LOGINクロードが拘束され、調査局の内部監査が開始された翌日。
ヒスイは家族とともに“正式な会議室”に呼ばれた。そこには、多くの監察官と上層部が揃っていたが──
空気は以前とは全く違っていた。かつて向けられた警戒と疑念は消え、
誰もが彼女の姿をまっすぐに見つめていた。議長が静かに口を開く。
「ヒスイ・リシャール嬢。あなたの提出した魔力量データ、そして今回の件で発揮された“結界視認能力”……これは極めて貴重な【特異感応型】能力と判断される。」
部屋にどよめきが走る。
「特異……?」
ヒスイは戸惑ってレオンを見る。レオンは優しい笑顔でうなずいた。
「君の体質は、“数ある転生魔力”とは全く別系統なんです。だからこそ、封印や結界に敏感に反応し、今回のように“奥の構造”まで見通せた。」
議長が続ける。
「君の能力は、むしろ転生より希少だ。これを組織として評価しない理由はない。」
ヒスイの胸が熱くなる。
ずっと隠し、怯え、偽ってきた“無転生”。
それが、こんな形で……(……認められた……?)
そこへ、兄フェルスパーが穏やかな声で言った。
「よかったな」
フェルスパーは目を細め、優しく髪を撫でた。
「お前は……誇っていい力を持っている。」
その一言で、ヒスイの胸の奥がじんわりと温まる。
会議が終わり、夕方の風が吹き始めた頃。レオンはヒスイを庭園へ連れ出した。日暮れの光が花々を照らし、影は柔らかく長く伸びていた。「お疲れさま、ヒスイ。」「……ありがとう。あなたが側にいてくれなかったら、たぶん……」ヒスイが言うと、レオンは小さく笑う。「君は強いですよ。僕はただ……君の心が折れないように手を添えただけです。」夕風がヒスイの髪を揺らし、翡翠色の光を含んで輝く。レオンはその光に釘付けになっていた。「レオン……?」ヒスイが覗き込む。レオンはそっと言う。「ヒスイ。君が“無転生”でも、いや……“だからこそ”、僕は君に惹かれたんです。」ヒスイの喉がつまる。「ずっと……怖かったの。ばれたら、きっと……全部壊れるって。」レオンは首を横に振る。「壊れるどころか、救われたのは僕の方ですよ。」ヒスイの目が丸くなる。「え……?」「君が正直に向き合ってくれたから。僕は……君を守りたいと、心から思えるようになったんです。」その声はいつも通りの丁寧語なのに、どこか震えていて、真剣で、切実だった。ヒスイの胸が熱くなる。「……レオン。」「はい。」「私……あなたが好き。」レオンの目が大きく揺れる。「……もう一度、言っていただけますか?」ヒスイは夕日の中で微笑んだ。「好き。 あなたが……大好きよ。」レオンの表情
クロードが拘束され、調査局の内部監査が開始された翌日。ヒスイは家族とともに“正式な会議室”に呼ばれた。そこには、多くの監察官と上層部が揃っていたが──空気は以前とは全く違っていた。かつて向けられた警戒と疑念は消え、誰もが彼女の姿をまっすぐに見つめていた。議長が静かに口を開く。「ヒスイ・リシャール嬢。あなたの提出した魔力量データ、そして今回の件で発揮された“結界視認能力”……これは極めて貴重な【特異感応型】能力と判断される。」部屋にどよめきが走る。「特異……?」ヒスイは戸惑ってレオンを見る。レオンは優しい笑顔でうなずいた。「君の体質は、“数ある転生魔力”とは全く別系統なんです。だからこそ、封印や結界に敏感に反応し、今回のように“奥の構造”まで見通せた。」議長が続ける。「君の能力は、むしろ転生より希少だ。これを組織として評価しない理由はない。」ヒスイの胸が熱くなる。ずっと隠し、怯え、偽ってきた“無転生”。それが、こんな形で……(……認められた……?)そこへ、兄フェルスパーが穏やかな声で言った。「よかったな」フェルスパーは目を細め、優しく髪を撫でた。「お前は……誇っていい力を持っている。」その一言で、ヒスイの胸の奥がじんわりと温まる。
二人の魔力が放たれた瞬間、世界そのものが軋んだような音が響いた。「……くっ……!?」クロードの顔から余裕が消える。翡翠の奔流と蒼の斬撃が複合魔術陣を飲み込み、緻密に積み上げられていた術式が次々と崩壊していく。「馬鹿な……!その出力……神経質な術式を、それほど綺麗に破壊できるはずが……!」ヒスイが一歩踏み込み、光の尾が揺れる。「あなたの術式……全部“見えているの”。」レオンが続ける。「ヒスイの感覚は、あなたの想定を超えている。そして――俺がそれを支える。」クロードの魔術が暴発を始めた。幾つもの結び目が弾け、黒煙が渦巻く。「まだだ……! まだ終わらない!!」叫びとともに、クロードは最後の強化陣を起動させる。彼の周囲に巨大な黒い球体の結界が展開された。だがヒスイはもう怯えない。「レオン……次、行ける?」「もちろん。君が向かう場所なら、どこへでも。」レオンの蒼がヒスイの背を押し、ヒスイの翡翠がレオンの魔力に道を描く。二人は同時に跳んだ。空中でヒスイの魔力がしなやかに曲線を描き、レオンの魔力の刃がその中心に重なった瞬間、光は一つの形を結んだ。――『翡翠蒼閃〈ジェイド・ブルー・ブレイク〉』二人が無意識に同じ名を呟くほど自然な融合。ヒスイ「行くよ、レオン!!」レオン「合わせる!!」光が奔り、黒い球体を――斬り裂いた。裂けた結界は悲鳴のような音を立てて破壊され、クロードの身体は衝撃に耐え切れず床へ叩きつけられる。黒い魔力が霧のように散り、彼の術は完全に崩壊し
クロードの背後で展開された複合魔術陣が唸り声のような音を立てて回転を始めた。「あれが……!?」ヒスイが目を細める。レオンが低く告げる。「禁術級の多重連結魔術だ。普通の魔術師なら近づくだけで焼ける。」クロードは余裕の笑みを浮かべ、静かに手を振った。闇色の刃が十数本、空中で形を成す。「さあ……資源候補一号。君たちの“絆”とやら、見せてもらおうじゃないか。」目にも止まらぬ速さで刃が放たれた。しかし――「レオン、三時方向!」「任せて!」ヒスイの声と同時に、レオンの蒼い魔力壁が閃光のように張られ、闇刃を弾く。次の瞬間、ヒスイは反対側へ駆けた。彼女の足元に翡翠色の紋が走り、風のように加速する。(……見える……!)覚醒した特異感覚は、クロードの魔術陣に潜む“弱点の流れ”を捉えていた。「レオン、右上の接続点が薄い!」「了解!」レオンは即座に跳躍し、蒼い魔力で結節点を叩き割った。魔術陣全体が一瞬だけ揺らぐ。クロードの眉が僅かに動く。「ほう……仕組みを理解したか。」ヒスイは息を荒くしながら叫ぶ。「まだよ! もう一か所ある!レオン、下層の“補助陣”を押さえて!」「そのための俺だろう?」レオンの笑みは血に濡れているのに、優しくて頼もしかった。クロードが片手を振り下ろすと、床一面に黒煙が走った。重力のような魔力が押し寄せ、ヒスイの足が止まりかける。(……くっ……この重圧……!)その時、レオンが横から手を取った。「ヒスイ、俺の魔力をとれ!
「ヒスイ、後ろに下がれ!」レオンが即座に彼女の前に立つ。「レオン、危ない……! 私も戦える……!」「分かっている。でも奴は上層部最強格だ。君を狙ってくる。」クロードが乾いた声で笑った。「守る? 無駄だ。レオン、君の魔力は確かに美しいが……ヒスイほどの価値はない。」ズッ──床を砕いて闇色の魔術が襲いかかる。ヒスイが咄嗟に魔力を構えようとした瞬間――レオンの腕が伸び、彼女を抱き寄せた。「レオン!?——」次の刹那、爆ぜる衝撃。レオンの背中に黒い刃が深く突き刺さる代わりに、ヒスイは無傷だった。「っ……は……!」
ヒスイの視界に“黒い影”が見えてから、わずか数分。二人はその魔力痕が示す、局の深層部──禁秘管理室へ向かった。重々しい扉の前に立つと、ヒスイの心臓がドクンと高鳴る。「……この奥だ。」レオンも表情を引き締める。「覚悟はいいか、ヒスイ?」「うん。行こう。」扉が軋みながら開いた。そこで二人を出迎えたのは──局の上層部に君臨する人物のひとり、副局長・クロードだった。「……やはり来たか、ヒスイ。そしてレオン。」ヒスイの喉が僅かに震える。「クロード副局長……どうして、こんな……」クロードは深いため息をつくと、まるで叱るような声音で言った。「私としては、君には“気づかれずに”退職してもらいたかったのだがね。」「なんで……?」レオンが一歩前へ出る。その目は怒りに燃えていた。「ヒスイの魔力体質に目をつけて、“封印破片”で誘導したのか……!」「誘導? いや、もっと単純だよ。」クロードの瞳が薄く笑う。「ヒスイの魔力は――“私が手に入れたかった”。」クロードは淡々と語り始めた。「この国の最高位結界の更新には、膨大で純質な魔力が必要だ。だが、近年は供給源が減り続けている。そこで私は考えたのだよ。」「まさか……」ヒスイは息を呑む。「才能ある若手を、徹底的に“磨り減らす”仕組みを作り、負荷に耐えた者だけを資源として利用する。」レオンが怒声を放つ。「それでヒスイを狙ったのか!!」「ええ。彼女の魔力量は規格外だった。あとは“追い詰めて開花さ







