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8:緑に埋もれた記憶

last update تاريخ النشر: 2026-09-27 11:22:21

「これは……?」

 透子は足元の茂みの中に、周囲の雑草とは違う色を見つけた。

 しゃがみ込み、伸び放題の草を両手で優しくかき分ける。

 そこには薄紫色の小さな花が、身を寄せ合うようにしてひっそりと咲いていた。

 都忘れの花だ。

 本来ならもっと陽の当たる場所で咲くはずの花が、雑草に日差しをさえぎられ、それでも懸命に花弁を開いている。

「こんなところで咲いていたのね」

 透子は指先でそっと花弁に触れた。

 植物は正直だ。環境が悪ければ枯れてしまう。だが、この花は生きようとしていた。

 このまま放っておけば、いずれは周囲の雑草に飲み込まれてしまうだろう。

 ――余計なことはするな。

 昨夜言われた弦也の言葉が、脳裏に蘇る。

(これもきっと、余計なことになってしまうのでしょうね。でも懸命に生きている花を見捨てるのは、私にはできない)

 透子は立ち上がり、屋敷へと引き返した。

◇

◇

 あてがわれた自室に戻ると、クローゼットの奥にしまい込んでいた古いボストンバッグを引っ張り出した。

 冷泉院家が用意した高級な衣服の横で、そのバッグはひどく場違いに見える。

 ファスナーを開けると、微かに油と古
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     8月の終わりが近づき、吹き抜ける風にほんの少しだけ秋の気配が混じるようになっていた。 東堂グループ本社ビルの会議室では、月例の取締役会が開かれていた。 長テーブルの端に座る弦也の叔父・東堂義隆が、手元の資料を机に叩きつけるようにして声を張り上げた。「いいか、今はグループ全体の利益率を最優先で引き上げるべき時期だ。地方にある採算の合わない関連工房や、昔からの付き合いだけで続いている古い取引先は、今期中にすべて契約を打ち切る。この合理化案に異論はないな」 義隆は周囲の役員たちを威圧するように見回した。 切り捨ての対象として挙げられているのは、先代である弦也の祖父が長年大切にしてきた伝統工芸の工房や、地方の老舗建材メーカーなどだった。いずれも高い技術を持っているが、近年は大量生産品の波に押されて利益が落ち込んでいる。 義隆の派閥に属する役員たちが、次々に賛同の声を上げた。「東堂専務のおっしゃる通りです。過去のしがらみにとらわれていては、株主への説明がつきません」「古い取引先を整理して、コストの安い海外の業者に切り替えるのが妥当でしょう」 会議室の空気が義隆の提案で決まりかける。 これまでの弦也であれば、全体の数字のデータだけを突きつけて義隆と真っ向から対立しただろう。 結果として中立派の役員たちから「若い社長は強引すぎる」と敬遠されていた場面だった。 だが今の弦也は違った。 弦也は落ち着いた動作で立ち上がり、プロジェクターに新しい資料を映し出した。「採算性の改善が必要だという点には同意します。ですが、それらの取引先を切り捨てることには反対です」 義隆が眉をひそめる。「ふん、また先代の思い出話でも持ち出すつもりか。経営に感傷は不要だぞ、弦也」「感傷ではありません。私は先週、リストに挙げられた7つの工房と取引先をすべて直接訪問し、現場の職人や責任者の方々と話をしてきました」 弦也の言葉に会議室の中がわずかにざわめいた。 多忙を極める社長が、自ら地方の小さな工場まで足を運んだとは思っていなかった

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