Share

第254話

Author: タロイモ団子
美咲は、居ても立ってもいられなくなった。

「何かの間違いじゃないかしら」

責任者の佐藤紗枝(さとう さえ)は、美咲がノヴァの代表であることに気づくと、手にしていた入選リストを静かに置いた。

「島崎さん、ノヴァが入選しなかったのは残念ですが、まずは冷静になってください」

「そうですよ。同じデザイン業界に身を置く者同士なんですから、実力が足りなかったと認める潔さも必要じゃないかしら」

最後に入選を読み上げられた美紀が、勝ち誇ったように言い放つ。

会場内は、にわかにざわめき始めた。

美咲は周囲から異様な視線を浴びながらも、一歩も引かなかった。

だが紗枝もまた容赦はなく、それ以上の説明を加えようとはしない。

「ほかにご質問がなければ、入選されなかった先生方は速やかにご退場ください」

その言葉には、明らかな追い出しの意図が含まれていた。

美咲は眉をひそめる。

これ以上食い下がれば「悪質」と見なされ、今後、神谷商事との取引は絶望的になるだろう。

紬は先ほどの極限の疾走を経たことで、かえって頭が冴えわたっていた。

一歩前へ進み出ると、穏やかな声で問いかける。

「失礼です
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第781話

    紬はその動画を最後まで見ることすらできなかった。理玖は紬の張り裂けそうな気持ちを痛いほど理解していたが、それでも低い声で彼女を引き止めた。「君の気持ちは分かるよ、紬。でも、今は取り乱しちゃ駄目だ。それでは敵の思う壺じゃないか。心配しなくていい、俺も一緒に行こう」だが、紬はきっぱりと首を横に振った。「駄目よ、あなたは一緒に来ちゃ駄目」理玖も即座にキッパリと否定した。「駄目だ!君を一人で危険な目に遭わせるのを、ただ黙って見ているなんてできない。俺には無理だ」紬は理玖を宥めるように、彼に向かって静かに首を横に振った。それからスマホを取り出し、素早い指使いで理玖にメッセージを送った。【あなたの言いたいことは分かるわ。でも、今の私たちの行動は全部監視されているの。もしあなたが一緒に来たら、望美が何をしでかすか分からない。それに、あなたがここに残ってくれれば、他の人の気を引いて、警戒を解かせることができるわ。賭けには出られない。あの子たちはまだあんなに小さいのよ。だから、佐々木さんにこっそり私をつけてもらうように指示して。そうすれば、あなたも少しは安心できるでしょ】メッセージを送信し終えると、紬は理玖にスマホを見るように目配せした。紬だって馬鹿ではない。自ら進んで危険に身を晒すような真似はしない。どんな時であれ、自分自身の安全こそが最優先なのだ。自分が倒れれば、子供たちを助けることなどできないのだから。手元のメッセージを確認した理玖は、小さく息を吐き、紬に向かって頷いた。その提案は、確かに現状で最も妥当な折衷案だった。何しろ、この会場内において、神谷グループのトップである彼はあまりにも目立ちすぎるのだ。紬は理玖に向かって、周囲に聞こえるように言った。「それじゃあ、私一人で行くわね。ついて来ちゃ駄目よ、安心して」理玖の灰色の瞳には、重苦しい色が満ちていた。それでも、彼は紬の意志を尊重することを選んだ。スマホを操作し、佐々木文人にメッセージを送る。決してミスがないよう、紬をしっかり尾行しろと厳命した。少し離れた場所に控えていた文人からも、即座に【問題ありません】と力強い返信があった。紬が言葉を交わし終えて間もなく、一人のスタッフが歩み寄ってきて声をかけた。「綾瀬様、お着替えの部屋へご

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第780話

    「どうしたんだ?」耳元で、理玖の気遣うような声がした。二人は寄り添うように立っていたため、紬の体が不自然に強張ったのを、理玖は瞬時に感じ取ったのだ。紬は理玖に対して何も隠すことなく、震える手でそのままスマホの画面を彼に向けた。そこには、望美から送られてきた脅迫メッセージがはっきりと映し出されていた。【二人の子供に会いたければ、自分からスタッフについて会場を出なさい。そうすれば、あの子たちの無事は保証してあげる】【必ずあなた一人で来てくださいね。もし誰か連れてきたら、私が何をするか保証できないわよ】メッセージを一目見るなり、理玖は険しい顔で紬の手首を掴んだ。「駄目だ。どう見ても明らかな罠だ。絶対に行ってはいけない」理玖の灰色の瞳の奥には、明らかな冷気が渦巻いていた。――あの女、命知らずだな……だが、紬の体は小刻みな震えが止まらなかった。「りっくん……私、芽依と悠真の命を懸けて賭けなんてできない。望美はイカれてるわ。あの子たちに何を仕出かすか、分かったもんじゃない」紬は血が滲むほど唇をきつく噛み締めた。これが罠であることくらい、当然彼女にも分かっている。だが、そのまま放っておくことなど、できるはずもなかった。芽依と悠真は、他でもない自分がこの世界に産み落とした大切な命なのだ。あの子たちはまだあんなにも幼く、この世界の美しさすらろくに知らないというのに、あの狂った女にその未来を奪われるわけにはいかない。理玖はあくまで沈着冷静に告げた。「まずは落ち着け。あの女の思い通りにさせては駄目だ。俺も一緒に行く」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、紬のスマホが再びブブッと短く震えた。新たなメッセージが届いたのだ。【神谷理玖が一緒について来たら、二度と子供たちに会えなくなることだけは保証してあげる】紬は心臓が氷の手に鷲掴みにされるような感覚を覚えながら、震える指で必死に返信を打った。【望美、恥を知りなさい!こんなことをして、天罰が下ると思わないの!?あの子たちはまだ、ほんの子供なのよ!】メッセージを送信し終えると、紬の切れ長な瞳に明らかな恐怖の色が滲んだ。どうやら、この会場の中は望美の監視の目だらけらしい。紬と理玖は、ここに入ってきた瞬間から、完全に彼女の監視下に置かれていた

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第779話

    理玖は、隣に立つ紬の横顔を静かに見つめた。その瞳の奥に、元夫の結婚に対する悲しみや未練の色は微塵も見出せなかった。あるのはただ、二人の子供が一向に姿を見せないことに対する強い焦りだけだった。そのことに気づくと、理玖は密かに安堵の息を漏らした。「君の言う通りだな」理玖は前を向くと、灰色の瞳に微かな笑みを浮かべた。だが、紬は理玖の口調に混じる弾んだ響きに気づいていなかった。その視線は、ずっと会場の中を彷徨い続けている。トレイを手にしたスタッフが赤ワインを運んでくると、紬と理玖はそれぞれグラスを手に取った。紬が再び二人の小さな姿を探そうとした矢先、フォーマルなスーツに身を包んだ征樹と拓海が彼らの前に歩み寄ってきた。再び紬と視線を交わし、征樹は少し気まずそうに目を逸らした。それでも彼は、どうにか愛想笑いを浮かべて口を開いた。「紬、よく来てくれたね。俺は嬉しいぞ」紬はそこでようやく我に返った。征樹の取り繕った態度の裏に隠された、戸惑いや気まずさがはっきりと見て取れた。おそらく、今回自分がこの場に現れたことは、天野家の人間にしてみれば完全に予想外だったのだろう。「お気になさらず。ただ少し様子を見に来ただけですから」紬は淡々と、感情の籠もらない笑みを浮かべた。「私がいなかったものとして扱ってくださって構いません」一方、傍らに立つ拓海の方は、ひどく上機嫌な様子だった。「まあ何はともあれ、今日はめでたい日だ。せっかく来たんだから、過去のわだかまりは水に流して、みんなでパーッと賑やかにやろうじゃないか」弟一家が望美などという得体の知れない女を嫁に迎えるのを見て、彼は内心で清々しているのだ。弟一家がどれだけ世間の笑い者になろうと、自分には何の関係もない。ほら見ろ、当主の崇なんて怒り心頭で、式にすら顔を出していないではないか。成哉が独断で強行しなければ、こんな結婚式など到底開けるはずもなかったのだ。理玖はそんな下世話な拓海を冷ややかに一瞥し、氷のような声で言い放った。「口の利き方を知らないなら、黙っていた方がいい」「……っ」拓海の顔が引きつり、気まずい色が浮かんだ。しかし、相手が神谷グループのトップであることにすぐさま思い至り、慌てて場を取り繕った。「さ、さすがは神谷さんのおっしゃる通りです。俺の言

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第778話

    紬の名前を聞いた瞬間、芽依は弾かれたように顔を上げ、涙に濡れた瞳いっぱいに希望の光を宿した。――ママが来るの?本当なの?ママは、私とお兄ちゃんを迎えに来てくれるの?悠真もまた、警戒しつつも微かな期待を抱いて望美を見上げた。眉や目元がよく似た二つの小さな顔が、縋るように望美を見つめる。望美は一瞬視線を彷徨わせた後、すぐに不自然なほど口角を引き上げ、猫なで声と共に優しい眼差しを向けてきた。しかし、その視線に芽依と悠真は思わず顔を見合わせ、ジリッと後ずさりした。子供の直感というべきか、望美がそんなことを言う裏には、必ず底知れぬ悪意が隠されているとしか思えなかったからだ。だが、今の二人は紬に連絡を取る術もなく、頼みの綱である成哉でさえ彼らの言葉を信じてはくれない。完全に孤立無援の立場に立たされていた。悔しいが、今は望美の言葉を信じる以外に、どうすることもできなかった。悠真は妹を庇うように一歩前に出ると、望美をじっと睨みつけた。その疑いに満ちた鋭い視線を向けられても、望美は少しも気にする様子を見せない。彼女の望みはただ一つ、今日の結婚式が自分の思い描いた通りに、滞りなく進むことだけなのだ。望美は優しく諭すような、それでいて有無を言わさぬ口調で言った。「そうよ、紬も来てるわ。もしママに会いたいなら、大人しく私の言うことを聞きなさい。そうすれば、確実に会わせてあげるから」「本当に……?」芽依は涙ぐんだ大きな瞳で望美を見つめ、葛藤するように小さな手でドレスの裾をぎゅっと握りしめた。「今のあんたたちに、私を信じる以外の選択肢なんてあるのかしら?」その冷酷な事実を突きつけられ、芽依と悠真は二人して黙り込んでしまった。顔を見合わせ、お互いの瞳の奥にあるどうしようもない無力感を悟る。望美の言う通りだ。確かに、彼らにはもう他に方法がなかった。沈黙の後、最終的に先に折れたのは悠真だった。「……分かった。僕たちにどうしろっていうの?」望美は計画通りだとばかりに、満足げに口角を吊り上げた。「いい子ね」――一方、華やかな装飾が施された披露宴会場。紬は洗練されたドレスに身を包み、その隣にはフォーマルなスーツを完璧に着こなした理玖が寄り添っていた。二人が並んで会場の中を歩き進むと、その圧倒

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第777話

    芽依は恨めしそうに口を開いた。「お兄ちゃん、私たち、あの悪い女がパパと結婚するのを、本当に黙って見てるしかないの?」「でも……今の僕たちには、どうすることもできないじゃないか」悠真は小さな拳を握り締め、ギリッと歯を食いしばった。深くて重い無力感が、再び胸の奥から込み上げてくる。今この瞬間になってようやく、以前自分たちが悪戯ばかりしていた時、ママがどれほど無力で辛い思いをしていたのかに気がついたのだ。今、彼らはそれを身をもって痛感している。芽依の声は泣き出しそうに震えていた。「私、フラワーガールなんてやりたくないよ。二人が結婚するのなんて見たくない。そう考えるだけで、息ができなくなっちゃうの……」悠真が芽依を慰めようとしたその時、突然、控え室のドアが乱暴に押し開けられた。「バンッ!」と大きな音が響き渡る。その音に驚いた芽依はビクッと肩をすくめ、慌てて悠真の背中に隠れた。二人は、純白のウェディングドレスを身に纏い、完璧なメイクを施した望美へ怯えた視線を向けた。この瞬間、望美の顔立ちは確かに美しかったが、芽依の目には、まるで童話に出てくる毒リンゴを持った意地悪な魔女のようにしか見えなかった。芽依はまつ毛を震わせ、恐怖でピクリとも動くことができなかった。望美はふと口角を歪め、冷笑を浮かべた。「どうして黙るの?さっきまであんなに楽しそうに話していたじゃない」悠真は慌てて誤魔化そうとした。「望美さん、聞き間違いじゃないですか?僕たちは何も言ってませんよ」望美は鼻で笑った。「聞き間違えたかどうか、あんたみたいなクソガキに言われる筋合いはないわよ」その呼び方に悠真は瞳を冷たく光らせたが、今はただ、じっと拳を握り締めて耐えることしかできなかった。――今はこれだけ大勢の目がある。絶対に隙を見つけて、この女の醜い本性を皆の前に暴いてやる!望美は悠真の鋭い視線とぶつかり、一瞬ドキッとしたが、すぐに苛立たしげに言い放った。「今はあんたたちを相手にしてる暇なんてないのよ。クソガキども、いくら気に入らなくても、もうすぐ私はあんたたちのママになるの。嫌でも我慢しなさい!」芽依は唇を噛み締め、一言も発することができなかった。ただ、その大きな瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ落ちていた。それに気づいた望美

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第776話

    望美が何を企んでいるかなど、紬には痛いほど分かっていた。要するに、成哉が記憶を失っているのをいいことに彼の寵愛を独り占めし、急いで紬に見せびらかして優越感に浸りたいだけのことだ。そうした女の姑息な思惑など、本当に取るに足らない。だからこそ、紬自身は少しも心配していなかった。「安心して、私の可愛いお節介さんたち。私のために言ってくれてるのは分かってるけど、結婚式にはりっくんが一緒に来てくれるから」雅乃とカナは顔を見合わせ、ホッと胸をなでおろした。それでも雅乃は、真剣な顔つきで念を押した。「くれぐれも気をつけてくださいね。スタジオのことは心配無用です。私やカナたちでしっかり留守を守りますから」――天野家。結婚式前夜。望美は、昼間に成哉と一緒に役所で受け取った婚姻届受理証明書を見つめながら、ベッドで寝返りを打ち続け、一向に寝付けずにいた。自分がすでに名実ともに天野家の妻であり、明日には成哉と結婚式を挙げるのだと思うと、まるで夢見心地だった。まさか、夢の中で何度も見た光景が、本当に現実のものになるなんて!洗面所から出てきた成哉は、望美が目を覚ましたまま、ぼんやりと天井を見つめているのに気がついた。「どうしてまだ起きてるんだ?」成哉がベッドに入ると、望美は甘えるように彼の胸の中に潜り込み、その厚い胸板にそっと手を置いた。望美は穏やかで優しい口調で言った。「成哉、眠れないの。なんだか夢を見ているみたいで。まさか、本当に私があなたの妻になるなんて」成哉は手を伸ばして望美の頬に触れ、こぼれ落ちた髪を耳の後ろに掛けてやった。そして、優しく語りかけた。「夢じゃない、全部現実だ。安心して。これからは幸せな生活が待っている。俺はずっと君を大切にするよ」望美は幸せそうに成哉の胸元に顔を擦り寄せた。「成哉、私たちの結婚式には、芽依ちゃんと悠真くんの二人にも出席してもらいたいと思ってるの」成哉は少し表情を強張らせ、何と答えるべきか言葉に詰まった。だが、愛情に満ちた望美の眼差しとぶつかると、考え直して結局承諾した。「分かった、問題ないよ。君ももうすぐあの子たちの母親になるんだから、少しでも長く一緒に過ごすのはいいことだ」成哉は望美の額に軽く口づけを落とした。「ただ、君に二人の子供の母親をやら

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status