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記憶喪失のあなた、後悔しないで
記憶喪失のあなた、後悔しないで
作者: 無文

第1話

作者: 無文
私の名前は雨宮彩花(あまみや あやか)。

かつて、湊川蒼(みなとがわ あおい)が命を賭けてでも結婚したかった初恋の人だった。

結婚してから六年、彼は私を自分の命のように大切にし、片腹には私と同じペアのタトゥーまで刻んでいた。

だが七年目、彼は私に愛人の桜庭遥(さくらば はるか)のアソコの型取りをしてオナホを作らせた。

「彩花、これがお前が俺の命の恩人だと騙した代償だ!

お前が一番俺の好みを知ってるだろ。遥の体温を再現する方法も考えろ。彼女は妊娠してるから、手を出せないんだ」

遥は蒼の腕の中でぐったりと身を預け、笑いが止まらない様子だった。

「彩花さん、本当に可哀想ね。私が妊娠して蒼とイチャイチャできないこの状況で、彼は私の模型を特注したとしてもあなたには触れたくもないそうよ。

模型が壊れたら、また彩花さんに何個も作ってもらわないといけないわね〜」

私は、蒼は遥を自分の命の恩人だと思い込んでいるのだと、ようやく理解した。

そしてすぐに兄に電話をかけた。

「お兄ちゃん、蒼が浮気したの。だから離婚することにしたわ」

兄は私の決心を知って、狂喜した。

「彩花、やっと目が覚めたか。蒼なんて恩知らずはお前に相応しくない!

もっと早く離れるべきだったんだ」

兄の雨宮颯太(あまみや そうた)の呆れ果てた顔が目に浮かぶようだった。

私が通話を終えると、胸に苦々しさが広がった。

そう、もっと早く離れるべきだった。

私が卑しく過去の記憶だけを抱きしめた状態で、蒼の傍で何年も擦り減り、尊厳を失い果てたのだ。

ちょうどその時、遥の声が聞こえてきた。

「蒼、ここって私に似てる?」

そちらの方を目にすると、蒼が顔を下げて悪戯っぽく笑ったのが見えた。

「似てるかどうかは、使ってみないと分からない」

遥が甘えた声で軽く彼を叩いた。「もう〜」

彼はそのまま彼女の手を引き寄せ、そして私の目の前で、深く口づけた。

唇と舌が絡み合う水音が聞こえ、私は目を逸らしたが、体は無意識に強張った。

キスが終わると、遥は顔を紅潮させて蒼の腕の中にぐったりと倒れ込んだ。

蒼はようやく顔を上げて私を見た。

「模型は悪くない。だが体温を再現する方法を考えろ。それと、模型は完全に俺にフィットさせること」

彼は少し間を置いて、意味深に付け加えた。「寸分も違わずにだ」

何かが喉からせりあがるような感覚がしたが、最終的には全ての感情を飲み込んだ。

「承知しました、湊川さん」

私は工具棚からメジャーを取り、彼の前に出た。

蒼の視線が突然冷たくなった。

彼は勢いよく足を振り上げ、私の下腹部を激しく蹴った。

鈍い痛みが下腹部から広がり、呼吸すらできなくなった。

「お前、一体何を考えてるんだ?」

蒼は高い位置から私を見下ろし、目には警戒心が満ちていた。

「俺にお前が測らせると思ったか?お前のその汚い手が俺に相応しいと?気持ち悪い」

記憶が蘇った。かつての私は忘れられることに納得できず、何度も接触を図ろうとした。

一度、わざと彼の腕の中に倒れ込んだことがある。

彼はもう少しで過去の感情を思い出しそうだったのに、それを突然現れた遥に邪魔された。

蒼はその時激怒し、泣きわめく遥を宥めるために、私を地下室に三日間閉じ込め、水も食事も与えなかった。

それ以来、私が彼に近づく度に、より粗暴な扱いを受けるようになった。

私は激痛に耐え、もう説明しようとはせず、二人を見ることもしなかった。

黙ってメジャーを拾い上げ、端に退いた。

「桜庭さん、データはあなたが測ってください」

蒼はいつもと違い、私が素直に退く姿を見て、妙に不快そうな顔をした。

彼は気に入らないように鼻を鳴らし、突然遥を強く抱き寄せた。

「遥、お前が測ってくれ」

遥は最初驚いたが、すぐに媚びた目で彼の耳元に寄り、息を吐きながら何かを囁いた。

蒼は低く笑い、彼女の顔を軽く叩いた。「お前は本当にエロだな」

そして視線を私の方に向けた。

「そんなに遠くに立って何してる?こっちに来い。よく見て、学べ」

私の足はまるで地面に接着されてしまったかのように、硬直してその場に立ち尽くしていた。

「聞こえなかったのか?」

蒼の声が低くなる。

遥は状況を見て、わざとらしく諭した。

「蒼、彩花さんを困らせちゃダメよ。彼女もこういうの見るの、恥ずかしいのよ」

「見せたいんだ。以前俺の前で尻尾を振ってた時は、とんでもない図々しいことしてきたな。これくらいで今更恥ずかしがるわけないだろ?」
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