Semua Bab 闇より冥い聖女は復讐の言祝ぎを捧ぐ: Bab 1 - Bab 10

20 Bab

第1話

「ガネーシャの妹への虐待は目に余るものがある。私はここに、ガネーシャ・ダント・フォクステリアとの婚約を破棄し、ダリア・ダント・フォクステリアと婚約する事を宣言する!」 国王や王族も出席しているパーティーで衆目が集まる中、王太子のウィリード殿下による宣言は雷のように轟いた。 「そのような事実はございませんし、わたくしは潔白ですわ。──つまり、王太子殿下は国を背負う身でありながら、私欲を優先なさると仰るのですね。わたくしが王太子妃教育を受けている間、逢瀬を重ねて享楽にふけっていた事実は皆さまご存知でしょうに」 私は悠然と構えて言い返した。この日の為に全て準備してきたのよ。 「なっ……何を愚かな!己の身の程も弁えず私を貶めて保身に走るつもりか!」 反撃は予想していなかったようだわ。でも、自分の置かれた立ち位置が分かっていないようね。ウィリード殿下の傲慢な発言に、周りにいる貴族達は囁きを交わし合っている。 「王太子殿下は婚約者がありながら、しかもその婚約者の妹君と頻繁に会っていらしたとか……」 「その妹君も、果たして王太子妃に相応しいのでしょうか?私は彼女がガネーシャ嬢を貶めているというお話をサロンで聞いてまいりましたわ」 「しかも未婚の身ですのに王太子殿下といかがわしい事をなされたとか」 「私も聞き及んでいます。貴族の令嬢にあるまじき振る舞いをされて、姉君のガネーシャ嬢がなされたかのように吹聴したと」 「ガネーシャ嬢は王太子妃教育と慈善事業に励まれておいででしたのに、ダリア嬢は姉君の婚約者である王太子殿下に、はしたない態度で迫られておいでだったと聞いていますわ」 「貴族の義務も果たさず、あろう事か姉君の婚約者を略奪しようなどと……しかも毒を盛ろうとした噂もあるではないですか」 「何て恐ろしいんだ。到底信じられん事だな」 「フォクステリア家から流れてきたメイドが話していたから信憑性がありましてよ」 聞こえてくる言葉は全て、私の味方をする声ね。根回しは成功したようだわ。ダリアがうろたえて色を無くしているわね。 ダリア。あなたの手足となっていた存在はもういないわ。あなたの唯一無二だった手駒は私達によって葬られたのだもの。 「失礼致します。よろしいかしら?」 私は淑女らしく純心を装って一歩前に出た。 ──来た。ついに迎えたわ、この時を。 私
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第2話

始まりは、いつも王国歴五百六十八年四月十五日。私は十四歳。お父様から、自分の愛人が暮らしていたファルス子爵家より、その愛人が逝去した為、残された異母兄妹を引き取る事にしたと告げられて、反発と抵抗の為に絶食を続けて二週間が過ぎた時。そして、異母兄妹であるマストレットとダリアがフォクステリア家に来て三日後の事。私は死して生き直す度に運命を変えようと抗うけれど、この時点で手遅れになっているのよ。一歩ずつ、少しずつ、ダリアの狡猾さに乗せられ、謀略されて追い詰められ、悪魔召喚を行なってしまう。そして召喚の儀式をダリアに見られて「異母妹を虐待し、悪魔を召喚しようとした恐ろしい魔女」として火刑が決まり、十六歳の終わりに処刑台へ送られる。前世も同じ結果だった。私は舌を切られ処刑台に縛りつけられ、火あぶりになるのを絶望して受け入れていた。私がもっとダリアを見くださずに優しく接していれば良かった。私がダリアを排除しようと悪魔など召喚しようとしなければ良かった。お父様がお母様を裏切って愛人を作り、二人の子供までもうけていた事を、軽蔑し嫌悪しなければ良かった……全ては私の愚かさのせい。「少し待って下さい。哀れな姉に最後のお祈りを捧げさせて欲しいんです」ダリアがそう言って、私に歩み寄る。こんな事は繰り返してきた生き直しにあったかしら?記憶にはないわ。「ダリア様はご自身を害そうとした悪女にも何て慈悲深いお方だ!」「それに比べてガネーシャの悪名高い事」群衆の声を聞きながらダリアをぼんやりと見つめる。ダリアは私の耳元に囁きかけた。「愚かなお姉様。既に私が召喚している悪魔を召喚出来るわけないじゃない」……ダリアが悪魔を召喚していた?それはどういう事なの。「私ね、ウィリード王太子殿下と婚約する事になりましたのよ。お姉様の婚約者ですね。奪われて悔しいですか?」「……っ!」ダリアの目が笑っている。口元は内緒話をするように手で隠しているから、他の人達には見えない。「私ね、お姉様のものなら全部欲しいんです。地位も名誉もお父様の愛情も、ご友人の皆さんも……王太子妃の座も、全て。だって、お姉様のせいで私は愛人の娘として後ろ指をさされて何も得られずに生きてきたのだもの」それは、私が本妻であるお母様の娘というだけで恨んできたというの?ダリアの強欲さと恐ろしさに身の毛がよだつ。
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第3話

それから私は、洗顔を済ませて、ベッドで目覚めの紅茶を頂いてから身支度をして、お父様と朝餐を共にする為に食堂へ向かった。「おはようございます、お父様」「ああ」「……」朝餐は静けさに包まれていたわ。お父様は元から口数の多い人ではないけれど、今朝は特に寡黙だった。多分、午後には異母兄妹の事で私に話さなければならないから、それで会話もしにくいのでしょう。私はというと、お父様に悪印象を抱かせない振る舞いを心がけて緊張したわ。正直、朝食を味わうどころではなかった。「──では、私は先に仕事へ向かう」お父様がナプキンで口もとを拭い、席を立った。私は何も知らないふうを装って微笑みを浮かべた。「はい、お父様。お仕事お疲れ様です」食堂に取り残されて、思うのは一つよ。ベリテと名乗った彼を召喚する事。時空を司ると言っていたから、それを可能にする力を持つ──悪魔かしら?今ならまだダリアがいないから、悪魔を召喚しようとしても邪魔されないわ。書庫には召喚に必要な魔法陣やベリテについて書かれた書物も、きっとあるはず。何しろ過去の私が召喚に必要な書物を読んで、試してきたのだもの。もっともそれは、ダリアが先に悪魔を召喚していたから、全て徒労に終わった挙げ句の果てに処刑台へ送られる事になったけれど……。それにしてもダリアは、どのタイミングで悪魔と契約するのかしら?悪魔に関する書物は禁書よ。どこの屋敷の書庫にでも置かれているものではないわ。「……公爵家に来てからかしら」「お嬢様、何か?」「何でもないのよ。お茶のお代りをもらえる?」「はい、かしこまりました」危ない、思わず呟いていたわ。どんな一言も下手を打てば命取りよ。気をつけないと。でも、子爵家ごときの書庫にあるとは思えないわね。しかも一人娘を嫁がせず愛人にさせたような家よ。前世では「貴族とは名ばかりの貧しい家」と聞いた記憶もあるし、だから尚さらダリア達を蔑んで毛嫌いしたのだもの。……それなら、まだダリアには先を越されてはいないわね。私でも悪魔を召喚出来るわ。「ご馳走様。私は書庫へ行くわ」「かしこまりました、お一人で調べものをなさりたいのですよね?どなたにも立ち入らせませんので、ご安心を。ですが、旦那様にお会いする時刻はお忘れなきようお願い致します」「ええ、大丈夫よ。お父様が執務室に私を呼ぶだなんて、き
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第4話

執務室に着くと、扉の前に控えていた執事が私に一礼した。「お父様をお待たせしてしまったかしら?」「いえ、お嬢様。旦那様もちょうど休憩をお取りになられる時間でございます」「そう、良かったわ」良いタイミングに来られたようね。扉を軽くノックすると、中からお父様が答えた。「ガネーシャか?」「はい、お父様」「入りなさい」「ありがとうございます、お父様」執事が恭しく扉を開けたので、お辞儀をして入ると、お父様が何かの書類にサインをして執事著に手渡してから立ち上がりソファーに腰をおろす。私も座るように促され、従うと執事によってティーセットが運ばれてきた。香り高い紅茶が淹れられる。これは公爵家でもお父様のみが口にしている最高級の茶葉で淹れた紅茶だった。「まず、何から話せばいいか……ガネーシャ」「はい、いかが致しましたか?お父様」「実は、お前には異母兄妹がいるんだ」「異母兄妹、でございますか?」私は絶対に取り乱す様子は見せず、軽く驚いた仕草を返した。「ああ。お前の兄はマストレット、今年で十七歳になる。妹はダリア、愛らしい少女でお前とは一歳違いだ」愛らしい、とは笑わせるわ。その愛らしい少女が私を陥れるというのに。「まあ……驚きましたわ。その方々のお母様をお訊きしてもよろしいのかしら?」「構わない。ファルス子爵家の一人娘だったが……先般の流行病で落命してしまった」お父様は沈痛な面持ちをしている。それを、心の中では冷ややかに、表の顔には痛ましげな表情を貼りつけて見つめた。何しろ、私が三年前に他界されたお母様のお腹に宿る前から、お父様は愛人を作っていたのだもの。お母様がどれほど苦悩したかを想像すれば、憎んでも良いくらいよ。初めの私は、この辺りから感情的になっていたのよね。お父様のした事は、お母様への裏切りだと。だけど繰り返さない。「お母様を喪う悲しみと心細さ……私にも痛い程分かりますわ、お父様。そのお二人は今後いかがなされますの?」お父様は膝の上で手を組み、じっと私を見据えた。不気味な程に。私が予想していたより遥かに落ち着いていると見えているのか、それとも。「……お前ならば、まず嫌悪感を先立たせると思っていた」……まあ、そうでしょう。実際に嫌悪感はいだいている。でも、顔や言動に出してしまえば私への印象が悪くなるだけなのよ。「お二人に何
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第5話

私は言葉の真意を理解しきれず、ベリテに問いかけた。「未来とは?人間で言う命運といったようなものが悪魔にもあるという事なの?」ベリテは真顔になって、淡々と答えた。「当たらずとも遠からず、かな。悪魔を倒せるのは天使だけどね、無差別攻撃のような事は禁忌になるから、条件が設けられているんだ」「条件……?」「悪魔を倒せるのは一部の天使だけなんだ。まず、人間と契約している事、それも神から異能を与えられて力を覚醒させている人間が契約者である事を条件とする」「異能を覚醒させられなければベリテの力をベリタに向けられないの?」「異能は国により言い方が違っていて、聖女の他には、仙術とも神の申し子とも呼ばれたりするけど……何にせよ天使や悪魔を超える神から授かった力を覚醒している契約者の元でしか、天使が悪魔を滅する事は許されないんだ」「……だとしたら、私が本当に聖女として目覚めるのであれば……十七歳を迎えないといけないのね。その上で勝たないと……待って、ベリテ」「どうかした?」「悪魔を倒してしまえば、悪魔の契約者は契約から解かれて証拠も残らないのではなくて?」自身の魂なり一部なりを差し出して契約を結ぶのであれば、悪魔が倒されれば共倒れというか、何らかの影響が契約者にも及ぶかもしれない。でも、倒された悪魔は滅びるのなら──消滅するのであれば、契約者は単なる非力な人間として残される可能性の方が高い気がする。でも、それではダリアを告発出来なくなるわ。何より、この条件に縛られているのなら、どの道ベリタとは戦い続けなければならないのね。それに、よしんばベリタを倒せても、肝心のダリアに逃げ道が残されていたとしたら、復讐の道のりは困難を極めるわ。私はダリアを悪魔と通じた魔女として処刑台に送りたいのよ。「……その悪魔を倒した天使の契約者であれば、悪魔と契約者が交わした印を可視化出来るんだよ。そこで僕の出番だ。ダリアが契約した悪魔を、ガネーシャが十七歳になれて聖女の力が覚醒した後に倒す。それから僕の力とガネーシャの力でダリアの体に残された印を可視化するんだ」「今さらだけど……あなたは、悪魔を倒せるの?そんなにも強い天使なの?」「伊達に時空を司る天使を名乗ってはいないよ。相手も厄介だけどね」「相手の悪魔……ダリアは何を司る悪魔と契約を結ぶのかしら?名前はベリテとよく似
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第6話

「ガネーシャお嬢様、お目覚めでしょうか?」メリナの控えめな声が聞こえてきて、私は「起きているわ」と返事を返した。前世では一度もダリア達を出迎えた事はない。けれど、今回は違うわ。歓待するかのように出迎えて、ダリア達の出鼻をくじくのよ。「洗顔とお茶のご用意が出来ております」「ありがとう」「本日のドレスはいかが致しましょうか?」今日の為に、選んでおいたドレスは二着。最先端の流行を捉えた若草色のドレスと、淡い黄色で袖とスカート部分に白いレースをふんだんに使ったドレス。ダリアに悪印象を与えてはいけないわ。初めが肝心よ。穏やかで可憐な令嬢のイメージを与えるものを選んだのだけど、迷うわね。ベッドで紅茶を頂きながらメリナが出してくれた二着を見比べていると、不意にベリテの声が聞こえた。「偵察に子爵家を見てきたけど、ダリアは黄緑色のドレスを選んだみたいだ」黄緑色……若草色と被るわね。似たような色味で豪奢なドレスを着ていたら、それだけでダリアは劣等感から憎しみをいだくかもしれないわ。「ガネーシャ、返事は声に出さなくても心の中で語りかければ僕に伝わるよ」──そうなの?試しに問い返すと、ベリテは頷いた。「そう、それでいい。声に出していたら怪しまれるからね」確かに、私が天使を召喚した事は、まだ誰にも知られる訳にはいかないわ。特にダリア達には。何がダリアに悪魔を召喚させる起爆剤になるか分からないもの。──ベリテ。淡い黄色のドレスならダリアに己と見比べさせる心配もないと思うのだけど。「その方がいいだろうね。何にせよダリアは悪趣味……いや、流行りに疎いドレスしか持っていないようだから、反感は避けられないだろうけど。それでも真っ向からコンプレックスを刺激するのは良くないだろうし」──そうよね。……それにしても悪趣味って……お父様も最低限のドレスは買い与えているのよね?我が子がそんなドレスを着ていたら止めに入りそうなものだけど。「我が子だから甘やかしてしまうんじゃないかな。愛人の子にさせてる負い目もあるから、あまり文句も言えないだろうし」──そういう考え方もあるのね。という事は、我がままに育てられて社交にも疎いのかしら。日陰の身ならお茶会にも呼ばれないでしょうし。まあ、それは置いておいて、ドレスは決めたわ。「メリナ、今日は淡い黄色のドレスを着るわ。淡い色は太
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第7話

さて、記念すべき初対面は無事に済ませたわ。前世では味方になってくれる人は皆無だったから、まず、しなければならない事は、貴族と平民に信奉者を増やす事よね。──平民ならば慈善事業かしら……。「それなら孤児院に多額の寄付を続ければ良いんじゃないかな」ベリテの言葉に、私は頭を抱えた。──私の自由になるお金が圧倒的に足りないわよ。「何かを流行らせて稼げば良いんだよ」ベリテは簡単そうに言うけれど……十六歳の間までに広めるのは大変よ?商会と繋がりを持って、魅力的な商材を提供しないといけないわ。私は前世で流行った物を必死に思い出そうとした。確か、十六歳の初め頃に洗髪粉や石鹸に香りをつけた物が流行ったのよね。でも、香りだけでは付加価値とインパクトに欠けるわ。体に使う物だから、もっとこう、体に良い何かを……。必死に考えていたら、晩餐の時間になってしまったわ。遅刻は厳禁よ。少しの落ち度も命取りになるもの。私は晩餐の席でも考えていた。「ガネーシャお姉様、お化粧には何を使われているんですか?透き通るようなお肌が羨ましくて……」不意に、ダリアが問いかけてきた。「そうね、ア……」アロエベラエキスを使った美容液、と言いかけて私ははっとした。そうよ、アロエベラには美肌効果もあるし、聞くところによると火傷やあかぎれ、ひび割れにも効くと言うじゃない。──ベリテ。これは使えるわよね?「アロエベラエキスを洗髪粉や石鹸に配合するのか。なるほど、考えたね。大きな商会と繋がりを持てば販路も広くなるだろうし」「……あの、ガネーシャお姉様?」「あ……後で私の使っているお化粧品を揃えてダリアにプレゼントするわと言おうとしたの。繊細なお肌にも優しい物ばかりだから、ダリアは元々可愛いけれど、使えば更に輝くような可愛らしさになれるわ」いけない、ダリアを放置するところだった。というか、人の肌を気にするならば、うぶ毛のお手入れくらいしなさいよ。仮にも貴族の娘でしょうが。「ガネーシャお姉様……ありがとうございます。よろしいのですか?」「もちろんよ。可愛い妹が可愛さに磨きをかける事は喜ばしいわ」まあ、ダリアも今のところ私には、子供としての可愛さしか取り柄がない無害な存在だしね。ベリテの言っていた事は留意しておくけれど。「ガネーシャはよほど妹が可愛いと見えるな」お父様も顎髭を
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第8話

それは、晩餐の時にマストレットがお父様へ向かって口を開いたのが始まりだった。「父上、フォクステリア公爵家の書庫には素晴らしい蔵書が豊富に揃っていると聞きました。稀有な書物もあるとか。書庫への出入りをお許し頂けませんでしょうか?」「マストレット、お前はもう我が家の息子だ。好きな時に行ってみるといい」「ありがとうございます、父上!」喜色をあらわにしたマストレットを見て、ダリアも羨ましそうに言い出した。「お父様、私も書庫の書物を読んでみたいですわ。稀有な書物とは、どのようなものでしょう。子爵家では、珍しいと言えるような書物はありませんでしたから、気になります」──駄目。ダリアに禁書を見つけられてしまう危険性があるわ。ダリアが見つけなくとも、マストレットを経由して手にされる可能性もある。どちらにせよ、危機的な状況よ。「お前はまだ書庫の書物を読むには早いだろう。もっと家庭教師から学び、基礎知識をつけてからにしなさい」読み書きは子爵家でも習っていたようだけれど、お父様からすれば十分ではないと判断したようね。すると、ダリアは不服顔でお父様にねだった。「お兄様だけ出入りが許されるのは悲しいですわ。私も様々な書物を読んで、公爵家の名に恥じないように、知見を広げたく思いますの。お願いします、お父様」「父上、ダリアは学習意欲の高い子です。多少難しい書物でも、繰り返し読む事で理解を深められます」「ふむ……」この二人を野放しにしていては絶対にいけないわ。お父様も、ほだされそうになっているし、今は危険も承知で先手を打たないと。「お父様、よろしければ、私が必ず同伴して学びの手助けをする事を条件に、許して差し上げて下さいませ」ダリアの自由にはさせない。私自身が見張って阻止するより他に仕方ないわ。「構わんが、お前にも勉強があるだろう」「妹の為ですもの、自由に使える時間を当てますわ。私が色々と教えて差し上げる事が出来れば、ダリアも良い勉強と気分転換になるでしょう」そこでお父様は顎髭に手をやった。「いいだろう。ダリア、書庫に行く時は必ずガネーシャに付き添ってもらいなさい。書庫にはたやすく触れてはならない貴重なものもある。そこはガネーシャに従うように。いいな?」「……はい、ありがとうございます。お父様。ガネーシャお姉様も、お手を煩わせる事になり申し訳ございません
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第9話

明くる朝、私は曇天のような心持ちを奮い立たせて身支度を整え、それを顔に出さないよう気をつけて朝餐を済ませた。そしてマストレットとガネーシャを書庫に案内する。二人とも目を輝かせて多種多様な蔵書の棚を見回していた。「こちらの棚は語学、その隣は経済学ですわ。あちらは古くから伝わるものから流行を捉えたものまで含む物語、それから──」「ガネーシャ、あの扉は?」私が書架ごとの説明をして回っていると、マストレットが書庫の奥に目をつけた。扉の奥には二人に見られたくない書物がある。鍵がかけられているから、マストレットが好奇心でドアノブを捻っても開かない。「マストレットお兄様、その扉の向こうには希少で特別な書物が収められた書架が並んでおりますの。入室出来るのは公爵家でも限られた者のみですわ」「ガネーシャは入る事を許されているのか?」「私は公爵家直系の娘ですので、お父様より鍵を与えられておりますわ」「ガネーシャが鍵を与えられているのなら、その鍵を持ってきて開けてくれないか?」ああ、マストレットの執着心が面倒くさい事。「残念ですが、本日はそちらへの案内をお父様から許されてはおりませんので、致しかねますのよ」あしらおうとしたら、マストレットは瞳を翳らせて、見るからに不満そうな顔になった。「そうか、私達は公爵家に迎え入れられても、所詮はよそ者なんだな」「考えすぎですわ、マストレットお兄様。まだ公爵家に来て日も浅いですもの、単にそれだけの理由でしてよ。それより先ほど紹介致しました語学と経済学の書物をご覧になって下さいませ。長男のマストレットお兄様には必須になりますわ」内心ではうんざりしながら話題を変えようとしたものの、マストレットは諦めようとしなかった。「ダリア、お前も同じ思いだろう?」「ええ、お兄様。私達は公爵家から認められていない存在……招かれざる者なのですわ。今なお使用人さえ私達によそよそしいですし、こんな惨めな思いをさせられるだなんて」言い募る二人は、すっかり悲劇の主人公気取りだった。本心でも何かを狙っているとしても、お父様から許しを得ていないのは事実だし、こんな事を私に言い募られても迷惑でしかない。かと言って、冷たく突き放して私への悪意が増幅してしまうのも、後でお父様にどのような告げ口をされるかと思えば都合が悪いから、言葉は選ばないといけない。
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第10話

それは、晩餐での出来事だった。「ガネーシャお姉様だけ、肉料理が他の方と違っていらっしゃるのですね?ソースも違うような……」目ざとく気づいたダリアが私に言ってきたのよ。「ええ、私はスパイスの効いたソースが好きなのよ。だから私だけソースを別に用意してもらっているの」スパイスの適度な刺激は、口内を爽やかな感覚にしてくれるから、心地よくて晩餐のお料理に限って楽しむ事にしている。ダリアは何を思っているのやら、大仰に声を弾ませた。「辛いものがお好きなのですね。お姉様の事を、また一つ知る事が出来ましたわ」「ふふ、私もダリアの好きなものを、一つずつ知っていきたいわ」相手の腹を探りながら、心にもない事を朗らかに話すのも、胸が悪くなりそうな気持ちだわ。せっかくのお料理も台無しになるから、やめて欲しいところね。でも、その場はなごやかに収められたけれど、問題は数日後の晩餐に起きたの。「……あら?」いつもの肉料理に見えるけれど、一口頂いてみるとスパイスが全く効いていないのよ。すると、ダリアが私の様子を見て声を上げた。「まあ、ガネーシャお姉様の肉料理、ソースが違いますわ。お好みに合わないのではないですか?」──この子は……何か企んだわね?「そこのあなた、ガネーシャお姉様に普段のスパイスをお持ちなさい」「は、はい。申し訳ございません、すぐにお持ち致します」命じられたメイドは恐縮した様子というより、何やら萎縮した様子でスパイスボトルを運んできた。ダリアったら、メイドが明らかに怯えているじゃないの。そうして渡されたスパイスボトルから、試しに少し振りかけてみて、香ってくるスパイスには思わず笑い出しそうになったわ。 「ガネーシャ、気づいてる?」──ええ、ベリテ。あからさますぎて笑いを堪えるのが大変よ。ダリアには分かりやすく説明してあげなくては駄目ね。私はもう少しだけ振りかけてから、スパイスボトルをテーブルに置いて、後は平然と肉料理を口にし始めた。「ガネーシャお姉様、お好きなスパイスを我慢なされているのですか?」煽るように言ってくれるわ。望むところよ。「いいえ、我慢はしていなくてよ。私の肉料理だけ他の方と違う事はダリアも知っているでしょう?私は体重管理の為に、小さくカットしたヒレ肉にしてもらっているのよ。だから、小さなお肉に多くのスパイスをかける必要は
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