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第2話

Author: はなまる日和
澄佳の言葉を合図にしたように、会場スタッフたちはもうためらわなかった。

数人が前に出て、俺を外へ連れ出そうと腕に手を伸ばしてくる。

俺はその手を振り払い、低い声で制した。

「離せ。俺に触るな。俺は父・遠野宗一郎(とおの そういちろう)の代理で来ている」

一瞬の沈黙のあと、周囲からどっと笑い声が上がった。

雅彦は口元に手を当て、こらえきれないというように肩を揺らした。

「遠野宗一郎氏のご子息といえば、スタンフォードを出て、帰国してわずか二年で遠野家の事業をほとんど任された人物だろう?

君とその人の共通点なんて、遠野という名字くらいじゃないか。運転手にしか見えない男が、よくそこまで大きく出られたものだな。

同じ大学にいたよしみで、将来、俺と澄佳の子どもの世話くらいなら任せてやってもいいけどな」

俺は鼻で笑った。

「その前に、お前、子どもなんて作れるのか?」

雅彦の笑みが、そこでぴたりと止まった。

俺はさらに続けた。

「それに、女に寄生しているだけの男が、偉そうに俺を見下すな」

その一言で、雅彦の顔から余裕が消えた。

雅彦は前々から、澄佳との間に子どもを作り、一ノ瀬家に正式に認められようとしていた。

しかし、乱れた私生活のせいで、彼は子供をできにくい体になっていた。

本人も相当焦っているようで、名医を訪ね歩き、あれこれ手を尽くしていると聞いたが、いまだに成果は出ていなかった。

弱みを突かれた雅彦は、怒りで顔を歪めた。

「何をしている。早くこいつを外へ出せ!」

会場スタッフたちは、今度こそ俺の話を聞こうとしなかった。

数人がかりで俺の腕を取り、強引に出口へ連れていこうとする。

腕の中の勇太がびくりと肩を震わせ、泣き出した。

このままでは息子に怪我をさせてしまう。

俺は力を込めて、スタッフたちの手を振りほどいた。

「自分で出る。息子に触るな!」

その瞬間、澄佳の表情が変わった。

彼女は信じられないものを見るように、俺の腕の中の勇太を見つめた。

「謹也、今なんて言ったの?その子、あなたの子なの?」

「ああ。俺の息子だ」

「あなた、もう他の女と結婚していたの?嘘よ。そんなはずない。あなたが私を忘れられるはずないもの」

俺は思わず眉をひそめた。

「何を言っている。俺たちは、とっくに終わっているだろう」

それでも澄佳は納得しなかった。

その視線が、ふと俺の手首で止まる。

見下ろすと、さっき揉み合った拍子に袖がまくれ、腕時計が外から見えるようになっていた。

澄佳はそれを見た途端、やっぱりね、とでも言いたげに笑った。

「謹也。まだそんな強がりを言うのね。

やっぱり私のこと、忘れられなかったんでしょう?そうでなければ、私があげた時計を今でも着けているはずがないもの。

今ここで正直に認めて、私に謝るなら、もう一度だけチャンスをあげてもいいわ」

澄佳がくれた時計だと?

俺は思わず笑いそうになった。

彼女が昔くれたのは、安物の模造品だった。

とっくに錆びついて、今どこにあるのかも覚えていない。

今、俺の手首にあるこれは、妻が贈ってくれたものだ。

俺がこのシリーズを気に入っていると知って、デザインから携わり、半年前から特注してくれていた。

世界に一本しかない、俺だけの時計だった。

俺は呆れたまま、文字盤に嵌め込まれたダイヤを指した。

「よく見ろ。ここに入っているダイヤ。お前に用意できるのか?

これは妻が俺のために作ってくれた時計だ。お前が口を挟む話じゃない」

文字盤に並んだダイヤは、照明を受けてまばゆく輝いていた。

詳しくない者でも、ただの安物ではないことくらい分かるはずだった。

だが雅彦は、いきなり俺の手首をつかんだ。

強引に時計を外すと、手の中で弄びながら薄く笑う。

「君がこんな時計を持っているわけがないだろう。

今日は金を持っている人間ばかりが集まっている。どこかで盗んできたんじゃないのか?

食うにも困っているなら、そう言えばいい。厨房にでも頼んで、何か恵んでもらえるようにしてやるよ」

雅彦の視線が、俺の腕の中にいる勇太へ向いた。

「親が盗みをするような人間なら、子どももろくな育ち方はしないだろうな。いずれ誰かに痛い目を見せられるさ」

その瞬間、胸の奥で何かが切れた。

「黙れ」

俺は雅彦を睨みつけた。

「俺の息子を、そんなふうに言うな」

雅彦はまだ何か言い返そうとした。

だが、勇太の顔を見た途端、その表情が変わる。

「待て……」

雅彦は目を細め、勇太の顔をまじまじと見た。

そして次の瞬間、声を上げた。

「この子、水瀬綾乃(みなせ あやの)の子じゃないか」

ざわめきが、周囲に広がった。

雅彦は俺を見据え、声を荒げる。

「謹也。どうして君が水瀬綾乃の息子を抱いているんだ?

まさか、連れ去るつもりだったのか?そこまで落ちたとはな」

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