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第36話

作者: 猫ちゃん
「これが君の帰りたかった二宮家か!」渉は外で一部始終を聞いていた。「君の義理の母は明らかに怪しい!なのに親族の奴らは、節穴みたいに何も見えず、お前をいじめるばかりで……

こんなところにいるより、俺と一緒に帰って、あいつらのことは俺がなんとかしてやる!」

しかし、凪は彼の腕を激しく振り払った。「勝手にいい気にならないで!あなたの助けなんていらない。さっさと消えて。もう二度と私の前に現れないで!」

凪は振り返りもせず、敬慈堂を後にして、まっすぐ山を下りていった。

彼女は母親の位牌を胸にしっかりと抱きしめ、おぼつかない足取りで山道を下っていった。

山道を抜け、広い道に出ると、凪はスマホを取り出してタクシーを呼ぼうとした。

プーッ――

車のクラクションが鳴った。

音のした方を見ると、空のベントレーが静かに路肩に停まっていた。窓が下ろされ、運転手が凪に手を振っている。

「黒崎様はまだご用事があるのですが、ここでお待ちするようにと、私に言いつけておりました」

凪の鼻の奥がつんとなった。足は歩き疲れて痺れているし、位牌を抱いていた腕は痛む。まさか、こんな場所で自分を待っていてくれ
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    「これより、黒崎グループ新作発表会を始めます」司会者の声とともに、スポットライトがステージを照らす。観客席は静かに暗闇に沈んでいった。だが、肝心の空の姿がなかなか見えない。凪は、仕事で忙しいのだろうと思い、気にとめることはなかった。そのとき、彼女の左手の空席に誰かが座った。葵が大輔を伴って、何食わぬ顔で並んで席についたのだ。ステージの青い光が、誇らしげな葵の顔を照らす。彼女は胸を張り、大輔の腕にしがみついた。そして、凪の隣にある空席を見て、挑発するようににんまりと笑った。凪はそれを取り合らず、ステージ上の発表に静かに耳を傾けた。葵は拍子抜けしてしまい、面白くなかった。相手を悔しがらせるつもりが、かえって自分自身の胸がもやもやとする。発表会が半分ほど進んだところで、一時休憩に入った。「こちらはわが社の最新スマートグラスです。ご興味のある方は、あちらのブースでご試着いただけます」開発スタッフたちはあちこちで、新製品の技術的な向上について熱心に語り合っている。他の会社の責任者たちも顎に手を当てながら、いかに投資して利益を得るか考えているようだった。人々が立ち上がり、辺りはにわかにガヤガヤと騒がしくなる。凪は少し息抜きしようと、立ち上がった。すると、葵がわざとらしく足を突き出してきた。子供だましね。凪の瞳が冷たく光り、ハイヒールが彼女の足首を確実に踏みつけた。「あぁっ!」葵が悲鳴を上げた。凪の涼しげな表情を見て逆上した葵は、勢いよく立ち上がると言い放った。「人前で何するのよ!最低だわ……」そう言いかけた瞬間、ビリリッ、という音が鳴った。葵のドレスの背中部分のファスナーが弾け、肩の部分がずり落ちていく……「きゃっ!」「なんてこと!」周囲から一斉に驚く声が上がった。葵は慌ててずり落ちるドレスを押さえたものの、周囲の好奇の視線を浴びて、顔が一瞬で真っ赤に染まった。近くにいたスタッフがすばやく機転を利かせ、上着を持ってきて彼女の背中を覆った。どうにか服を抑えて立ち尽くす葵は、睨むような視線を凪にぶつけた。「凪!わざとやったでしょう!最初から私には小さいドレスを選んでおいて、わざと怒らせて。皆の前で無様な格好になるのを見て楽しんでたのね!お父さんに絶対言いつけてやるんだ

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    凪はきょとんとした。空がいつのまに入ってきていたのか。空は凪の手から詩集を受け取ると、本棚の元の場所に戻した。その目には、どこか複雑そうな色が浮かんでいた。凪には、空の気持ちが読み取れなかった。自分の好奇心が、相手を不快にさせてしまったのではないかと感じた。「ごめんなさい、勝手に本を読んでしまいました」「構わない」自分は出ていく時、ここを彼女の部屋だと思って使っていいと言っていた。だから、別に不快には思わなかった。ただ、タイミングが悪かっただけ。空は無意識に指先に力を込め、どこか後ろめたそうに袖口を直した。凪は彼の表情がいつも通りで、怒っている様子ではな

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