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第4話

Autor: じゃがいもちゃん
両親をホテルに落ち着かせてから、私は新居へ自分の荷物をまとめに戻った。

ところが部屋の中は、予想以上に騒がしかった。

リビングの中央に立つ一誠は、電話をしながら家政婦に次々と指示を出し、繭香の荷物を運び込ませている。

彼はすっかり慣れた口ぶりで、繭香のサイズをよどみなく告げた。

「このサイズで、ウェディングドレスをもう何着か用意しておいてください。明日、彼女と試着に行きますので」

繭香の好むデザインについて担当者と打ち合わせを終えたところで、一誠はようやく私の存在に気がついた。

電話を切り、私へ向き直る。

「璃子、ちょうどよかった。

繭香のご両親が何日か泊まりに来るんだ。バレないように、お前の荷物はどこかに隠しておいてくれ。

その間はホテルに泊まっててくれよ。どうせ式の当日も、ホテルで支度するんだしさ」

言い終えたところで、一誠はふと言葉を切った。ようやく思い出したらしい。

先週、うちの両親を何日か泊めてもいいかと相談したとき、彼は眉間に深いしわを寄せて、にべもなく断ったのだ。

「他人が家に上がり込むのは好きじゃない。いい大人なんだし、まだ結婚もしてないのに、少しは距離感ってやつを考えろよ」

自らの矛盾に気づいたのか、一誠は口を開きかけ、何か言おうとした。

まさにそのとき、着信音が鳴り響いた。

画面に表示された名前を見た途端、一誠の鋭い目元がふっと緩む。

彼はもう私に一瞥もくれず、足早にベランダへ出て電話に出た。

私が荷物をすべてまとめ終えた頃には、一誠の姿はどこにもなかった。

私はついでに清掃業者へ連絡を入れた。

ふたりで撮ったウェディングフォトも、毎年の記念日に一緒に作った思い出の品も。

一誠にまつわるものは何もかも、業者にまとめて処分してもらった。

ホテルに戻ってから、ようやく一誠からメッセージが届いた。

【璃子、もうすぐ家に着く。荷物はまとめ終わったか。鉢合わせしたら説明が面倒だからな】

私は一切返信せず、彼らの連絡先をひとつ残らずブロックした。

……

結婚式の当日。

海辺に建つリゾートホテルの砂浜には、ウェディングマーチが晴れやかに流れている。

壇上に立つ一誠は、隙のない完璧なタキシード姿だった。

バージンロードの先から、純白のドレスをまとった繭香がしとやかに歩み寄ってくる。

友人たちは楽しげにはやし立てている。なのに一誠は、なぜか妙に苛立っていた。

ゲームをしたあの日の、璃子の落ち込んだ表情が、勝手に脳裏によみがえった。

繭香の望む海辺の結婚式をわずか1週間で仕上げるため、一誠は目の回るような忙しさで駆け回っていた。璃子と言葉を交わす暇さえなかったのだ。

今になって、ようやく思い出す。

あの日、宿敵の影山徹(かげやま とおる)に負けたくない一心で、自分は璃子との結婚を慌ただしく決めた。

そのくせ仕事に没頭し、式の準備にまつわる細々とした雑事を、何もかも璃子へ押しつけてきた。

友人たちに至っては、繭香を「裏切らない」ために、わざと璃子への協力を断り、約束まであっさりと反故にした。

それでも璃子は、ひと言の愚痴もこぼさなかった。黙々とひとりで段取りを整え、すべてを完璧にこなしてみせた。

璃子はいつだって聞き分けがよかった。あまりにできすぎていて、彼女だって傷つき、苦しむのだという当たり前のことを、自分はすっかり忘れていたのかもしれない。

けれど今回ばかりは、さすがに度が過ぎたようだ。

そこまで考えて、一誠は深く息を吸った。

大丈夫だ。璃子に償う時間なら、これから一生ある。

今夜の璃子との結婚式のことを思うと、一誠の心はまた明るく浮き立った。

ひと通りの式次第が終わり、皆が席について食事が始まる。

一誠は上の空のままスマホを取り出し、璃子とのトーク画面を開いた。

やり取りは、繭香の家族を新居に迎えたあの日で完全に止まっている。

一誠は息をのんだ。

璃子は、喧嘩して口をきかなくなることを何より嫌う。

たとえ喧嘩をしても、こんなふうに1週間も連絡を絶つことなど、一度もなかった。

胸に広がる不安を必死に押し殺し、メッセージを打とうとした、そのとき。

ネットニュースの速報が、次々と画面へ表示された。

【IT業界の寵児・影山徹が電撃結婚。花嫁はまさかのあの人!?】

一誠は不審に眉をひそめ、記事を開いた。

その瞬間、彼は驚愕に目を見開いた。

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