登入優和が言っていた服とは、彼が千温のために買い揃えたセクシーなランジェリーのことだった。
さまざまなデザインや素材のものが揃っているものの、どれも露出が多すぎて、千温は本当のところあまり好きではない。 身につけるだけで、恥ずかしさに顔が熱くなってしまう。 それでも優和は気に入っているようで、千温は毎晩、言われるまま素直に身につけ、彼に見せていた。 クローゼットから一着を取り出して浴室へ入り、扉を閉めると、千温はそっと自分の服の匂いを嗅いでみた。自分では、それほど気になるほどの臭いではないと思う。
今日帰宅したとき、自分に近づいた優和が眉をひそめ、そのまますぐ身体を押しのけた姿を思い出すと、胸の奥がちくりと痛んだ。
最近の優和は、以前に比べて千温を褒めてくれることが減り、その代わりに不満を口にすることが増えたような気がする。 知り合ったばかりの頃、優和はよく千温の顔を見つめたまま、どこか遠くを見るような目をしていた。 あまりにもじっと見つめられるものだから、千温は照れくさそうに頬を赤らめ、「どうしてそんなに私を見るの?」と尋ねた。すると優和は、少しも迷うことなく真剣な表情で、「千温がすごく綺麗だから」と答えてくれた。
そんな言葉をかけられたことなど、それまでの人生でほとんどなかった。
人目を引くほど整った容姿をしていても、幼い頃から周囲の同級生は決して友好的ではなく、顔を合わせれば頭が悪いと馬鹿にされるばかりだった。児童養護施設で育った子だという理由でも距離を置かれ、千温と遊ぼうとしてくれる子は誰一人いなかった。
そんな毎日を過ごすうちに、千温は少しずつ口数が減っていった。高校生になる頃には露骨ないじめこそ少なくなったものの、すでに寡黙で人との接し方も分からない性格になってしまっており、友人と呼べる相手は最後まで一人もできなかった。
優和だけは違った。 優和だけは、いつも千温は綺麗だと言ってくれた。 頭が悪いと罵ることもなく、不器用に失敗する姿を見ても、楽しそうに笑いながら「可愛い」と言ってくれた。千温は、そんな優和に少しずつ心を奪われていった。
生まれて初めて誰かを好きになり、優和はとても優しくて素敵な人なのだと、心から信じていた。 けれど最近の優和は……少し、自分のことを嫌いになってしまったような気がする。 そう思った途端、目の奥がじわりと熱を帯び、鼻の奥がつんと痛んだ。千温が二度ほど瞬きをすると、鏡に映る自分の頬を一筋の涙が伝っていく。 千温は驚き、戸惑ったように目を見開いた。 自分の感情にさえ疎い彼女は、昔どれほどひどいいじめを受けても、涙が出るほど悲しいと思ったことはなかった。それなのに今は、優和に嫌われてしまうかもしれない――そう考えただけで勝手に涙が零れてしまう。そのことに自分でも戸惑い、どうすればよいのか分からなくなった。
それ以上零れそうになる涙を懸命に堪え、千温はボディソープで全身を二度も洗った。髪も肌も隅々まで丁寧に洗い、優和が嫌がった匂いがどこにも残っていないことを何度も確かめる。
それから選んでおいたランジェリーを身につけ、千温はおずおずと優和の寝室の扉を叩いた。
部屋の中には、暖かな色の光を落とすフロアランプが一つだけ灯っていた。 優和は柔らかな一人掛けの椅子に腰を下ろし、手にしたタブレットへ視線を落としていた。ランジェリー姿で入ってきた千温に目を向けると、張り詰めていた優和の表情がようやくわずかに和らいだ。
彼は千温に向かって軽く顎を上げ、形のよい薄い唇を開く。
その声には、先ほどまでの冷たさとは打って変わって、甘く艶めいた響きが滲んでいた。
「千温、こっちへ来い」 千温は素直に彼のもとへ歩み寄った。促されるまま優和の膝に跨り、そっと身体を預けると、小さな声でその名を呼ぶ。 「優和……」「わざとこれを選んだのか? 俺が一番好きだって、ちゃんと覚えてたんだな」
優和の視線が、千温の胸元へ注がれる。 見られているだけなのに、千温はたちまち頬を熱くした。 「やっぱり、これがお前には一番似合うな」 久しぶりに向けられた褒め言葉に、千温の胸は呆れるほど簡単に高鳴った。千温は頬を赤らめ、口を開くなり「ごめんなさい」と素直に謝った。「悪いと思っているなら、きちんと償うべきじゃないのか?」 そう言いながら、優和は千温の肩を押し、自分の膝の上から退かせる。 離れる間際にも、わざと持ち上げた膝で彼女の秘部を数回意地悪く突き上げてから、何事もなかったかのような落ち着いた声で命じた。「千温、そこに跪け。何をすればいいか、分かってるよな?」 千温は言われたとおり彼の前へ下りると、その正面に従順に跪いた。 人より少し鈍く、要領の悪いところはあっても、彼女はひどく聞き分けがよかった。 ベッドの上で男を誘ったり、巧みに誘惑したりする術はいつまで経っても身につけられないくせに、優和に言われたことなら何でも素直に受け入れ、彼が望むことを自分から拒もうとはしなかった。 優和はそんな千温を見下ろし、口元に薄い笑みを浮かべる。 千温は彼の視線を気にするように時折顔色を窺いながら、相変わらず覚束ない手つきで優和のベルトへ指をかけた。 千温はファスナーを下ろし、重く勃ち上がったものを取り出した。優和の表情を窺いながら、おそるおそる唇を開き、ゆっくりと口に含んでいく。 優和のものは、とっくに硬く張り詰めていた。 ただでさえ大きいため、千温の小さな口では咥えているだけでも苦しく、たちまち頬まで真っ赤に染まっていく。それでも懸命に唇を押し広げ、少しでも深く喉の奥まで迎え入れようとした。 深くまで咥えたほうが気持ちいい――以前、優和にそう教えられたことを、千温はちゃんと覚えていた。 優和に、少しでも気持ちよくなってほしい。「んっ……」 静まり返った部屋には、千温が懸命に喉を鳴らす音と、淫らに濡れた水音だけが響いていた。 優和は何も言わず、片手を千温の頭へ軽く添えている。 時折、思い出したようにその手へ力を込め、千温の頭を押さえ込んでは、自分のものをわざと喉の奥深くまで突き入れた。 息を奪われ、苦しそうに顔を歪める千温をしばらく眺めたあと、ようやく力を緩め、ほんの少しだけ呼吸を整える時間を与える。 千温の息が落ち着きかけた頃を見計らっては、再び頭を強く引き寄せ、逃れることもできないほど深くまで咥え込ませた。 もっとも、そんなことを繰り返しているのは、千温を困らせ、その反応を眺めて楽しみたいからに過ぎない。それだけで優和自身が射精
もともと反応が鈍いせいなのか、何度身体を重ねても、千温は男女の親密な行為にいまだ慣れることができず、いつまでも初めてのときのようなぎこちなさを残していた。 優和がもう百回以上もキスの仕方を教えてやったというのに、千温は少しも上達せず、相変わらずひどく不慣れなままだった。 優和は自分から唇を動かすこともなく、目を閉じることさえしなかった。 初めのうちは、何をさせてもたどたどしい千温の姿を見るだけで興奮できた。 けれど、いつまで経っても変わらないその反応を繰り返し目にするうちに、優和も次第に物足りなさを覚えるようになっていた。 もっとも、そんな千温に飽きて外で別の女を抱いたところで、一週間も経たないうちに、決まって千温の身体が恋しくなる。 少なくとも千温の顔は、外で適当に遊ぶだけの女たちとは比べものにならないほど美しかった。 何より彼女は従順で、騒ぎ立てることも、文句を言うこともない。 仕事が忙しいと言って何日も家へ帰らなくても疑いすらせず、一途に優和だけを想い続けていた。 そんな扱いやすさも、優和はひどく気に入っていた。 だからこそ何年ものあいだ手元に置き続け、一度として別れを口にしたこともない。 そもそも、千温を騙して自分のもとへ連れてくるより先に、彼女へ目をつけたのは優和のほうだった。 あれから、もう何年も経っている。 唇に触れるのは、まるで子猫が舐めているかのような、頼りなく、色気の欠片もないキスだった。それを受けながら、優和はふと、自分が千温とこんな関係をずいぶん長く続けていることに気づいた。 具体的に何年になるのかは、自分でも覚えていない。 千温と付き合い始めた日など、わざわざ記憶に留めようと思ったことさえなかった。 優和にとって千温は、いつでも好きなときに抱ける美しい玩具にすぎない。少なくとも、恋人と呼ぶような存在ではなかったからだ。 千温の秘部へ添えた手も休めることなく、柔らかなひだを繰り返し撫で、執拗に刺激し続けていた。 自分から優和を誘惑して機嫌を取るように命じられたはずなのに、先に耐えられなくなったのは千温の身体だった。優和が指先で何度か触れただけで、秘部は溢れるほど濡れ、腰まで小刻みに震え始めている。「千温、お前はどうして、いつまで経ってもキス一つまともに覚えられないんだ?」 優和が低く問いかける。
千温が選んだのは、白いシルクで仕立てられた一着だった。 一見すると丈の短いドレスのような形をしているものの、生地は肌が透けて見えるほど薄く、背中もほとんど覆われていない。 正面も似たようなもので、胸元には乳首だけが覗くよう大胆なカットが施され、その周りには小さなリボンがあしらわれていた。 露出の多い扇情的なデザインとは裏腹に、そのリボンだけはどこか無邪気で可愛らしい印象を添えている。 下も同じように、秘部が露出する大胆なデザインだった。身に着けたままでも、わざわざ脱がせることなく挿入できるように作られている。 優和は千温の胸元を飾る小さなリボンに指をかけ、弄ぶようにゆっくりとなぞった。 これを選んだ理由など、わざわざ聞くまでもない。 それでも確かめるような眼差しを向けると、千温は恥ずかしそうに頬を染めながら、小さく「そう」と頷いた。 千温は確かに、わざとこの一着を選んでいた。 数あるランジェリーの中でも、これを身につけたときの優和が一番喜ぶことを知っていたからだ。少しでも機嫌を直してほしくて、恥ずかしさを堪えながら自分から選んだ。「ごめんなさい。私が悪かったから……もう怒らないでくれる?」「なら、何が悪かったのか、自分の口で言ってみろ」 少し迷ったあと、千温は俯いたまま、小さな声で答えた。「優和に隠れて、勝手に働きに出たのがいけなかった。それに、嫌な匂いを身体につけたまま帰ってきて、優和を嫌な気持ちにさせたことも……ごめんなさい」 優和は気のない様子で「ふん」と短く返した。 その表情からは、千温の反省に満足しているのかどうか読み取れない。どうにか優和の機嫌を直したくて、千温は必死にさらに言葉を重ねた。「ごめんなさい、優和。やっぱり、まだすごく怒ってる……? 私のこと……嫌いになった?」 その声にかすかな涙の気配を感じ取り、優和はようやく千温の胸元から視線を外し、彼女の顔を見上げた。 わずかに腫れた目元と赤く染まった目尻を見れば、さっきまで泣いていたことなど一目で分かる。 見るからにしょんぼりとしたその顔はひどく哀れで、思わず手を差し伸べたくなるほどだった。 優和も一瞬だけ心を動かされた。 それでも、ここで甘やかしてはまた同じことを繰り返すかもしれない。きちんと懲りてもらうため、口を開いたときには、あえて声を冷たくした。
優和が言っていた服とは、彼が千温のために買い揃えたセクシーなランジェリーのことだった。 さまざまなデザインや素材のものが揃っているものの、どれも露出が多すぎて、千温は本当のところあまり好きではない。 身につけるだけで、恥ずかしさに顔が熱くなってしまう。 それでも優和は気に入っているようで、千温は毎晩、言われるまま素直に身につけ、彼に見せていた。 クローゼットから一着を取り出して浴室へ入り、扉を閉めると、千温はそっと自分の服の匂いを嗅いでみた。 自分では、それほど気になるほどの臭いではないと思う。 今日帰宅したとき、自分に近づいた優和が眉をひそめ、そのまますぐ身体を押しのけた姿を思い出すと、胸の奥がちくりと痛んだ。 最近の優和は、以前に比べて千温を褒めてくれることが減り、その代わりに不満を口にすることが増えたような気がする。 知り合ったばかりの頃、優和はよく千温の顔を見つめたまま、どこか遠くを見るような目をしていた。 あまりにもじっと見つめられるものだから、千温は照れくさそうに頬を赤らめ、「どうしてそんなに私を見るの?」と尋ねた。 すると優和は、少しも迷うことなく真剣な表情で、「千温がすごく綺麗だから」と答えてくれた。 そんな言葉をかけられたことなど、それまでの人生でほとんどなかった。 人目を引くほど整った容姿をしていても、幼い頃から周囲の同級生は決して友好的ではなく、顔を合わせれば頭が悪いと馬鹿にされるばかりだった。 児童養護施設で育った子だという理由でも距離を置かれ、千温と遊ぼうとしてくれる子は誰一人いなかった。 そんな毎日を過ごすうちに、千温は少しずつ口数が減っていった。 高校生になる頃には露骨ないじめこそ少なくなったものの、すでに寡黙で人との接し方も分からない性格になってしまっており、友人と呼べる相手は最後まで一人もできなかった。 優和だけは違った。 優和だけは、いつも千温は綺麗だと言ってくれた。 頭が悪いと罵ることもなく、不器用に失敗する姿を見ても、楽しそうに笑いながら「可愛い」と言ってくれた。千温は、そんな優和に少しずつ心を奪われていった。 生まれて初めて誰かを好きになり、優和はとても優しくて素敵な人なのだと、心から信じていた。 けれど最近の優和は……少し、自分のことを嫌いになってしまったような気がする。 そ
小北千温は、少し鈍いところがある。 幼い頃から今まで、周囲から最もよく言われてきたのがその言葉で、二番目に多かったのは「頭が悪い」だった。「前にも言ったはずだ。俺は、お前に外で働いてほしくない。上場企業の社長である俺が、お前一人養えないとでも思っているのか? それとも、わざわざ外へ働きに出て、俺に恥をかかせるつもりか。」 明るい照明の下、千温は俯いたままソファの前に立ち、険しい表情を浮かべた男から浴びせられる叱責を黙って受け止めていた。 宮長優和は目の前の女を鋭く見据える。自分では決して短気な性格ではないと思っていた。だが、何度言い聞かせても少しも言うことを聞かない千温を前にすると、さすがに苛立ちを抑えきれない。 千温をこの家へ迎え入れた初日から、生活に必要な金はすべて自分が負担し、金銭面で不自由な思いは一切させない――そう優和ははっきり伝えていた。 彼が求めたのは、千温が従順に言うことを聞き、大人しく自分のそばにいること――それだけだった。 それなのに千温は、これといった取り柄もなく、頭の回転も鈍い。まともな仕事を見つけられないだけならまだしも、よりによって飲食店の厨房で働き、服にも身体にも油と料理の臭いを染みつかせて帰ってくる。 その姿を見るたび、優和の胸には苛立ちがじわりと込み上げた。 優和が欲しかったのは、美しく飾っておける花瓶のような存在だった。 彼が千温に惹かれたのも、その美しい顔だけ。「どうしてお前は、いつも俺の言うことを聞かないんだ? 俺の言っていることが、まだ理解できないのか?」「でも……私も、何もしないまま養ってもらうのは嫌で……。優和がお金を稼ぐのだって、大変だと思ったから……」 言葉を紡ぐたび、千温の声は少しずつ小さくなっていく。 自分が隠れて働きに出たせいで優和を怒らせてしまったことは、千温にも分かっていた。この家へ来たあの日、大人しく言うことを聞く籠の鳥になると約束したのも、ほかならぬ自分だ。 それでも以前、顔見知りから「何もしないで男に食べさせてもらっているだけ」と陰口を叩かれたことが、ずっと胸の奥に引っかかって離れなかった。 自分の評判が悪くなれば、優和にまで迷惑をかけてしまうかもしれない。 そう思った千温は、誰にも知られないよう密かに働き、自分の生活費くら