LOGIN「すまなかった。まさか川村が犯人とは思わなかった」
流星は、事件の詳細をC県で聞かれた後、職場に戻って来た。
遺留品持ち出しの話は伏せておき、そっと元の棚に戻したから大丈夫だろう。軽く息を吐いたが、今置かれている状況を冷静に考える。
自分は、20年前の一家殺人事件の件で、上司から頼まれて有名な千里眼の女性に会いに行きヒントをもらおうとした。
しかし、その女性が、ホシだった川村の行動を言い当ててしまい、犯人だった川村から襲われた。これだけだと特に自身に何かの処罰が下されることはない。
そんなのに頼るなんてどうなんだ?という批判的な目とやっぱりあの女本物なんだという驚きの声が突き刺さるだけだ。
むしろ、プライベートの時間を使って行ったものであり、気の毒だと言う同情の声の方が多かった。
逆に、久保田はそのようなところに部下2名を行かせて、しかもそのうちの1人が犯人で、部下と民間人を襲うという前代未聞の事を起こし、微妙な立場となっていた。
「久保田さん、
少しすると瞳が机の上に温かいごはんと味噌汁、卵焼きと野菜炒めにお浸しを並べていく。「あの……本当に簡単なものしか作れなくて、がっかりさせたらごめんなさい」「いやいや、すごい美味しそうだよ。しかもこんなに短時間で何品も作るなんて凄いよ」目も心も満たされる和風の食事。しかも、いつも食事相手はスマホだったのに目の前に人がいて、こんな美女と会話をしながら食べられるなんて……ああ、神様!俺と瞳さんを救ってくださりありがとう!流星がそう心の中で拝むと、あの怒鳴り込んできた大家のサムズアップな顔が流れる。瞳にとっては碌な大家ではないが、あの人がいなければ出会っておらず助かってもいない。そんな流星の様子に気づくこともなく、瞳はご飯を見てうっとり両手を組み合わせる。「いただきましょうか?うわあ、段ボールじゃない机って久しぶりかも」机に並べられたご飯を前にそんな話を聞くと、あの瞳の部屋にあったダンボールに布をかけた机を思い出す。だがダンボールとまでは言わないが、流星の家の机もお互いが頭を下げたらゴッツンしそうになる距離だ。そんな近距離で女性と向かい合って食事をするだけで、動揺するなというのが無理だ。流星はお茶をドボドボ注ぎながらひたすら冷静に、冷静に、冷静に!と心で連呼し始めた。「大川さん、お茶こぼれてますよ」すぐ、こぼれたお茶を布巾で拭く瞳。だめだ!冷静になっても、胃袋も心も鷲掴みされてる。おかしいことは分かっても、軌道修正が出来ない。その後、二人で「いただきます」と手を合わせる。この距離感で!流星は、いよいよ持っている箸がカタカタ震え始めた。気の利いたことを言わなければ……ダメだ頭が真っ白だ。作ってくれてありがとう?素敵なご飯だね?ああ!こういう時なんて言って女性を喜ばせたらいいんだ?「熱々って美味しいですね。久
「占いは、自分にとって都合のいい言葉を告げてもらって、後押ししてもらいたいというその人の願望でもあるからね」流星も顔を曇らせて、瞳の話に眉を下げた。「はい、当時は5歳でしたから、本当に何も考えずに見たままを伝えてしまいました。でも、今も根本的に考えは変わっていないんです。やはり真実に基づいた話を中心に伝えています」「それは、真剣な相談じゃない時でも?」「そうですね、今までは温泉街で占いで細々生計をたててましたけど、少ししか能力は使いませんし、深刻なものもありません。一見さんばかりですからね。ただ、それでも真実に基づいた話をするように心がけています」「そっか……真面目だな」ここまでの行動を見ていて分かったが、瞳は融通が効かず不器用だ。お金をもらう限りは、倒れようと苦しもうと真実を探しにいく。そして、相手が望まない答えでも、それを告げるのだ。「言いたいことは分かってます。占いなら外れてもいいんです。でも、目の前に真実が見えていたら……それが、不幸になるとわかって都合のいい耳に心地の良い言葉を紡ぐのは詐欺のような気がしてしまうんです」「それが君の優しさなんだと思う。嘘を言っても責められない。でも、嘘をつくことで、その人が不幸になるのに目をつぶらないのは、相手を思い遣ってのことだろう?俺はそういうの嫌いじゃないよ」流星はそう呟いて、ん?と固まる。俺、今さりげになんて言った?「あ、あの!嫌いじゃないというのはそういうプロ姿勢というか……」慌てて、どう訂正するのが誤解を招かないのかパニックになる。それをキョトンとした顔で瞳は見て、思わず吹き出した。「大川さん、気を遣ってくださりありがとうございます」ツボに入ったのか、しばらく瞳は肩を震わせて笑っていた。「え、そんなにおかしい?」「いえ……ちょっと警察署の喫煙所の話を思い出して……いえ、こちらの話です。」
「それはよく逃げてきたよ」流星は、目の前でポロポロ涙を流す瞳に、気の利いたことも言えなければ、慰める具体的な行動も取れず情けなくなる。せめて、今後のことだけでも協力したい。間違いなくそのきっかけを作ったのが自分であることは、骨身に染みるほど痛感していた。「夜の街がダメなことはよくわかった。ただ、今後の生活のことを考えないといけないよね」瞳は、悪目立ちするぐらい可愛い整った顔立ちをしている。おそらく触れられる範囲なら、彼女に触れてみたいと思う男は多いだろうし、客という垣根を超えてもっとお近づきになりたい男もいるだろう。だが、そんな性的な思惑で触れられたらアウトなのだから、水商売は潔く諦めた方がいい。「ちなみに、今お金はどのくらいあるの?」「細々と貯めたお金とその店でもらった1万円から電車代を引いた残りですね」そう言って差し出して見せた小さながま口財布に少しだけ……千円札数枚と小銭……合わせて1万もあるかどうかだ。さらには、手荷物も少なすぎる。ちらっと持って来たバッグに視線を移し、瞳の物の少なさを知り、流星は唖然とした。「家を借りるにしても、敷金礼金足りないな。やっぱり、どこかに居住地を決めないと、行政サービスも受けられないぞ」「それが……住所を決めてしまうと、あなた方のように相談に来る人が絶えないんです」そう瞳に軽く睨まれて言われると、流星はぐっと言葉に詰まり、偉そうにいう資格などなかったと項垂れた。そうだ……俺たちは、瞳が逃げ回っているのを知りながら、わざわざ探し出してまで追いかけた張本人じゃないか。考えれば考えるほど、瞳に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「……そうだな。俺たちみたいな奴がそうやってたくさん来るんだよね」瞳は、わかってくれましたか?と苦笑いして頷いた。「そうですね。最後の手段として藁にもすがるような気持ち
14 母から子への連鎖「えっ!いきなり夜の街へ?」話を聞いて流星は驚くが、瞳にはそれなりの訳がある。一つは母、愛の存在だ。悔しいが、瞳は愛の生き方しか見たことがない。占いとクラブやスナックで働いて、お金を稼いでいた愛。愛は、子連れだった事や、交際している男を連れ込むために個人で家を借りていた。しかし、店が手配した家に住んでいたホステス仲間が、何度か愛の元に泊まりに来ていたのを覚えていたのだ。「その手の店には、住み込みのある所があります。私は、この能力で騒がれた時期があり、中学もまともに出ていません。就くことが出来る仕事は限られます。ですが、お客様を良い気持ちにさせることが出来ないみたいで。結局、相手を怒らせクビになりました」瞳は店を追い出されたことを告げ、流星の前でぽろりと涙をこぼした。情けない……あの母にだってできた仕事が私はできない。男をひっかえとっかえすることを軽蔑していたのに、ひっかえとっかえどころか相手を怒らせてしまった。「えっ、でも君の顔立ちなら、静かに微笑むだけでも喜ぶ客がいそうだけど?」「いえ、それが人に触られるのが苦手なのです。意識しなくても、その手や体、物の見てきた過去が、勝手に見えてしまうことがあります」瞳はその時のことを思い出し、顔つきが嫌悪という形で思わず歪む。「最初のお店は、手を触れられた瞬間、隣に座っているホステスのゆかりさんとそのお客様の濃厚なベッドシーンが見えてきました。いえ、その手の歴史ですのでその感覚とか……」「うわぁ」それを思い出し、瞳は再びボロボロ涙が溢れてきた。なんで、男の人の経験もないのに、男側の触った感覚を味わわなければならないのか……流星も、慰めるために手を伸ばそうとしたのだろう。それを聞いて瞬時に引っ込めてもじもじする。「多分、リアルにその経験が直近だったからだとは思うんです。同伴もですが、お二人は世にいうセフレの関
「あ、あの、汚い部屋だけど……」そう言って玄関ドアを開けようとした流星は、ふと動きが止まる。待てよ……俺の周辺は、まだいろいろ聞きたがるマスコミがやっと消えつつある状態だ。正直、瞳とのことを面白おかしく記事に書かれたらどうする?彼女にも迷惑をかけることになるし、自分も色々聞かれたくない。かといって、こちらに問題があって彼女が追い出されたのは事実だし、顔色も悪いし、すぐ部屋で休ませてあげたい。いや、待てよ!とはいえ、さあどうぞと家に入れるのは危険すぎないか?もし、彼女に襲われたとか、何か言いがかりをつけられたら?「ちょ、ちょっと待って!」流星は、玄関ドアに手をかけたまま固まってしまった。どうしよう。アパート追い出された瞳の状況を知っている。そして、彼女は今、明らかに荷物を持って困っている。しかもそれは、自分の責任でもあった。ちらっと流星は瞳を見た。瞳は、流星の考えたことが分かったのか?「実は私……あの後、気がついたら病院にいまして帰ったら大家に追い出されたんですよ……理由は、言わなくてもご存知ですよね」ジト目で、真正面から流星を睨むように見つめてくる。「……そ、そうなんですか……」(ええ、俺のせいです。知っておりますとも……)じーっと瞳に無表情で見られて、何とも言えない圧力が……これは恨まれているよな。正当な対価と引き換えに、体調を崩しながら力を使った結果、目覚めたら顧客同士が刃傷沙汰のトラブルを起こした。それなのに、何もしていない彼女がトラブルを起こしたと部屋を追い出されてしまったのだ。更には、テレビ、週刊誌で顔まで出されてしまった。「ええと&hellip
「あれ?この鉛筆って、亡くなった男の子が持っていたものと同じ物ですか?」流星は、川村にすり替えた遺留品を渡す時に、鉛筆を一生懸命同じ長さに削って、少し古く見せるために木に水を含ませたりして工夫したのでとても印象に残っていた。うちの備品と同じ鉛筆だったから、うまく誤魔化せたはずだった。「遺留品の鉛筆とは別ですよね。同じ鉛筆が占い師の元にも運ばれるなんて?」「これなんだが、昔からうちの警察の鉛筆の備品はこの種類なんだよ」「20年変わってないんですね」「鉛筆だから、メーカーを変える理由もそんなになくてな。それで、仕事でポケットに鉛筆を入れたままにしてしまうことってお前もあるだろう?これは川村が使っていた鉛筆だ。指紋は堂前のものはなく、川村のものが検出された。」「同僚の妻が不倫相手のものだと夫が触れていない鉛筆を持って来たわけですか……」絶対とは言えないが、証拠品の一つにはなるだろう。「川村が遺留品を持ち出すときに、血のついていないものや事件と関係なさそうなものを探し出していたと倉坂瞳が話しています。もしかして、不倫に関係しそうなものも除去していたのかもしれませんね」瞳の能力を眉唾ものと思っていても、後ろ暗い人間の心理はわからない。結局、事件現場から離れた場所に転がった血のついていない鉛筆を選んだのは、もしも犯人だとバレたらという恐怖からのものだったのだろうか?流星はもう一度その鉛筆を見てあっ!と悲鳴をあげた。「俺、痛恨のミスしました。遺留品として川村に渡したものは2Bにしてしまってました。今、HBって使わないから……」最近はHB鉛筆が使われず、備品も2Bになっていた。鉛筆の塗装とメーカーのマークで判断してしまった。久保田は、なにやってんだとため息をつきながら、頭をポリポリとかいた。「遺留品のすり替えに気づいて、川村はお前をつけていたのかもしれないな。あと、倉坂瞳だが……」「あ、そうです!あの後のことが気に掛か







