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第5話

Author: 茶島
秘書が声を震わせた。

「ここ数日の帳簿を確認いたしましたところ、お嬢様名義の口座に異常が見つかりました……

おじい様が遺されたあのご遺産から、先日、多額の資金が引き出され、安井様の口座へ送金されています……お手続きを行われたのは、旦那様です。

急ぎ追跡いたしましたが、すでにその大半が使い果たされております。こちらがその明細です……」

頭を強く殴られたような衝撃が走り、千代子はしばらく茫然自失となった。

それは祖父が生前に遺してくれた、最後の贈り物だった。

孫娘が苦労せぬよう案じ、これからの生活に困らないよう、特別に用意してくれたものだった。

辰彦が、よりにもよってその金に手を付けるなどと……!

明細をひったくるように奪い、目を皿のようにしてその記述を追った。呼吸は荒くなり、両手の震えが止まらない。

明細には、生々しい記録が克明に刻まれていた。

典子はその金で両親に家を何軒も買い与え、海外旅行へと送り出し、さらに……避妊具までいくつも購入していた。

購入日時は、一週間前。

まさに千代子が無理やり土下座を強いられた、あの夜だった。

二人が何に耽っていたかは、火を見るより明らかだった。

自分が屈辱にまみれ、一睡もできなかったあの夜、辰彦は祖父の遺した金をあの女に貢ぎ、ベッドで肌を重ねていたというのか。

激しい吐き気が千代子を襲った。

トイレへ駆け込み、胃の中が空っぽになるまで何度も激しく吐き戻した。

秘書が悲鳴を上げ、慌てて医者を呼ぼうとしたが、千代子がそれを手で制した。

「いいから……」

荒い呼吸を整えようとするその声には、冷酷な響きが混じっていた。「弁護士に連絡して訴状を準備して。あの金、一円たりとも残さず、すべて取り返すわ!」

祖父が遺してくれた金が、典子のような女に少しでも汚されるなど、絶対に許さない。

秘書は深く頷き、すぐさま手配に動き出した。

千代子は目を固く閉じ、胸に渦巻く激しい感情をどうにか押さえ込んだ。

再び目を開いた時、その瞳にはすっかり冷徹な光が戻っていた。

あと数日で浜野へ帰る。今はまさに一番忙しい時期だ。

自分の計画を、こんな薄汚い連中のために狂わせるわけにはいかない。

翌日、千代子は車を駆って近くの高級デパートへと向かった。両親のためにオーダーメイドしておいた贈り物を受け取るためだ。

高級ブランド店の店員が愛想よく出迎えてくれた。

要望通りに仕上がった精巧な品々を目にして、わずかに心の憂鬱が晴れた。

会計を済ませようとした矢先、辰彦から着信があった。

受話器から聞こえる声は怒気をはらんでおり、もはやかつての穏やかな響きは微塵もなかった。

「典子を訴えて、さらに法外な賠償金まで要求しただと!?

弁護士が典子の店に突然やってきて、裁判所の通知書を貼り付けていったせいで営業どころじゃない!

おまけに、両親に買った家まで不正資金の回収を理由に差し押さえの手続きが進められてるんだぞ!

今、典子は行方不明だ。お前は一体何を企んでいるんだ!」

彼の詰問に対し、千代子の対応は異様なほど落ち着き払っており、その声にはむしろ微かな悦びすら滲んでいた。

「自分の金を取り戻して何が悪いっていうの?お爺様が遺してくれた金をあの女に汚されて、吐き気がしてるのはこっちの方よ!」

「本当に話が通じないな」

辰彦の声が冷たくなる。

「あの日、典子はお前のせいで精神的に深く傷ついたんだ。だから俺は、慰謝料としてまとまった額を渡してやったというのに」

「慰謝料?」

千代子は鼻で笑い、爪を手のひらに深く食い込ませた。

「私の金で浮気相手に慰謝料を払う権利が、あんたにあるとでも?辰彦、あんたなんかを選んだ私の目が曇っていたのよ!

私の二億がなかったら、あんたは今頃道端で野垂れ死にしていたところよ!あの安っぽい花売りの女がお似合いね!

離婚よ!あんたたち最低のクズ同士、一生くっついてればいいわ!」

その言葉に、電話の向こうが水を打ったように静まり返った。

辰彦は息を詰まらせた。

「……離婚を盾にして俺を脅すつもりか?」

しばらくして、彼は怒りを通り越したのか、フッと鼻で笑った。

「いいだろう。千代子、今回はいくらなんでも度が過ぎた。俺もこれ以上、情けはかけないからな」

そう言い残して、電話は一方的に切られた。

数分後、店員がカードを手に、困惑した面持ちで千代子に声をかけた。

「申し訳ございません、浅田様。こちらのカードはすべて利用停止となっており、ご利用いただけないようです。

お会計は四百八十万円でございますが、いかがなさいますか?」

……カードが止められた?

誰の仕業か即座に悟り、千代子は歯を食いしばって辰彦に電話をかけた。

だが、一回、二回、三回……合計十九回かけても、一度も応答はなかった。

延々と続く呼び出し音の中、店員の表情から少しずつ愛想が消えていく。

最後の通話が切れた後、店員は気まずそうに口を開いた。

「浅田様、こちらのオーダーメイド商品はすでに完成しておりますため、契約上キャンセルや返品はお受けいたしかねます。もし本日のお支払いが難しいようでしたら、ご家族の方にご連絡をいただけませんでしょうか」

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