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第19話:揺れる国境と、微笑む仮面

Penulis: fuu
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-18 12:00:20

――数日前。

グランフォード北東部に位置する国境警備隊の見張り塔に、緊急の報がもたらされた。

「不明部隊、ルヴァーニュ方面より接近!旗印はないが、動きは整然……おそらくは、仮面軍!」

その報せに、エリシアは目を細めた。

「……クロードの国が?このタイミングで?」

かつて、“感情の自由”をめぐって共に戦った仮面の青年、クロード・ヴァンス。

ルヴァーニュ共和国の改革を支え、副首相に就任した男だ。

その国が、沈黙を破って“仮面部隊”を再び動かしたという。

「正式な外交文書は届いていない。けどこの整然さ、まるで“招かれぬ訪問者”が、礼儀だけは守って来たみたいな感じ……。」

カイラムが口を挟む。

「牽制か、あるいは“仮面の仮面”――裏の誰かが動いてるかもしれないな。」

「……行くわ。この目で見なきゃ、本当に“選べる未来”なんて語れないから。」

◆◆◆

そして国境沿いの森。

エリシア一行が接触したのは、やはり仮面をつけた一団――ただし、クロードの名も印もなく、言葉も持たぬ沈黙の仮面たちだった。

「……これは、仮面を“捨てきれなかった者”か、“仮面を逆に操ってる者”の仕業ね。」

ネフィラが呟く。

そのとき、一団の中でただ一人、仮面を半分だけ外した青年が進み出る。

「グランフォードの王女、エリシア・グランフォード殿。クロード・ヴァンスより、“密使として”言葉を託されています。」

「……密使?」

青年は静かに頷いた。

「“仮面の奥に、真実が潜む時。笑っている者にこそ、最大の注意を”――彼はそう申していました。」

エリシアの背筋に、冷たい風が吹き抜ける。

「……つまり、仮面の中に、別の“仮面”があるってこと?」

「はい。共和国の政権中枢に、別の“意志”が入り込んでいます。彼は、それを“微笑む仮面”と呼びました。」

「微笑む、仮面……。」

思わず、エリシアは自分の胸元を押さえる。

誰かが笑っている――その笑みが、仮面で塗りつぶされているとしたら。

「……行くしかないわね、ルヴァーニュへ。“本当の仮面”を暴くために!」

その決意に、仲間たちは無言で頷いた。

◆◆◆

ルヴァーニュ共和国――静謐な石畳の都に、かつての“感情を統制する国家”の面影はまだ残っていた。

だが、中央政庁の空気はどこか不穏で――

「やはり、“仮面派”が復権しつつあるようだな。」

カイラムが窓の外に視線を向けながら呟いた。

「クロードはどこ?」

エリシアが問うと、密使の青年は言った。

「“微笑む仮面”により、公式の場から一時的に排除されました。現在は地下文書庫に潜伏中です。」

「……行こう。本人に直接会って、全部聞く。」

◆◆◆

文書庫は静まり返っていた。燭台の光の中、クロードは黒衣のまま現れた。

「ようこそ。まさか、“笑わぬ仮面たち”が再び力を持つとは……私も油断していた。」

「“微笑む仮面”って、誰?」

エリシアの問いに、クロードはため息を吐いた。

「本来、仮面は“感情を制御する道具”であった。だが今は、“感情を嘲るための道具”になり果てつつある。――その中心にいるのが、統制長官“ミラ・セディナ”。彼女は……私の母だ。」

「……っ。」

「彼女は、改革の象徴である私を“表面では認め”、裏では排除しようとしている。私を使って民衆を安心させ、しかし国家の実権は一切渡さぬつもりだ。」

エリシアは怒りと共に立ち上がる。

「それ、絶対に許せない!」

「……だからこそ、“仮面を暴ける存在”が必要だった。君に、頼みたい。“仮面の笑み”を打ち砕いてほしい。」

クロードの言葉に、エリシアは深く息を吸い込んだ。

「わかったわ。その仮面、私が引きはがしてあげる。」

◆◆◆

翌日、公開議論の場にて。

「仮面とは、誰のためのものですか?」

エリシアの一言に、議場は凍りついた。

「秩序のためであり、民の安寧のためで――。」

「違う。“誰かの都合のために作られた笑顔”なんて、ただの呪いよ!」

その瞬間、壇上のミラ・セディナが静かに立ち上がった。

「ならばあなたは、“仮面なき社会”の混乱を受け止める覚悟があると?」

「ええ、もちろん。“仮面をつけない”って、つまり“傷つく自由”を受け入れるってことでしょ?」

沈黙ののち、拍手が起きた。

――それは、仮面を外した者たちによる拍手だった。

◆◆◆

議論の結果、ミラ・セディナは統制長官の座を自ら退いた。

クロードは正式に副首相へと復帰し、“仮面制度の廃止”を宣言した。

帰国の際、クロードがエリシアに言った。

「君はやはり、“未来を変える勇気”を持っている。」

「ええ。だって私は、“恋したいから国を作った女”ですもの。」

ふたりは笑い合い、別れた。

——〈次話〉“嵐の前と、揺れる想い”

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