LOGINここからはシュライダー侯爵に代わって、ニコラス陛下が続きの話をすることになった。
―――公国から帰国したレダはその足で皇宮に向かう。ヴァルマ公国での出来事をニコラス皇子に報告するために.……。
レダは皇子の執務室に招き入れられた。ニコラス皇子は念のため人払いをする。この後、レダからどんな話が飛び出してくるのか、予想も付かないからだ。
『レダ、お帰り。まさか一人で乗り込んでいくとは思わなかったよ』
『ブッ、アハハハ。心配させてごめんね~、でも、私は大丈夫だよ』
『ああ、君は強いからね。でも友人として心配だった。無事に戻って来てくれて良かった』
心配してくれる友人がいるのは嬉しい。――――無意識のうちにレダは微笑んでいた。
再会を喜び合った後は本題に入る。レダは公国に入り、大公邸に直行したとニコラス皇子に話した。
『大胆なことを……』
策も何もないレダの行動に彼は絶句してしまう。
レダとシュライダー侯爵が出かけた途端、貿易商のシューマンが店に現れた。 「レダ、お久しぶり~!」 「あ、シューマンさん! お久しぶりですね。買い付けの旅はいかがでしたか?」 「あれれ~? しばらく会わないうちに随分と僕に興味を持ってくれるようになったね~」 カレンはドキッとする。 ここ最近、レダが『カレンの好きにしていいよ~』と、甘やかしてくれるので、お客様とのおしゃべりを気兼ねなく楽しんでいたのだが……、まさか、そこを指摘されるとは思わなかった。 (シューマンさんとは、しばらく会ってなかったから、突然の変化に驚くわよね~。失敗したわ……) 「……」 「あ~、大丈夫? 僕のせい?」 シューマンはカレンが俯いてしまったので、心配する。 「いえ、大丈夫です。急に馴れ馴れしくしてすみませんでした」 「え~~~、そんなこと言わないでよ。気楽に話してくれた方が嬉しいから」 「そうですか?」 「そうそう! ごめんね、気を遣わせて~」 明るいシューマンの声を聞いて、カレンは顔を上げた。 もちろん、フードをしっかりと被っているので、シューマンの目にカレンの表情が映ることはない。 「今日は何を占いましょうか?」 カレンはテーブルの上の水晶に手を翳す。 「待って! 今日は先にお礼を言わせて!」 「お礼?」 「うん、前回、レダが香辛料を仕入れた方がいいってアドバイスをくれた件なんだけど……。イシュタル共和国とオルセント王国が一時険悪になって国境を閉ざしていた期間があっただろう?」 「あ~、ありましたね」 (レダさんが陰で両国に働きかけて国境を封鎖した時のことね) 「僕がキャラック船で順次ニルス帝国に送っていた香辛料が毎回、予約完売してしまう状態になって、信じられないほどの利益が出たんだ」 (羽振りのいいシューマンさんの言う『信じられないほどの利益』って、想像も付かないのだけど……) 「で、今回はレダにもボーナスというか、御礼!! これを受け取って!」 シューマンは懐から革袋を取り出した。 (まさか!? 金貨入りの袋? えっ、本当に?) 大金かも知れないと動揺しているカレンの前で、シューマンは手際よく、革袋の紐を解いて、中身を取り出す。 「は!? 凄っ!!」 シューマンが差し出したのは大きな真珠がのっている銀色の
甲板の先端。 強い日差し、海面からの照り返し、酷く眩しい。 ニルス帝国を出て、早三か月。 白いスリーピースを着た男は水平線の先を見つめて、微笑む。 懐から、金属製のケースを取り出し、葉巻を一本取り出した。 シガーカッターで先端を切って、軽く口にくわえ、手でドームを作る。そして、ライターでゆっくりと丁寧に火をつけた。 ゆるりと吸い、フ~と吐き出すと、いつも旅の前に立ち寄るレダの家が思い浮かんだ。「レダは元気にしているかな~?」♢♢♢♢♢♢♢ 本日のランチのメインはカモ肉のローストをたっぷりの野菜と一緒に薄いパンで巻いたものだった。デザートはヨーグルト。トッピングはブルーベリー。「今日のメニューはあたし好みだね~」 レダは昔、東の国を旅したときにこういう料理を沢山食べたという話をしてくれた。「ここ最近は真面目に仕事をしていて、どこにも行ってないからね~。久しぶりに旅でもしたいね~」「侯爵と行ったらいいのでは?」「いや、カールと行くより、あんたたちといった方が楽しそ……」 バタン!!「レダ!!」(うそ!? 最悪のタイミングで現れた……)「あ~、カール!」「酷いじゃないか!! 私はのけ者か? 君の夫なのに……」 レダとカレンはアルフレッドの持って来たランチを三人で一緒に食べていたのだが……。 いきなり、カール(シュライダー侯爵)がダイニングに飛び込んで来た。 彼はこういう風に突然現れることが多い。「いや、カールと行きたくないという訳じゃなくて……。この二人は見ているだけで面白いというか、何というか……」「私が面白くないということか……?」「面倒くさいな…&hellip
最近カールは皇帝の補佐のような仕事をしており、しばらく屋敷に帰ってない。「屋敷に戻っても可愛い娘はいないし、レダも……。というか、どうして、殿下は私の家族と一緒に暮らしているんだ?」 心の声がつい漏れ出てしまう。 どう考えてもおかしい。 カレンとアルフレッドは婚約者同士ではあるが、結婚式の予定もない。 なのに、義理の母も一緒に三人で同居? ズルすぎるだろ! カレンの夜間護衛? レダがいるのに護衛が必要なのか!?―――腑に落ちない。「カール、どうした? 険しい顔をして……」 ニックこと皇帝ニコラスは微笑みながら彼に問う。 聞かなくても理由は分かっているが……。少しでもピリピリとした執務室の空気を改善したかったのである。「陛下、ご子息をどうかしてください。私だけのけ者です」 カールはアルフレッドのことをワザとご子息と言った。殿下と言いたくなかったからである。「うちの息子がすまない。カレン嬢に夢中で……」 ニックはレダの名を出さなかった。これ以上、拗らせたくなかったからだ。「夢中……。だからといって、婚前に同居なんて……」「ああ、それなら、いっそのこと結婚させるか?」 ニックは子供たちの結婚式を想像した。 皇后に似て、綺麗な顔立ちをしているアルフレッドと、レダと瓜二つのカレンが並んでいる姿は人々を魅了するだろう。 最近、良くないニュース続きのニルス帝国としても、おめでたい報告を国民に出来るのは非常に良いことだ。「結婚……? 早すぎる!!」 反対の言葉と共にカールは勢いよく立ち上がった。ニックは驚いてビクッとする。「そ、そうか? 二人とも成人しているのだから、そんなに早くもないと思うのだが&hel
カレンは相手を知らないので、相手に見つけてもらうしかない。 正直なところ、もう半分くらい無理かもと思い始めている。それくらいアデンの丘の広場は人でごった返していた。 カレンはサクロの丘の上にある皇宮の方を見る。 巨大な皇宮は闇夜のなかでも、多くの明かりが灯されて、とても美しく浮かび上がっていた。 (殿下の生まれ育った皇宮……。私も今後はあの宮殿で暮らしていくことになるのよね) カレンはボーッと巨大な建物を眺める。 (殿下から、あれだけ毎晩一緒がいいと粘られたら、私が皇宮から『レダの家』に通った方が良さそうな気がする……) 「アルは明日帰って来るのかしら」 海軍の演習は一週間とアルフレッドは言っていた。 いつでも呼び出していいと言われたが、カレンは彼に連絡を取っていない。 手すりに頬杖をついて、アルフレッドのことを考える。 彼と離れていても、カレンの心はいつもあたたかな毛布で包まれているようだった。彼の底なしの優しさと愛情の毛布に。 「私もアルにぬくもりを与えられる?」 (少しは素直になりたい。殿下のように……。心をポカポカと温められるような愛の言葉を私も言えるようになるかしら) ボーン。 カレンが考え事をしていると午前0時を知らせる鐘が鳴り響いた。 (あ~、日付が変わった。ええっと……、私は何時までここにいたらいいの? まだ、夜と言えば夜だけど……) 夜に来て欲しいとカードに書かれていたため、カレンは終わりの見極めに悩む。 「!?」 後方から、誰かがカレンのフードを引き下ろした。サラサラサラと金髪の長い髪がフードの外へ零れ落ちる。 (誰!? お手紙をくれた人? それとも、人違い?) カレンはゆっくりと振り返った。 「あ、えっ?」 目を見開く、カレン。 後ろに立っていたのはアルフレッドだった。 (何で正装なの!? 猛烈に目立っているのだけど!!) 周囲も皇太子が現れたとザワツキ始めている。 (ああああ~、大きな騒ぎになってしまう) 「殿下、早く立ち去りましょう」 カレンはアルフレッドの袖をつかんで、小声で囁く。 しかし、彼は首を横に振って、彼女の提案を断る。 (―――どうして?) 次の瞬間、アルフレッドは彼女の前に跪いた。 一瞬だけ、周りから悲鳴が上がったものの、
アルフレッドはカレンの涙にくちびるを寄せて優しく吸った後、羽が触れるくらいの軽い口づけをした。「カレン、やはり一週間も留守にするのは心配だ。毎晩、転移魔法を使って帰って来ようか?」(また、私のことを心配して、そんなことを……)「心配してくれてありがとうございます。でも、司令官がお仕事を抜けて家に帰るのは良くないですよ」「―――そうだな。だが、寂しい時は無理をしないでくれ。何とかするから」「はい」 カレンは涙を手の甲で拭って笑顔を作ってみせる。「途中で会いたくなったら、レダどのに頼んで俺を呼んでくれ。直ぐに帰ってくるから……」 アルフレッドはカレンをギューッと抱き締めた。「一人で泣いたりするなよ」「―――はい」(そんなに優しくされたら……)「では、行ってくる」「―――はい」 アルフレッドはカレンの頬にくちづけをしてから、部屋を出て行った。―――ポタ、ポタッ、ポタ……。 大粒の涙が床に落ちる。 もう我慢の限界だった。涙が止め処なく溢れて来る。「うっ、うううっ」(何も言えなかった……。『気を付けてね』の一言も……)♢♢♢♢♢♢♢ アルフレッドが出かけてから五日後の朝。 いつものようにマーガレットが一番乗りで占いにやって来た。「レダ、見習いちゃん、おはようさん! そろそろ新月だね~。新月は夜中に目が覚めたときに何も見えないから困るんだよ~」(ああ~、新月! あの手紙のことをすっかり忘れていたわ!!) カレンはマーガレットの世間話で差出人不明の手紙のことを思い出す。―――マーガレットが帰った後、カレンはレダに尋ねてみた。「レダさん、次の新月って何日ですか?」「ん?
要するにアルフレッドは従来のルールを覆そうとしているのだ。カレンと一緒に居たいがために……。「殿下、今後もここから皇宮へ通い続けるというのは流石に……どうかと思いますよ。。皇子宮の方々も主が毎晩不在では困るでしょう? どう考えても、私がここから皇宮に出勤した方がスマートですよね?」「それは別居婚ということか!?」 アルフレッドはカレンの肩に乗せていた頭を上げて、カレンを見つめる。(近い、近い、近いわ!! しかも、目が怖い……。殿下、怒ってる?)「絶対に嫌だ!! 離れて暮らすくらいなら、俺はこのレダの家を破壊する!!」「な、何を言い出すの? そんなこと……」「俺なら出来る!!」(殿下がいうと本当に出来そうな気がして……怖いわ) カレンは悪寒がした。 なにより『レダの家』には多くの秘密が詰まっている。それに……。「ダメです!! このお家が無くなったら、レダさんはどこに住むのですか!!」「シュライダー侯爵邸でいいだろ!」 アルフレッドは即答する。「それは!」 カレンは反論するために勢い良く最初の言葉を口にしたものの、―――後が続かない。 シュライダー侯爵邸でレダが暮らすのも悪くないと思ってしまったからだ。(実はお父様とレダさんが屋敷で一緒に暮らすのは、何の問題もないのよね~。本当の夫婦だし)「―――そうかも」「だろう」「ただ、そうなってくると……。マーガレットさんが困りますよね~」「ああ、あのご婦人か!」 アルフレッドの脳裏にマーガレットの顔が浮かぶ。―――未だにアルフレッドはマーガレットのことをレダの仕込みではないかと疑っている。 留守番中のカレンへ世間の情報を届けるために用意された駒だったのではないかと……。「ランチメニューを考えるだけだろう。心配なら、皇宮のランチメニューを一か月分ずつ伝えておけばいいんじゃないか?」「それはダメですよ。いつもマーガレットさんが朝市場で仕入れたものを聞いて、メニューを一緒に考えているのですから」「案外、大変だな……」 アルフレッドは密かに『料理が出来なくても、メニューを考えることは出来るんだな』と思ったが、もちろん、口に出さない。「はい、大切な仕事です」「でも、毎日一緒に寝たいから、別居は嫌だ!」 話は結局、振り出しに戻ってしまう。「殿下、珍しく粘りますね」 カレン
カレンは人差し指をスッと上に引き上げて、魔力の放出を止めた。続けて、しっかりと冷えているかどうかを手で触って確かめる。「っ、冷たっ!!」 キンキンに冷えていた。ちなみに中に入っている紅茶は液体のままだ。(大成功だわ!) 上手く行ったことに酔いしれる間もなく、カレンはもう一つのグラスを手に取る。(ゆっくりしていたら、最初のグラスの中身がぬるくなってしまう。急ごう……) 同じ手順を繰り返し、無事に二つのアイスティーが完成した。 カレンはふたつのグラスを
「―――その時は俺がカレンに魔力の供給をする」 想定外の発言を受けて、カレンは目を見開く。(魔力の供給??? 何それ?)「そんなことが出来るのですか?」「魔力を分け与える方法がある。だから、二人で行けといわれたんだ」「ふぇ~、やっと意味が分かりました。私の知らないことがまだまだ沢山ありますね~」 アルフレッドは魔導書を一旦閉じて、ティーテーブルの上に置いた。 そして、カレンの淹れてくれたお茶を飲むため、カップに手を伸ばす。―――口
「そうなんだね。魔法で安全に回収出来るなら、是非お任せするよ」 カレンは魔法を使って、呪い付き茸を一気に消し去るとマーガレットに説明した。「突然、今朝、買ったばかりのポルチーニ茸が目の前から消えたら、みんな驚くだろうね~、アハッハハ……。健康を害するよりはキレイサッパリ消えた方がいいだろう」「ええ、呪いが発動してしまったら取り返しがつきませんから」 ここで、カレンはアルフレッドに耳打ちをする。「殿下、今日の皇宮のランチメニューは何ですか?」「ん? ランチメニュー? たしか、燻製ベーコンとレタス
カレンは腕を組んで考える。(今、私に出来るのは記憶を読むことと物を移動させることの二つだけ。この能力を使って、レダさんか殿下に至急、帰って来てもらう方法は……、何かないの?) 不可能だと思っていた課題をふたつ乗り越え、カレンは少し自信がついた。 だから、この窮地もどうにかして突破したい。「う~ん」 部屋の中を見回してみる。(アイデアが浮かべば何とかなるはず……) ふと、カレンの脳裏にエドリックの顔が浮かんだ。







