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第9話(20)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-16 14:00:27

 中嶋のそういう状況を救ったのが、秦なのだ。恩を感じる一方で、そんな相手を自分の利益のために利用するなど、果たして中嶋にできるのだろうか。

 その疑問に対する答えを、和彦は持たない。秦も得体が知れないが、ヤクザであるという一点において、中嶋も同じだ。

 車の後部座席に乗り込んだ和彦は、すぐにシートにぐったりと体を預ける。縫合手術だけなら普通はこんなに疲れないものだが、長嶺組の代紋を背負わされ、ヤクザに囲まれた状況でこなす手術は特別だ。体力よりも気力を消耗する。

 中嶋と会話らしい会話も交わさず、流れる景色を眺めていた和彦だが、すぐに、ある異変に気づいた。

「……来るときと、道が違う……」

 反射的に体を起こすと、バックミラー越しに中嶋と目が合う。悪びれた様子もなく中嶋は笑った。

「すみませんが、少しだけ寄り道させてください」

「だけど――」

「時間は取らせません。それに、先生を必ず、三田村さんの元に送り届けると約束しますから」

 考えさ
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  • 血と束縛と   第21話(11)

     守光と顔を合わせてから、和彦と総和会の関係は一気に近くなった。それは、知りたくない事情を知る機会が増えたということで、下手をすれば足元を掬われかねない。 それでなくても和彦は、〈長嶺の守り神〉と関係を持っている。目隠しの布一枚分の建前だが、総和会会長のオンナになったわけではないと、強弁できる。ギリギリのところで、複雑な総和会の事情に巻き込まれずに済んでいるのだ。 それとも中嶋は、すでに和彦が、守光と特殊な関係にあると考えているのだろうか――。 和彦は無意識のうちに、探るような眼差しを中嶋に向ける。すると、なんの前触れもなく中嶋が顔を上げた。ドキリとした和彦は、不自然に視線を逸らすこともできずうろたえる。じろじろと見ていたことを気づかれたのだろうかと思ったが、そうではなかった。「――先生、携帯鳴ってませんか?」 中嶋にそう言われて初めて、携帯電話の微かな震動音に気づく。傍らに置いたコートのポケットから取り出して表示を確認すると、鷹津の携帯電話からだった。軽く眉をひそめた和彦は、一瞬逡巡してから電源を切る。食事の最中に、鷹津と話をするためだけに席を立つのは抵抗があった。 和彦の行動に、中嶋は目を丸くする。「いいんですか? 遠慮なく出てもらっても――」「食事が終わってからかけ直す」 中嶋と一緒であることは、護衛の人間を通して長嶺組に把握されている。仮に急ぎの仕事が入ったとしても、中嶋経由で連絡が入るはずだ。 食事を続けながら和彦は、鷹津の電話の用件を想像する。考えられることは、一つしかなかった。和彦が調査を依頼していた件だ。 鷹津などいくらでも待たせればいいと頭の半分では思うが、残りの半分で、調査の結果が気になるし、蛇蝎の片割れである男の機嫌を損ねる厄介さも無視できない。「デザートとチャイを持ってきてもらいますか?」 気を利かせた中嶋に提案され、苦笑しつつ和彦は頷いた。** インド料理屋と同じフロアには、飲食店だけでなくさまざまなショップが入っている。少し見てきてもいいですかと言って、誘われるように中嶋が入っていたのは、インテリア雑貨屋だった。 一体何

  • 血と束縛と   第21話(10)

     さっそく和彦がスプーンを手にすると、さりげなく中嶋が言った。「いろいろと理屈を並べてますが、単純に、俺は先生を好きなんです。もちろん、秦さんも先生を好きですよ」 和彦は、ナンを千切っている中嶋をまじまじと見つめてから、ぼそりと応じる。「ぼくも、君は好きだ」「光栄ですね、先生にそう言ってもらえて」 ここで二人は、食えない笑みを交わし合う。ヤクザのオンナとヤクザがカレーを前にして、こうして互いの腹を探り合っているとは、誰も思いはしないだろう。普通に過ごしている限り、和彦も中嶋も、表の世界によく馴染む外見をしているのだ。 野菜カレーをまず口にして、その味に和彦は満足する。中嶋からエビカレーを少し分けてもらい、代わりに和彦は、チキンカレーを食べてもらう。 ラム肉のタンドール焼きを味わっていた和彦は、店内に一人で入ってきた男に目を留めた。食事を始めてから数組の客の出入りを見たが、一見して違和感を覚える。なんとなくだが、食事に訪れたようには見えなかったのだ。 和彦の直感は当たったらしく、スタッフに何か言った男はさっと店内を見回してから、まっすぐこちらにやってくる。セーターの上からダウンジャケットを羽織った、ラフな格好をした若者だ。年齢は千尋と同じぐらいに見えるが、持っている空気がおそろしく鋭い。「――お食事中、すみません」 若者はテーブルの傍らに立つと、一礼して低く抑えた声を発した。それを受けて、ここまで寛いだ様子を見せていた中嶋が表情を一変させる。口元には笑みを湛えながらも、冴えた目で若者を一瞥した。「上手く進んだのか?」 中嶋の問いかけに若者は頷く。「明日の朝、中嶋さんに立ち合って確認してほしいんですが」「わかった。今日はもういい。他の連中はまだ一緒に?」「車に待たせています」 二人のやり取りを聞きつつも、和彦は素知らぬ顔をして食事を続ける。賢吾とも食事をしていると、よくあることなのだ。立ち入ってはいけない話が多すぎるので、こうして聞こえていないふりをするのが一番無難だし、相手を警戒させないで済む。 中嶋は自分の財布を取り出すと、数枚の万札を若者に渡した。

  • 血と束縛と   第21話(9)

    「連れてきてから聞くのもなんですが、先生、香辛料が効いた料理は大丈夫ですか? ビルの中にいくらでもレストランはあるので、遠慮なく言ってください」「匂いを嗅いだだけでお腹が空いた」 和彦の言葉に、中嶋はちらりと笑みを見せる。「よかった。秦さんに教えてもらって、最近通うようになった店なんです」 テーブルにつくと、さっそく中嶋はカレーのディナーコースを頼む。その間和彦は、コートを脱いで隣のイスに置き、混雑する店内を見回す。複合ビルだけあって、商業施設だけでなく企業のオフィスもたくさん入っているためか、いかにも会社帰りといった様子の人も多い。 表向きは健全なクリニック勤めの和彦はともかく、きちんとスーツを着て、見た目はごく普通のハンサムな青年である中嶋は、こういう場ではよく馴染む。 頬杖をついた和彦がじっと見つめていると、視線に気づいたのか、中嶋が首を傾げた。「どうかしましたか、先生。そういう悩ましい目で見られると、ドキドキするんですが」「言うことが、本当に秦に似てきたな――」 ここで和彦は姿勢を正す。さきほど車内で交わした会話もあり、純粋な好奇心からこんなことを尋ねていた。「君は、バレンタインはどうだったんだ。秦と一緒に過ごしたのか?」 唐突な和彦の質問に、さすがの中嶋も虚をつかれたのか目を丸くする。いくら秦の影響を受けようが、ここで澄ました表情で返せないのが、中嶋らしい。ヤクザに見えない切れ者ヤクザも、プライベートな話題にはガードが甘い。「チョコレートは渡したのか? それとも渡されたほうなのか?」「……すごい話題で攻めてきますね、先生」「ぼく相手に、バレンタインという単語を持ち出したほうが悪い」 車内での会話を思い出したのか、ああ、と声を洩らした中嶋は、予想外の反撃をしてきた。薄い笑みを浮かべつつ、堂々とこう言ったのだ。「バレンタインデーに、チョコの代わりに秦さんと買いに行ったんですよ。――一緒に寝るためのベッドを」 和彦はさりげなく左右のテーブルに視線を向けてから、抑えた声で応じる。「順調そうだな」「もう秦さん

  • 血と束縛と   第21話(8)

    **** 和彦は、ここ最近忙しさもあってサボりがちだったジムに行き、体を動かしていた。忙しいとはいっても、基本的に座り仕事が多いし、移動は車だ。気を抜くとすぐに運動不足になる。数年ぶりに熱を出して寝込んだことで、普段からの体作りの大切さを思い知った。 ランニングマシーンでたっぷり走ってから、軽めのメニューをこなし、ウェイトコーナーに向かう。置いてあるベンチに横になり、腹筋のトレーニングをしてみたが、やはり少し筋力が落ちているようだ。 クリニックを開業してから、ようやく生活のリズムが掴めてきたところなので、ジム通いの回数を元に戻そうかと和彦は考えている。組からの仕事が入らなければ、比較的夜は時間が取れるのだ。ただし、賢吾に勝手に予定を押さえられなければ、という前提で。「――あまり、病み上がりという感じじゃないですね、先生」 ベンチの傍らに立ったジム仲間に声をかけられ、和彦は首の後ろで組んでいた両手を離す。 久しぶりに体を思いきり動かして汗だくになっている和彦とは違い、中嶋は首筋や額にうっすらと汗をかいている程度だ。日常的に体を動かしている人間とは、こういうところで差が出るらしい。「サボっていたツケだな。体が重くて仕方ない」 中嶋に片手を差し出され、その手を掴んで和彦は体を起こす。館内の時計を見上げると、二時間近く、無心に体を動かしていたようだ。「そろそろシャワーを浴びに行きませんか?」 中嶋の言葉に頷き、和彦は立ち上がる。クリニックを閉めてから、この後、中嶋と一緒に夕食をとるのだ。 今晩ジムに行くと、和彦が中嶋の携帯電話にメールを送り、中嶋の都合がつけばこうして合流する。お互い忙しいうえに、いつ仕事で拘束されるかわからない境遇なので、不確実な約束を交わすより合理的で、気楽なのだ。 今日はもう、ジムで中嶋と顔を合わせた時点で、護衛の組員には帰ってもらっている。時間を気にせず、中嶋と食事を楽しむためだ。 慌しくシャワーを浴びて髪を乾かすと、ジムのロビーに下りる。すでに中嶋は待っており、携帯電話で誰かと話している。和彦の姿を見るなり電話を切り、一緒に車に向かう。

  • 血と束縛と   第21話(7)

     賢吾と千尋は、奔放に乱れる和彦をじっと見つめていた。興奮して強い光を放つ目は怖くもあり、優しくもある。向けられる眼差しにすら、和彦は反応してしまう。「……先生、もうイク?」 甘えるような声で千尋に問われ、頭の中が真っ白に染まるのを感じながら夢中で頷く。すると、内奥深くを抉るように突き上げられた。一度目で全身が快感に痺れ、二度目で瞼の裏で閃光が走る。一拍遅れて、下腹部が濡れるのを認識した。二人の男たちが見ている前で精を放ったのだ。 和彦のその姿に刺激されるものがあったのか、ふいに賢吾が内奥から欲望が引き抜く。そして傲慢な表情で、和彦の胸元に向けて精を迸らせた。 賢吾としては、〈オンナ〉を精で汚すことで所有欲を満たしたのかもしれない。被虐的な悦びに浸りながら和彦は、そんなことをぼんやりと考える。「さあ先生、甘ったれの子犬が待ちかねているぞ」 和彦の頬を手荒く撫でてから、賢吾が笑いを含んだ声で囁いてくる。意味を理解したときには、弛緩した和彦の体はうつ伏せにされ、腰を抱え上げられた。挑んできたのは、すっかり興奮した千尋だ。「千尋、待っ――」「優しくするね、先生」 言葉とは裏腹に、蕩けた内奥の入り口に余裕なく熱いものが押し当てられた。「あうっ」 ぐっと内奥に挿入され、声を洩らした和彦は背をしならせる。賢吾の形に馴染んだはずの場所は、すでにもう千尋のものをきつく締め付け、快感を求めると同時に、甘やかし始める。千尋の息遣いが弾み、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、うあっ……」「先生の中、すごく、熱い。熱のせいかな。それとも、オヤジがめちゃくちゃにしたから?」 意地の悪い問いかけに答えられるはずもなく、和彦は唇を引き結ぶ。すると、いつの間にか枕元に移動した賢吾に顔を覗き込まれ、唇を指で割り開かれた。 口腔に入り込んだ指が蠢き、粘膜や舌を擦られる。内奥での律動を繰り返されながらそんなことをされると、唇の端から唾液が滴り落ちる。賢吾は目を細めて言った。「いやらしくて、いい顔だ。加虐心をそそられて、めちゃくちゃにしたくなる」

  • 血と束縛と   第21話(6)

     賢吾の指は休みなく動き、和彦の内奥の入り口を解すように擦り始める。唾液を施されながら刺激されているうちに、柔らかくなりかけた肉をこじ開けるようにして、指が内奥に侵入してきた。「あぁっ――」 自分でもわかるほど必死に、賢吾の指を締め付ける。物欲しげな内奥の蠢動を楽しんでいるのか、賢吾の指が緩やかに出し入れされ、襞と粘膜を軽く擦り上げられる。和彦は息を喘がせながら敷布団の上で身を捩り、そのたびに浴衣がはだけていく。「こっちの肉も美味そうだ」 低い声でそう言って、賢吾が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起をいきなり口腔に含まれ、きつく吸い上げられた。「んうっ」 はしたなく濡れた音を立てて突起を愛撫しながら、賢吾は執拗に内奥を指でまさぐる。その指の動きに合わせて、和彦も声を抑えられなくなっていた。 爪先を突っ張らせ、腰をもじつかせながら、背を反らし上げ、賢吾から与えられる快感を味わう。そんな和彦の様子を、賢吾は射抜くほど強い眼差しで見つめてくる。「……気持ちいいか、先生?」 鼓膜に刻みつけるように囁かれ、和彦は頷く。寄せられた唇を甘えるように吸い、すぐに濃厚に舌を絡ませ合う。 内奥から指が引き抜かれ、熱く逞しい欲望が待ちかねていたように押し当てられた。性急に内奥を押し広げられる苦痛すら、大蛇と繋がっていく精神的愉悦の前では些細なことだった。「あっ、あっ、頼、む――、ゆっくり、してくれ……」 押し入ってくる欲望の感触をじっくりと味わいたくて、和彦はつい恥知らずな頼みを口にする。興奮したのか、内奥で賢吾のものが力強く脈打ち、一際大きくなったようだった。和彦は上擦った声を上げ、腰を揺すって反応してしまう。 病み上がりであることなど関係ない。求められて、和彦の体は悦んでいた。 和彦の頼みを聞き入れる気はないらしく、両足をしっかりと抱え上げた賢吾は大胆に腰を使い、内奥深くを犯し始める。突き上げられるたびに和彦は身を震わせ、声を上げ、反り返った欲望の先端から透明なしずくを垂らす。「本当に、いやらしくて、いいオンナだ…

  • 血と束縛と   第6話(28)

    「あうっ……」 声を洩らした和彦は、前に這って逃れようとしながら、首を左右に振る。「そこは、まだっ――」「先だろうが、後だろうが、感じまくるのは一緒だろ」 情緒の欠片もないことを言いながら賢吾は、慣れた手つきで和彦の柔らかな膨らみを揉みしだき始める。何度味わわされても、この愛撫の強烈さには慣れない。一瞬にして下肢に力が入らなくなり、愛撫を与えてくる相手に従わされてしまう。「あっ、あっ、あうっ」 巧みに蠢く指に弱みをまさぐられ、弄られる。強弱をつけて揉み込まれると、意識しないまま和彦は腰を揺

    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(32)

    「まあ、ぼくに何かあるはずもないので、護衛の彼らも暇なんじゃないかと――」 ふいに、ジャケットのポケットの中で携帯電話が鳴った。取り出して見てみると、長嶺組が、和彦の護衛に就く組員に渡している携帯電話からだ。 何事かと思いながら電話に出た和彦は、すぐに緊迫した空気を感じ取った。「何かあったのか?」『先生、今、トラブルが起きているんで、絶対、駐車場には来ないでください』「トラブルって……」『警官の職質です。駐車場に停めた車で待機していたら、突然パトカーがやってきたんです。通報があったと。いえ

    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(24)

     そんな会話を交わしながら、賢吾に片手を握られる。ドキリとして和彦が隣を見ると、賢吾が口元に薄い笑みを湛えながら、握った手を引き寄せ、唇を押し当てた。この瞬間、艶かしい感覚が胸に広がり、和彦は息を詰める。 運転席と助手席にいる組員の存在が気になるが、当然のように、賢吾は意に介していない。 何度も指先や手の甲に唇を押し当てられ、手を引き抜くわけにもいかず、だからといって素直に反応してみせるわけにもいかない。困惑していた和彦は、とうとうこの空気に耐え切れなくなり、口を開いた。「どこに――」「んっ?」 ようやく賢吾の動きが止まる。ここ

    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(7)

     反り返ったものの先端から、はしたなく透明なしずくを滴らせる。誤魔化しようのない快感の証だ。すると三田村は、和彦のものを握り締め、律動に合わせて上下に扱いてくれる。和彦は呆気なく、二度目の絶頂を迎え、精を迸らせた。 ここで三田村が深い吐息を洩らし、動きを止める。内奥では、逞しい欲望が脈打ち、三田村の限界が近いことを知らせてくる。 和彦は三田村の顔を撫で、伝い落ちる汗を拭う。微かに笑みらしきものを浮かべた三田村だが、次の瞬間には表情を引き締め、律動を再開する。 三田村が動くたびに、滴る汗が和彦の肌すらも濡らしていた。そして、汗だけではなく――。

    last updateLast Updated : 2026-03-21
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