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第29話

last update Last Updated: 2025-08-02 11:00:35

時は遡って、スパイスボトルの件を口外させる事にした辺りに戻る。

私が静かにしている間、裏ではメリナとミーナが立ち働いてダリアの悪事を広めていたの。

醜聞が好きなのは貴族だけじゃないのよ、平民だって貴族をこき下ろせる話題なら喜んで話す。

「……だけど、その話は確かなの?いくら何でも姉君を害そうだなんて……」

「確かな話よ、私はスパイスボトルを出すように命じられた本人が話したのを聞いたんだから!」

「ええ?本人って……そのメイドは罪を着せられたのに、何だって無事で済んでるの?」

洗濯室で使用人達が内緒話に盛り上がる。

「ガネーシャ公爵令嬢様よ、彼女がお救いになられて、しかも抹殺されないように、傍付きのメイドにして差し上げたの!」

「にわかには信じられないわ……そんなお心の広いお方がいるだなんて」

「だけどね、現におられるのよ。公爵令嬢様が幼い頃からお仕えしている傍付きのメイドと彼女、二人が誓った忠誠を称えて、お揃いの黄金の指輪を授けたんだもの!」

「黄金ですって?メイドに……そんな高価な物を」

「私、見たのよ。美しく細工された、小指にはまってる指輪をね。本物の黄金だったわ」

目を見張る使用人に対して、指輪を見た使用人は羨ましそうに遠い目をしながら、輝く指輪の美しさを思い出し、興奮と吐息混じりに答えた。

本来、メイドごときに宝飾品を下賜する主などいない。だからこそ、敢えて私は与えたのだけれど……効果はてきめんだったようね。

「公爵令嬢様は女神様なの?聖女様なの?」

「そんな素晴らしいご令嬢様なのに、妹君は殺めようとなすったの?恐ろしいわ、陰で虐待でもあったのかしら」

疑いたくなる気持ちも当然生まれるものだから、もちろんそこにも根回しは済んでいる。

「──ちょっといい?……むしろ、妹君が姉君を一方的に憎んでおられるようなのよ。妹君は子爵家の出の母が生んだから、母親が亡くなるまで公爵家に引き取ってもらえずにいたらしいの」

「……それで、生まれながらに公
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