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第26話(20)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-04-22 11:00:11

 不器用で優しい男を、そんな気持ちで苦しめていいのか――。

 ふっと魔が差したように、そんなことが頭を過る。すると、中嶋に言われた。

「先生がそんなことを考えていると知ったら、多分三田村さんは、喜ぶと思いますよ。もっとも、あの無表情は変えないと思いますけど」

「……根拠は?」

「元ホストの勘」

 真剣に聞くのではなかったと、和彦は背もたれにぐったりと体を体を預ける。

「元ホストの勘で、もう一つ言いたいことがあるんですが」

「この際だ。なんでも言ってくれ」

「――三田村さんは、手に入れるためじゃなく、失わないために鬼になるタイプですよ。命がけで先生に手を出したんなら、死んでも先生から離れないでしょう。そんな人が、先生に振り回されたぐらいで参るとは、到底思えません」

 のろのろと姿勢を戻した和彦は、どういう表情を浮かべればいいかわからず、結局、聞こえなかったふりをしてコーヒーを啜る。

 空気の読める中嶋はそれ以上は何も言わず、澄ました顔でチョコレートを摘まみ
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  • 血と束縛と   第26話(20)

     不器用で優しい男を、そんな気持ちで苦しめていいのか――。 ふっと魔が差したように、そんなことが頭を過る。すると、中嶋に言われた。「先生がそんなことを考えていると知ったら、多分三田村さんは、喜ぶと思いますよ。もっとも、あの無表情は変えないと思いますけど」「……根拠は?」「元ホストの勘」 真剣に聞くのではなかったと、和彦は背もたれにぐったりと体を体を預ける。「元ホストの勘で、もう一つ言いたいことがあるんですが」「この際だ。なんでも言ってくれ」「――三田村さんは、手に入れるためじゃなく、失わないために鬼になるタイプですよ。命がけで先生に手を出したんなら、死んでも先生から離れないでしょう。そんな人が、先生に振り回されたぐらいで参るとは、到底思えません」 のろのろと姿勢を戻した和彦は、どういう表情を浮かべればいいかわからず、結局、聞こえなかったふりをしてコーヒーを啜る。 空気の読める中嶋はそれ以上は何も言わず、澄ました顔でチョコレートを摘まみ上げた。** さすがに夜は少し冷えると、開けた窓から外を眺めていた和彦は軽く身震いする。パジャマ姿で夜風に当たるのは、少々無謀だったようだ。 ただ、窓を閉めていては感じない夜風の冷たさや、街中とは明らかに違う空気の匂いは、堪能する価値がある。何より、静かだ。風が木々を揺らす音がせいぜいで、車のエンジン音すら響くことはない。本当に、周辺に人気がないのだ。 こんな環境に身を置くと、ふらりと夜の散歩に出かけたくなる和彦だが、それは明日の楽しみにしておこうと、静かに窓を閉めた。 ベッドの傍らを通り過ぎ、部屋を出る。廊下はぼんやりとした明かりで照らされているが、人影はない。立派すぎる別荘も、宿泊者が少ないときはただ寂しいだけだなと思いながら、和彦は隣の部屋の前へと行く。 露骨な気遣いを示した中嶋は一階の部屋を利用しているため、二階で休んでいるのは、和彦ともう一人しかいない。 ノックもせずに静かにドアを開けると、室内の様子がわかる程度には明るかった。光源は、音量を抑えたテレビだ。和彦は足音を

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