-02 20:46:29

 店を閉めたあとだった。

 時計の針は、もう日付が変わる少し前を指している。

 鏡子は最後のグラスを片付けると、小さく息を吐いた。

 今日も終わった。

 そう思った、その時。

 入口のベルが鳴る。

 閉店後のはずなのに。

 鏡子は顔を上げた。

 そして——固まる。

 扉の向こうに立っていたのは、一人の男だった。

 黒いコート。

 歳を重ねても失われない威圧感。

 静かなのに、空気を支配してしまう存在感。

 九條司。

 何十年も会わなかった男。

 それなのに、一目で分かった。

「……帰って」

 鏡子は静かに言った。

 司は動かない。

 ただ、こちらを見ている。

「久しぶりだな」

 低い声。

 昔と変わらない。

 胸の奥が痛んだ。

「帰ってと言ったの」

「嫌だ」

 即答だった。

 鏡子は思わず目を閉じる。

 昔からこうだった。

 この男は。

 人の話を聞かない。

「今さら何の用?」

 司はゆっくり店内へ入ってくる。

 足音だけが静かに響く。

「会いたかった」

 その言葉に。

 鏡子は笑った。

 乾いた笑いだった。

「三十年以上遅いわ」

 司は何も言わない。

 ただ、苦しそうに眉を寄せる。
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