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第11話(10)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-01-01 17:00:23

 そのとき、一際華やかな歓声が耳に届き、反射的に振り返る。どうやら、他の広間でも結婚披露宴が行われるらしく、こちら同様、招待客が集まっているのだ。

 男性客の服装は、和彦も含めてどうしても限られているが、それに比べて女性客の服装は、ドレスや着物にスーツと、目で楽しませてくれる。感じる華やかさの大部分は、彼女たちのおかげだなと、和彦はつい表情を和らげる。しばらくこんな場とは無縁だったため、いい気分転換にもなっていた。

 ここで、受付の開始を告げるアナウンスがあり、招待客が静かに移動を始める。和彦も立ち上がると、ジャケットの裾を軽く引っ張りながら、服装が乱れていないか確認する。

 オーダーメードで仕立てる時間はないからと、賢吾とともにショップに出かけて買い与えられたブラックスーツだが、物自体は非常によく、高価なものだ。これを着て、長嶺組組長の名代として出かける機会が多くなるぞと、賢吾に囁かれたりもしたが、どこまで本気なのか、あの男に関しては本当にわからない。

 ジャケットの胸ポケットから、袱紗ふくさに包んだ祝儀袋を取り出し、受付に渡して記
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  • 血と束縛と   第23話(8)

     中嶋から聞いた内容を、秦は艶然とした笑みを浮かべながら賢吾に報告しただろう。いや、それ以前に、すでに中嶋から賢吾へと報告済みかもしれない。 和彦が関係を持つ男たちは、和彦の情報を当然のように共有するのだ。情も利害も絡んだ、妖しいネットワークだ。「……ぼくは、彼に感謝しないとな。気分が塞ぎ込みそうになっていたところを、助けてもらった」「セックスして先生に感謝されるなんて、羨ましい立場だ」 秦が楽しげに洩らした言葉に素早く和彦は反応し、慌てて周囲を見回した。「それで……、ぼくに渡したいものってなんだ」 ああ、と声を洩らした秦は、隣のイスに置いた小さな紙袋を差し出してきた。「出張のお土産で、香水です。なんとなく先生に合いそうだと思って。嫌な香りでなかったら、仕事が休みの日にでも使ってください」「ありがとう……」 紙袋を受け取った和彦は、香水の香り以上に、秦がどんな仕事で、どこに出かけていたのかが気になる。ちらりと視線を向けると、秦は秘密をたっぷり含んだ艶やかな笑みを返してくる。その表情を見ただけで、和彦が何を尋ねても、『出張』について答える気がないとわかった。 ランチが運ばれてきたところで、腕時計で時間を確認する。秦とのおしゃべりを楽しみながら、優雅に食事ができるほどの余裕はあまりない。「――お土産を渡すためだけに、わざわざ来てくれたのか?」 食事をしつつ和彦が率直に疑問をぶつけると、秦は首を横に振った。「中嶋と話していて、なんとなく決まったことなんですが、せっかくなので先生も誘おうという話になったんです」「何を……」 つい反射的に警戒してみせると、楽しそうに秦は口元を緩める。「三人で、花見をしませんか。とはいっても、人ごみの中でにぎやかに飲むわけではなくて、ビルから夜桜を見下ろしながら、という形になりますが」「花見、か」 昨夜千尋から聞かされた、総和会の花見会のことが頭に浮かぶ。暖かくなってきて、物騒な男たちが精力的に動き始めたような気がし

  • 血と束縛と   第23話(7)

    **** 和彦の顔を一目見るなり、端麗な容貌の男は表情をわずかに曇らせる。 それが芝居がかって見えるのは、この男の美貌ゆえか、それとも胡散臭い存在のせいか――。 頭の片隅でちらりとそんなことを考えた和彦は、唇をへの字に曲げてテーブルにつく。「……ぼくの顔に何かついているか?」 あえてぶっきらぼうな口調で問いかけると、今日の昼食の相手である秦は肩をすくめた。ごく一般的なレストランなのだが、この男が正面に座っているというだけで、とてつもない贅沢をしているような気がしてくる。 平日ということもあり、周囲のテーブルを占めるのは、ビジネスマンやOLたちだ。ノーネクタイのやや砕けた格好の和彦と、きちんとスーツを着てはいても、見るからに普通の勤め人ではない秦の組み合わせは目立って仕方ない。「少し居心地が悪いかもしれないが、我慢してくれ。午後一番に予約が入っているから、あまりクリニックから離れるわけにもいかないんだ」 ランチを頼んでから和彦がぼそぼそと言うと、秦は穏やかに微笑む。「気にしないでください。わたしの都合で、先生につき合ってもらっているんですから」 午前中、秦から連絡が入り、渡したいものがあるので昼食を一緒に、と言われたのだ。断る理由もないため和彦は誘いに乗ったが、何を渡されるのか、いまだに教えられていない。 おしぼりで手を拭く和彦の顔を、秦がじっと見つめてくる。最初は気づかないふりをしていたが、次第に苦痛になってきて、仕方なく和彦は口を開いた。「……なんだ」「先生もしかして、少しお疲れですか?」 鋭いなと思いつつ頷く。「昨夜はあまり……寝てないんだ」 酔っ払った千尋がやってきて、そのまま深夜まで体を重ねていたのだ。そこに、キッチンの片付けという労働も加わった。 十歳も年下の青年相手の痴態が生々しく蘇り、知らず知らずのうちに頬が熱くなってくる。そこに、さらに羞恥を煽るようなことを秦が言った。「――わたしが出張している間、

  • 血と束縛と   第23話(6)

    「お前は子供かっ」 和彦が抗議する間にも千尋の手は油断なく動く。腰を掴まれて、尻を突き出すような扇情的な姿勢を取らされていた。さんざん擦られて広げられた内奥の入り口は、濡れて蕩けたままだ。千尋は悠々と、高ぶりを押し当ててくる。「――こんなに甘やかしてくれるんだから、俺は先生の前では、子供のままでいたい」 口ではそんなことを言いながら、内奥に押し入ってくる千尋のものは充実した硬さと逞しさを持ち、立派な大人だ。「あうっ……」「甘えられるうちに、たっぷり先生に甘えておかないと。――明日には、どの男の腕の中にいるかわからないからね」 ドキリとするようなことを呟いた千尋が、乱暴に腰を打ち付けてくる。熱いものを内奥深くまでねじ込まれ、和彦は声を上げながら締め付ける。素直な欲望が一際大きくなり、脆くなっている襞と粘膜を強く擦り上げてくる。「うあっ、あっ、千尋っ……、千尋っ」「いいよ、先生。中、ビクン、ビクンって痙攣してる。感じてる、よね?」 律動の激しさに、足元から崩れ込みそうになる。和彦は必死にカウンターにすがりつき、その拍子に水がまだ入っているボトルを倒してしまう。こぼれた水が床へと滴り落ち、足元を濡らす。それに気づいた千尋が、ふっと律動を止めた。「あー、床が濡れちゃった」 そう洩らした千尋が、背後から和彦の耳に唇を押し当ててくる。同時に片手が、開いた両足の間に入り込み、興奮で震える和彦のものを握り締めてきた。 次の瞬間和彦は、賢吾と千尋がいかによく似ているか強く実感した。「先生、あとで俺が床を拭くから――漏らして見せて」 耳元に注ぎ込まれた言葉に、頭の芯が揺れる。強い羞恥と興奮のせいだ。「……嫌、だ……。そんな、はしたないこと……」「言っただろ。先生にいっぱいいやらしいことをして、辱めたいって。これは、頼みじゃない。俺から、オンナへの命令」 千尋が緩く腰を動かし、和彦のものを扱き始める。和彦は呻き声を洩らして腰を揺らした。

  • 血と束縛と   第23話(5)

     残念だ、という言葉を呑み込んだ和彦は無意識のうちに、千尋の左腕に巻かれた包帯に指先を這わせる。それに気づいた千尋が、笑いながら教えてくれた。「次の治療で、タトゥーの残りの部分全部にレーザー当てるらしいんだ。あとは様子を見て、という感じ。カサブタが剥がれたところから、けっこう消えていってるしさ。傷跡も、思っていたより醜くないし、けっこう順調だよ」「苦労して消して、次は、本格的に刺青を入れるのか……」「そう。時間をかけて、一生ものの本気なのを」「――……こんなにきれいな体と肌をしているのに、な」 千尋の剥き出しの肩を撫で、ぽつりと和彦は洩らす。引き止めたい気持ちがある一方で、千尋の父親である賢吾の、艶かしくて生々しい大蛇の刺青が脳裏に蘇り、胸の奥で妖しい衝動が蠢く。どんな図柄を入れるつもりなのか知らないが、千尋のきれいな体に彫られる刺青は、さぞかし映えるだろうとも思ってしまう。 和彦のわずかな変化を感じ取ったのか、千尋が熱い吐息を洩らして唇を吸ってくる。「考えるだけでゾクゾクする。俺の体に入った刺青を、先生が撫で回してくれるのかと思ったら」 千尋の熱に刺激されたのか、身震いしたくなるような欲情が急速に和彦の中で大きくなる。そんな自分自身に戸惑い、慌てて千尋を押しのけてベッドから出ていた。「先生……?」 イスにかけてあるバスローブを取り上げて、和彦は上擦った声で応じる。「喉が渇いたから、水を飲んでくる。お前にも持ってきてやるから、待っていろ」 バスローブを羽織り、半ば逃げるように寝室を出る。キッチンに入った和彦は、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを二本取り出す。一本を開けて、さっそく口をつける。 喉を通る水の冷たさのおかげで、自分の体がどれほど熱くなっているのか実感できた。ほっと安堵の吐息を洩らしたところで、前触れもなく背後から抱き締められる。驚いて振り返ると、裸の千尋がにんまりと笑いかけてきた。気配も感じさせずに、和彦のあとを追いかけてきたのだ。「……待っていろと言っただろ」

  • 血と束縛と   第23話(4)

    ** 汗に濡れた茶色の髪に指を絡めていると、何かを思い出したように千尋が顔を上げる。和彦の腕の付け根辺りに顔を埋めておとなしくしていたため、とっくに眠ったのかと思ったが、こちらを見上げてくる千尋の目は、まだ爛々と輝いている。  行為のあとの気だるさを持て余している和彦とは、大違いだ。 「どうした?」 「今晩、じいちゃんと飲んだときさ――」  この状況での守光の話題に、和彦は微妙な表情となる。いくら千尋に知られたとはいっても、取り澄ました顔ができるほど、図太い神経はしていないのだ。正直、守光との関係に対して、まだ戸惑っている最中だ。 「花見会の話題が出たんだ」 「……先日会長と旅行に行ったとき、少し説明してもらった。警察からは、総会と呼ばれていると……」 「そうだよ。警察にとっては、春の訪れを感じる行事らしいよ。なんといっても、大物ヤクザが勢揃いだから、対応が大変だ」  腕枕をしている和彦の腕が痺れるとでも思ったのか、ごそごそと身じろいだ千尋が頭を上げる。 「新年会は、あくまで身内のための会なんだ。総和会に名を連ねる十一の組の人間しか参加が許されない。だけど花見会は、それ以外の組や団体からも人が集まる。この世界の人間は注目してるんだよ。今年はどこに、総和会会長からの招待状が届くか、って。総和会からの覚えがめでたいと、けっこう美味しい思いはできるし、揉め事にも利用できるから」 「ぼくの理解している花見とは、ずいぶん規模が違いそうだな」 「すごいよー。でかい屋敷を貸し切ってさ。そこの庭で花見するんだけど、右を見ても、左を見てもヤクザばかり。俺は高校生の頃、オヤジに連れられて一度だけ行った。別に楽しくはなかったけど、気前のいいおっさんたちが、やたら小遣いくれるんだ」 「お前は変なところで大物というか、無邪気というか……」  いまさらながら、千尋がどれだけすごい環境で過ごしてきたのか痛感する。何よりすごいのは、そんな環境で揉まれてきながら、千尋が底なしの甘ったれだということだ。  和彦が髪を撫でてやると、千尋は心地よさそうに目を細め、顔を寄せてくる。唇を触れ合わせるだけのキスを繰り返しながら、話を続け

  • 血と束縛と   第23話(3)

     千尋はもう、若い獣らしい、危ういほど傲慢で魅力的な表情を取り戻していた。興奮と欲望で両目は強い輝きを放ち、和彦を威圧してくる。 トレーナーをたくし上げられ、露わになった胸元に千尋が顔を埋めてくる。和彦は、両腕でしっかりと、しなやかで熱い体を抱き締めてやった。 硬く凝った胸の突起に、千尋がしゃぶりつく。強く吸われたかと思うと、舌先で転がされ、歯が立てられる。その間にも、スウェットパンツを下着ごと脱がされ、手荒く欲望を掴まれた。「先生、すぐ入れたい」 切羽詰った声で訴えられ、和彦は片腕で千尋の頭を抱き締めて、もう片方の手を頭上に伸ばす。棚に置いた小物入れの中をまさぐり、潤滑剤のチューブを取り出して千尋に手渡した。 千尋はすぐに潤滑剤を指に取り、性急に内奥に施す。自分でトレーナーを脱ぎ捨てた和彦は、自ら両足を抱えて大きく左右に開く。恥知らずな姿勢を取ることに抵抗はあるが、今はそれ以上に、千尋の望むとおりにしてやりたかった。 千尋がもどかしげに、内奥の入り口に張り詰めた欲望を押し当ててきた。「あっ、ああっ――」 凶暴な熱が容赦なく、狭い場所をこじ開けるようにして侵入してくる。潤滑剤に濡れた襞と粘膜を強く擦り上げられ、痛みを感じる間もない。電流にも似た心地よさが背筋を駆け抜け、和彦はピンと爪先を突っ張らせる。千尋は軽く眉をひそめた。「……先生の中、ギュウッと締まってる。きつくて、俺の食い千切られそう……。でも、いいよ。すげー、気持ちいい」 和彦の両膝を掴み、千尋が腰を突き上げてくる。内奥深くで重々しい衝撃が生まれ、それがじわじわと肉の疼きへと変化していく。和彦は甘い眩暈に襲われながら、緩やかに首を左右に振っていた。「あっ、あっ、ち、ひろっ――。うっ、くぅ……、んうっ」「先生、俺より感じまくってるね」 笑いを含んだ声で言いながら、千尋の指に反り返った欲望を弾かれる。たったそれだけの刺激で、和彦のものは先端から透明なしずくを滴らせた。興奮したのか、内奥で千尋の欲望がドクンと脈打つ。そしてすぐに、大胆に腰を使い始めた。 いつに

  • 血と束縛と   第15話(32)

    「あぁっ――……」 声を上げた和彦が胸を反らすと、鷹津は大きく腰を突き上げ、内奥深くを抉ってくる。「お前のオトコは――三田村と言ったか、そいつも、こんなふうに攻めてくれるか? 奥を突いてやると、尻をビクビクと痙攣させて、感じまくる。あとは……、中に出されるのも好きだよな。男のくせに、男の精液を尻に出されて悦ぶなんて、お前は本当に、淫乱だ」 話しながら鷹津は、力強い律動を内奥で刻む。和彦を言葉で辱めながら、鷹津自身が興奮しているようだった。 和彦は悲鳴に近い声を上げながら、容赦ない鷹津の

    last updateLast Updated : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第15話(4)

    「組からの仕事は、組同士で話を通してくれればいい。だけど君個人が相手なら、ぼくは喜んで相談に乗るよ。これでも美容外科医だから、専門的なアドバイスをしてあげられる」「愛される愛人でいるために?」 見た目は砂糖菓子のように甘い由香だが、言うことはなかなか辛辣だ。和彦が返事に困ると、由香は楽しそうに声を上げて笑った。 だがすぐに、ふと思い出したように傍らに置いた紙を取り上げた。受付で渡している、このクリニックのパンフレットだ。「ところで佐伯先生」「何?」「クリニックの名前、ちょっと地味すぎると思う。『池田クリニック』って&

    last updateLast Updated : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第15話(16)

    ** 三田村と過ごすクリスマスイブの夜は、穏やかで、静かだった。時間が緩やかに過ぎていく感覚が心地いい。 小さなテーブルに向き合って座り、オードブルを食べながらシャンパンを飲み、他愛ない会話を楽しむ。普段と大差ない過ごし方かもしれないが、やはり今夜は特別なのだ。 用意のいい三田村は、男二人が食べるのに困らない大きさのケーキまで、しっかり買っておいてくれた。 ひとしきり笑った和彦は、切り分けられたケーキのクリームをフォークの先で掬うと、舌先で舐める。甘いものが好物というわけではない三田村も、黙ってケーキを口に運ぶ。こうする

    last updateLast Updated : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第14話(42)

     ここがホテル内のレストランであろうが、賢吾が一緒にいる限り、護衛が離れることはありえない。「――まだ、熱っぽい目をしてるな、先生」 笑いを含んだ声でそんなことを言われ、反射的に背筋を伸ばした和彦は、前に向き直る。賢吾が、じっとこちらを見つめていた。テーブル上のライトの明かりを受け、大蛇を潜ませた男の目は、ドキリとするような輝きを放っていた。 もし仮に、賢吾の素性を知らないまま出会っていれば、間違いなく和彦は、初対面で見惚れていただろう。賢吾は、忌々しいほど魅力的な男だ。「当たり前だ……。こっちはふらふらだってい

    last updateLast Updated : 2026-03-31
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