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第8話

Author: 星と想い
二日後は、離婚届が受理される日であった。

美緒は一人で退院手続きを済ませ、直接タクシーで市役所へ向かった。

車に乗るなり、スマートフォンの画面が点灯し、清香のSNSの更新が表示された。

キャプションは【最高のパパが時間を割いて、息子と海辺に遊びに来てくれました!家族四人の甘い日常をシェア〜】

九枚の写真には、誰もが幸せそうな笑みを浮かべている。

以前なら、これらの光景は簡単に彼女の心を切り裂き、耐え難いほどの苦痛を与えるだろう。

しかし、彼女は今、何も感じていなかった。

彼女は写真を拡大して詳しく見る気にもなれず、直接画面を閉じた。

市役所にはすぐに着いた。

四年前、彼女は憧れと愛に満ち、颯弥と固く手を繋ぎ、軽やかな足取りでここに来た。

今日、彼女は一人で、孤独な姿で、しかしその足取りは異常な程にしっかりしていた。

職員が事務的に尋ね、確認した。

ゴム印が押され、「カチッ」という軽い音がして、離婚届受理証明書が彼女の前に差し出された。

「こちらが離婚届受理証明書です。お受け取りください」職員が事務的に言った。

美緒はそれを手に取った。指先に冷たい感触が伝わり、彼女はそれを丁寧にしまい、背を向けてドアを出た。

微風がそっと彼女の頬を撫で、久しぶりの安らぎと自由をもたらした。

屋敷に戻った後、美緒はまっすぐ部屋に向かい、「記念品」を保管している箱を開けた。

最初に目に飛び込んできたのは、分厚い楽譜の束だった。

これらはすべて、長年颯弥が彼女のために集めた貴重な版で、それぞれの表紙には、颯弥が愛情のこもった言葉を手書きしていた。

「俺の唯一の美緒へ。音楽が永遠に君のそばにありますように!」

「俺の願いは、美緒がピアノを愛するように、俺を愛してくれることだ!」

次に、精巧に彫刻された木箱があり、中にはリボンで綺麗に束ねられた九十九通の手書きの手紙が入っている。

彼女は何気なく一通抜き取った。

日付は彼らが初めて会って間もない頃だった。

「美緒へ。今日の演奏会、君はステージで演奏し、その眼差しはとても真剣で、まるで君の全てを見ているかのようだった。

君は知らないだろうが、俺は観客席に座り、目には君しか映っていなかった。俺の心臓は君のせいで絶え間なく鼓動していた。いつか、君も君のピアノを見るように、俺を見てくれることを、心の中で密かに祈っていた」

また一通抜き取った。

日付は彼らが結婚して間もない頃だった。

「妻へ。運命が君に会わせてくれたことに感謝する。君と結婚できたことは、俺の人生で最も幸せなことだ!

君のためにあの攻撃を受けたことは、俺が人生でしてきた中で最も勇敢で、最も後悔のない決断だ。俺は自分の命よりも君を愛している。

俺を信じて、自分を俺に委ねてくれてありがとう。一生をかけて君を守る!」

美緒の指先が、これらの見慣れた筆跡をなでた。

かつては一目見るたびに顔を赤らめ、胸をときめかせた甘い言葉が、今読むと、一字一句が心を刺し、この上なく皮肉に感じられた。

その後、彼女は楽譜と手紙をすべて木箱に投げ入れ、木箱を抱えて屋敷の裏庭へ向かった。

彼女はライターを取り出し、「カチッ」という音と共に、炎が急速に燃え上がった。

彼女は何気なく数通の手紙に火をつけ、箱の中に投げ入れた。

オレンジ色の炎が、すぐに木箱全体を包み込んだ。

かつての熱い誓いは、紙が歪み、黒く焦げるにつれて、最終的には灰となり、まるで彼らの過ぎ去った愛のように、空中で風に舞った。

これらを片付けた後、美緒は寝室に戻り、用意しておいたスーツケースを取り出し、証明書、パスポート、そして数着の必要な衣類だけを詰めた。

彼女はスマートフォンを開き、銀行口座とソーシャルメディアのアカウントを一つ一つ削除した後、スマートフォンのSIMカードを取り出し、指先で強く押し、「カチッ」という音と共に折りたたんだ。

このすべてを終え、美緒はスーツケースを引いてドアを出た。

屋敷の門の前で、彼女は最後に、この四年間、彼女のすべての幸せと苦痛を乗せた牢獄を一瞥し、ためらうことなく背を向けて去っていった。
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