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第2話

Author: みかん大福
柚希はふらふらと病院へ戻り、気力だけで二つのことを済ませる。

一つは退職願を提出すること。

もう一つは結菜の髪を持って、親子鑑定に出すこと。

柚希はその報告書をぼんやりと見つめ、冷たい指先が小さく震える。

鑑定結果にはこう記されている。柚希は結菜の生物学的な母親である。

薄い報告書がひらりと床に落ち、柚希は拾い上げるだけでも全身の力を使い果たしたように感じる。

どれだけ滑稽なのだろう。

ずっと胸の奥で恋い焦がれていた娘を、重人は菜月に媚びるための道具のように扱っていた。

柚希は感覚の抜けた足取りで診療科へ戻り、ゆっくり荷物をまとめる。

院長は彼女が退職することを知り、残念そうに声をかけた。「聞いたところによると旦那さんのためにここへ来たらしいのに、どうして急に辞める?」

柚希の目が少し陰り、苦い笑みが浮かぶが目元までは届かない。「彼はもう……夫ではない」

彼女は唇をきゅっと結び、深く頭を下げて別れを告げ、院長の驚いた視線を背に病院を出る。

あてもなく街を歩き、子ども服の店の前を通ったとき、ショーウィンドウに並ぶ繊細なワンピースが目に入り、柚希は思わず足が止まる。

結菜の服に油汚れがついていた姿を思い出し、彼女は目の奥が一気に熱くなる。

本来なら誰より愛され、大切にされるはずの娘が、そんな乱暴な扱いを受けるなんて、柚希の胸は裂けそうになる。

彼女は足取りを固めてその店に入り、結菜のためにあのワンピースを買い付けると同時に、結菜を必ず自分の元に連れ戻すと心に決める。

だが少し離れたマタニティショップの前で、重人と菜月の姿を見つけてしまう。

重人は菜月をしっかり庇い、片手で彼女の腹を支え、もう片方で落ちた髪を耳にかけてやる。

菜月が少しでも目を向けた品物は、彼は迷いなく全部買っていく。

彼の視線は菜月だけに注がれ、柚希に気づいたのは、ほとんどぶつかりそうになってからだ。重人は眉をひそめ、叱ろうと顔を上げる。

しかし目が合った瞬間、菜月の手をつないでいた彼の指が条件反射のように離れ、喉仏が強く上下する。「柚希……ここで何をしている」

涙がこぼれそうになるが、柚希は指先を掌に押し込み、無理に唇を持ち上げる。

「あなたに会いたくて、S市までサプライズしに来た」

けれど重人にとって、この再会は驚喜ではなく驚愕だけだ。

ビジネス界では冷徹さで名を馳せる男なのに、このときばかりは口の開き方すら分からないように沈黙する。

沈黙が流れる中、菜月はお腹を撫でながら、まるで所有権を示すかのように柚希の前に立ちはだかった。「小栗先生がいつも重人の口にしている奥さんだよね」

そして菜月は歩み寄り、親しげに柚希の手を握った。「せっかく来たんだから、何日かゆっくりしていってよ。重人にちゃんと案内させるから」

その笑みには挑発の色が滲む。

まるで本物の妻であるかのように、一言一言で立場を誇示する。

昨日まで、柚希は彼女の健診を担当していたのに、今、知らないふりをしている。

柚希は淡々と返事をし、眉をひそめて手を引っ込めようとした。

力は入れていないのに、菜月の身体は大げさに後ろへよろける。

重人が大股に歩み寄り、菜月をしっかりと支えた。彼の目の慌ては一瞬で消え、代わりに怒気が滲む。「見えないのか?菜月は妊娠中だ!」

柚希の顔色が一瞬で青ざめた。彼の問い詰める口調は、彼女の心をえぐるように痛んだ。

そうだ、彼の愛する妻が、彼の子供を身ごもっているのだから。

自分はただ都合よく利用されただけの、部外者でしかない。

「なぜそこまで必死なの」柚希は鼻の奥がつんと痛む中、問い返した。「彼女はあなたの子を身ごもっている?」

重人の表情が一瞬で固まり、黒い瞳に動揺が走る。

そのとき菜月が慌てて手を振り、震える声で否定する。

「小栗先生、私と重人はただの友人で、ひとりで身重な私を気遣ってくれているだけだ」

菜月が必死にかばえばかばうほど、重人の唇は固く結ばれ、眉間に陰が落ちる。

柚希には分かる。彼は怒っている。菜月があまりにも急いで自分との関係を否定したからだ。

次の瞬間、重人は腕を伸ばし、柚希を抱き寄せ、そのまま菜月の前で唇を奪う。「柚希、家に帰ろう」

その意地のようなキスに、柚希は一瞬だけ意識が白む。

かつてはすべての感情が自分に向けられていると信じていた。

患者の家族に刃物で脅されたとき、彼はその男の指を十本折り、彼女のために怒りをぶつけた。

子どもを失った彼女を嘲った相手に、すぐさま巨大な取引を切り捨て、業界から実質的に追放した。

産後うつで泣き続ける夜は、いつもそばで優しく抱きしめ、何度も眠りにつくまであやしてくれた。

しかし別荘の前に立ったとき、彼が菜月のために邸宅を買っていたことを知る。

しかも、とっくに一緒に暮らしていた。

重人は彼女をゲストルームに通し、仕事が片付いたら行くと言った。

だが夜が更けても現れない。

赤い木の床に裸足を乗せたとき、柚希は隣の主寝室から微かな音が聞こえる。

耳を壁に寄せると、重人のくぐもった声と、菜月の息の詰まった甘い声が、はっきりと響いてくる。
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