逆転ヒロイン阻止株式会社 ~不運続きの私が人生逆転を決意したら謎のイケメンに阻止宣言されましたが、絶対に負けません~

逆転ヒロイン阻止株式会社 ~不運続きの私が人生逆転を決意したら謎のイケメンに阻止宣言されましたが、絶対に負けません~

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-21
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Bahasa: Japanese
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「僕は、お姉さんの人生逆転チャレンジを阻止するために現れた」 そう言い放ったのは、『逆転ヒロイン阻止株式会社』の名刺を差し出してきた謎のイケメンだった――。 不運続きの27歳OL・禿光凛は、彼氏にビジネスメールでフラれ、どん底の人生を逆転すべく投資や副業、転職に挑戦し始めた。 だがその前に立ちはだかったのは、19歳の高宮士元。 無数の資格とスキルを持つ彼は神出鬼没で、光凛が何かを始めるたび全力で妨害してくる。 しかしその妨害は結果的に光凛を最悪の結末から救っているようにも見えて……? 彼は敵か味方か、なぜ執着してくるのか。 不運体質のポンコツOLと謎多き青年が繰り広げる、ちょっと不思議な人生逆転ラブコメ。

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Bab 1

第1話 逆転ヒロイン阻止株式会社って何!?

「会社のメール!? しかも発注メールで!? ふざけんなー!!」

 こんなことってあるのだろうか? と、禿かむろ光凛ひかりは思った。

 開いたメールの送り主は、取引先の社員・相原亮二だった。東証プライム上場企業で主任を務めている人物であり、さらに言えば光凛の交際相手でもある。

 亮二とは仕事でのやりとりをきっかけにして知り合った。彼はその会社の社長の甥という血筋もさることながら、仕事ぶりの評価も非常に高く、将来を嘱望しょくぼうされているという。

「ヒカリ殿。いかがなされた」

 旧態依然な島型レイアウトのオフィス。光凛のデスクの向かいに座っていた同僚の宇治丸鹿之助うじまるしかのすけが、角ばった顔をモニタ越しに向けてきた。

「ビジネスメールのついでに振られたの!! ありえないでしょ!」

 メールの文面はほぼいつもの発注メールであったが、最後だけが違っていた。

『このメールをもってあなたとの交際は終了とさせていただく。今まで継続させていただいてきた週末のデート等についても、その一切を打ち切らせていただき、以後は前のような取引先の社員同士という関係に戻させていただく』

「なるほど。それは難儀でござるな。理由は何でござろうか」

「わからない。たった今『は? 何で?』って返したとこ」

 そう言ってため息をつくと同時に、光凛のメールアプリに未読1のサインが灯った。

「あ、返ってきた。早っ!! どれどれ……『既に交際は終了とさせていただいており、私は貴女とプライベートな関係はない。よってビジネス以外のご質問にお答えさせていただく立場にないため、一切の説明を控えさせていただく』……ふざけんなコノヤロー!!」

「政治家の答弁みたいなコメントでござるな。同情するでござる」

 癖のある文面ゆえ、亮二本人が書いたものであることは疑わなかった。

 光凛にとって、これは四度目の失恋であった。

 高校時代、同級生の彼氏は万引きで退学。大学時代、同じゼミの彼氏は教授を殴ってやはり退学。その後に付き合ったバイト先の彼氏は借金で夜逃げ。なぜか全員、社会からログアウトしてしまった。

 今回の相手は、おそらく将来の大企業役員、しかも容姿端麗。

 え? まさかの夢のような玉の輿コース?

 交際が始まったときはそう思ったものだが、突然の破局となった。

「あー、やっぱりわたしじゃ格差がありすぎて釣り合わなかったかー。最近さすがに危機感持ってさー、せめて彼に見合うような品を身に付けようと頑張ってたつもりだったけど、ちょっと遅かったかなー」

「マナー講師のセミナーや英会話に通っていたでござるな」

「そうそう! 全部無駄になったー。でもさあ、五年も付き合ってたら結婚とかも少しくらい期待するじゃん。メール一通で終了ってひどくない? もうわたし二十七歳だよ!? 女の二十代の五年は貴重なのに。くっそー!」

「またよい出会いがあるでござるよ。安心召されい」

「だといいけど!」

 憤慨しながら仕事を終えて会社のビルから出ると、ちょうど雨がちらついてきた。

「天気予報、ハズレかー。残念」

 タイミングの悪さに、思わず声を出してしまった。

 すぐ横のコンビニで傘は買えるものの、ビニール傘で700円台の出費はいただけない。とりあえずビショ濡れになるほどではないし、傘なしで帰ることにした。

 湿ったアスファルトの匂いは嫌いではない。

 だが信号運まで元彼の味方をしているかのように、ことごとく赤で足止め。

 結局、不快なレベルまで服が湿ってきた。

 スーパーに寄った光凛は、弁当コーナーへ直行した。

 半額シールが貼られた弁当に光凛が手を伸ばした、その瞬間――

 その弁当を、横から中年男性にかっさらわれた。

「残念だったね。いただきます」

「きー! どうぞ召し上がれ!!」

 仕方なく、残っていた定価の弁当を買い、スーパーを出ようとした。

「……ツイてないなあ」

 しかしそこで、青いシャツと赤いシャツを着た男二人組に呼び止められた。

「こんにちはー! カチグミTVでーす! ちょっとインタビューいいですかー?」

 戸惑う間にも、後ろにいたスタッフたちまで囲んできて断りづらい雰囲気となっていく。

「お姉さん、出身大学はどこ?」

「大学? 東南大ですけど」

「うわ! Fラン大学やないかー!!」

 赤シャツ男に対し青シャツ男が「Fラン言うな!」と突っ込んではいるが、フォローになっていない。

「今は仕事帰りですよね。勤務先は?」

「株式会社神紙しんし……?」

「知らんわー。どれどれネットで……零細やないかー!! 旦那さんか彼氏はいるの?」

「今日振られました」

「人生どん底キター!」

 すぐに光凛はプッツンした。

「ちょっと何のインタビューなのコレ! ただバカにしてるだけじゃないの!!」

「やっと気づいたー!」

「ふざけんなコラッ!」

「わーっ、逃げろー!!」

 赤も青も、撮影スタッフも、一目散に逃げていく。

 ヒールを履いている光凛は追えない。

「むむむむ……」

 散々な一日だった上に、会社の帰りに迷惑系動画配信者の標的になるという不運。

 幼い頃に両親が離婚したという極大不運から、自転車の前輪で避けたのに後輪で犬のウンチを踏むという極小不運に至るまで、様々な不運に見舞われてきた光凛は、その程度でめげることはない。

 とはいえ、それはバカにされても悔しくないということにはならなかった。

 光凛が望んでいるのは、特別な幸運などではない。ただ、ずっと向かい風だった人生の風向きを何とか変えたい。そう強く願った。

「くっそー! 人生ここからだから。もう二十七歳だけど、まだ二十七歳。逆転の目はある! ここから逆転して、大成功して、神様も亮二様も全部見返せばいいんだよね!」

 低い雲に覆われた空へ向かってそう叫び、スーパーを後にしようとすると、途端に雨が激しくなってきた。

「こういうのもツイてないけど。腐らなければきっとそのうちいいことある!」

 あとは帰るだけ、しかも明日は休みなので、ずぶ濡れ上等。風邪ひこうが知ったことか。

 そう思い、軒先から出ようとしたときだった。

「お姉さん、傘忘れたんだ?」

 とても爽やかで、それでいて人懐っこい若い声。

 横を向くと、身なりの整ったおしゃれなオフィスカジュアル姿の男が、畳んだ傘を持って立っていた。

 若く、背丈は別れた交際相手・亮二には及ばないものの低くはない。亮二のように微妙に茶色がかった髪ではなく、完全な黒髪だ。

 優しげで知的な眼差し。きれいに上がった口角。誰が見ても魅力的な容姿であろうと思われた。

 これは――と光凛は目を輝かせた。

「うおおおおお! もしやさっそく転機が来た? 美青年! しかも育ちがよさそうな感じ! これ、アレでしょ? 『傘貸しますよ』とか言ってくれるやつだよね? それとも『一緒に入る?』とか言ってくれる系だったり?」

「どっちでもないよ」

「どっちでもないんかい! じゃあ何のために現れたし!」

「うん。僕は、お姉さんの人生逆転チャレンジを阻止するために現れた」

 彼は柔らかな笑みを浮かべて近づいてくると、「こういう者です」と名刺を取り出し、渡してきた。

 その名刺には、こう書いてあった。

【逆転ヒロイン阻止株式会社 高宮士元しげん】

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第1話 逆転ヒロイン阻止株式会社って何!?
「会社のメール!? しかも発注メールで!? ふざけんなー!!」 こんなことってあるのだろうか? と、禿光凛は思った。 開いたメールの送り主は、取引先の社員・相原亮二だった。東証プライム上場企業で主任を務めている人物であり、さらに言えば光凛の交際相手でもある。 亮二とは仕事でのやりとりをきっかけにして知り合った。彼はその会社の社長の甥という血筋もさることながら、仕事ぶりの評価も非常に高く、将来を嘱望されているという。「ヒカリ殿。いかがなされた」 旧態依然な島型レイアウトのオフィス。光凛のデスクの向かいに座っていた同僚の宇治丸鹿之助が、角ばった顔をモニタ越しに向けてきた。「ビジネスメールのついでに振られたの!! ありえないでしょ!」 メールの文面はほぼいつもの発注メールであったが、最後だけが違っていた。『このメールをもってあなたとの交際は終了とさせていただく。今まで継続させていただいてきた週末のデート等についても、その一切を打ち切らせていただき、以後は前のような取引先の社員同士という関係に戻させていただく』「なるほど。それは難儀でござるな。理由は何でござろうか」「わからない。たった今『は? 何で?』って返したとこ」 そう言ってため息をつくと同時に、光凛のメールアプリに未読1のサインが灯った。「あ、返ってきた。早っ!! どれどれ……『既に交際は終了とさせていただいており、私は貴女とプライベートな関係はない。よってビジネス以外のご質問にお答えさせていただく立場にないため、一切の説明を控えさせていただく』……ふざけんなコノヤロー!!」「政治家の答弁みたいなコメントでござるな。同情するでござる」 癖のある文面ゆえ、亮二本人が書いたものであることは疑わなかった。 光凛にとって、これは四度目の失恋であった。 高校時代、同級生の彼氏は万引きで退学。大学時代、同じゼミの彼氏は教授を殴ってやはり退学。その後に付き合ったバイト先の彼氏は借金で夜逃げ。なぜか全員、社会からログアウトしてしまった。 今回の相手は、おそらく将来の大企業役員、しかも容姿端麗。 え? まさかの夢のような玉の輿コース? 交際が始まったときはそう思ったものだが、突然の破局となった。「あー、やっぱりわたしじゃ格差がありす
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第2話 とりあえず投資でおカネ増やそうとしたらさっそく阻止されました
 逆転ヒロイン阻止株式会社・高宮士元。 そう書かれた名刺を見せられ、光凛は困惑した。「何これ。あんたもさっきの赤青二人組と同じ迷惑系配信者?」「違う違う。カメラないでしょ。ハイお姉さんもさっさと名刺出して。交換だよ、こういうのは」「え? ん? はい?」  勢いに呑まれ、つい名刺を渡してしまった。「へー。株式会社カミカミのハゲコウリンか。いかにも負け組な名前だ」「株式会社シンシ。カムロヒカリ。フリガナ振ってあるでしょうが!」「ふふふ。まあそのへんはいいとして」「よくないし! というか何なの? 逆転ヒロイン阻止株式会社って」 当然、そんな会社を光凛は知らない。「その名の通りさ。ヒロインの人生逆転を阻止する会社」「いや、わたし今、今日を転機に人生を逆転させるんだウオオォって奮起したばかりなんだけど?」「うん。だからそれを認めず、阻止して諦めさせるのが僕の仕事」「何でよ。あんた知らないだろうけど、わたしたぶん不運体質なの。実家は貧乏だったし、親は──」「離婚だよね。知ってるよ」「どうして知ってるの!?」「今日は人生最後の望みだった上場企業の社長の甥に振られ、変な配信者にバカにされてとどめを刺されて、おまけに帰ろうとしたら土砂降り? いやーどん底お疲れ様」「うわ怖すぎっ!! というか知ってるなら逆転阻止とかおかしいでしょ! これから這い上がって大成功して元カレにもザマァしちゃいけないとでも言うの!?」 光凛が抗議すると、高宮はニコッと笑った。「うん、いけないよ。お姉さんみたいに何やってもうまくいかない人がいるから、今幸せな人が幸せなままでいられるんだ。人生逆転が当たり前に起きたら今の生活に満足している人たちが困るよ。下には下がいるって安心できないし」「うわ、わたしもしかして、今ものすごいクズと話してる?」「いや、かっこかわいいお兄さんと話してるよ」「キモ。貴重な時間返せ!」「僕のほうが時間単価高いよ? じゃ、そういうことだから。これからよろしくね」「フザケンナ二度と現れるな!! シネ!!」 背後から叫んだが、彼は傘を畳んだまま、あっという間に夜の街に消えていった。「あ、雨止んでるじゃないの! 高宮だっけ? さっそくザマァ」 帰宅後。 弁当を電子レンジに突っ込むと、光凛はテーブルに座ってスマホを握りしめていた。「人生逆
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第3話 副業で一発逆転しようとしたら邪魔されました
 翌日。 会社から帰った光凛は、食事やシャワーを済ませると、机に座った。「あ゛ー、疲れた……けど! やるか!」 仕事でミスをし、そのリカバリで疲労感マックスではあった。 が、頬を一回叩いて気合を入れた。 パソコンのインターネットブラウザで、昨夜見つけてブックマークしておいた副業のページを開く。 若い男性の写真が大きく表示され、その口元から伸びた吹き出しには、『まだ安月給で底辺生活してるの?』 というセリフが書かれていた。 さらにその下には、『スマホ1台で月収100万超えも夢じゃない』『未経験OK! 誰でもできる副業ビジネス』『本業をやめる必要なし』 このようなコピーが並んでいる。 光凛はさらに画面を下にスクロールさせていく。『初心者の私でも初月30万達成!』 というコメントと、利用者らしき女性の写真。 さらに下には、テキスト付きの大きな二次元コードが表示されていた。『アンケートに答えていただいた方に、5000人の人生を変えた未公開のスマホ副業情報をお届けします!』「よーし、本当なら人生変わるじゃん」 光凛はスマホを手に取り、二次元コードを読み込もうとした……「ぎゃっ!」 ……ら、また窓が突然開いた。「やあやあ」 カーテンも勝手に開けて現れたのは、パーカー姿で人懐っこい笑顔の、美少年と美青年の狭間にいるような男。 やはり、逆転ヒロイン阻止株式会社・高宮士元であった。「本業でもうまくいっているとは言い難いのに副業で稼いで人生逆転なんて甘いことを考えている禿光凛さん、こんばんは」「だからわたしの名前、そんなに長くないって。というか窓、鍵かけてたはずだけど?」「普通のクレセント錠じゃん。僕には鍵かかってないのと同じかな。ほら、うちの会社って探偵業の届出もしてるでしょ?」 ニコッと笑って、何やら薄い金属板を折り曲げたような不思議な道具を見せてくる。どうやら隙間に差し込んで解錠に使う道具らしい。「知らねーよ! 探偵だろうが何だろうが鍵勝手に開けるのって犯罪じゃないの? ホントに警察に通報するよ?」「イケメン無罪ってことで勘弁して」「自分でイケメン言うな。で、何? あんた、うち出禁ですけど」「昨日のお茶、まだある? あれ美味しかったからさ」「今日は部屋に上げませんよーだ。どうせまた邪魔しに来たんでし
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第4話 転職で人生大逆転を図ったら粘着されました①
「うん。忘れてないな。よし」 光凛は出社してデスクに座ると、いの一番にバッグの中身を確認した。 白い封筒が入っている。 その中身は、昨日の夜に作成した履歴書と職務経歴書だった。「ヒカリ殿、どうなされた。もしや密かに転職活動を進めており、今日の昼休みに投函する予定の応募書類を、バッグに入れ忘れていなかったことに安堵したでござるか」「えっ!? なんでわかるの!? 宇治丸くんって超能力者!?」 座ったばかりの席から一メートルは飛び上がった光凛。 同期入社の宇治丸鹿之助は、いつもの角ばった顔で静かに返した。「なんと。ありえないことを申したつもりであったが、まさか真とは」「ぎゃー! 今のは聞かなかったことにしといて!」「承知仕った。部長が席を外していて助かったでござる」「たしかに。いたらヤバかった!」「部長は泣いてしまうでござるよ、きっと。ヒカリ殿を社員として評価しておられるからな」「してないでしょ。わたし、失敗多いから。『次はクビだぞ』って言われ続けてるけど」「しかし『次』も『次は』であり、永遠に『次』が訪れないのでござる」「毎回忘れちゃってリセットされてるんじゃないの?」「いやいや。きっと、ヒカリ殿が法人営業部の太陽だからでござるよ」「えー、何それ、お世辞ー?」「決してお世辞ではござらぬよ」 そう。光凛は転職活動をすることにしたのである。 チャイムと同時に会社を出た光凛。 履歴書と職務経歴書が入った封筒を片手に、会社の近くにあるポストの前に立った。 中途採用に応募するのは、光凛にとって初めてだった。 一度深呼吸をしてから、封筒を投函口へゆっくり近づけていく。「ああ。そのポスト、たった今、回収したばかりですよ。今日はもう回収しません」 その声で、手が止まった。 そばに寄ってきたのは、水色がかったグレーのシャツに紺色のズボンという、郵便局員らしい格好をした男だった。 帽子、黒縁メガネ、大きなマスクを着けており、顔はわかりづらい。「えー!? そうなんですか!? うーん、ツイてないなー、今日発送できたほうがよかったけど……って思ったけど、回収員さんがいるってことはツイてるのかな? これ、持って行ってもらえたりは?」「ええ。お預かりしますよ」「おおお! やったー。お
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第5話 転職で人生大逆転を図ったら粘着されました②
 強いプレッシャーの中。 言葉が返せず、光凛は思わず視線を落としてしまった。 面接でうつむいてしまうこともよくないと知っていたため、光凛は慌てて顔を上げた。 何とか、人事担当者と経理部長へ視線を戻した。 すると、そのタイミングで部屋の照度がわずかに落ち、右方向に何やら影を感じた。 思わず光凛はそちらを見てしまった。 光凛から見て右側、面接官二人から見て左側の壁は、大きな窓ガラスになっている。そこに、大きな物体が下降してきた。「ああ、いつもの窓拭きか」「はい。管理業者から通知がありましたので社内メールに流しておりましたが」 同じく気づいて目線をやっていた経理部長と人事担当者が言葉を交わす。 窓の外に降りてきた大きな物体は、ゴンドラだった。 逆光で見えづらいが、中には、ヘルメットとサングラス、マスクを着けた作業服姿の男性が一人乗っていた。窓を拭いている。 面接官二人は、たいして興味もないといった雰囲気でまた元の向きに戻った。「で、どうなんだ。この程度で、どうしてうちに貢献できると考えたんだ?」 履歴書と職務経歴書をペンの頭で叩く経理部長。 少しの猶予時間を与えられた光凛だったが、やはり完全に圧に負けており、言葉を出せなかった。 やはり自分のキャリアや実績で転職は無謀だったのか。 光凛は座っているのに、立ちくらみのような感覚を覚えた。目の前の景色だけでなく、何もかもが急速に遠のいていくようだった。「どうした? 何も言えんのか」 経理部長の声も、どこか遠い場所から聞こえてくるようだった。 しかし、そのとき――。 爆発したかと思うほどの轟音が、部屋を揺らした。「――!?」 窓から、ガラスの割れる大きな音がした。 ふたたびこの場の全員がそちらを向く。 なんと、窓ガラスが派手に破られていた。割と新しい高層ビルのため、合わせガラスになっていたのだろう。破片こそ大きく飛び散ってはいなかったが、室内には乱暴に風が入ってきた。「何だ!? ぶつけられたのか」「……そ、そのようですね」 立ち上がった経理部長に、慌てて席を外して飛んだ資料を拾う人事担当者。 光凛も驚いて立ち上がっていた。「あっ、大丈夫でしたか!?」 ガラスが外れた窓の向こうから、作業服姿の男の声が聞こえた。 その男は光凛の顔を見て言った。そのため、光凛は面接官二
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第6話 マッチングアプリで婚活したらストーキングされました①
 慣れないお座敷で足がしびれていたが、それも全然気にはならなかった。 目の前には、きれいに空になった重箱とお椀。 どちらにも、蓋を閉めていく。「んー! おいしかった」 下のご飯が少しも見えないほどの、厚みと大きさのある鰻。そして香ばしい匂いだった。 久々の鰻重を堪能した光凛は、ちょうどよいタイミングで出されたお茶の濃さにも満足しながら、そう感想を述べた。「めちゃくちゃ幸せそうな顔するね、お姉さん」 卓の向かいからじーっと光凛の顔を見つめてくるのは、逆転ヒロイン阻止株式会社・高宮である。 彼は意図的なのかどうかは不明であるが、ゆっくり食べており、まだ食べ終わっていない。そしてそのきれいな顔はほとんど重箱の中身には向けられていなかった。「アンタはこっち見てないでウナギ見ようよ。ウナギだよ、ウナギ。穴が空くほど見ながら食いなさい」「んー、僕は割とよく食べてるし。鑑賞価値が高くないというか。もちろん好きだけどね」 会社の昼休み。外に出た光凛は、高宮の待ち伏せに遭っていた。 また半額券を持参してのランチのお誘いである。 いつものように「給料前でおカネ無いしなぁと思って不本意ながらコンビニに向かおうとしている禿光凛さん、こんにちは」と嫌味ったらしく登場していたが、胃袋に負け一緒に鰻屋に入っていたのである。「金持ちじゃなくて悪かったですねーだ。まあアンタがいくら収入あるのかしらないけど」「お姉さんよりは多いと思う」「あっそ。逆転ヒロイン阻止株式会社とかそんなふざけた名前の会社に客がいるわけ?」「お。僕の会社、気になる?」「……」「うんうん。本当は興味あるけど、それを僕に知られるのが癪とかそんな感じだよね。わかるわかる」「ウザ。さっさと食べ――」 そこで、光凛のスマホから音が鳴った。 テーブルの上に出していたのは、迂闊であった。 画面には、マッチングアプリにメッセージが届いていることを知らせる通知が。 思いっきり彼に見られてしまった。 ああ、せっかくこやつにはバレていなさそうだったのに。またニヤニヤと茶化される――光凛はそう思ったのだが。「えっ!! このアプリって……お姉さん。次は婚活することにしたの?」 そのような雰囲気ではなかった。 しかも声が大きかったので、湯呑みを持っていた光凛の手
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-19
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第7話 マッチングアプリで婚活したらストーキングされました②
 ここは、駅から海までが大きな臨海公園になっている。 ほんのり潮の香りがする風が優しく吹き、ゆっくり回る巨大な観覧車のゴンドラが空に光の粒を散らす中、二人は歩き出す。 マッチングアプリで知り合った吉田という男は、会話が上手だった。光凛が特に頑張らなくても話が続く。気づけば五百メートル以上は歩いていたと思うが、まったく長く感じなかった。 やがて、青空によく似合うガラスドームの水族館が現れた。 順路は下の階からめぐるようになっているようだ。 二人はエスカレーターで下ると、暗いフロアの中で、青い光を放つ水槽を一つ一つ回っていく。 休日ということもあるのだろう。かなり混雑している。 ただ、都会の人混みを前にしたときのようなテンションの低下はまったく感じない。 こういうところも悪くない、と光凛は思った。 「なぜ水族館なんだろう」と最初は思っていたが、来てみればなるほど、という感じだった。「人が多いのに、落ち着くところでもありますよね」 ドンピシャのタイミングで、今日もビチッとキメてきている髪を青く光らせながら、吉田が言った。「そうですね。水槽もきれいですし」「ご自覚があるかわかりませんが、あなたもきれいですよ」「あら、ありがとうございます」 まさかそんなセリフを照れもなく言われるとは思わず、驚いた。 あまりにもサラッと言われたため、光凛も照れずに済んだのは幸いだった。 ひときわ大きな水槽の前に来ると、その中身に圧倒された。 無数のイワシが群れをなしていた。ときおり一斉に向きを変えたり、群れをふくらませたり、伸ばしたりしながら、泳いでいる。 同じ水槽の中には、何匹かのサメもいるようだ。「なぜこのイワシはサメに食べられないのか、と思いますよね?」 また絶妙なタイミングだった。「この大きな群れでの動きが、捕食を難しくしているのです。ここには二千尾のイワシがいますが、まるで一つの巨大な生き物のように見えるでしょう? サメから見ればとても手を出しにくいそうですよ」「詳しいんですね、吉田さんって」「大学は理学部でしたけど、マリンバイオロジストの先生の研究室にいましたから。水族館についての知識もあります」(何だろう、それ?) マリンバイオロジストという言葉を初めて聞いた光凛だったが、何やら詳しそうな人のところで勉強していたのだろう……と
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-23
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第8話 マッチングアプリで婚活したらストーキングされました③
「ここ最近は現れなかったのに……当日はしっかり出てくるのかあ」 半分呆れながら言った光凛だったが、高宮は特に悪びれることなくベンチから起き上がった。「お姉さんの前に出なかっただけだって。監視はバッチリしてたよ」「何堂々とストーカー宣言しとんねん。ええ加減にせえや。デートまで邪魔しおって」「だからそういう仕事なんだってば」「うるせえ! ここまでのトラブル、全部キサマの仕業だな?」「あっ、うググ……ちょ、ギブアップ!」 剥ぎ取った薄い外套で首を締め上げる光凛。 一方、驚き半分、興ざめ半分という様子の吉田も、高宮へと話しかける。「『お姉さん』? 君は光凛さんの弟なのか?」「違います」「ゴホッ……ちょっと。聞かれてるのは僕だよ、僕。先に答えないでよ」「だって違うじゃない」「そうだけどさあ」 光凛が外套を返しながら勝手に回答すると、高宮は咳込みながら不満を口にした。「元カレか何かか?」「断固違います。名前を知ってるだけの、ただの他人です」「だからー。先に答えないでよ」 吉田は、もう気だるさを隠そうとはしなかった。「よくわかりませんが興が冷めました。邪魔付きのデートなど続ける意味もない。帰らせてもらいます」 くるっと背を向け、来た方向へ、人ごみの中へと消えていく。 光凛はその背中を見ていたが、彼を追うことはしなかった。 正直なところ、暗闇への誘導には怖さしか感じておらず、ホッとしたからだった。 そしてこうやってホッとできたのは、高宮のおかげだ。 今回も、邪魔してくれたのが結果的に……と思いながら、その高宮に視線を戻そうとしたら。「あれ!? あいつもいない」 いつの間にか高宮も姿を消していた。 ◇ 水族館から少し離れた、人通りが少ない小さな道。 一人で歩いていた吉田は、ボロボロになったジャケットの内ポケットに手を入れた。 そこで、足がピタリと止まった。 何も掴めなかった手を戻しながら、水族館の方角に向き直り、大きく舌打ちをした。 そして道を戻ろうとしたところで、脇の木陰から声がかかった。「スマホで指示役の人に報告しようとしたのかな? 実行役は『報連相』が大切だもんね。お疲れ様」 吉田の前に出てきたのは、彼としては見覚えのある薄い外套を羽織った青年だった。 高宮だ。「お前は、さっきの奴か。何しに
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-27
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第9話 SNSを始めたら通報されました①
 安くて美味しいと評判のカフェであることに加え、休日ということもあり、客はそこそこ多い。 このほどよい賑やかさ。久々に会う女子三人にとっては、会話しやすい快適な環境でもあった。「すごいじゃないの良久子。復活してるじゃん!」 光凛はテーブルの上に差し出されたスマホ画面を見て、驚きの声をあげた。 画面に映し出されていたのは、証券会社の口座のポートフォリオである。「光凛のおかげだよー」 口座の持ち主・良久子は、以前に光凛を強引に誘って証券口座を開き、勉強不足のまま投資を始めて爆損した友人である。丸みのあるショートボブの髪を指でいじりながら、正面でふくよかな顔をニンマリとさせている。「いや、わたし何もしてないと思うんだけど」「いやー、だって、光凛と一緒に買った本とか、紹介された動画番組とか、すごい勉強になったし。一緒に勉強したおかげだってー」 あのとき「お互い勉強していこうね」という話になっていた。 あの後は一緒に本屋に行き、同じ本を買い、同じ動画番組を観て勉強していた。メッセージで進捗を交換したりもしていた。 彼女は上級者向けとされる信用取引や個別株投資をやめ、日本株・米国株・全世界株などの指数連動型ETFに切り替えたようである。全体相場急落後のリバウンド局面で指数に追随して上昇しなかった個別株も多い中、良久子はうまく波に乗れたようだ。 光凛も個別株ではなく毎月一定額を積み立てるインデックス投資を始めていたが、薄給ゆえ含み益は雀の涙である。 この場にはもう一人、光凛の友人がいる。 良久子の隣――ボックス席の窓側に座っている吉良美も、良久子のスマホを覗き込んできた。「えっ、どれどれ。あたしにも見せてよ……って、私より増えてる! 良久子チョベリグじゃん!」 彼女もロングの茶髪をかき上げながら驚きを口にしている。「チョベリグって何だったっけー?」「超ベリーグッド。最上級! 付き合い長いんだからそろそろ覚えてよ」「だって普段使わないもんー」 口を尖らす良久子。 一方、光凛は吉良美が投資していたという事実に驚いた。「吉良美も投資してたんだ!?」「してるよ? もう五年くらい前から」「すごっ。ベテラン!」「動画配信者は投資やってる人多いよ。収入が不安定だから、稼げているうちに資産運用しようって感じで」「あんた
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-30
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第10話 SNSを始めたら通報されました②
 今まできちんと使ったことはない。サービスが開始になって話題になっていた遥か昔、何となくアカウントだけ作ったことはあるものの、その後は特に何もせず放置。 それが、光凛にとっての『グイッター』だった。(名前と生年月日を登録して、と。んー、顔認証? こうでいいのかな……お、できた) 登録していたアカウントは、すでにどのメールアドレスで登録したのかすら思い出せなかった。そのため、光凛は新規アカウントの作成に臨んでいた。 作成段階ではつまずくこともなかった。 一人で入っていたファミレスで『半熟卵のドリア』が運ばれてくる頃には、ひとまず作成が完了していた。(アイコン画像は用意してあるから……おお、けっこう簡単に登録できるね。グイッター上で使う名前は……適当でいっか……) 味気ないグレーの初期アイコンは、奈良旅行のときにガイドさんに撮ってもらった鹿とのツーショット写真に置き換わった。 表示名も、意味のないアルファベットの羅列から『ヒカリ』に変更。 プロフィール欄には、とりあえず『27歳。OLです』とだけ入力。(うん。履歴書作るより楽だね) そんな当たり前の感想を持ちつつ。 早速、運ばれてきた料理を撮影。 さらにそれを、『今日の晩ご飯』というテキスト付きでグイッターにポスト――。 さて、それでは冷める前に……ということで、紙おしぼりで手を拭き、半熟卵のドリアを食べ始めた。 すると。「ん?」 短い通知音。 何だ? と思って光凛は置いたばかりのスマホを見た。 グイッターからの通知だった。『高宮士元さんにフォローされました』「はああああああッ――!?」 周りのテーブルの客が、一斉に光凛のほうを向いた。 大きな声が出てしまったせいだが、無理もなかった。アカウントを登録し終えてからまだ五分も経っていない。「さすがにキモすぎでしょ。ええとブロックってどうやるんだろ……これか」 即ブロック。フォロワーが1から0に戻る。 安寧を取り戻した光凛は、久々の一人での外食を楽しんだ。 吉良美からは「しばらくフォロワーほぼ0のままが普通だから」と言われていた。 光凛も当然そうだろうと思っていた。 が、予想に反しSNS運用は順調に推移。 あれよあれよという間にフォロワーは4桁となり、想定以上のページビューをカウントするようになった。収益化の手続き
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-04
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