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第5話

Auteur: 冬咲
「悠人、やめて……」沙羅の訴えは、悠人の激しいキスに呑み込まれてしまった。

屈辱の涙が頬を伝い、沙羅は必死に手足を使って逃れようとする。けれど、悠人の腕に簡単に押さえつけられてしまう。

沙羅は身体を震わせながら、声を振り絞る。「やめて……誰か助けて!悠人、やめて……!」

悠人の目は血走り、逆に楽しげな笑みを浮かべていた。「もっと叫べよ。できるだけ大きな声でな。お前の母親にもしっかり聞かせてやれよ。お前がとうとう俺のベッドに上がったってな。さあ、どう思うかな?きっと嬉しくて飛び起きるんじゃないか?」

すぐそばには、母の病床があった。沙羅は必死に母を見つめ、唇を噛みすぎて血がにじむ。

涙がとめどなく頬を流れ落ちる。沙羅は涙に濡れた瞳で、ただ何度も首を振る。

――違う。

お母さんは、そんなふうに人を唆すようなこと、一度だって言ったことがない。どんなに貧しくても、どんなにつらくても、悪いことだけは絶対にするなと教えてくれた。

そんなお母さんが、人の家庭を壊すなんて、絶対にありえない。

怖くて、声すら出せない。もし母にこの声が届いたら……そう思うと、何も言えなかった。

悠人は沙羅の耳元で、満足げに低くささやいた。「……おとなしくしてろよ」

悠人のキスは次々に沙羅を襲い、その手は彼女の細い身体を容赦なくまさぐる。沙羅は無力に目を閉じ、ただ耐えるしかなかった。

悠人は嵐のように現れ、そして嵐のように去っていった。

沙羅は二日間も高熱を出し、病院で点滴を受けることになった。

退院の日、廊下で佐伯明(さえき あきら)に出くわした。学生時代から女好きで有名だった彼は、今も軽い調子で沙羅に声をかけてくる。

「おやおや、これはこれは……うちの学校のマドンナ、沙羅じゃないか。どうしたの?まさか一人で病院まで来るなんて、ずいぶん可哀想だな」

明はからかうように沙羅の前に立ちはだかる。

沙羅は淡々と、「どいて」とだけ言った。

「まだそんなに強気なのか?自分が楠本グループのお坊ちゃんのお気に入りだとでも思ってるのか?でもさ、悠人はもうすぐ結婚するんだぞ。どうせなら、俺と付き合ったほうがいいんじゃないか?少なくとも食うには困らせないぜ?」

そう言いながら、明は手を伸ばし沙羅の頬に触れようとする。

ちょうどそのとき、病院の廊下の向こうから悠人と玲奈が並んで歩いてきた。

玲奈は作り笑いを浮かべて、わざとらしく言った。「あら、ごめんなさいね。お邪魔しちゃった?二人とも、ずいぶん仲良さそうで」

明は悪びれもせず、「なんでもないさ。ちょっと沙羅と世間話をしてただけ」

悠人の視線が冷たく沙羅を射抜く。

「世間話か。なるほどな。どうやら、お前はどんな男とも仲良くできるようだな」

沙羅の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

玲奈はわざとらしく言葉を重ねた。「だって沙羅は昔から学園のマドンナだもの。男の人が放っておくはずないわよね」

その言葉に悠人の顔はますます険しくなっていく。

沙羅はもう耐えきれず、逃げるようにその場を立ち去った。

病院の出口で、玲奈が沙羅を待ち伏せしていた。

ついさっきまでの柔らかい笑顔はどこにもなく、玲奈の瞳は鋭く光っている。

「いい?私と悠人はもうすぐ結婚するの。これ以上あの人に近づいたら、本気で許さないから」

これが本当の玲奈。強くて、わがままで、誰にも負けない女。

沙羅は玲奈をまっすぐ見返して答えた。「あなたと悠人が結婚するなら、私がここにいたって何の関係もないはずでしょう?」

玲奈は苛立ちを隠さず、沙羅のすぐ目の前まで詰め寄った。「とぼけないで!あんたが現れるだけで、悠人はおかしくなるのよ……好きでも憎くても、あの人にとってあんたは特別なの」

そう言いながら、玲奈はふっと笑みを浮かべた。

「でも、あんたがどんなに頑張ったって無駄よ。あんたがここにいるのは、母親と息子がいるからでしょ?でももうすぐ私は悠人と結婚して、峻も私の息子になるの。あんたの母親だって……もうすぐ、楽になれるんじゃない?」

沙羅は眉をひそめて問い返す。「それ、どういう意味?」
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