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第5話

作者: 無文
あの拉致犯の巣窟で彼と生死を共にした少女は、雨宮彩花だった。

彼の腎不全の時に腎臓を提供したのも、雨宮彩花だった。

では彼はこの何年間、何をしてきたのか?

大きな衝撃で、彼は彼女の顔を忘れていた。

彼は彼女を冷遇し、他の女を連れて彼女を辱めすらした……

蒼は狂ったように車を飛ばして展覧会場に駆けつけた。

だが作品の中は空っぽだった。

彩花がいない。

「彩花……彩花、どこにいる!出てきてくれ!

彩花、思い出したんだ。出てきてくれ、頼む!」

蒼は必死に叫んだが、誰も応えなかった。

彼は携帯を取り出して何度も何度も電話をかけたが、やはり誰も出なかった。

この時になって彼は絶望的な事に気づいた。彫刻が好きだということ以外、彩花について何も知らないことに。

自分の妻への理解が、あり得ないほど少ないことに。

携帯が再び鳴った。遥からだった。

「蒼、どこにいるの。すごく胸が痛いの。

早く戻って私の傍にいて。うう……、私たちの子供が……」

蒼は眉間を揉み、心の中で激しく葛藤した。

遥は子供を失ったばかりだ。放っておけない。

彩花は……

彼は冷静になろうとした。

彩花はあれほど自分を愛していて、自分のために腎臓すら提供したから大丈夫だ。遥の件を処理したら、必ず彼女に償う。

そう考えて、身を翻して病院に戻った。

……

一方、私は力なくプライベートジェットに横たわっていた。

兄は私の生気を失った様子を見て、眉をひそめた。

「少し寝ろ。着いたら起こす」

私は苦しみながら首を横に振った。頭の中には絶えず屈辱的な場面がフラッシュバックした。

兄は目に見て心を痛めたが、どうすることもできなかった。

数日後、兄が最高の心理医師を探してきてくれた。

何度か話し合った後、その医師が提案した。

「雨宮さん、その記憶はあなたにとって苦痛の源です。

もしかしたら、催眠療法を試して、この記憶を忘れることができるかもしれません」

忘れる……蒼のことを?

それもいいかもしれない。

私は少し考えて、頷いた。

医師は優しく尋ねた。

「雨宮さん、本当にいいのですか?

記憶を失うこと、特に核心的な感情の記憶は、不可逆なのです」

私はもう迷わなかった。

「同意します。

湊川蒼という人に関する記憶を全て取り去ってください。良いものも、悪いものも
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