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第6話

Author: 茶島
辰彦が差し向けた黒服の男たちがデパートに現れて残金を清算すると、千代子は人けのない古い別邸へと連行された。

黒服の男によれば、主人はここで頭を冷やしてしっかり反省しろと命じたらしい。

千代子は道中、必死に抵抗し訴え続けたが、傍らの男は冷たく言い放った。

「奥様、私どもは旦那様のご意思で動いております。

旦那様はこう仰せです。『今の暮らしはすべて俺が与えたものだ。離婚したいと喚くのなら、俺から離れたお前がどうなるか、思い知らせてやる』と――」

頭から氷水を浴びせられたように、千代子の反抗心は急速に冷え込んでいった。

辰彦は、自分が先ほど直面した窮地を知っていながら、すべてを静観していたのだ。

……あの女から自分の金を取り戻そうとしただけで、すべてのカードを止め、こんな真似まで?

経験したことのない絶望が波のように押し寄せ、千代子を飲み込んだ。

手足は鉛のように重く、指先すらわずかに動かすこともできない。

この古ぼけた家で、地獄のように陰鬱な三日間を過ごすことになった。

大切に育てられた令嬢が、長く放置されていた薄暗く湿った埃まみれの部屋に閉じ込められた。

見張りの男たちからは冷たい目を向けられ、嘲笑され、乱暴に突き飛ばされた。

まともな食事など一度も用意されず、床に投げ捨てられたカチカチに乾いたおにぎりがいくつかあるだけだった。

三日後、ようやく男たちによって部屋から出された。

これで終わりかと思ったのも束の間、古い家の門を出た途端に再び車へと押し込まれ、一時間後にはバラ畑へと放り出されていた。

目の前に立つ、三日間自分を監視していたあの黒服の顔を見て、ついに千代子の感情が爆発した。

「辰彦は一体何がしたいの!?あの部屋に三日間も監禁しただけでは気が済まないの?」

全身が震え、涙で視界が滲む。

だが黒服の声には、微塵の感情もこもっていなかった。

「奥様。旦那様はこう仰っています。『典子の花屋を台無しにしたのはこれで二度目だ。だから、典子へのお詫びとして、自身の手で九百九十九本のバラを摘み取れ』と」

……一人に、九百九十九本も?

目の前の黒服をきつく睨みつけた。

「もし、断ったら?」

黒服は予想していたかのように、冷ややかな声で答えた。

「ならば、先ほどの部屋にお戻りいただき、反省を続けていただきます。すべて摘み終えるまで、解放はいたしません」

千代子は目の前に広がる果てしないバラの海をじっと見つめたが、その視線の焦点はどこにも合っていなかった。

この花畑は、四年前の結婚の時に、辰彦が手ずから植えてくれたものだ。一株数万円もする代物だった。

あの時の辰彦は目を細めて笑い、千代子をきつく抱きしめてくれた。

「千代子、ここにある花の一つ一つが、君への愛の証なんだ」

だが今、彼は千代子自身の手でそのバラを引き抜かせ、あの浮気相手への謝罪の品にしようとしている。

心が一度粉々に砕け散り、無理やり繋ぎ合わされたかのような錯覚を覚えた。

だがその後には、ただ空っぽの虚無感だけが残っていた。

愛も、憎しみも、もう何もない。

ただ這うようにして立ち上がり、淡々と呟いた。

「……ええ、分かったわ」

バラの棘は鋭く尖っているというのに、小さなハサミ一つ与えられていない。

素手で折り、引き抜くしかなかった。

時間の感覚が薄れていく中、手のひらだけが少しずつ血に染まっていった。

早朝から夕暮れまで、千代子はこの拷問のような作業をただ黙々と続けた。

手のひらの痛みはとうに麻痺し、ついに全身の力が抜け落ちた。

目の前が真っ暗になり、そのまま糸が切れたように気を失った。

再び目を覚ました時、そこは病院のベッドの上だった。

まぶたが重くて開けられない。

二度ほど咳き込むと、誰かの手がそっと額に触れた。

しばらくして、男が安堵したように息をつく音が聞こえた。

「ようやく熱が下がったな……もう大丈夫だ」

辰彦は包帯を巻かれた千代子の手をそっと握り、少し掠れた声で言った。

「たった数日、少しばかり花を摘ませただけで、こんな姿になってしまうなんて……

もう騒ぐのはやめにしよう。いいな?」

彼は俯き、手の甲に自分の額を押し当てた。

「典子が君の立場を脅かすことはない。千代子は正妻だ。だからこそ、典子に引け目があって、つい庇ってしまうんだ。君も……」

どうか大目に見てくれないか。

だが彼が言葉を言い終える前に、千代子はその言葉を遮った。

「分かったわ」

千代子は淡々と答え、そっと手を引き抜いた。

そしてもう一度、静かに繰り返した。

「これからは、もう騒がないわ」

目を伏せた。

いつもは勝ち気で華やかなその顔には、今は蒼白な中にもどこか大人しく従順な影が落ちていた。

辰彦の胸にふと一抹の不安がよぎった。

だが深く考える間もなく、秘書からの着信が彼の思考を断ち切った。

電話越しの声は途切れ途切れで、傍らにいる千代子の耳にははっきりと聞き取れなかった。

ただ「安井様がみつかりました……」という言葉の端々だけが微かに漏れ聞こえ、辰彦の顔がパッと明るくなった。

電話を切って、彼はようやく傍らの千代子の存在を思い出した。

「少し急用ができた。戻ってきたら、埋め合わせにプレゼントを買ってくるから。大人しく待っているんだぞ」

そう言い残し、そそくさと病室を立ち去った。

ほぼ同時に、千代子のスマートフォンに秘書から電話が入った。

「お嬢様、離婚届の提出と受理が完了いたしました。すぐに受理証明書をお持ちします」

「必要ないわ」

千代子は静かに言った。

「捨ててちょうだい。今はもう……あの人に関わるものは何も見たくないの。車を手配して。空港へ向かうわ」

*

一時間後、彼女は空港の搭乗口に立っていた。

飛行機の搭乗アナウンスと、辰彦からの着信を知らせるバイブレーションが、ほぼ同時に鳴り響いた。

だが千代子はその画面の名前を数秒間静かに見つめた後、ためらいなく着信を切り、スマートフォンの電源を落とした。

その端末を、傍らに控える秘書へと無造作に差し出した。

「これ、処分してちょうだい。もう必要ないわ」

そして、大股で搭乗ゲートをくぐり抜けた。

これから先、辰彦と二度と会うことはない。

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