Alle Kapitel von 訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました): Kapitel 1 – Kapitel 10

86 Kapitel

満月の夜 1

 ニルス帝国の王都にある下町、ヤドリギ横丁の『レダの家』の看板に明かりが灯った。『レダの家』は占い師レダが営む“占いの館”でかなり古くから、ここに存在している。  噂では数百年前から営業しているといわれているが、店主レダは占い以外の話には一切応じないため、確認のしようもない。結果、この噂は都市伝説扱いとなっている。  また占い以外にも、レダは魔法が使えるといわれているが、その力を見たという者は居なかった。それ故、レダが魔法使いなのかという話も真偽が分からない。  そして今、店内では黒いローブを目深に被った占い師レダが、薄暗くなって行く窓の外を眺めながら、深いため息を吐いている。 「レダ様、どうされたのですか?」  見習いのキュイはレダのフードを引っ張って、彼女の顔を覗き込んだ。 「キュイ、今夜は満月でしょ。あの御方と約束した日なのよ」  姿とは似合わない、可憐な声で答えるレダ。 「レダ様!声っ!」 「あっ、ごめんなさい。声色を変えるの忘れていたわ!」  レダはキュイに謝ると一度、咳払いをしてからブツブツと呪文を唱え始めた。キュイは静かにレダを見守る。 「これで、大丈夫よね?」 「はい」  この占い館の主であるレダは少々ワケありで、フードを目深に被って、顔を隠し、声色を変え、年齢も誤魔化している。 一番の理由は客からナメられるから。―――というのは、言い訳で本当は大きな理由がある。 (今のところ、師匠と私が入れ替わっていることを、誰も気づいてないのよね。このまま、師匠が帰ってくるまで隠し通せたらいいけど……。大体、師匠の用事って、いつ終わるの? もう出かけてから半年以上経つし……)  いうまでもなく、占いの館へ相談に来る者たちは厄介な悩みを抱えている者が多い。しかし、ここにいる身代わりのレダは占い師の修行もしたことが無い、ズブの素人だ。  今のところ、訪れた者のお悩みを聞き、相槌を打って、頑張りを褒めたたえ、励ますという流れを繰り返し、何とか乗り切っている。  しかし、自分が師匠(レダ)でないと、相談者にバレたらどうなるのか。 (今更だけど、余りにも安易に引き受け過ぎたわよね。それと師匠が私に成りすまして何をするつもりなのか、あの時にしっかり聞いておかなかったのは失敗だったわ)  そして、その身代わりのレダの前に、やんごとない
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満月の夜 2

「お客さま、ここは占いの館です。宿屋ではございませんので……」 レダは、勇気を出して言い返す。しかし、男はガラス玉のように透き通った瞳で、レダを射抜くように見つめる。「では、占い師殿。俺の未来を占ってくれ。そうすれば、理由を言わなくても、あなたなら分かるだろう」 男は珍しく、“話を聞いてください”と言わない客だった。こうなると、レダはこの男のことを自力で調べないといけない。(もしかして、私、試されてる?) レダは机の下から水晶の球を渋々取り出した。そして、水晶に映る目の前の男へ視線を固定する。「すみませんがお客様のお名前を教えて下さい。フルネームではなく、ファーストネームで構いません」「―――アルフレッド」(ああ、やっぱり……、そうなのね。他人の空似でもなく、間違いなくこの方は……)「では、アルフレッドさまの未来を占います」(はぁ……、仕方がないわ。ここで私情を挟んではダメ!! 相手は私の正体を知らないのだもの。だから、ちゃんとレダとそのお客様として対応しないと。だけど私、占いなんて全然出来ないのよね。こうなったら、それらしく未来を占っているフリをして、彼の記憶を見せてもらうことにしましょう) レダは全神経を集中させ、水晶玉で占いをしているフリを始めた。そして、こっそりと自身の魔力を開放して、水晶の向こう側にいるアルフレッドの記憶を探っていく。(―――これは何処かしら。う~ん、皇宮では無さそうね) アルフレッドの記憶の中に、ある一室の風景が浮かんでくる。 数人の貴族らしき男性たちが『次の満月の夜にアルフレッドへ媚薬を飲ませて用意した女を部屋に送ろう』という作戦を話し合っていた。「アルフレッドさま、とある犯行計画が見えました。ただ、これはわたしが覗き見て、良い内容なのでしょうか?」「ああ、構わない。おれはこの計画を上手く潰したいと思っている」「分かりました。では、具体的にどうして欲しいのかをお聞かせ下さい」「次の満月の晩、俺は敢えて媚薬の入った食事を取り、こいつらに騙されたフリをする。だから、その晩はここへ泊まらせてくれ。そうすれば、あいつらの計画は実行したにも関わらず、失敗に終わる」 レダは、少し思案した。「では、ご自身の寝室には戻らず、ここで満月の日の夜を過ごしたいということでしょうか」「そうだ。レダ殿ならば、俺が媚薬を
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満月の夜 3

 すっかり夜も更け、満月がヤドリギ横丁を明るく照らす。 コンコンとノックの音がした。 見習いのキュイは静かに扉を開く。フードを被ったアルフレッドが立っていた。静かに室内へと促し、扉を閉めてカギを掛ける。「こんばんは、アルフレッドさま。ここへ来ることを誰かに見られたりはしていませんか?」「こんばんは、占い師どの。心配には及ばない。念のため、皇宮の私室からドアの前まで転移してきた」 アルフレッドは被っていたフード付きマントを脱いだ。すると、頭の上に可愛いモフモフの耳が……。「えっー!?」(頭にケモ耳がついてるー!? 殿下にこんな秘密があるなんて、私、全く知らなかったのだけど!? 今まで隠していたってことよね? それって、かなりの重要機密なのでは……??) レダは両手で口を覆う。驚きのあまり、つい叫んでしまったからだ。「構わない。この姿を初めて見た者は驚くだろうからな。それに今夜は満月。おれを狼男だと勘違いしている馬鹿な奴らが犯行をより確実にするため、媚薬を盛るなどという愚策を考えたのだろうが……。わざわざ教えてはやる必要もないが、俺は銀狼ではなく、正しくは銀狐《ぎんこ》だというのに……」「銀狐《ぎんこ》……、ぎんぎつね!?」(え、待って!皇族に入っている魔族の血って、きつねなの? 嘘っ!? 本当に???) レダは初めて聞いた話をどう受け取ったら良いのか分からなかった。アルフレッドは目の前で老齢の占い師が動揺している様子を目の当たりにして違和感を持つ。「占い師どのは、このことを知らなかったのか?」「ええ、初めて知りました」「そうか、父上からヤドリギ横丁の占い師レダ殿は皇家の秘密を知っているから大丈夫だと聞き、ここへ相談に来たのだが……」 レダの背中に冷たい汗が伝う。アルフレッドのいう占い師レダ《師匠》は、今ここに居ない。いろいろと勘繰られないよう言葉に気を付けながら、レダは事情を話し始めた。「アルフレッドさま、その占い師は先代かも知れません。私が弟子に入って直ぐに師匠は亡くなりました。そのため、私は皇家の秘密を存じません。また、今知った秘密は決して口外しないとお約束します。どうぞご安心くださいませ」(レダのことを聞かれたら、死んだことにしたらいいって、キュイは言っていたけど……。こんな言い訳で、聡いこの人を納得させられるのかしら) 
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満月の夜 4

 半年ほど前、カレン(カレン・マーレ・シュライダー侯爵令嬢)は、この占い館へ抱えきれない悩みを相談するために足を運んだ。その時に本物の占い師レダと初めて出会ったのである。 しかし、レダはカレンの顔を見るなり彼女の相談内容も聞かずに自分の弟子にならないかと唐突に提案して来た。 理由を問えば、カレンの未来を円滑にするためだとレダはいう。だが、その今一つ真意の分からない話にカレンは困惑してしまった。(レダさんは、私に聞かせてはいけない重要な話を避けているのか、あまり詳しく説明してくれない……。だけど、弟子にならないかって話は私に占い師をさせようとしているということだよね?) ここでレダは、更にカレンへ畳みかける。「あんたの置かれている状況をあたしは知っている。あたしはこれからあんたが幸せになるための準備をする。だから、入れ替わろうじゃないか!!」「入れ替わる?」(レダさんの弟子になって修行するのではなく、レダさんと入れ替わる? それって……)「ああ、あたしがあんたの悩みを解決してやるよ。いや、この提案はあたしにも十分な利があるんだ。遠慮はいらない」 こんな無茶な提案、普通のご令嬢なら間違いなく断るだろう。だが、カレンはレダの提案を真剣に受け止め、どうすべきかを考えた。(正直なところ、あの人たちがいる屋敷にはもう戻りたくないわ。レダさんが、私の代わりに屋敷へ戻って、あの人たちをどうにかしてくれるのなら任せてみる?―――だって、私にはこの状況を打破する気力も体力も、もう残っていないもの) この時、カレンはもう限界だった。何が原因かと言えば、父であるシュライダー侯爵が一年前に後妻として迎えたレベッカとその連れ子エマからの激しい嫌がらせを受けていたからである。 持ち物を奪われたり、罵られたりすることは日常茶飯事。その上、義妹エマはカレンの友達の茶会へ勝手に参加し、その高飛車な態度で度々揉め事を起こしていた。 もちろん、エマは反省などせず、自分の主張ばかりを繰り返す。それでいて、先方へお詫びはカレンに押し付けてくるのだから、最悪だ。(『お前の母親以外と結婚をすることなど絶対にない』と、あんなに頑なだったお父様が、急に再婚するって言い出しただけでも驚いたのに。まさか、あんな人たちが家族になるなんて……。―――それでも、彼女たちは貴族生活に慣れていないだけ
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満月の夜 5

「ほら、あんたにそっくりの姿になっただろう? ああ、そうだ!」 レダは棚の上に座らせている黒髪で茶色の目をした女の子の人形を人差し指でトンと弾いた。 突然、人形はボワンと白い煙に包み込まれる。そして……。「わっ!」 カレンの目の前に人形とそっくりの少女が現れたのである。「ほら、そんなに驚くんじゃないよ。この子はあたしの助手でキュイというんだ。困ったことがあれば、キュイに聞いておくれ。じゃあ、あたしはこれからシュライダー侯爵邸へ向かうからね。あとは宜しく頼んだよ」 レダは玄関のドアを開くと、一目散に何処かへ駆けて行った。「レ、レダさん……」(入れ替わるといっても、こんなに早くレダさんが出掛けてしまうなんて思わなかったわ。それに助手の……)「ええっと、キュイ?  この子って、お人形さんを大きくしただけ……じゃないわよね」 カレンはキュイをジーッと見つめる。「――――ご安心ください。わたしがレダ様のお仕事をカレン様へお伝えします」 急に話し始めたキュイは無表情なものの、とても優しい口調だった。(うわっ、驚いたわ!! キュイは口が利ける……のね)「カレン様、レダ様の声を真似出来ますか?」「あっ、えっ、声? ええ~っと、魔法を使えば出来ると思うわ。多分……」「では、声色を変えて、レダ様の黒いローブをしっかりと被り、その金髪が見えないようにして下さい」「分かった。やってみます」 こうして、カレンはキュイからレダの真似をするコツを習い、今日までレダの身代わりをしてきたのである。♢♢♢♢♢♢♢ 全てを聞き終えるまで、アルフレッドはカレンを腕の中に閉じ込めていたため、カレンはドキドキしてしまい、心臓が破裂しそうだった。「それが真実なら、俺がカレンの無実を証明する。そして、義理の母と娘に鉄槌を下す」 アルフレッドの声は怒気を孕んでいた。彼がこんなに感情を露わにするのは珍しいとカレンは驚く。「ですが、エマは今、殿下の婚約者じゃないですか!」「冗談じゃない。あんな女に俺の婚約者が務まると思うか?」「私は、それをお答えする立場にありません……」 カレンは、プイッと顔を逸らした。だが、アルフレッドから顎先を掴まれて、元の位置へ戻されてしまう。「カレン、ずっと会いたかった。直ぐに迎えに行けなくて、ごめん」「いえ、久しぶりにお会い出来て嬉しか
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満月の夜 6

 アルフレッドの話によると、この半年の間、カレン(レダ)は表舞台へ出ていないらしい。 そして、そのカレンが今どうしているのかということについては(誰が流したのかを察するのも馬鹿馬鹿しいくらいであるが)、『あの賊に襲われた事件以来、体調が優れず、邸宅内で療養している』と巷で噂されているそうだ。 それを知り、アルフレッドは直ぐにシュライダー侯爵家へカレンの見舞いに行きたいと打診した。ところが『エマの手前、紛らわしい行動は控えて欲しい』と侯爵夫人が不快感をあらわにして拒否したため、アルフレッドは侯爵邸に近づくことも叶わなかったというのである。「療養ですか……」(お義母さまったら、相変わらず私のことを好き勝手に吹聴しているのね。これ以上、何を企んでいるのかしら。義理の娘が死んじゃいましたって、涙を流すのも時間の問題かも知れないわね) カレンが考え事をしているとアルフレッドが彼女のくちびるを指先でなぞった。ゾクッとして伏せていた瞼を上げる。「殿下、何をなさるのです!」「カレン、おれが此処に来ることになった理由を思い出してくれ」「媚薬を盛られたから、占い師レダのところで効果が切れるまで過ごすということですよね」「おれの提案を飲めないなら早く拘束した方がいいぞ。そろそろ我慢も限界だからな」(えっ、えっ!? は? 我慢も限界って……。まさか私、相手に!?)「わっ、分かりました。拘束します!」「即答されるのは全く嬉しくないが……。はぁ~、これ以上は危険だな。頼む」(話している途中で、急に色っぽい声を出すのは止めてー!!) カレンは、アルフレッドの両手を掴んで詠唱を始める。白い鎖が現れ、グルグルと両手首に巻き付いた。(足も拘束した方が良いわよね)「殿下、まだ動けますよね?」「ああ、はぁ~、あ、うっ、だ、大丈夫だ……」 急に俯いて苦しそうな声を出す、アルフレッド。(えっ、媚薬って、こんな急に効いて来るものなの!? それとも、ずっと我慢していたの???) アルフレッドの呼吸は一息ごとに荒くなっていく。 カレンは急いで彼の手を引き、廊下の先にある階段から二階へ上る。そして、自室のドアを開くと窓辺に置かれたベッドのところまでアルフレッドを連れて行き「横になって下さい」と促した。「殿下、足も拘束しますね」 仰向けになったアルフレッドの足首を揃え、白
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夜明け

 世界に数人しかいないといわれる大魔女。 彼女たちは人の世と距離を置き、不干渉を貫く。だが、面白おかしいことが大好きで、いつも刺激を求めているのだという。 中には風変わりな者もいる。 それがレダだ。 彼女は人と関わることが大好きで、いつの間にかヤドリギ横丁に住み着いた。占いの館で人々の悩みを聞き、スマートに解消してくれるのである。―――ニコラス(現皇帝でアルフレッドの父)は幼いころ頃、子ぎつねから人の姿に戻ることが出来なくなってしまった。前皇帝夫妻は我が子を心配する。 本当なら、これは皇家にとって難しい案件になるはずだった。それは皇族に銀狐の血が入っているということ自体が最高機密だからだ。 そこで白羽の矢が立ったのは占い師レダだった。既に彼女は歴代皇帝の相談役として、厚い信頼を得ていたのである。 ニコラスは両親と共にレダのところへ相談に向かう。 レダは丁寧に彼の状態を確認した。そして、ニコラスはレダが作った成長ホルモンを整える薬を服用し、子ぎつねの姿から人の姿へスムーズに戻れるようになったのである。 密かに解決することが出来て、前皇帝夫妻が安堵したというのはいうまでもない。♢♢♢♢♢♢♢ アルフレッドは『幼少期に占い師レダの治療を受けたことがある』という父の話を思い出し、今回の媚薬の事件を乗り切るために『レダの家』へ足を運んだ。 アルフレッドは大魔女レダなら、高齢で媚薬の対象にはならないだろうし、何かあれば魔法で上手く収めてくれるだろうと楽観的に考えていたのである。 ところがこれは大誤算だった……。 その頼りにしていた占い師レダが、何故かアルフレッドが逢いたくて、逢いたくて、仕方なかった最愛のカレンに入れ替っていたのだ。これでは媚薬を盛られなくても押し倒してしまいそうである。 半年ぶりに会った元婚約者のカレンは、アルフレッドの脳裏にいるカレンよりも、さらに美しく大輪の花が咲き誇っているような華やかさを感じた。今すぐ抱きしめて、何処かに隠してしまいたいと願うほどに……。   ♢♢♢♢♢♢♢ 瞼を持ち上げると、窓から差し込む月明りが部屋の中を幻想的な雰囲気にしている。夜明けはまだ遠いらしい。 手足、そして腹部は白い鎖で拘束されていて動けない。アルフレッドは昨夜の拘束された時のことが頭を過ぎった。『媚薬とはあんなに強烈なものなのか』
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ハニートラップ?

アルフレッドは朝食を用意しているカレンとキュイの様子を眺めていた。 キュイはテーブルの上に深皿を三枚並べ、そこにシリアルをザーッと注いだ。次に保存用のガラス瓶に入っているレーズン、アーモンド、クルミを木さじで一杯ずつ取り出し、シリアルの上にのせていく。 カレンは飲み物の担当していた。湯気の上がっているマグカップ三つとミルクの大瓶をトレイに載せてテーブルへ運んでくる。先に香りが漂ってきたので、マグカップの中身は紅茶だと分かった。「殿下、お待たせしました」「いや、朝食の用意まで気を遣わせて、済まない」「いえ、庶民の朝食で……。逆に申し訳ございません」 カレンはテーブルの上にある物を見まわしながら詫びる。(殿下にシリアルを出すのはあんまりだったかも。だけど、倉庫に備蓄されているパン(いつ作られたのか不明)を出すよりは、コレ(シリアル)の方が安心かな~って思ったのよね。満月の日に来るって分かっていたのに何も準備してなかったのは迂闊だったわ)「カレン様、本当にわたしも皇子殿下と朝食をご一緒して、宜しいのでしょうか?」 キュイが、か細い声で尋ねてきた。「ええ、構わないわ。殿下、大丈夫ですよね?」「ああ、全く構わない」 アルフレッドは快諾する。カレンは配膳を終えるとアルフレッドの向かい側に腰かけた。「では、祈りましょう」 いつもなら、カレンとキュイは席に着いてすぐに食事を始めるのだが、今日はアルフレッドがいるので感謝の祈りを捧げてから食事を始めることにした。―――感謝の祈りとは動植物の命をいただくという感謝の念を祈るもので、宗教的な意味合いは全く無いのである。 そもそも、ニルス帝国は国教を定めていない。それはこの国が古来より貿易を通して集まった人々による他民族国家だということと、一つの宗教に統一しようとして無駄な争いごとを増やすようなことをしたくないのだという。だが、一番の理由は皇家を脅かすような力のある団体を作りたくないというのが本音だろう。 一見、大海原に面し、自由で開放的なニルス帝国と思われがちだが、実は人の道に外れるようなことや、貞節にはとても厳しいのだ。それは皇家が一夫一妻制を貫いていることが影響している。 他国の皇族、王族は一夫多妻を認めているからだ。 それ故、カレンはあの継母による暴行事件の捏造で、既に今後の人生を諦めていた
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心配性?

アルフレッドとキュイを見ながら、カレンは考え事をしている。 (キュイの水晶のような瞳と艶のある黒髪、そして美しく均整の取れたお顔って、まるでお人形さんみたい……) カレンがキュイに視線を戻すと、彼女は干しブドウをたっぷりとのせたスプーンを慎重に口へ運んでいた。 (ああ~、本当に可愛いわね!―――ん? あれっ!? あっ、違うっ!! 思い出した!! キュイは正真正銘お人形さんよ!! えっ~、どうして、こんなに大事なことを忘れていたの、私!?) キュイと一緒に過ごしているうちに、頭の中から重要なことがスッポリと抜け落ちてしまっていたようだ。 これは単なる忘却なのか、それとも他の原因があるのか? さっぱり分からない。 (レダさんに魔法を掛けられたという可能性もあるよね……) レダと連絡を取っていることをあっさりと認めたキュイ。しかし、その後のアルフレッドの質問には何一つ答えず、ひたすらシリアルを口へ運び、顔を上げようともしない。 (殿下、キュイに粘り強く質問しているわね。キュイは完全に無視しているけど……) キュイの態度はもはや質問を拒否しているようだった。 ここまで頑なに無視するのは何か答えられない理由でもあるのではないかとアルフレッドは睨む。 「なぁ、キュイ。レダどのから制約でも課されているのか?」 キュイは無言のまま頷いた。    すると、次の瞬間、風船がシューッとしぼむようにキュイは小さくなり、スプーンと一緒に床へ転げ落ちてしまう。 「なっ!?」 アルフレッドは予想外の展開に驚きつつ、床から人形(キュイ)を拾いあげた。そして、それを表にしたり裏にしたりして、食い入るように観察する。 (何なのこのタイミング!? 今、キュイの正体を思い出したばかりだったのに……。怖すぎるのだけど!) カレンは背筋がゾワッとした。 「カレン、キュイは人形だったんだな」 アルフレッドは人形をテーブルの端に置く。 「はい、キュイはお人形です。レダさんが魔法で動くようにしたのです。私のお世話係として……」 「ということは、キュイが人形に戻ったら、カレンのお世話係が居なくなるということか? 一人で大丈夫なのか?」 「まぁ、仕事にも慣れましたし、一人でも大丈夫だと思います」 カレンの返事を聞き、アルフレッドは顎に拳をあてて少し
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本日のお客様 1

一人で開店準備を終えたカレンは、ドアの外側にOPENと書いてあるプレートを吊るす。時刻は朝の九時を少し過ぎたばかり。この時間帯にやって来るお客様は商売人が多い。 お客様が来るまでの間、カチコチと時を刻む針の音をBGMにして読書をするのがカレンの日課だ。この占いの館の地下には書庫があり、多くの書物が置かれている。全体的に魔導書が多いのはレダが魔法使いだからだろう。 本日の一冊は魔法倫理学の本。 カレンは『魔力で作り出した空間について』のページを開く。 一般的に魔法で作り出す空間はこの世界とは別の異世界といわれている。ところが、この著者は『実は魔法で作られた空間もこの世界の一部である』という仮説を立て、それを裏付けしていく。 また、他者の空間と繋がった場合、どちらに権利があるのかということも法と照らし合わせて、詳しく論述してあった。 (なるほど……、この説が正しいのなら、魔法で空間を作り出したら、見知らぬ人のお部屋と繋がったりする可能性もあるということよね。それは気まずいわ……) ―――コンコン。 ドアをノックする音がした。 「おはようさん! レダ(カレン)。今日もお願い!!」 「おはようございます。マーガレットさん、それで今日は?」 「ええっと、朝市で出来のいいジャガイモと水揚げされたばかりの鱈を仕入れて来たよ。さて、何がいいかね~? それから、昨日のパプリカチキンも好評だったよ!」 「鱈って、どんな調理法がありますか?」 「そうだね、鱈はフライにしたら美味しいよ。ザクザクの衣とふわふわの身が最高でね。エールが進むよ」 「あ~、いいですね。美味しそうです」 「じゃあ、占っておくれ。今日のランチメニューは何にしたらいいかい?」 ヤドリギ横丁でビストロを経営しているマーガレットは『レダの家』一番の常連客だ。彼女は“本日のランチメニュー”を占ってもらうため、毎朝、ここに来る。 朝市で材料を仕入れている時点で、ほぼほぼメニューは完成していると思われるのだが、要は後押しをして欲しいだけなのだろう。 ――――――カレンは神妙な面持ちで水晶をテーブルの下から取り出し、ジーッと見つめる。 「お皿に鱈フライが見えます。ジャガイモは……」 「ああ、ジャガイモも揚げて『フィッシュ&チップス』にしろって? 最高だね。今日のメニューはそれ
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