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紗良は英樹と一緒に国内に戻った。家の中では、使用人たちが忙しそうに行き来している。その物音を聞きつけて、真司と浩平が階下へ駆け下りてきた。「ママ!」「ママ!もうどこにも行かないよね?この前のことは僕たちが悪かった。ママ、大好きだよ!」浩平は言葉をうまく話せなかったが、それでも、紗良の顔を見ると、恋しい気持ちを伝えずにはいられなかった。紗良は二人の体にある傷に気づいた。でも、だから何だというのだろう?自分が捨てたのは、英樹だけではない。この二人も、もう捨てたのだ。子供たちは熱心に話しかけるが、紗良の返事はそっけないものだったので、ほんの数言交わしただけで、二人は何かを察したようだった。そして、みるみるうちに目を赤くする。「ママ。本当に僕たちのこと、もういらないの……」紗良はちらりと目をやり、何か言おうとした。しかしその瞬間、英樹が子供たちの言葉を遮った。「変なこと言うな。パパは今からママに見せたいものがあるんだ。お前たちはここでおとなしく待ってなさい」英樹は優しく言った。紗良は彼らをちらっと見ただけで、結局何も答えなかった。紗良は英樹について地下室へと向かった。こんなに長く住んでいた家に隠し扉があったなんて、今日初めて知った。その扉は、まるで光さえも飲み込んでしまいそうなほど、暗く深い場所へと続いている。しかし、英樹はどこか期待に満ちた様子で先へ進み、ある部屋の前で足を止めた。いつも暮らしていた家の豪華絢爛な内装とはうってかわって、そこは不気味で暗く、光ひとつ差し込まない場所だった。英樹が壁のスイッチを入れると、ようやく部屋の全貌が紗良の目に飛び込んできた。彼女はさっと部屋を見回したが、おかしなものは何も見つからない。すると、英樹がプロジェクターのスイッチを入れたようで、壁に映像が映し出された。紗良は眉を顰める。映し出されたのは、美希だった。美希は拷問を受け、堕胎させられ、油釜に入れられる……たとえ自分を陥れた相手であろうと、紗良は他人の不幸を喜ぶような人間ではなかった。数時間にも及ぶ映像が終わると、英樹が興奮した声で口を開いた。「ほら、紗良。お前の代わりに罰を与えておいたよ。美希が海斗くんを殺したんだろ?だから、同じやり方で復讐してやったんだ。なあ、紗良。戻ってきてくれないか?これか
でも、それに気づくのが遅すぎたから、紗良は去ってしまったのだ。しかし、今はもう違う。紗良が許してくれるなら、どんなことでもする。英樹はそう覚悟を決めていた。紗良が自分のそばにいる生活を思い浮かべると、英樹の口元は自然とほころんだ。幸せな気持ちが胸に広がり、紗良に会える瞬間が待ち遠しくてたまらなかった。8時間のフライトを終え、飛行機は着陸した。英樹は愛する人に会うため、約束の場所へと急ぐ。約束の場所は、とあるカフェだった。英樹がドアを開けるとカランとベルが鳴る。店に入るとすぐ、隅の席に座る紗良の姿が目に入った。たった1ヶ月会わなかっただけなのに、まるで1年も経っているかのように感じる。だからか、ようやく紗良に会えた今、英樹は夢の中にいるような感覚に陥った。そして紗良は、ずいぶん変わったようにも見えた。自分と一緒にいた頃の紗良は、いつも家庭のことに追われていて、服装も至って簡単なものだった。しかし今では、カジュアルだが洗練された服を身に纏い、髪をすっきりとまとめ、白く細い首筋を覗かせている。その姿は、まるで昔に戻ったかのようで、出会ったばかりの自分に淡い恋心を抱いていた紗良そのものだった。英樹は数秒立ち尽くしてから、紗良の方へ歩み寄ると笑顔で声をかける。「紗良、久しぶり」今すぐ紗良を抱きしめたい衝動を必死に抑え、むさぼるように、そしてうっとりと彼女の顔を見つめた。「そうね。手短に済ませるけど、今日あなたと会うことにしたのは、私たちの関係をはっきりさせるため」昔話などする気のない紗良は、コーヒーを一口飲むと話を続けようとした。しかし、英樹が慌てて言葉を挟む。「言いたいことは分かってる。今までは俺が全部悪かったんだ。自分の本当の気持ちに気づいていなかったせいで、美希にお前を傷つけさせてしまった。紗良、今やっと気づいたんだ。俺は、お前を愛してる。本当に愛しているのは、お前だけなんだ」英樹は一息にそう言うと、瞳を輝かせながら紗良の返事を待った。想像では、あれほど自分を愛していた紗良なら、きっと許して一緒に帰国してくれるはずだった。しかし、目の前の紗良は最初から最後まで表情一つ変えず、ただ無感情に口の端を歪めただけだった。「英樹、もう遅いの。あなたの謝罪も、その愛情もね。話がそれだけなら、私はもう行くから。これ以
大量の出血で、呼吸がどんどん弱くなっていく。誰かが慌てて英樹を抱き起こしたが、それでも彼の頭にあったのは、美希を探しに行くことだった。薄れゆく意識の中、過去の出来事が少しずつ目の前に浮かんでくる。美希が事故に遭ったと知った時、英樹は毎日酒に溺れて、家族さえも英樹を見放すぐらいに、すっかり落ちぶれてしまった。そんな英樹に寄り添い、見守ってくれたのが紗良だった。彼が酔いつぶれた時には酔い覚ましの薬を飲ましてくれ、吐血した時には徹夜で看病してくれた。さらには、代わりに会社の仕事まで引き受けてくれ、紗良は一心に支え続けてくれていたのだった。英樹はそのことに気づいていなかったわけではない。ただ、美希の死によるショックが、あまりにも大きすぎたのだ。ある日、紗良を美希と間違えて、無理やり体を重ねてしまった。その時からようやく、紗良との関係を考えざるを得なくなった。あの時、紗良への好きという気持ちはあったのだろうか?その後、責任を取るために紗良と結婚した。そうして少しずつ美希の死から立ち直り、紗良との間に子供まで授かった。このまま一生を終えるのも、悪くない。当時、英樹はそう思っていた。しかし、人生には予期せぬことや後悔がつきものだ。美希が再び目の前に現れた時、英樹の心は過去に引き戻されてしまった。紗良への責任を取る。でも、自分がずっと愛していたのは美希なんだ、と自分に言い聞かせた。しかし、紗良は本当に去ってしまった。何の躊躇いも見せず、自分の世界から姿を消した。その時になってようやく、英樹は自分がとんでもない間違いを犯したことに気づいた。本当はずっと前から、紗良を愛していたのに。数えきれないほどの夜を越す中で、好きになったのは美希ではなく、ずっとそばにいてくれた紗良だったのだ。それなのに、過去への後悔と未練のせいで、紗良を失ってしまった。英樹は目を閉じ、苦しみの涙を流す。もしも、最初から迷わず紗良を選んでいれば……もしも、もっと早く自分の心に気づいていれば……もしも、紗良の言葉を信じていれば……頭の中でありとあらゆる「もしも」が浮かんでは消えていく。しかし、結局全ては手の中の一枚の紙切れが現実だった。【さようなら。探さないでいいからね。だって、あなたたちのことはもういらないから】「紗良!」英樹は、真っ青
英樹が事実を突きつけると、美希は頭をかきむしり、狂ったように泣き叫んだ。今、目の前にいる英樹は、自分が知っている英樹とはまるで別人みたいだ、と美希は思った。息もできないほどのプレッシャーが美希を押しつぶす。「英樹、何をするつもりなの……私がやったことは全部、あなたと一緒になるためだったのに」「俺がお前と一緒になると、いつ言った?俺の妻は生涯紗良だけだ。お前が彼女の代わりになれるわけがない」その声は氷のように冷たく、まるで嵐の前の静けさのようだった。美希は震えが止まらず、涙を浮かべて怯えながら英樹を見つめる。「あなただって紗良のことなんか、どうでもよかったじゃない!本当に紗良が大事なら、私と寝たりする?紗良の手を傷つけたりなんかする?私にこんなに優しくしたりする?あなたの心にも私がいたはず!あなたは紗良のことなんて、本当はそれほど愛してなかったのよ!」美希は声を振り絞って叫んだが、英樹の視線はさらに冷たく、冷酷なものになるだけだった。「お前が紗良と肩を並べられるとでも思ったのか?この身の程知らずが!代償を払うということがどういうことか、その身に刻み込んでやる」次の瞬間、縄が緩み、美希の体は油釜の中へと落ちていった。地下室に絶叫が響き渡ったが、数秒も経たないうちに、英樹は美希を再び引きずり上げた。ほんの一瞬だったにもかかわらず、美希の全身の皮膚は焼けただれていた。体中に激痛が走り、美しかった顔も肉が爛れ、血まみれになり、見るも無惨な姿になっている。「あぁっ!ああああッ!!」美希は、もはやまともな声も出せずに叫び続けた。「ごめんなさい、英樹、私が間違ってたわ!」しかし、その命乞いに耳を貸す者はおらず、英樹は再び手を離した。美希の体は、またもや油釜の中へと沈んでいく。再び激痛が美希を襲った。皮膚は焼け焦げ、油釜の中は血で赤く染まり、油がパチパチと跳ねる音が響く。しかし、すぐに美希はまた引き上げられ、そしてまた落とされた。生きることも死ぬことも許されない拷問が、何度も何度も繰り返される。目の前の男は、もはや地獄から来た悪魔のようだった。美希はこれ以上この痛みに耐えられず、もがいて縄を振りほどくと、自ら油釜へと身を投げた。「ああああああっ!」ジュウウゥゥ……肉が焼け焦げる音が響く。阿鼻叫喚のあと
英樹は冷たく背を向け、ドアへ歩き出す。その時だった。後ろから絶叫する声が聞こえ、振り返ると、美希がメスを手に突進してきて、英樹を容赦なく突き刺したのだ。最後の望みを絶たれた美希の目には、溢れんばかりの憎しみが燃え盛っていた。美希の表情は、もはや狂気そのものだった。痩せこけた体に、手術のまだ生々しい痕。美希は血走った目でメスを引き抜き、もう一度深く英樹に突き刺す。血の匂いが部屋に充満したが、美希はそんなことにお構いなしだった。その目には、ただ自分を苦しめ続けた男の姿しか映っていない。これが、復讐できる唯一のチャンスなのだから!「英樹!あなたも道連れにして死んでやる!」果てしない憎しみが、美希の心を完全に支配していた。メスが英樹の体にめり込むのを見ても、ただただ痛快だった。美希がもう一度刺そうとした時、英樹は手でメスをがっちりと掴んだ。手のひらが切れて血がに滲むが、英樹は構わずに力を込め、狂った美希を振り払う。その目は鋭く光っていた。「そんなに死にたいなら、望み通りにしてやるよ。お前の犯した罪を、ここで全て償わさせてやる」すると、油釜が運び込まれてきた。美希の顔から狂気は消え、みるみるうちに青ざめていく。彼女はただ後ずさりし、もう外の光を見ようとはしなかった。「やめて、やめてよ……」美希は何が起きるかを悟ったように、部屋の奥の壁まで後ずさる。油は熱く煮えたぎり、気泡が弾けていた。しかし、英樹に慈悲はなかった。彼はボディーガードに命じ、美希を縛り上げて油釜の真上に吊るさせた。熱気にあぶられ、美希の目からこぼれた涙が油に触れた途端、ジュッと音を立てて蒸発する。彼女は恐怖で顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。「英樹!こんなことしたら私、死んじゃうよ!お願い、許して!私が本当に悪かった!お願いだから助けて!このままじゃ死んじゃう!英樹!」美希はヒステリックに叫び続けた。その目には、恐怖と懇願の色しか浮かんでいない。「海斗くんはもう死んだ」英樹の声には何の感情もこもっておらず、ただ事実を告げるだけ。しかし、美希は英樹が何を言いたいのかすぐに理解した。それは、『死んで償え』ということ……でも、そんなことできるわけがない!必死に許しを求めた美希だったが、ロープはどんどん短くなり、油釜との距離は縮まっていくだけ。
地下室に閉じ込められた美希は、もう丸3日間も飲まず食わずだった。また、地下室には窓がなかったので、今が昼なのか夜なのか、時間がどれだけ経ったのかも分からなかった。意識が朦朧としてきた頃、目の前のドアがついに開いた。まぶしい光が差し込んできたが、美希はすぐには反応できず、ただ呆然とドアの方を見つめていた。英樹は長い間、美希を見下ろした。自分に向けられている視線に気づくと、美希の鈍っていた頭がゆっくりと働き始める。次第に視点の焦点が合い、その方向を見つめた。英樹だ!その瞬間、まるで希望の光を見たかのように、美希は勢いよく起き上がると英樹の足に抱きついた。「英樹!私が悪かったの、本当にごめんなさい。お願いだから許して。もう二度とあんなことはしないから!これまで私が全部悪かった。許してくれるなら何でもする。だから英樹、助けて……もうやめて。怖いよ、本当に怖いの……それに……それに私、あなたの子供を妊娠したの!」美希は涙ながらに訴えている。お腹を庇いながら話す彼女の瞳に浮かぶ恐怖は本物だったけれど、その中にはかすかな希望も見て取れた。英樹が目をやると、美希のお腹は確かに少し丸みを帯びていた。しかし、美希にはまだ許される機会があるというのに、紗良はもう自分のもとを去ってしまったのだ。そう思うと、英樹の心は全く揺らがなかった。「俺の子だと?どうやってその子が俺の子だと証明するんだ?」英樹の氷のような声に、美希の心は冷え切った。「産めば……産めば、DNA鑑定ができる。でも、絶対にあなたの子供だよ、英樹……」英樹は、感情を一切含まない声でふっと笑う。「その子が俺の子かどうかは、もうどうでもいい。生まれてくることはないんだからな。お前が色々裏でこそこそしてたのは、俺の妻の座に就きたかったからだろ?けど、言っておくよ。もう二度とお前に紗良を傷つける機会は与えないからな!」子供さえいれば希望が持てる、英樹の心を取り戻せると美希は思っていた。しかし、まさかこの子が、自分にとどめを刺すことになるとは夢にも思わなかった。美希は後ずさりながら、無意識に自分のお腹を庇う。「やめて、やめて……」男たちが部屋に駆け込んできて、美希の両腕を掴んだ。彼女をベッドに押さえつけると、別の男が道具を持って入ってくる。それが中絶