INICIAR SESIÓNレオンハルトは、ふっと意識が浮上して、反射的に身を起こした。 「ここは?どこだ……」 何かのテントの中のようだ。 屋根がきちんとあり、雨風が凌げる仕組みになっているが…… すぐ横には、自分が着ていた上着がきちんと畳まれて置かれていた。 「たしか、ヘルカーンのツノにやられて……なんかの煙を吸ったんだよな」 だが、まちがいなくあった背中に違和感――その違和感が今はない。 その代わり、上半身裸の上に包帯が巻かれている。 だが、普通の包帯ではないようだ。 「これは……万能包帯か?」 高級魔道具の一つである。 「すごいな。あのツノで引っかけた傷も、もう塞がっている」 効果は聞いたことがあったが、団ではなかなか支給してもらえない一品だ。 「それに、このテント……かなり快適じゃないか?」 シングルベッドより少し狭いくらいだが、足を伸ばして寝られるし、床は広げたときに少し膨らむ作りになっているらしく、地面の上に寝ているにも関わらず、体が痛くならなかった。 「……ほんと、すごいな。これ」 感心して呟いた瞬間、はっとする。 「おいっ!ミレイユはどこだ?」 慌てて服を着て外に出ると、教えたように火をおこし、その火が照らす赤い空間の光の中、ミレイユが短剣を握って作業をしていた。 火はきれいに燃えている。 その横に、解体用の道具や瓶が並べられていた。 毛皮、魔核、目玉、肉……どれもきっちり分類され、すでに瓶詰めになっているものまであった。 「ミレイユ」 声をかけると、振り返った彼女は―― やっぱり全身血まみれだった。 ぎょっとするが、どうやら魔物の血を浴びているだけで、怪我はなさそうだ。 まあ、それだけはげしく解体していたらそうなるよな…… レオンハルトは、複雑な気持ちでミレイユを見つめた。 「あっ!レオン
レオンハルトの焦りに気づくこともなく、昼食を終えたミレイユは、もらった短剣を取り出した。魔獣の革がしっとり手に馴染み、早く使いたい衝動に駆られる。「これ、採取に使う場合はどうしたらいいでしょう?」そう聞かれたレオンハルトは、少し迷ったように考えてから、何かを決意したように、軽く眉を上げた。短剣は、魔物に出会ったとき用のもので、普通の採取には向かない。どちらかといえば、もう一つ持ってきたナイフの方が使いやすい。「これから、魔除けの鈴を鳴らさず俺にぴったりついてこれるか?」「はい」レオンハルトはため息をつきながら話した。「できればその剣を使う場面は作りたくない。それは採取用ではなくて魔物を討伐する時に使うものだからだ。だが、命に関わる時にいきなり使うというのは困るだろう」「そうですね。確かに……ということは、いよいよ実戦なんですね」ミレイユの顔も、緊張で引き締まる。それを見て、レオンハルトもここで自分の剣の練習をしようと決意する。ちょうどいい。魔物との遭遇は避けたいが、割り切って考えよう。そう不安を押し切り、前向きに考えるように切り替えた。鈴の効果が切れるころ、小型の魔物が少しずつ現れ始める。サイズ的には、ネズミからモグラぐらいのサイズだ。ブンッレオンハルトは、今度は吹っ飛ばされないように、軽く剣を振るった。それだけで、ジュッという音と魔物だったと思われる残骸が地
レオンハルトとミレイユは、この塔から直径一キロメートル以内の確認をしていくことにした。「一キロなら少し足場が悪くても、普通の女性の脚で往復1時間もあれば帰れる距離だ。一人ならここまでだな」レオンハルトが、周辺を見回しながらいう言葉に、ミレイユも頷いた。「私は戦闘体験はないので、やっぱり安全な場所を中心に行動した方がいいですよね」魔物よけの鈴をチリンと鳴らす。一キロ以内といっても、木々に潜り込めば、もう塔の姿は見えなくなる。一人で歩く姿を想像して、ミレイユは不安になった。「一応一キロメートルまでは把握するピンを打つけど、採取に没頭していたら心配だからできれば移動は500メートル範囲ぐらいまでを意識して欲しい」そう言いながら、レオンハルトは、一定の距離を歩くごとに地面へピンを打ち込んでいく。ピンは魔力塗料を塗った特製ピンだ。それを地面に埋め込んだ瞬間から、昼夜を問わず光り、半永久的に目印になる。この土地の魔力を使って、それだけで光を維持してくれるのだが、魔力をよく含む土地だったため光もしっかりと放ってくれた。「500メートルのところには、色の違うピンを打ち込んでおくからこれを目印にしてくれ」作業をする彼の横で、ミレイユはしゃがみ込み、魔法草や風鳴草を一株ずつ丁寧に摘んでいく。今日の探検も重要な採取時間だ。「ハイポーションって材料が手に入りにくいんですけど、ポーションだけは、この魔法草と水だけで作れるんですよ」摘み取った葉を指先で転がしながら、ミレイユが続ける。「それだけに、効果は魔法草と水の品質で決まります。ここの魔法草と水は見たことないぐらい魔力を含んでますから、きっと良いポーションになります」「そうなのか?ポーションは店によって効果が違うから、みんな月影亭のものは確かに人気だったが、それだけ良い素材で作っていたんだろうな」ミレイユは、頷いた。「もちろん、作る人の腕も影響はするんですけど、製法そのものは、初心者から始める薬というかんじですね。
「冒険者セットの中身は、もらった短剣と普通のナイフ、ハイポーション、解毒剤、睡眠玉、そして傷に何でも効くという万能包帯──これだけあればとりあえずなんとかなりますかね?」ミレイユはにっこり笑う。「なんだか、救急箱をそのまま詰め込んだような内容になってしまいました。あとはリュックに錬金術製の簡易ポップアップテントを入れておきますね。ふふっ、山登りみたい」魔物よけ効果は一晩だけ。数日ダンジョンにこもる冒険者には人気がないが、お値段はそれなりの防御力と大きさのためお高めになる。「テントは、認識阻害の付与までは良かったんだけど、動力が最初に埋め込んだ魔力しかなくて、一日しか持たないのが欠点なんです。おかげで売れなくて……師匠、ここに持ってきていたんですね。ああ、改良したいなあ……」そんな錬金術トークを、横にいるレオンハルトに伝えるが、ほとんどこちらを見ないし、ただ無言で頷いている。ミレイユはレオンハルトのその変化に気づいた。「レオンハルトさん、顔、赤いですけど……大丈夫ですか?」 心配そうに、レオンハルトの顔を覗き込む。そして、熱でもあるのだろうかと手を伸ばすが、その手をさっと避けるように視線を逸らし、そっぽを向かれる。「……大丈夫だ。この周辺だけだからテントは不要だ」そして、理由のわからない沈黙が続く。(あれ……なれなれしかった? それとも、また錬金術の話ばかりして呆れられたかな)ミレイユは、やらかしてしまったと胸の奥がちくりと痛み、しゅんと肩を落とす。だが――&nb
ミレイユは、レオンハルトに見られていることにもきづかず、魔鳥の核を削ることに没頭していた。「ふぅー、なんとか削れたかな?」機械でやっていたことを手作業でするのは至難の業だ。ここには最低限の道具は揃っているけど、最低限しかないともいえる。終えると、手が疲れていることに気づき、はあーっと少し息をついた。――ん?ふと、背後に視線を感じて振り返ると、レオンハルトがじっと作業を眺めている。「す、すいません。お待たせしてしまいました」いつから見られてたんだろう。錬金術の仕事中は没頭してしまうので、何かやらかしてないか不安になる。「いや、錬金術の作業風景は珍しいからつい没頭して見ていた。何をしてたんだ?」レオンハルトは、むしろ作業に興味があるようだったので、ホッとする。ミレイユは、レオンハルトの剣を指しながら、これからの作業のことを説明した。「あの剣の風圧に耐えられるように訓練はしようと思っていたけど……吹っ飛ばされるのが減るなら助かるな」レオンハルトは、ダリウスから手渡された剣のことで、考えていたことを言葉にした。「あの剣だけど、やっぱり、魔物と戦うために準備したんだと思う。この樹海で生き延びるには、ただの剣じゃ力が足りないんだ。物理攻撃しか効かないわけだからね」そう言われて、ミレイユもなるほどと頷く。「確かに、属性付きの武器だったら、物理攻撃が効かない敵や集団で襲ってくるような敵には有利だと思います」「だよな。これが騎士団だったら、それだけの敵となれば魔術師と組んで戦うんだよな。だから、物理攻撃では倒せない部分は属性攻撃をしてくれる。でも、ここでは、俺一人だし、人並みの魔力しかないからな。特性付きの武器は絶対に役に立つ」そうレオンハルトが話すと、自分の作った剣がそれだけの価値を持っていると伝わったようで、ミレイユは嬉しそうに微笑んだ。その姿を見ながら、レオンハルトはふと思う。
レオンハルトが、ミレイユに服だけ渡して、自身のタウンハウスに向かっていた頃――ミレイユは、レオンハルトにお礼をいい、受け取った服の袋を抱えて部屋に戻った。試しに着替えてみると――無難そうな白いブラウスと膝丈スカートを選んだはずなのに、鏡の前に立つ自分は、なんだか接客用の制服を着た店員みたいだった。(……お店に立ってた頃を思い出すな)ついこの間まで毎日客と笑って話していたはずなのに、今はもう遠い夢みたいだ。また店を持てる日が来るんだろうか。お金を貯めて、別の国で――そんな未来をほんの少し想像する。袋の中には、今流行りの透け感シャツ(下のタンクトップが見えるタイプ)や、清楚系ワンピースも数着。もちろん冒険者向けの服もあったが……こちらは無駄を削ぎ落とした動きやすさ重視のデザインで、逆に体のラインがくっきり出る。まるで暗殺者か盗賊が着そうな感じだ。「全体的に……服は清楚系女の子路線かな?これ、レオンハルトさんの趣味なのかしら?」ごそごそと探ると、下着まで入っていて思わず赤くなるが、普通に安心の普通だった。無機質な雰囲気で、実用的だ。「レオンハルトさんらしい」思わずくすっと笑うが、いかにもランジェリーだったらどうしようかと思ったのでホッとした。だが、小さな箱が別に添えられているのを発見する。「何かしら?コレ?」手のひらに収まるぐらいのサイズに、蓋には、見慣れない文字。さらっと一言。「これは最後につけてね」と書いてある。「最後……?いつの最後だろう?」恐る恐る開けると――出てきたのは……どう見ても勝負下着「わあああああっ!」思わずパタンと箱を閉じ、顔から耳まで一気に熱くなる。慌てて、ベッド横の棚の奥に押し込み、見なかったことにする。「きっと……レオンハルトさんじゃないよね?字が、この間の文字と違ったし……」先日、樹海の地図を書いた時の筆跡を思い出す。違う。違う筆跡だ。良かった……もし、レオンハルトさんからのメッセージで、お誘いのメッセージだったらどうしようかと思った。ミレイユは、ホッとして肩の力を抜く。だけど――「誰かが気を利かせたんだよね……?でも、そういう下着を使うような関係って……伝えたのかしら?」そう考えて、まさかと首をブンブン振る。恥ずかしいはずなのに、嘘でもあんな素敵な人の相手と思われるのは、ち