로그인一方の南郷は、生まれは本人が語っている通りだとして、居場所を求めて這い上がり、今は総和会内で守光の隠し子ではないかと噂されるほどの側近となった。そして和彦は、英俊とは違う道を歩むよう言われ、医者としての人生を送ると同時に、佐伯家の異物として在り続けるはずだった。それがなぜか長嶺の男たちのオンナとなり、佐伯家の脅威となった。
南郷にどんな思惑があって、こんな話をしたのかは不明だが、和彦は警戒を強くする。 もし自分と南郷に重ねる部分があったとしても、親しみは感じない。そう心の中で誓って、椀を手に和彦は席を立った。南郷は、さすがにあとを追いかけてはこなかった。*
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別荘に戻った和彦を出迎えた吾川が、おやっ、という顔する。
「どうかされましたか、佐伯先生。顔が赤いですが」 長靴を脱いだ和彦は、反射的に自分の顔に触れる。実は車中でずっと、顔どころか体も熱くなって気になっていたのだ。暖房が効きすぎていたのだろうかとも思ったが、そうではない。和彦のあとから玄関に入ってきた南郷が、答えを口にした。「わしにとっては今でも、長嶺組は大事だ。代々引き継いできたとはいえ、わしが育てて大きくした組織でもある。できる限りのことをして、息子に残してやれた。それなのに、あいつは……」 子供の悪戯を窘めるような、柔らかな声音だった。だが和彦は、ゾクリとするような寒気を覚える。「長嶺組をそうしたように、今度は総和会を盤石な組織にするために、あれこれ策を講じている最中だ。そこに、和を乱すような身勝手は許せん。今の長嶺組が、総和会の力なくして、これまで通りの活動ができると思っているとすれば、思い上がりも甚だしい。わしがどれだけ手を尽くして、長嶺組を守るために、総和会での影響力を強めてきたか――」 守光の口調が熱を帯びたのは、ほんのわずかな間だった。我に返ったのか、平素の穏やかなものに戻る。 和彦は静かに息を呑んだあと、あることに思い至る。切り出していいものか逡巡したが、正面に座っている守光の目が見逃すはずもなく、水を向けられる。「何か言いたそうだな、先生」「――……賢吾さんの身勝手というなら、そもそもの原因はぼくです。ぼくがいなければ、あの人は……、大それたことを考えもしなかったはずです」「どうだろうな。あんたも知っての通り、賢吾は総和会と距離を置きたがっている。本心としては、長嶺組から総和会に人をやることすらしたくないだろうな」 守光の目に冷徹な光が宿る。「言い方を変えるなら、あんたがいるからこそ、賢吾は総和会と関わりを断てない。もしかすると、あんたが現れなければ、もっと早くに言い出したかもしれんのだ。長嶺組として、総和会で活動する気はないと。……わしが会長に就いたとき、長嶺組の影響力の大きさは約束されたものだったが、賢吾は戸惑っていた。そのときすでに、兆候は出ていたのかもしれん。そして今は、さらに大きな力を自分が得るかもしれないという可能性を、厭うている。わしにとっての危惧は、総和会が抱えたままの不穏分子より、自分の息子だ」 守光の口ぶりから、やはり、と思わざるをえなかった。 守光は、いずれは総和会会長の座に、賢吾を就かせるつもりな
一方の南郷は、生まれは本人が語っている通りだとして、居場所を求めて這い上がり、今は総和会内で守光の隠し子ではないかと噂されるほどの側近となった。そして和彦は、英俊とは違う道を歩むよう言われ、医者としての人生を送ると同時に、佐伯家の異物として在り続けるはずだった。それがなぜか長嶺の男たちのオンナとなり、佐伯家の脅威となった。 南郷にどんな思惑があって、こんな話をしたのかは不明だが、和彦は警戒を強くする。 もし自分と南郷に重ねる部分があったとしても、親しみは感じない。そう心の中で誓って、椀を手に和彦は席を立った。南郷は、さすがにあとを追いかけてはこなかった。** 別荘に戻った和彦を出迎えた吾川が、おやっ、という顔する。「どうかされましたか、佐伯先生。顔が赤いですが」 長靴を脱いだ和彦は、反射的に自分の顔に触れる。実は車中でずっと、顔どころか体も熱くなって気になっていたのだ。暖房が効きすぎていたのだろうかとも思ったが、そうではない。和彦のあとから玄関に入ってきた南郷が、答えを口にした。「イノシシの肉を食ったせいだろうな。滋養が高いから、身が燃えてるんだろ」「……体が温まるって、そういう意味ですか」「たっぷり分けてもらってきたから、晩メシは肉パーティーだな。シカの肉もあるぞ、先生」 ちらりと笑みを浮かべた吾川がすぐに表情を隠し、こう切り出してきた。「少し早いですが、昼食を召し上がりませんか? そのあと、会長がお話があるそうですから」 いよいよかと、反射的に和彦は背筋を伸ばす。「いえ……、お腹は空いていないので。今からでも、会長のお部屋にうかがっても大丈夫ですか?」「では、少々お待ちください。お茶を淹れてきますから、一緒に参りましょう」 吾川がキッチンに向かい、和彦はその後ろ姿を見送ったあと、急に手持ち無沙汰となる。ダウンジャケットを部屋に持って行こうかと逡巡していると、南郷が片手を突き出してきた。「ジャケットを部屋に持って上がっておく」 ここは素直にお願いし、茶器とおしぼりの載った盆を手
粗野で暴力的な空気をまき散らす南郷の存在は、明らかに浮いている――はずなのだが、数人のグループと話している南郷を見て、和彦は困惑する。大柄で強面ではあるが、人のよさそうな笑みを浮かべた男が、そこにいたからだ。 見た目は南郷なのだが、中身は別人と入れ替わったかのように雰囲気が違っている。 誰よりも大きな笑い声を立てた南郷は、今度は別のグループに声をかける。自分が後ろ暗い存在であることをおくびにも出さない、朗らかな声と表情で。 擬態だ、と咄嗟にそんな単語が頭に浮かんだ。演じているという表現より、相応しい。 結局、イノシシの解体を最後まで見たうえに、振る舞われたイノシシ汁まで味わうことになり、和彦は倉庫の外に置かれたベンチに腰掛けて、椀に口をつける。「美味しい……」 ぽつりと一人感想を洩らしたところに、椀を手にした南郷がのっそりとやってくる。やはり、と言うべきか、他に空いているスペースはあるのに、和彦の隣に腰掛けた。「さすが医者だな、先生。イノシシが解体されるところなんて初めて見ただろ。それで、平気な顔して肉が食えるんだ。やっぱり連れてきてよかった」「……イノシシの肉って、もっとクセが強いのかと思ってました」「獲ったらすぐに血抜きする。それが臭みのない肉にする秘訣だ。猟について行ったことがあるが、ここの主人の手際は見事なものだった。――参考にしたくなるほど」 最後の言葉は、南郷なりの性質の悪い冗談だろうと判断して、和彦は無視した。すると南郷が短く笑って汁を啜った。「イノシシ肉は、体が温まる」 独り言のように南郷が洩らし、さすがにそれについては異論はなく、和彦は小さく頷く。 沈黙したまま、ただイノシシ汁を味わっていても間が持たず、なんとなく息苦しさを覚える。いまさら席を立つ度胸が和彦にあるはずもなく、とうとう南郷に話しかけていた。「――……南郷さんも、猟をするんですか?」「俺は、しないというより、できない。わかるだろ。ヤクザが猟銃を持てないって理屈が。何より俺には〈前〉がある。ただし、ここの主人たちには、目
外で何をしていたのか、南郷が履いたブーツは泥だらけのうえに、マウンテンパーカーも肩の辺りが濡れているように見える。和彦の視線に気づいて、南郷は軽く自分の肩を払った。「別荘の周りを散歩してたら、枝から落ちた雪を被った」 はあ、と気のない返事をして、和彦はさっさと立ち去ろうとしたが、南郷に呼び止められた。「先生、すぐに暖かい格好をしてきてくれ。手袋は……、俺のでいいか。これから出かける」「これからって――」 和彦の言葉を遮り、急かすように南郷が手を打つ。何事かと、吾川がダイニングから出てきたが、南郷の姿を認めるなり、すぐに引っ込んでしまう。 仕方なく二階の部屋に戻った和彦は、ダウンジャケットを掴んで引き返す。玄関には、新しい長靴が置いてあった。その傍らで南郷がニヤニヤと笑っている。「これを履いてくれ。通勤用の靴じゃ、滑って危ない」 一体なんなんだと怒鳴りたい気分だったが、南郷が先に外に出てしまったため、あとを追いかけるしかない。 履いた長靴は、防寒用で暖かくはあるのだが、爪先の部分が余っている。おかげで歩くたびに、間の抜けた音がする。用意してもらった手前、文句を言うつもりはないが。 南郷が、見たこともない4WDに乗り込み、手招きをしてくる。すかさず和彦は背を向け、建物の中に戻ろうとしたが、クラクションを鳴らされて諦めた。「……どこに行くんですか」 4WDの窓から見る風景は、車高が高いこともあって少しだけ新鮮だ。だからといって、ハンドルを握る南郷との間に和やかな空気が流れるはずもなく、和彦だけがピリピリとしている。「晩メシの材料を仕入れに」 つまり少なくとも夕方までは、あの別荘に滞在するということだ。あからさまに失望するわけにもいかず、かろうじて無表情は保ったが、そんな和彦を横目で見て、南郷は唇の端に笑みを刻む。「先生、ジビエは食ったことあるか?」「……ジビエ肉とか言われるものですよね」「夜、あんたに昔話をしていて、ふと思いついたんだ。今朝、知り合いに連絡を取ったら、肉を譲ってやる
和彦は、自分が長嶺の男二人の間を取り成せるなどと、大それたことは考えていない。しかし、守光の腹の内は知っておきたいし、自分にできることがあるなら、可能な限りのことはしておきたかった。 そう、考えたのだが――。「健気なことだな、先生」 和彦の葛藤を見透かしたように、皮肉っぽく南郷が洩らす。首の後ろを掴んでいた手は、今は和彦の頬を撫でてくる。 再び唇を塞がれそうになったが、和彦は必死に顔を背けた。南郷はくっくと声を洩らして笑ったあと、前を開いたマウンテンパーカーの内側に和彦を抱き込んだ。煙草とコロンが混じり合った匂いと、南郷自身の体臭を嗅ぎ、ゾッとして体を離そうとするが、頑として南郷の腕は外れない。「〈今〉は、もう何もしないから、そう体を硬くしないでくれ。さすがの俺でも傷つく」 言葉とは裏腹に、どこか楽しげな南郷から、和彦は不穏なものを感じ取る。 危険だとしても、やはり夜のうちに別荘を抜け出すべきなのだろうが、こちらが諦めるまで、南郷は体を離す気はないようだ。上目遣いにちらりと見た途端に、食い入るように自分を見つめている視線とぶつかる。やむなく和彦は、南郷との抱擁をおずおずと受け入れた。 今は、そうするしかなかった。**** 喉の痛みで目を覚ました和彦は、喉元に手をやって、自分が寝汗をかいていることに気づく。夢見が悪かったというのもあるが、何より暖房が効きすぎているのだ。 暖房をつけて眠った記憶はないので、和彦が寝入ってから、誰かが部屋に入ってつけたのだろう。眠りが浅いと思っていただけに、気配を感じさせなかった侵入者にゾッとする。 ベッドに入った時間は遅かったが、寝起きはいつもより早いぐらいで、もう一度寝直そうかとちらりと考えなくもなかったが、人が起こしに来る状況が嫌で、諦めた。 クローゼットにあったチノパンツとタートルネックのセーターを着て部屋を出ると、微かに人の気配が伝わってくる。 おそるおそる一階に下りると、朝食の準備が始まっているらしく、ダシのいい香りが漂っている。現金なもので、ここで自分が空腹なのを自覚した。神経をすり減らしても、食
「――……何を設置したんですか?」「電気柵。見たことなくても、言葉から想像はできるだろう。張った電線に電気が通ってる。本来は獣を驚かせて追い払うものだが、ちょっと弄って、人間が怪我するレベルの電圧にしてあるから、迂闊に近づくなよ、先生」 脅しだと疑うには、目の前にいる男はあまりに物騒だ。ただ皮肉なことに、そんな男の話を聞いていくうちに、和彦が把握しているある一つの情報が、今のこの状況と結びついていく。 情報とは、一週間ほど前に中嶋からもたらされたものだ。南郷が隊員たちに行き先も告げず、何日か姿を見せていないと聞かされたとき、和彦は必然的に、守光から指示を受けて動いているのだろうと思った。それがまさか、自分に関わるものだとまでは、思い至らなかったが。「今はここに、余計なものは近づけたくないし、騒ぎを起こしたくない。そのための準備だ。……久しぶりに泥に塗れる仕事をして、なかなか楽しかった」「そう、ですか……」 応じた和彦の声は微かに震えを帯びていた。それを南郷に知られまいと、低く抑えた口調で続ける。「寒いので、中に戻ります」 足早に南郷の傍らを通り過ぎようとして、腕を掴まれた。和彦は咄嗟に怯えた表情を向け、南郷は意味ありげに目を眇める。 数十秒もの間、どちらも身じろぎをせず、言葉すら発しなかった。異様な空気に和彦は瞬く間に呑まれてしまったのだが、南郷のほうは相変わらず何を考えているのかうかがわせない。 寒さで歯が鳴る。それを恥ずかしいと思う余裕すら、もう和彦にはなかった。「……南郷さん、離してください」「あんたを追い立てている獣は、誰だ?」「えっ」「俺か、オヤジさんか。佐伯家の人間か、里見という男か。それとも、長嶺組長か」「何を、言って……」 和彦は腕を引こうとするが、ダウンジャケットの上からがっちりと南郷の指が食い込んでいる。「追い立てられるあんたは、実にいい。弱々しく青ざめて、それでも精一杯に気丈に振る舞って、持って生まれ
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する
指では届かなかった部分すら、鷹津の欲望は容赦なく押し開いていく。和彦は上体を捩るようにして苦痛から逃れようとするが、一方で、鷹津に支配された腰は、突き上げられるたびに淫らに蠢く。その対比を鷹津は楽しんでいるようだった。「……初めての男は、お前をどこまで開発してくれたんだろうな」 そんなことを洩らしながら、いつの間にか身を起こした和彦のものを片手に握り、律動に合わせて上下に扱いてくる。「いっ……、あっ、触る、な」「こんなに嬉しそうに涎を垂らしておいて、何言ってやがる。――尻がいいのか?
どこか楽しげな口調で呟いた賢吾に両膝の裏を掴まれ、足を抱え上げられる。何をされるのかと身構える間もなく、柔らかな膨らみに舌が這わされた。唇を噛んで声を堪えた和彦だが、淫らな愛撫にすぐに理性は陥落する。 熱い口腔に含まれて舐られると、はしたなく腰を揺すり、放埓に声を上げて感じてしまう。刺激が強すぎてつらくなってくるが、和彦がいくら賢吾の頭を押し退けようとしても、愛撫がとまることはない。「はっ……、やめ……、つらい、んだ」 和彦は必死に訴えながら、押し寄せてくる快感に爪先を突っ張らせる。顔を上げた賢
**** 何かと気忙しい日常生活を送っている和彦だが、それでも、一人になれば寛げる程度には、精神的なゆとりは持っている。 順応性が高いとか、柔軟な神経をしているとか、表現の仕方はいろいろあるだろう。どれも自分に当てはまっていると、和彦は自覚している。とにかく何が起ころうが、貪欲に受け止めてきたはずなのだ。 書斎にこもり、何をするでもなくデスクについた和彦は、深々とため息を洩らし、数瞬の逡巡のあと、小物を入れてあるボックスからメッセージカードを取り出す。一昨日、澤村から渡された誕生日プレゼントの財布に入