LOGIN望美は心から成哉を愛していた。何年もの間、ずっと抱き続けてきた夢が、本当に叶おうとしている。この瞬間、望美はかえって現実味を感じられずにいた。一方、白いウェディングドレスに身を包んだ望美が、一歩ずつ自分のもとへ歩いてくるのを見つめながら、成哉はぼんやりとしていた。この瞬間になっても、心の底から嬉しいとは思えない。それはいったい、なぜなのだろう。記憶の中では、自分が愛していたのは、ずっとあの「望美」だったはずなのに。今、その記憶の中の「望美」が純白のウェディングドレスを身にまとい、もうすぐ自分だけのものになる。それなのに、どうして想像していたほど嬉しくないのだろう。成哉は胸元を押さえ、困惑したような表情を浮かべていた。だが、会場にいる人々は、そんな成哉の様子を見て、嬉しさのあまり呆然としているのだと思った。何しろ、人気女優と大企業の社長の恋物語には、以前から誰もが夢中になっていたのだ。「まさか、天野グループの社長ともなると、自分が心から愛する人と結婚するだけで、あまりの嬉しさに反応できなくなるんだな」「成哉さんのあの呆然とした表情を見てたら、本当に尊すぎる!」「二人とも顔立ちが、本当にお似合い!」「こんな夢みたいな恋、いつになったら私のところにもやってくるのかな!」周囲のざわめきが、かすかに望美の耳へ届いてくる。すると、望美の唇に浮かぶ笑みは、次第に大きくなっていった。成哉がその場で呆然としているのを見て、望美もまた、彼が嬉しさのあまり我を忘れているのだと思った。それに、今は紬が邪魔をしに来ることもない。式を無事に終えたら、すぐに人を連れて紬の醜い本性を暴いてやればいい。そのときには、紬はすべてを失い、世間からも見放される。そう思うと、望美は思わず笑い声を上げそうになった。だが、次の瞬間。その笑顔が、ぴたりと凍りついた。視界の端に、紬と理玖の二人が人混みの中に現れたのが見えたのだ。それに気づいた望美は、慌てて振り向いた。すると、意味ありげに細められた紬の三日月のような瞳と、まともに目が合った。紬は眉をわずかに寄せると、さらには手を上げて、望美に軽く挨拶までしてみせた。そして、唇だけを動かして伝える。――驚いた?望美は美しい瞳を大きく見開き、足元が
望美のほうがよほど憎むべき存在ではあるが、天野家の面目を守るためにも、凛花はこのことを隠し通さなければならない。理玖が一瞥すると、文人が凛花の背後から現れ、その行く手を塞いだ。前も後ろも塞がれ、凛花にはもう退く場所がない。手の中のスマホを強く握りしめる。「あなたたち、何をするつもり?」紬はにこりと笑い、人差し指を立てて声を落とすよう合図した。「ここは話をする場所じゃないよ。別のところへ行こう」凛花は横目で後ろを見た。文人がすぐ背後で見張っている。今の自分は、まるでまな板の上の鯉だ。ただ相手のなすがままになるしかない。凛花はとうとう頷き、紬たちとともに化粧室から離れていった。それに、今も中から聞こえてくる声を聞いているだけで、吐き気がするほど気分が悪くなる。確かに、こんな場所で話をするものではなかった。十分に離れたところまで来ると、凛花の瞳に冷たい光が集まった。「あんた、いったい何が目的なの?勘違いしないで。神谷さんがいるからって、何をしても許されると思わないことね」凛花は紬の隣に立つ理玖へ視線を向けた。内心は不安でたまらなかったが、それでも背筋を伸ばして言葉を続ける。理玖はその言葉を聞いても、何も言わなかった。ただ、さりげなく紬の一歩前へ出る。庇う意思は、あまりにもはっきりしていた。紬は眉を軽く上げた。「私が欲しいものは簡単だよ。あなたが持っている動画」「無理よ!この動画は、あなたに渡すわけにはいかない」凛花は考えるまでもなく言い切った。その反応を見ても、紬は少しも驚かなかった。スマホを取り出し、長い指で何度か画面を滑らせる。それから、画面を凛花に向けた。そこには、凛花が望美と治の密会を盗撮している一部始終が、はっきりと映っていた。さらに動画を拡大すると、望美と治が不貞行為に及んでいる場面まで鮮明に映し出されている。凛花は手のひらを強く握りしめ、理解できないというように紬を見つめた。「いったい何をするつもり?」紬は小さく笑い、ゆっくりとスマホを引っ込めた。「凛花さんのスマホに入ってる、もっと鮮明な動画を私に送って。私たちは協力する立場でしょ。敵同士になる必要なんてないよ。それに、望美みたいな女が自分の従弟とこんなことまでできるんだよ
「違うわ。あんたも見たでしょう。今日のこの場に、あんたが現れるのはふさわしくないわ」望美は表面上、治をあしらおうとした。しかし、治はそんな言葉に耳を貸そうともしなかった。その視線は望美の白い首筋に釘付けになり、暗い瞳の奥には抑えきれない情欲が渦巻いていた。治は手を伸ばして白く柔らかな首筋を撫で、指先で肌の上をゆっくりと、少しずつ滑らせていく。望美は抵抗できなかった。この男に逆らえばどんな目に遭うか、痛いほど分かっていたからだ。思わず息を呑むその瞳の奥には、治に対する恐怖が潜んでいる。「主導権が、お前にあるとでも思っているのか?」治の声は極限まで掠れていた。その言葉を聞いて、望美は瞬時に抵抗を諦めた。瞳から光が消え、絶望の色に染まる。治の言う通りだった。自分は元々、この男に操られるだけの存在なのだ。主導権など、最初からあるはずもなかった。望美は下唇を強く噛みしめ、拒絶の言葉を飲み込んだ。――いいわ、少し我慢するだけ。無事に結婚さえできれば、後で必ずこの男から逃れる機会を見つけられる。完全に抵抗を諦めた望美の赤い唇から、承諾の言葉が漏れる。「優しくして。あまり大きな音を立てないでね」紬の相手をさせる人間を探すため、メイクアップアーティストたちを追い払っていなければ、控え室でこんなことを受け入れるはずなどなかった。治は喉の奥で低く笑うと、望美の白い首筋を優しく摩った。「どうした、嫌なのか?お前の結婚式で、新郎の従弟とヤるなんて、すごく刺激的だと思わないか?」治は望美の耳元に顔を寄せ、吐息混じりに囁く。二人の体は隙間なく密着していた。望美の心は本来、拒絶で満たされていた。しかし治にそう言われると、心の奥底でわずかに情欲が刺激されるのを感じる。「メイク室の中へ行って」望美はただそれだけを口にした。「ふん」治の陰鬱な顔に、ようやく微かな笑みが浮かんだ。身を屈め、望美の赤い唇に口づけを落とす。「素直な子は好きだ」そう言い終わるや否や、望美は小さな悲鳴を上げた。治に横抱きにされたのだ。治は長い脚を踏み出し、メイク室へと向かう。やがて、中からは想像を掻き立てるようなあられもない声が漏れ聞こえてきた。凛花が片隅から姿を現した。その顔は怒りで青ざめている
悠真は芽依がそこまで言い張るのを見て、これ以上何も言えなくなった。心の中で、自分を奮い立たせる。――僕はお兄ちゃんだ。ちゃんと芽依を守らなきゃ!芽依だって怖がってないんだ。僕がビビってるわけにはいかない。大丈夫。ただのベランダだ。一歩踏み出せば、届く。そう自分に言い聞かせてから、悠真はベランダを見た。すると、さっきまでほど怖くは感じなくなっていた。小さな拳をぎゅっと握りしめ、芽依に続いてベランダへと足を踏み出す。実際に渡ってみると、思っていたほど怖くはなかった。芽依は兄の表情が和らいだのを見て、思わず顎を上げ、誇らしげに言った。「ほら、そんなに怖くないって言ったでしょ。すぐにこの部屋から逃げ出せたら、ママに会えるよ!」「うん!」悠真は力いっぱい頷いた。胸の内は喜びでいっぱいだった。前を進んで道を切り開いていく妹を見ていると、悠真は少し申し訳ない気持ちになった。悠真は頭をかく。「芽依ちゃん、やっぱり僕が前に行くよ。もう怖くないから。僕に任せて」芽依は悠真の目をじっと観察した。本当にもう怖がっていないのだと分かると、ようやく安心した。「じゃあ、お願い。お兄ちゃんが前ね」芽依はずっと後ろから、悠真を一生懸命励まし続けた。二人はそのままベランダを伝って隣へ渡り、そこから梯子を使って下へと降りていった。その梯子は、以前望美が人を遣ってここに置かせたものだった。チンピラたちが連れ去られたあと、誰も彼も梯子のことをすっかり忘れていたのだ。無事に小さな部屋から抜け出すと、二人の顔には興奮が満ちていた。「やった!逃げ出せた!」芽依は嬉しそうに悠真に抱きついた。一方、悠真は胸を大きく上下させていた。まさか、本当にやり遂げられるとは思わなかった。あのベランダも梯子も、想像していたほど怖いものではなかった。悠真は芽依の瞳に浮かぶ興奮と喜びを見つめる。すると、自分の胸の中にも自然と嬉しさが込み上げてきた。そして、芽依の小さな手を取る。「行こう。ママを探そう!」「うん!」芽依は力いっぱい頷いた。――一方その頃、凛花は治の後をついて歩いていた。ところが、治がまるで勝手知ったる場所のように、迷うことなく舞台裏へ向かっていることに気づいた。凛花の
悠真は時間を確認した。「僕にも分からない。もうこんな時間になっているのに」悠真の計算では、そろそろ結婚式が始まる頃合いのはずだった。芽依は、いかにも悔しそうな表情を浮かべていた。「私、ちゃんとあの女の言う通りにしたのに、どうしてまだ私たちを外に出してくれないの?ママに会わせてくれてもいいのに」芽依にとって、望美はもはや全く信用できない相手だった。本当にどうしようもなくなり、最終的に望美へ協力することにしたのだ。自分の口に食べ物を押し込まれたときの力も、ひどく強引だった。ましてや今の望美には、以前のような優しさなど微塵もない。食べさせられそうになったものを、芽依は怖くてとても口にできなかった。ただ涙をいっぱいに溜め、必死に飲み込むしかなかったのだ。悠真も、望美が動画を撮影していることに気づいていた。彼女が何を企んでいるのか、察していたのだ。それでも、ママに会えるのならと見て見ぬふりをするしかなかった。「あんな悪い女の言うことなんか、聞いちゃダメだ。やっぱり、僕たちで何とかするしかない」悠真はきっぱりと言い切った。その目は芽依を真っ直ぐに見つめ、小さな拳をぎゅっと握りしめている。芽依も納得したように大きく頷いた。泣きすぎて目は腫れていたものの、その小さな顔には真剣な表情が浮かんでいた。「うん、お兄ちゃん。やっぱり自分たちで何とかしよう」悠真は立ち上がった。もう、このまま黙って待っているつもりはなかった。部屋の中を見回し、扉の前まで行ってドアノブを揺すってみる。だが案の定、鍵がかけられていた。芽依は大きな瞳に落胆の色を浮かべる。「じゃあ、どうやって外に出るの?」「僕がなんとかする」悠真は今度、窓のほうへ向かった。ベランダへ出ると、身を乗り出して周囲を見渡す。ここは五階だ。子供の二人では、軽率に動くわけにはいかない。芽依は以前ベランダから下りた経験があるせいか、かえって少し大胆になっていた。期待に目を輝かせながら尋ねてくる。「お兄ちゃん、ここからベランダを伝って下りられないかな?」悠真が何か言おうとした、そのとき。芽依の瞳に浮かんだ興奮を目にして、悠真は言葉を失った。「……」どうやら、芽依には安全についてきちんと教えておく必要が
チンピラの親分はしどろもどろになり、どう答えればいいのか分からない様子だった。心の中ではよく分かっている。それを口にすれば、この男はさらに容赦しなくなるはずだ。自分だって馬鹿ではない。紬は理玖のもとへ駆け寄り、その袖をつかんでそっと揺らした。瞳にはまだ動揺の色が残っている。「りっくん、もういいよ。先にこの人たちを捕まえて、それから警察に引き渡そう」そう言う紬の声は、ぞっとするほど冷たく響いていた。「安心して。私たちの代わりに、こいつらをきっちり懲らしめてくれる人がいるから」頃合いを見計らったように、文人がカメラを放り投げてきた。「それから、これもあります。全部、証拠になります」そのカメラを見た瞬間、理玖にはすべてが分かった。「佐々木!」理玖は鋭い声を上げる。「まず一度、徹底的に思い知らせてやれ。そのあとで警察に引き渡すんだ。一人も逃がすな。特に、俺が今つかんでるこいつはな」そう言うと、理玖は親分を乱暴に地面へ放り出した。そして紬の手を引き、その場を後にする。部屋の扉は、すでに文人が叩き壊していた。立ち去る直前、理玖は親分を一度踏みつけた。男の身体をそのまま踏み越えるようにして通り過ぎていく。地面に倒れた親分が、苦痛に呻き声を漏らした。紬は眉をぴくりと上げると、ごく自然な動作で同じように男の身体を踏み越えた。しかも、理玖と同じ場所を。その一撃には、紬もまったく手加減をしなかった。チンピラはそのまま気を失ってしまう。理玖と紬は、振り返ることなくその場を離れていった。文人はその場に残り、後始末を引き受ける。今回ばかりは、少しも不満を口にしなかった。もともと自分の失態なのだ。文人は冷え切った目でチンピラたちを見つめ、他の者たちに指示を出した。「しっかりと教育してやれ。くれぐれも、丁重にもてなすのを忘れるな」――紬は理玖に連れられ、その場を離れた。しばらくして、彼女は不思議そうに尋ねる。「りっくん、どうして私がここにいるって分かったの?」そこでようやく、理玖は順を追って事情を話し始めた。ただ、その瞳に宿る陰鬱な色は、まだ完全には消えていない。「佐々木が足止めされて、お前を見失ったんだ」「やっぱり、そうだったんだ」道理で、文人がいつ







