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2.突然のプロポーズ

مؤلف: 専業プウタ
last update تاريخ النشر: 2025-06-10 09:34:26

「失礼致しました。マーティン公爵殿下の頬にアブラムシが付いていたもので⋯⋯」

 アメリアは気まずそうに俯いたが、その顔を無理やりルーベンは上げさせ目を合わせさせた。ルーベンは明らかに不敵な笑みを浮かべていて、彼女は困惑した。

「借金まみれの貧しい男爵家の令嬢風情がやってくれるじゃないか。決めたぞ! アメリア嬢、俺と結婚しろ。そうすれば今回の暴行の件は不問にしてやる」

 冷たく言い放つルーベンに、彼女は思わず彼が自分の頬に添えている手を払った。

「私はカレブ公子様の助けにはなりたいと思いますが、マーティン公爵殿下と結婚はしたくありません」

「断れば、君の家を潰す。家族を路頭に迷わせたくないだろう」

 アメリアはルーベンの横暴な態度に目を見開いた。彼女は彼とは殆ど接点はなかったが、品の良い優秀な男だという噂は耳にしていた。目の前の人を見下し、妻の葬儀の日に婚姻を強引に迫る男は健やかな評判の人物とは別人に見える。

「私を所望しなくても、マーティン公爵殿下とご一緒になりたい令嬢は大勢いると思いますわ」

「俺は君が良いんだ」

 彼女は彼が嫌がる自分を妻にすることを楽しむような悪趣味な人間だと呆れた。アメリアは気がつくとカレブが自分にピッタリとくっついて不安そうに服の裾を掴んでいるのに気がつく。

「マーティン公爵殿下、私と結婚するならカレブ公子様に後継者教育をさせると約束してください。それから、私は公爵殿下と子作りをするつもりはございません。カレブ公子様に兄弟を作ってあげたいのでしたら、他の令嬢を当たってください」

 意を決して言ったアメリアの言葉にルーベンは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。その時の表情がアメリアにとっては忘れられない不快なものとなった。

 それから3ヶ月後、喪が明けぬままルーベン・マーティンとアメリアは結婚をした。

 ルーベンがアメリアの実家に自分たちの結婚話を持ちかけると、アメリアの実家は彼の財産に目が眩み娘をすぐにでも差し出したいと申し出たのだ。

 アメリアは実家の財状を慮ると何も言えなくなった。

 そうして、アメリアのマーティン公爵邸での生活が始まった。

 豪華絢爛とした公爵邸になれぬまま、与えられた部屋でアメリアはカレブが言葉を発せなくても意思を示せるようなカードを作っていた。

 扉をノックする音と共に返事も待たずに、扉が開く。

 薄手の寝巻き姿で机に向かっていたアメリアは扉の方を見て顔を顰めた。

「マーティン公爵殿下、何か御用でしょうか⋯⋯」

「何か御用? 今日俺たちは夫婦となり初めての夜なのだから、言わなくても分かるだろう」

 ガウン姿のマーティンを見て、アメリアはため息を吐いた。

「そういった事には応じないと申し上げたはずです」

 アメリアの毅然とした態度にルーベンは瞬いた。

 ルーベンは結婚して仕舞えば彼女も彼の価値に気がつき、自分のモノに自然となると思っていたのだ。

「強情だな。そこまで行くと頑固を通り越して、ツマラナイ女と言われないか?」

「私はツマラナイ女ですよ。だから、マーティン公爵殿下も私の事は放っておいてください」

 ルーベンの挑戦的な視線を受け流しながら、彼女は羽ペンを動かし続ける。

 彼は自分が相手にもされない事に腹を立てて、彼女の手を止めるべくその手を握った。その拍子に彼女の手から羽ペンが離れ床に落ちる。

「マーティン公爵殿下ではなく、ルーベンと呼べ! アメリア、君はさっきから何を書いて⋯⋯」

 ルーベンはアメリアの手元を見て、胸が詰まった。

 彼女はひたすらにカレブが心を伝える為の手段を作っていたのだ。

「カレブ様の身に何が起こったのか⋯⋯ルーベン⋯⋯あなたの口から聞かせては頂けませんか?」

 アメリアに名前を呼ばれた瞬間、ルーベンは感じた事のないような昂りを感じた。どうしても彼女を自分のモノにしたいと衝動的に強く思った。

「それは⋯⋯君が今宵俺のものになるというなら伝えるとしよう」

「では、結構です。私はカレブ様自身から聞きますから。すみません。今晩中にやりたい事があるので、自分の部屋に戻ってくれますか?」

 アメリアは面倒そうに言い放つと床に落ちた羽ペンを拾い、またカードを作り出した。

 ルーベンは自分が恥をかかされたような気分になりながらも、アメリアの底知れぬカレブへの愛情を羨んだ。その愛情を自分に向けられないかと彼は企みを巡らした。

「俺の花嫁は子供が好きなのか? それならば、俺と子供を作れば良いではないか」

 座っている彼女を後ろから柔らかく抱きしめながら、ルーベンは彼女の耳元で囁く。一見、女慣れしている男のする行動だが、彼は自分から女性にアプローチするのは初めてだった。

 彼は自分の部屋に1人戻る気にはなれなかったし、彼女の主張を聞いてやる必要もないと思っていた。

「子作りに関しては無しという契約だったはずです。私は自分の子が欲しいとも思ってませんし、ルーベンにも興味がありません」

  ルーベンはふと彼女の左手の小指についている水色の小さな宝石がついているリングが目に入る。

 彼が送ったダイヤモンドの婚約指輪もプラチナの結婚指輪も隣の薬指にはない。

「これはアクアマリンか?」

 彼は彼女の手をとって灯りに掲げながら呟く。

「いいえ、ガラス玉です。亡くなった母が昔、露天で買ってくれたものです。今ではこの指にしか入らないのですけれど⋯⋯」

 彼女は慈しむように指輪を見つめていた。

 結婚当日に結婚指輪を外すような女が子供がつける遊びの指輪を大切そうにしている。彼は自分の左手の薬指につけている結婚指輪を見つめているうちに沸々と怒りが湧き上がるのを感じた。

 頭に血が昇ったルーベンは彼女の唇に無理矢理自分の唇を押し付けていた。彼女はそれを面倒そうに受け入れた後、そっと彼を引き剥がす。その何も感じていないような態度は彼のプライドを少なからず傷つけた。

「もう、いいですか?」

 冷ややかに告げられた彼女の言葉は彼に死刑宣告のように届いた。

「ああ、邪魔したな」

 ルーベンは震える声で、そう返すのが精一杯だった。

 アメリアは前世から潔癖で頑固な女だった。

 彼女は前世でも自分の主張は少しも曲げずに、夫に歩み寄る事はなかった。

 そのような彼女の確固たる姿勢が、前世でも離婚原因の1つだったと彼女は知らない。

 アメリアはノックの音と共に、気まずそうに焦茶色のおかっぱ髪に黄緑色の瞳をしたメイドが入ってくる事に気がついた。

 アメリアが窓の外を見ると、既に日が昇っていることに気がつく。

 時間が過ぎるのを忘れて、カレブへの教材を作っていた自分に呆れてしまった。

「奥様、昨晩は⋯⋯」

 メイドが気まずそうに洗面の為のぬるま湯が入った桶を渡して来た。

「ありがとう。もしかして、初夜がなかった事を心配してくれている? これからも、私の部屋でルーベンが過ごす事はないから気にしないで。この結婚はそういう契約に基づいた結婚なの。ところで、貴方の名前はなんとおっしゃるの?」

「クロエです」

 名前を尋ねられた事もお礼を言われる事も初めてだったクロエは胸に温かいものが流れてくるものを感じ食い気味に返事をした。

「クロエ⋯⋯咲き誇る若い緑を意味する素敵な名前ね。貴方の優しそうな雰囲気にぴったりだわ。これから宜しくね」

 アメリアの言葉にクロエは思わず頬を染めた。

 7年もの間、表には出せない隠し事をし暗い雰囲気を持っていたマーティン公爵邸に新しい風が吹き込んで来ていた。

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  • 落ちてはいけない恋があったなんて   18.仮面舞踏会

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  • 落ちてはいけない恋があったなんて   17.仲の悪い姉弟

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  • 落ちてはいけない恋があったなんて   16.月だけがみていた

     もうすぐ夏だと言うのに、リンド王国はガルシア王国に比べ涼しかった。  地理的にもリンド王国はガルシア王国の北に位置する。  このホテルは見晴らしの良い丘にある街の中に建っていたから、高地であることもあり風が強い。 アメリアが震え上がるとカレブは彼女をより強く抱き寄せた。「街灯が付いてて街も明るいのに、誰も人が外に出てないのね」 「この時間は外出禁止命令を出したから、僕とアメリアの2人きりだよ。まるで、この世界に2人だけみたいだね。本当にそんな世界があったら良いのに⋯⋯」  うっとりと語ってくるカレブにアメリアはまた不安になった。 アメリアはリンド王国の法律に関する絶対的な法則を思い出した。この国において、王族は絶対的な存在だ。法律だけでなく、多くの法令も鶴の一声で覆せる発言権をリンド王国の王族は有している。  アメリアは街を貸切するような状況を楽しめる性格ではなく、恐縮してしまうタイプだった。その贅沢を当たり前のように享受できるカレブは生まれながらに王族の血を引いている。 真夜中に銀色の月だけが浮かんで、2人を見ている。 ふとホテルを囲む泉に映る自分たちを見ると、知らない人が見たら恋人同士に見えるのだろうとアメリアは思った。 (籍が抜けようと、カレブはずっと私の大切な子だわ) 隣にいるカレブの顔を見上げると、彼がずっとアメリアを見つめていた事に気がついた。「アメリア、僕が君をどれだけ恋しく思っていたか分かる?」 「私だって、カレブが恋しかったわ。ずっと貴方に会いたくて堪らなかった」  アメリアはカレブがいなくなってから、体の半身を奪われたように生きた心地がしなかった。前世に多くの子と関わってきても、「自分の子供」と接するのは初めてだった。それゆえ、アメリアにとってカレブは特別な存在だった。 「アメリア、僕は本当にずっと君のことが⋯⋯」 カレブがアメリアの頬に手を添え顔を近づけた瞬間、彼女の目にカレブの後ろを通る鉄の棒を地面に差し込む灰色の作業服を着た人が見えた。「あっ、あの方は!」 「アメリア⋯⋯それは、その内分かるから今は僕に集中してくれる?」 「私、あの人が何をする方か知ってるわ。ああやって操作して、泉の中から噴水を噴射するんでしょ。来月からこのホテルで噴水ショーが実施されるらしいわよ」  アメリ

  • 落ちてはいけない恋があったなんて   15.あなたが選んだ服

    「アメリア、何を読んでるの?」  カレブが興味深そうにアメリアの手元を覗く。  その姿は先程の選り好みしている彼とは違い好奇心旺盛の子供のようだった。 「リンド王国についての本よ。ガルシア王国とは全く異なる文化を持っているようだから失礼がないように学んで置かないと」 「アメリアは本当に真面目だな。王族の僕と一緒にいればアメリアが注意される事はないのに」 「注意をされるとか、されないと言った問題ではないの。カレブと一緒にいる私がマナー違反をしたら貴方が恥をかくわ。それに、カレブが暮らしている国を知りたいのよ」 アメリアが微笑みながら言った言葉は、カレブの心を満たした。彼は毎日のように持ち歩いているガルシア王国の書式の離婚届をアメリアの前に差し出す。毎日のように見せられるそれにアメリアは脱力しため息を吐いた。   「アメリア、今日こそは離婚届を書いてくれる? 僕はアメリアの為を思ってあの人から離れた方が良いと言ってるんだ。僕はアメリアには幸せになって欲しい。母上のように不幸にはなって欲しくはないんだ」 カレブがルーベンがグレースを不幸にしたと思っている事にアメリアは反論したかったが我慢した。「一緒に手紙も同封しても良いなら⋯⋯離婚届を書くわ」 カレブが毎日何度も離婚届を書くよう言ってくるので、アメリアは自分の欄だけ署名してカレブに渡した。彼女はこれ以上、彼がルーベンを悪く言うのを聞きたくなかった。 カレブは離婚届に記載されたアメリアのサインを見て満足したよう声を弾ませた。 「これは、僕が責任を持ってマーティン公爵邸に送っておくね。はぁ、これでやっとひと段落だ。⋯⋯アメリア、ゆっくりで良いから僕を見て欲しい」 カレブはアメリアの頬に軽く口付けを落とすと、足取り軽やかに部屋を出て行った。「私はいつも貴方を見てるわ、カレブ⋯⋯」  アメリアが苦々しい思いで呟いていたのを彼は知らない。  彼女はベッドサイドのサイドテーブルに置いてあるリンド王国の新聞を手に取り、その日付にため息をついた。ルーベンに黙ってマーティン公爵邸を出てから、もう1ヶ月以上も経過していた。 アメリアは現状を伝える手紙をルーベンに書いたが、アメリアの手紙をこっそり抜いてカレブはマーティン公爵邸に離婚届を急ぎで送った。 アメリアがクロエの手伝いで入浴と寝

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  • 落ちてはいけない恋があったなんて   3.永遠に続くカードゲーム

     カレブが部屋でいつも1人で食事をしていると聞き、アメリアは彼を連れ出した。 ダイニングルームに行くと、既に着席しているルーベンがアメリアと手を繋いで入って来るカレブを睨みつける。 その冷ややかな視線からカレブを守ように、アメリアは自分の隣にカレブの席を用意した。「おはようございます。ルーベン。今日は日差しが強そうですね」 少し眩しそうにしたアメリアを見て、ルーベンはメイドにカーテンを閉めるように伝えた。 彼女が微笑みで彼に礼を言うと、彼は気まずそうに目を逸らす。 前菜としてパテとサラダの付け合わせが運ば

  • 落ちてはいけない恋があったなんて   1.禁断の出会い

     恋は落ちるもの。 アメリア・デイビス男爵令嬢は恋も愛も知らなかった。 現在18歳のライラック色の腰までのウェーブ髪に透き通るアクアマリンのような空色の瞳をした彼女は人目を引く美しい令嬢だ。 彼女には前世の記憶があった。 前世で彼女は臨床心理士だった。  彼女は仕事で多くの障がい児に関わってきた。 「障がいのある子ども」がいる事で仲違いする夫婦も見てきた。 彼女は子供を持つことを恐れた。 自分が結婚しても子供を持ちたくないとお見合い結婚したパートナーには伝えた。 納得してもらったはずの条件は5年経つと離婚原因となった。 1人になった彼女は、生き辛さを抱えた子たちと関わる

  • 落ちてはいけない恋があったなんて   8.初めてのときめきと安堵

     外商が屋敷を訪れる2日前からカレブは体調を崩した。アメリアは寝ずにカレブに付き添い看病をした。正直、彼女は自分の買い物などする気になどなれなかった。 扉をノックする音と共にルーベンがカレブの部屋に入ってくる。「アメリア、少し休んだ方が良い。今、下に外商が来ているが、また出直させようと思う」「カレブもやっと眠れたところなので、今から買い物を⋯⋯建国祭のドレスを作らないとですよね」  アメリアは立ち上がった途端、眩暈がしてルーベンに支えられていた。  正直、立ち上がるのもやっとなくらい彼女は肉体的にも精神的にも疲弊していた。「君のサイズでドレスを作っておくよ。俺の好みで良いならば」

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